
EP 787: アスリートとしての老化——ランナーに必要な、クライマーが知る長寿の秘訣
- エピソード概要 このエピソードは、伝説的なウルトラランナーであるクリッシー・モールが、長年のクライマーでありパタゴニアのアンバサダーであるケイト・ラザフォードを迎え、...
- [0:01] 若き日の「暴走」から「洗練」へ ケイト・ラザフォードは、自身のアスリートとしての進化を振り返り、20代の頃の自分を「ただ暴れ回っていた」と表現する。当時...
- この認識は、単なる体力の衰えを補うためのものではない。それは、身体の動かし方に対する理解が深まり、より少ないエネルギーでより多くのことを達成できる「効率性」を獲得した...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Trail Runner Nation / Trail Runner Nation
- 筋力からスキルへ: 加齢に伴い、若い頃の「体力」や「持久力」は、技術的な熟練度、効率性、身体認識へとシフトする。これこそが、年を重ねたアスリートの最大の武器である。
- 「今」に集中する: 長期的な目標(サミットやゴール)に圧倒されるのではなく、目の前の「次の一手」に集中することで、精神的な負担を軽減し、結果的に大きな目標を達成できる。
- パワートレーニングの重要性: 持久力は維持しやすいが、パワー(瞬発力)は失いやすく、取り戻すのが最も難しい。加齢に伴い、意図的にパワートレーニング(短時間・高強度)を取り入れることが、パフォーマンス維持の鍵となる。
- リアルフードの力: 長時間の活動では、砂糖を多く含むスポーツ栄養食よりも、バゲットやチーズ、ナッツなどの「ゆっくり消化されるリアルフード」が、持続的なエネルギーと幸福感をもたらす。腸内環境の健康が回復力に直結する。
- コミュニティの価値: 困難を共有し、互いに命を預け合うような深い信頼関係は、アスリートとしての成長を支える強固な基盤となる。リスクの高い活動ほど、コミュニティの結束は強まる。
- 「プロジェクト」としてのトレーニング: トレーニングを「やらなければならない作業」ではなく、身体を進化させる「プロジェクト」として捉えることで、プロセスそのものに喜びを見出せる。短期的な成長を実感することが、継続のモチベーションになる。
- 遺産を築く: アスリートとしてのキャリアを超え、自分が愛する場所やコミュニティにどのように貢献するか(例:Farm to Crag)を考えることが、真の「成功」の定義を拡張する。
エピソード概要
このエピソードは、伝説的なウルトラランナーであるクリッシー・モールが、長年のクライマーでありパタゴニアのアンバサダーであるケイト・ラザフォードを迎え、「アスリートとしての老化」というテーマを探求する対談である。中心となるテーゼは「加齢は減少ではなく、質的向上の機会である」というものだ。ケイトは、数十年にわたるクライミング経験を通じて、若い頃の圧倒的な体力や持久力は、技術的な熟練度、効率性、そして何よりも「喜び」へと取って代わられることを実証する。このエピソードは、トレイルランナー、クライマー、そして年齢を重ねてもなお冒険心を失いたくないすべての人々に向けて、身体の変化を受け入れ、コミュニティの力を借り、自分自身の「プロジェクト」に喜びを見出すことの重要性を、温かくも力強い会話を通じて伝えている。
若き日の「暴走」から「洗練」へ
ケイト・ラザフォードは、自身のアスリートとしての進化を振り返り、20代の頃の自分を「ただ暴れ回っていた」と表現する。当時は無謀なまでの体力と根性に頼っていたが、今ではそのアプローチが大きく変わったと語る。「今は自分の動きをこれほど洗練できる。1週間前にはできなかったことが、3週間後には楽々とできるようになる。このアンロック(解放)は信じられないほどの喜びをもたらしてくれた」と彼女は言う。かつては「次のクールな場所」を見に行くことだけに夢中で、技術を磨くための時間を惜しんでいたが、今では自分の身体を進化させるプロセスそのものに深い興味と喜びを見出している。この変化こそが、アスリートとしての老化における最大の「報酬」の一つであると彼女は示唆する。
この認識は、単なる体力の衰えを補うためのものではない。それは、身体の動かし方に対する理解が深まり、より少ないエネルギーでより多くのことを達成できる「効率性」を獲得した結果である。ケイトは、この「技術的なスキル」と「身体認識」の向上こそが、年齢を重ねたアスリートの最大の武器になると主張する。若い頃は「できないこと」に直面すると苛立っていたが、今ではその「できないこと」を「できる」に変えるプロセスそのものが、彼女を駆り立てる原動力となっているのだ。
コミュニティ、信頼、そして「困難を共にすること」の価値
クライミングの文化を語る上で、ケイトは「コミュニティ」の重要性を強調する。彼女はクライミングコミュニティを「自然と深くつながりたいと願う、風変わりな仲間たちの集まり」と表現する。このコミュニティの特別な点は、メンバーが互いに「命を預け合う」という究極の信頼関係で結ばれていることだ。ロープの両端で結ばれたパートナーは、文字通り互いの生死を預けることになる。このような「困難な経験を共有する」ことで生まれる絆は、日常生活では得難い深いものになる。
この考え方は、トレイルランニングのコミュニティとも共通する。番組のホストであるスコット・ワーは、「リスクが大きければ大きいほど、コミュニティの結束は強まる」と指摘する。トレイルランニングではエイドステーションでのサポートや、お腹を壊したランナーを助け合うといった「困難」を共有するが、クライミングにおける「命綱」ほどのリスクはない。しかし、ケイトは「困難なことを成し遂げた時に分泌される特別なホルモンや化学物質」が、コミュニティの絆を強固にするというユニークな視点を提供する。この「共有された感情の高まり」こそが、アスリート同士を結びつける強力な接着剤なのだ。
筋力からスキルへ:効率性という武器
このセクションでは、エピソードの核心的なテーマである「筋力からスキルへの移行」が深く掘り下げられる。ケイトは、20代の頃は「驚異的な持久力と粘り強さ」を持っていたが、今では「技術的なスキルと非常に微細な筋力、そして身体の動かし方に対する認識」が格段に向上したと語る。この変化は、特にボルダリング(高さ10フィートほどの短い岩を登るクライミング)を通じて顕著になった。ボルダリングでは、腰を2インチ動かすだけで、それまで不可能だったムーブが可能になる。この「微調整」の積み重ねが、身体の効率性を飛躍的に高めるのだ。
この「効率性」は、持久力が低下した現在の彼女にとって、大きな山岳プロジェクトに挑み続けるための鍵となっている。「若い頃のようなキャパシティはもうないが、今あるキャパシティをどう使うかという効率性が格段に向上した。そのおかげで、時間も体力も限られている今でも、大きなことを成し遂げ続けられている」とケイトは説明する。これは、トレイルランナーにとっても重要な教訓だ。単に「もっと走る」ことだけが成長ではなく、走りのフォームやエネルギー配分を「洗練」させることで、同じ距離をより少ない負荷で、より速く、より楽に走れるようになるという視点を提供している。
「今この瞬間」に集中する力:サミットはおまけ
クライマーとランナーの思考法の違いとして、ケイトは「瞬間への集中」を挙げる。クライマーは、巨大な山頂やルートの完登という最終目標を頭から追いやり、目の前の「次の一手」に全神経を集中させる。人間の脳は、巨大な目標の全体像を常に把握するようにはできていない。そのため、目標を「噛み砕いて」、目の前の課題に集中することが、長期的な成功への鍵となる。
ケイトは、このアプローチを「計画を立て、準備をし、そして目の前のことに集中する」と表現する。チョコレートやお気に入りの音楽、笑わせてくれるパートナーなど、喜びをもたらす小さな要素を準備しておくことも重要だ。そうして目の前の一手に集中し続けると、気がつけばいつの間にか頂上に到着している。それはまるで「サプライズのイースターエッグ」のようなものだと彼女は言う。この「プロセスに没頭する」という考え方は、長距離を走るランナーにとっても非常に有用だ。ゴールまでの長い距離に圧倒されるのではなく、「次の1マイル」「次のエイドステーション」に集中することで、精神的な負担を軽減し、パフォーマンスを向上させることができる。
老化と向き合うための「パワートレーニング」の重要性
ケイトは、加齢に伴い「パワー(瞬発力)」を維持・向上させることの重要性を強調する。持久力は長年のトレーニングである程度身体に「組み込まれている」が、パワーは「失うのが最も簡単で、取り戻すのが最も難しい」能力だからだ。彼女は現在、ボルダリングという「短く、非常に強度の高い」トレーニングを通じて、指の強さや瞬発力を鍛えている。この「パワー」の向上が、結果的に大きな山でのクライミングの効率を高め、持久力の低下を補っている。
彼女は、この「パワーを鍛える」というプロセスそのものを楽しむようになったと語る。「20代の頃は、ただ暴れ回っていた。今は、自分の動きを洗練させることができる。1週間前にはできなかったことが、3週間後には楽々とできるようになる。これは、短い時間で身体を美しく進化させることができるという、魅力的なプロセスだ」と彼女は言う。この発言は、トレイルランナーにとっても示唆に富む。多くのランナーは「スピード練習」や「ジムでの筋力トレーニング」を敬遠しがちだが、それらがもたらす具体的な効果(例えば、不安定な岩場でのバランス能力向上や、登りのパワー向上)を実感することで、トレーニングそのものへのモチベーションが大きく変わる可能性がある。ケイトは、この「短期的な成長の実感」こそが、トレーニングを継続する原動力になると指摘する。
燃料としての「リアルフード」:腸内環境と回復
栄養と回復について、ケイトは「リアルフード(自然食品)」の重要性を熱く語る。若い頃はCLIF BARやショットブロックなどのスポーツ栄養補助食品に頼っていたが、長時間の活動では砂糖の過剰摂取がパフォーマンスの低下を招くことを学んだ。血糖値の急上昇と急降下を繰り返すよりも、バゲット、ハードチーズ、サラミといった「ゆっくり消化されるリアルフード」の方が、持続的なエネルギーと「全体的な幸福感」をもたらすと彼女は言う。
彼女は現在、トレイルに持っていく食料として、ベーコンとデーツを詰めたおにぎりなどを推奨する。これは、タンパク質、脂肪、炭水化物をバランスよく摂取し、血糖値の急上昇を避けるための工夫だ。また、回復においても「脂肪」が腱や関節の修復に重要であり、「食物繊維」が腸内環境を整えることで、全体的な回復力と幸福感につながると指摘する。この「腸内環境=幸福=持久力と回復」という彼女の考え方は、アスリートの栄養摂取に対する新しい視点を提供している。さらに、彼女は「Farm to Crag」という活動を通じて、この「リアルフード」の哲学をコミュニティ全体に広げようとしている。
遺産を築く:Farm to Cragと環境への責任
エピソードの後半では、ケイトのライフワークである「Farm to Crag」が紹介される。これは、気候変動問題の解決策として「再生型有機農業」への投資を促進することを目的とした非営利団体だ。彼女は、工業的農業が温室効果ガスの主要な排出源である一方、適切に管理された農地は炭素を土壌に隔離する力を持つと説明する。この活動は、個人の健康(栄養価の高い食品)、コミュニティの健康(農家とアウトドア愛好家の連携)、そして生態系の健康(炭素隔離)という3つの柱で構成されている。
具体的なイベントとしては、クライミングをした後、土壌科学者、精肉業者、栄養士、シェフなどが集まり、「食は薬」をテーマにしたランチを共にするというものだ。ケイトは「人の心をつかむ最善の方法は胃袋を通すこと」という格言を引用し、美味しい食事を通じて、参加者が食料システムと環境問題について自然に学べる場を提供している。この活動は、アスリートとしてのキャリアを超えて、自分が愛する場所とコミュニティにどのように貢献できるかを考える、彼女の「遺産(レガシー)」の構築を象徴している。彼女は、70歳や80歳の自分が、今の自分に「何に感謝するか」を想像しながら、本当に大切なプロジェクトに時間とエネルギーを集中させている。
まとめ
このエピソードがリスナーに残すものは、「老化とは、失うことではなく、得ることである」という力強いメッセージだ。ケイト・ラザフォードの語る「若い頃の無謀な体力」から「洗練された技術と効率性」への移行は、単なる身体的な変化の話ではない。それは、アスリートとしてのアイデンティティそのものを、より深く、より持続可能なものへと進化させるプロセスである。彼女の「今この瞬間に集中する」というクライマーの思考法や、「リアルフード」へのこだわり、そして「Farm to Crag」を通じたコミュニティへの貢献は、アスリートとしての「成功」の定義を、単なる記録や頂上への到達から、より豊かな人生の質へと拡張している。このエピソードは、年齢を重ねることに不安を感じるすべてのアスリートにとって、希望と具体的な行動指針を与えてくれるだろう。
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