
マイクロソフト、自社のAIを維持できない。それが示すものとは?+イースタリーのダレル・クレートが語る構造的ボラティリティ
- マイクロソフトが自社のAIを使いこなせない——その意味するところ S&P500が史上最高値圏で推移する一方、インフレは粘着性を示し、10年債利回りは4%台半ばで膠着する—...
- [0:00] 市場の矛盾——史上最高値と粘着性インフレの共存 S&P500はあらゆる悪材料を跳ね返し、史上最高値に挑み続けている。Dan Nathanはこの強靭さに驚きを...
- 注目すべきは、連邦準備制度理事会(FRB)の政策見通しの激変である。Guy Adamiが指摘するように、昨年夏には今後1年半で3〜5回の利下げが織り込まれていたが、今や利...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
RiskReversal Pod / RiskReversal Media
マイクロソフトが自社のAIを使いこなせない——その意味するところ
S&P500が史上最高値圏で推移する一方、インフレは粘着性を示し、10年債利回りは4%台半ばで膠着する——この一見矛盾した市場環境を、ホストのGuy AdamiとDan Nathanが深掘りする。エピソードの核心は、AI関連の設備投資(CapEx)の「聖域」が揺らぎ始めている可能性にある。マイクロソフトが自社のAIツールのコスト高に耐えかねて利用を抑制したという衝撃的なツイートを皮切りに、ハイエンドと低所得層で二極化する消費者の実態、メタの大規模レイオフの非情さ、SaaS企業のAI過剰宣伝への懐疑論が縦横に語られる。後半では、Easterly Asset Managementの創業者Darrell Crateを迎え、「構造的ボラティリティ」という概念を軸に、人口動態がもたらすリタイアメント需要の変化、小型株の可能性、そして政府リースREITというニッチなビジネスの実像が明かされる。終始、楽観と懐疑が交錯する、生々しい市場談義だ。
市場の矛盾——史上最高値と粘着性インフレの共存
S&P500はあらゆる悪材料を跳ね返し、史上最高値に挑み続けている。Dan Nathanはこの強靭さに驚きを隠さない。「戦争による原油高も、インフレ指標の上振れも、市場はほとんど気にしていない」。実際、6週間前には100ドルを超えた原油価格はその後ほぼ横ばい、10年債利回りは4.7%近くまで上昇したが、現在は4.55%に戻っている。市場は「4%台半ばが新しい正常値」と受け入れ始めたようだ。
注目すべきは、連邦準備制度理事会(FRB)の政策見通しの激変である。Guy Adamiが指摘するように、昨年夏には今後1年半で3〜5回の利下げが織り込まれていたが、今や利上げと利下げの確率はほぼ拮抗し、最初の利下げは「2027年9月」と市場は見込んでいる。「1年前にそう言われたら、市場は大暴落していると思っただろう。しかし現実は違う」。債券市場とFRBが株式市場に与える影響力は、少なくとも現時点では限定的だ。
しかし、この強気一色のムードには落とし穴もある。直近の小売企業の決算シーズンは、消費者センチメントの二極化を如実に示した。Williams SonomaやRalph Laurenのような高級ブランドは好調だが、Walmartは異なるメッセージを発している。Walmartは投入コストの上昇を自社で吸収し、価格転嫁を避ける戦略を取っている。Dan Nathanは「低所得層の消費者が苦しんでいるという話は、もう何年も聞いている」と述べ、この傾向が恒常化していることを示唆する。さらに、KrogerがWalmartから市場シェアを奪還しようと攻勢をかけており、食品価格競争が激化すれば、Walmartのマージンはさらに圧迫される可能性がある。
PCEと新FRB議長——ケビン・ウォーシュへの期待と課題
次週発表されるPCE(個人消費支出)価格指数は、市場の次の焦点だ。ここ数ヶ月、インフレ指標が予想を上回るたびに市場は小さなボラティリティに見舞われてきた。しかし、Dan Nathanは新FRB議長ケビン・ウォーシュには「ハネムーン期間」があると指摘する。「彼らには言い訳ができる。戦争があるから、と」。ウクライナ戦争によるサプライチェーンの混乱を、当面のインフレの理由として挙げられるからだ。
しかし、和平が実現しサプライチェーンが正常化した後、インフレが依然として高止まりしていた場合、ウォーシュは厳しい説明責任に直面する。Guy Adamiはウォーシュを「歴史的にはややタカ派」と評し、FRBのバランスシート縮小を主張してきた点を評価する。しかし、トランプ政権が低金利を求めている一方で、CPIやPPIは依然として高く、失業率は4.3%と悪くない。ウォーシュは「低金利への圧力」と「インフレ抑制の責務」の板挟みになる可能性が高い。
Darrell Crateはこの点について、一つのシナリオを提示する。「短期金利を下げ、長期金利は現状維持——つまりイールドカーブをスティープ化させる」という戦略だ。短期金利の低下は住宅ローンの借り換えを促進し、消費者に資金を戻す。一方、FRBのバランスシートから長期債を売却すれば10年債利回りは4%台に留まり、銀行にとっても悪くない。Crateは10年債利回りの「安定帯」を4%台半ばと見ており、5%を超えることはないと予想する。その根拠として、AIによる生産性向上がデフレ要因として働く可能性を挙げる。「生産性は常に物価安定の友だ」。
NVIDIAの驚異的な成長と、AI CapExの「聖域」が揺らぐ瞬間
NVIDIAの決算は、改めてその圧倒的な存在感を示した。前年同期比で売上高85%増、利益95%増、粗利率75%——「桁外れ」の一言だ。しかし、株価は直近の高値から8%下落している。その背景には、AI関連支出の持続可能性に対する根深い懸念がある。
Dan Nathanが紹介した一連のツイートは衝撃的だ。まず、マイクロソフトが「トークンベースの課金がコスト的に耐え難くなった」ため、社内でのClaude Codeライセンスをキャンセルしたという情報。次に、UberのCTOが社内メモで「2026年度のAI予算全体をたった4ヶ月で使い切った」と警告したという話。さらに、GitHub(マイクロソフト傘下)が定額制を廃止し、使用量ベースの課金に移行している。American AIソフトウェアの価格は20%から37%上昇した。
「マイクロソフトでさえ、自社のAIツールのコストに耐えられない——これは狂気の沙汰だ」とDan Nathanは言う。マイクロソフトはAzureに次ぐ第2位のクラウド事業を持ち、OpenAIに130億ドルを投資して27%を所有する。そんな企業が、自社のAIコード生成ツールのコスト高を理由に利用を抑制したというのだ。この話が真実なら、AIインフラへの巨額のCapEx(設備投資)の「聖域」にひびが入ったことになる。
Guy Adamiはこの問題をより構造的に捉える。「CapExの数字は石に刻まれていない。企業が投下資本利益率(ROIC)を実感できなければ、見直しが始まる。そして、景気が減速すれば、AIへの長期的なコミットメントに関わらず、最初に削られるのはその支出だ」。AIブームの根幹を支えるCapExが縮小すれば、NVIDIAをはじめとするインフラ企業全体が連鎖的に影響を受ける。ただし、現時点ではその兆候はまだ明確ではない。
メタのレイオフ——AIが生む「ディストピア」とSaaS企業の苦境
Mark Zuckerbergが自ら発表した8,000人の人員削減は、業界に衝撃を与えた。Dan Nathanが引用したAI専門家のツイートは辛辣だ。「メタのレイオフは、これまで見た中で最もディストピア的だ。従業員は在宅勤務を命じられ、午前4時に解雇メールが届く。残された社員のPCには行動監視ソフトが仕込まれ、AIが彼らの仕事を奪う準備をしている。彼らは文字通り、自分たちの職を奪うAIを訓練しているのだ」。メタは記録的な利益を上げているにもかかわらず、だ。
Guy Adamiはこの矛盾に怒りをあらわにする。「AI関連の人材にNBA選手並みの報酬(1億〜2億ドル)を支払う一方で、何万人ものコーダーを解雇している。人々が憤るのは当然だ」。Dan Nathanはさらに、メタの株価が昨夏の最高値から25%も下落している事実を指摘する。アップル、グーグル、アマゾン、NVIDIA、ブロードコムが軒並み最高値を更新する中、メタだけが取り残されている。その理由として、メタには「パブリッククラウド」がなく、オープンソースのモデルを構築している点を挙げる。広告収入の効率化によるコスト削減が株価回復の鍵かもしれないが、800ドル近くあった株価が現在600ドル——まだ遠い道のりだ。
一方、SaaS(Software as a Service)企業の苦戦も深刻だ。Workdayは決算後に8%急騰したが、チャートを見れば2年前の最高値から60%以上下落した「小さなバウンス」に過ぎない。SalesforceはAIエージェント「Agent Force」のプロモーション動画で、患者が処方箋の再発行や予約をAIで行う未来を謳う。しかしBloombergの報道によれば、そのAI機能のほとんどは「まだ実際には稼働していない」。Guy Adamiは「シェイクスピアの言葉を借りれば、『抗議しすぎる女は疑わしい』——マーク・ベニオフも同じだ」と皮肉る。SaaS企業はAI統合による収益化を約束しながら、その実態が伴っていない。
構造的ボラティリティと人口動態——Darrell Crateの市場観
Darrell Crateは、現在の市場環境を「構造的ボラティリティ」と定義する。これは一時的なショックではなく、今後5〜10年にわたって持続する恒久的な変動性だ。その背景にあるのは人口動態の変化——人々はより長く、より活動的に生きるようになり、その「活動的な老後」はより多くの支出を伴う。結果として、リタイアメントはより長期間の資産形成を必要とし、資産運用業界では「リタイアメント関連」が唯一の成長分野となっている。
この構造的ボラティリティの中で、Crateは「ヘッジド・エクイティ」商品に注目する。Easterly Asset Managementが提供するこの商品は、株式エクスポージャーを維持しながら、市場の急落を回避することを目的としている。投資家はポートフォリオの20〜30%をこのような商品に配分し始めており、資産は3年で5,000万ドルから6億ドルに成長した。「投資家は成長を享受しつつ、ある日起きたらポートフォリオが10〜30%減っていた、という事態を避けたいのだ」。
小型株についてCrateは強気だ。「あらゆる技術革新は小型企業の味方だ。彼らは大企業のようなバランスシートやCapExを必要とせずに、生産性向上を実現できる」。Russell小型株指数がS&P500と同時に史上最高値を更新した事実は、消費者センチメントの悪化とは対照的だ。Crateは「小型企業は常にアメリカ経済の原動力であり、雇用の源泉だ。AIがゆっくりと浸透する今後5〜10年、彼らが経済変革の主役になる」と語る。
ただし、Crateはバリュエーションの高さにも警鐘を鳴らす。「木は天まで伸びない」。特にメモリ半導体株(Micron、SanDisk、Western Digital)の急騰については、「バイオテク株かミーム株のように取引されている」と指摘し、ポジション管理とヘッジの重要性を強調する。また、ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイが4,000億ドルの現金を抱えていることについては、「バフェットの視野はテクノロジーには及ばない。彼の指標は市場全体ではなく、経済の一部を映している」と冷静に評価する。
Easterly Government Properties——DOGEが追い風になるREIT
Easterly Government Properties(ティッカー:DEA)は、米国政府に「ミッションクリティカル」な建物をリースするREIT(不動産投資信託)だ。FBI、退役軍人省、麻薬取締局(DEA)など、人口動態に基づいて成長する政府機関に特化している。ワシントンD.C.ではなく、実際にミッションが遂行される現場に物件を所有する点が特徴だ。
Crateは「DOGE(政府効率化省)は当初、投資家を恐怖させた」と認める。政府のリース契約がキャンセルされるのでは、という懸念が株価を押し下げた。しかし実際には「一件のリースもキャンセルされていない」。同社のリース契約には「米国政府の完全な信用と保証」が明記されており、ドル紙幣と同じ信頼性を持つ。むしろ、DOGEの効率化推進は追い風だとCrateは主張する。「政府が所有する建物には850億ドルの deferred maintenance(先送りされた修繕費)がある。政府が自前で建物を管理すると、修理に5年かかる。民間に委託すれば、電話一本で対応できる」。新たにGSA(一般調達局)長官に就任したEd Forrestが民間セクターの感覚を持ち込んでおり、これが政府リース市場全体を活性化すると見込む。
財務指標も堅調だ。加重平均リース期間は10年以上、建物の平均築年数は16年(政府用途では40〜50年持つ)。パイプラインは15億ドル、配当利回りは8%で、 payout ratio(配当性向)は65〜70%と安全圏だ。Crateは「当社のキャッシュフローの質はAAプラスだ。それでいて、米国債より350〜400ベーシスポイント高い利回りを提供している」と強調する。市場が認識していないのは、DOGEの恐怖で見逃されている「安定したキャッシュフローの質」だとCrateは言う。8四半期連続で2〜3%の成長を達成しており、この成長率が続けば、現在のバリュエーションは「2〜3倍高くてもおかしくない」と主張する。
まとめ
このエピソードが最も鮮烈に描き出すのは、AIブームの「内部」で起きている軋みだ。NVIDIAの決算は華々しいが、その恩恵を享受するはずのマイクロソフトやUberが、AIのコスト高に喘いでいる——この逆説は、AI関連株への過度な楽観に冷水を浴びせる。同時に、メタのレイオフとSaaS企業の「AI誇大広告」は、テクノロジー業界の内部でさえ、AIの収益化が容易ではないことを示している。一方、Darrell Crateの「構造的ボラティリティ」というフレームワークは、短期的な市場のノイズを超えて、人口動態と政府の非効率性という長期的なテーマに投資家の目を向けさせる。Easterly Government PropertiesのようなニッチなREITが、DOGEという逆風を追い風に変えつつあるストーリーは、市場の「見えないところ」に価値が眠っていることを教えてくれる。
要点
- マイクロソフトが自社のAIツール(Claude Code)のコスト高で利用を抑制した事例は、AI関連CapExの持続可能性に疑問を投げかける。UberもAI予算を4ヶ月で使い切ったとされる。
- NVIDIAの決算は売上高85%増、利益95%増と驚異的だが、株価は高値から8%下落。CapEx削減リスクが重しとなっている。
- メタの8,000人レイオフは、記録的な利益を上げながらAI人材に巨額報酬を支払う矛盾を露呈。株価は昨夏の最高値から25%下落。
- SalesforceなどSaaS企業はAI機能の「過剰宣伝」が実態に追いつかず、株価は低迷。Workdayの8%急騰も、2年で60%下落した後の短期的な戻りに過ぎない。
- Darrell Crateは「構造的ボラティリティ」が今後5〜10年続くと予測。人口動態によるリタイアメント需要の長期化が、ヘッジド・エクイティ商品への需要を押し上げている。
- Easterly Government Properties(DEA)はDOGEの影響で株価が下落したが、実際にはリースキャンセルは一件もなく、15億ドルのパイプラインと8%の配当利回りを維持。政府の効率化推進がむしろ追風になっている。
- 小型株はRussell指数がS&P500と同時に史上最高値を更新。CrateはAIによる生産性向上が小型企業に恩恵をもたらすと見る。
- 新FRB議長ウォーシュは、短期金利引き下げと長期金利維持によるイールドカーブ・スティープ化戦略を取る可能性がある。10年債利回りは4%台半ばが「安定帯」。