
なぜGen ZはAIを嫌うのか?
- 2026年5月の卒業式シーズン、AIを称賛するスピーチが次々と学生のブーイングを浴びている。元Google CEOのEric Schmidtがアリゾナ大学で行ったスピーチ...
- このエピソードでは、Jason CalacanisとAlex Wilhelmが、AIを巡るZ世代の反発、スタートアップAI市場におけるAnthropicとOpenAIの事...
- [5:08] Eric SchmidtへのブーイングとZ世代の「裏切り」感情 Eric Schmidtがアリゾナ大学の卒業式で行ったスピーチは、AIが「すべての職業、すべ...
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This Week in Startups / Jason Calacanis
2026年5月の卒業式シーズン、AIを称賛するスピーチが次々と学生のブーイングを浴びている。元Google CEOのEric Schmidtがアリゾナ大学で行ったスピーチでは、AIがもたらす変革を「刺激的」と語る彼の言葉に、会場からは明確な拒絶の声が上がった。この現象は、ビジネス界のAI熱狂と、就職市場の現実に直面するZ世代の間に存在する深い溝を浮き彫りにしている。学生たちは、自分たちの仕事がAIに奪われるという恐怖以上に、テクノロジーリーダーたちに「裏切られた」という感覚を抱いている。彼らはChatGPTが登場した後に大学教育を受け、そのツールを日常的に使いこなしてきたからこそ、AIの限界と危険性を肌で理解しているのだ。
このエピソードでは、Jason CalacanisとAlex Wilhelmが、AIを巡るZ世代の反発、スタートアップAI市場におけるAnthropicとOpenAIの事実上の複占状態、スタンフォード大学の学生による衝撃的なエッセイ、監視カメラ企業Flock Safetyの実例、そしてAIガジェットの未来について議論を交わした。ホストたちは、技術の進歩に対する楽観論と、それがもたらす社会的コストや倫理的課題の間で、明確な意見の相違を見せながらも、リスナーに深い考察を促す内容となっている。
Eric SchmidtへのブーイングとZ世代の「裏切り」感情
Eric Schmidtがアリゾナ大学の卒業式で行ったスピーチは、AIが「すべての職業、すべての教室、すべての病院、すべての研究室、すべての人間関係に触れる」と語った瞬間、学生たちから大規模なブーイングを浴びた。Schmidtは「恐怖を理解している」と述べ、学生たちに「未来はまだ決まっていない。君たちがAIを形作るのだ」と檄を飛ばしたが、Jason Calacanisはこのアプローチを「見下している」と批判する。学生たちが感じているのは恐怖ではなく、GoogleやSchmidtに対する「裏切り」の感情だとJasonは指摘する。彼らは、AI業界のリーダーたちが「仕事はなくなる」「豊かさの世界が来る」と語る一方で、自分たちにはその未来を形作る役割が与えられていないと感じている。
Alex Wilhelmは、この現象を1960年代の反戦運動になぞらえ、「これはZ世代にとってのベトナム戦争だ」と述べる。学生たちは「AI軍に徴兵されたくない」と、テクノロジーそのものに対するカウンターカルチャー的な拒絶反応を示している可能性がある。さらに、フロリダ中央大学の卒業式では、地元の不動産開発幹部Gloria CaulfieldがAIについて「次の産業革命」と語った瞬間、学生たちが驚きと拒絶の反応を示した。Jasonは、この世代が「スクリーンタイム」や「アルゴリズム」の悪影響を経験してきたことから、AIに対しても本能的に「これは人間の利益にならない」と感じていると分析する。
スタンフォード大生のエッセイが描く「AIに侵食されたキャンパス」
ニューヨーク・タイムズに掲載されたスタンフォード大学4年生Theo Bakerのエッセイ「What AI Did to My College Class」は、AIが大学教育の基盤をいかに破壊したかを生々しく描いている。Bakerは「AIはすべてだ。食堂でも、歴史の授業でも、デートでも、ジムでも、寮の共同バスルームでも、私たちはAIについて話している」と書き、一部の学生はAIで莫大な富を得たが、多くの学生にとって「学位が高給の仕事への保証券だったドアは、バタンと閉ざされた」と述べる。さらに「カンニングは遍在している。大学でAIを使わずに課題を終えた者を私は一人も知らない」と、AIが学問的誠実さを完全に溶解させた現状を告発する。
Jasonはこのエッセイを「すべての創業者の悪夢」と評する。学生たちはAIを使って宿題をこなし、教授もまたAIでエッセイを読んでいる。その結果、「これはすべて茶番だ」という虚無感が広がっている。Alexは、AIが労働市場を破壊するよりもはるかに速く、リベラルアーツ教育の基盤を破壊したと指摘する。さらに、かつてAtlassianに勤めていたエンジニアが、自身が構築したシステムが結局は自分自身をAIに置き換えるためのものだったと嘆くバイラル動画にも触れ、業界内部でも「自分たちの仕事が自分たちを不要にする」という皮肉な認識が広がっていることを示唆する。
AIの「ベトナム」と雇用市場の現実
Jasonは、Z世代のAI拒絶を「ベトナム戦争」に例える。学生たちは「AI奴隷制に徴兵されたくない」と、テクノロジーそのものに対する根本的な反発を示している。この感情の背景には、雇用市場の厳しい現実がある。Alexが紹介したユタ大学のデータによると、データセンター建設による雇用はプロジェクト完了後に急減する。2030年までにデータセンターが直接生み出す雇用は約65,000人だが、テクノロジー企業は今年だけで既に10万人を解雇している。つまり、AI関連の新規雇用は、既に行われたレイオフの数にも及ばない。
Jasonは、この状況に対して「ラディカルな自己責任」を主張する。彼は「誰でも会社を始められる」と断言し、年商50万ドルから500万ドルの「デライトフル・スケール」の小規模ビジネスを推奨する。メディア業界では既にこの現象が起きており、BuzzFeedやViceなどが崩壊した後、多くのジャーナリストが独立したSubstackやポッドキャストを始めたことを例に挙げる。しかしAlexは、医療保険のポータビリティや子育てとの両立など、起業への構造的な障壁を指摘し、「障壁を取り除く議論が必要だ」と反論する。Jasonはこれに対し「医療保険が問題ならヨーロッパに移住して会社を始めればいい」と過激なアドバイスを送るが、これは彼の「アメリカは元々自己責任の国だった。100年間の幻覚から覚めただけだ」という歴史観に基づいている。
AIスタートアップ収益の複占化とアプリ層のリスク
The Informationの報道によると、AnthropicとOpenAIの2社で、全AIスタートアップ収益の89%を占めている。月間収益ベースで見ると、2社で約66億ドル、年換算で約800億ドルに達する。一方、Cursor(約20億ドル)、Cognition(約30億ドル)など他の30社余りは、残りの約70億ドルを分け合っているに過ぎない。さらに、この6ヶ月間で2社のシェアは4.5%も拡大しており、アプリ層のスタートアップは急速にシェアを失っている。
Jasonはこのデータを「トークンの複占」と表現する。しかし彼は、AnthropicとOpenAIが現在トークンを「大幅な損失」で販売していると指摘する。巨大なインフラ投資と人件費を考慮すれば、現時点での推論(inference)の粗利益はマイナスである可能性が高い。これはUberとLyftが市場シェアを争って赤字でライドを提供していた時代に似ている。Alexはより深刻な懸念を表明する。アプリ層のスタートアップが基盤モデル上に構築するリスクだ。OpenAIがCodexにOpen Interpreterを統合するように、基盤モデル企業は自社のトークン販売を拡大するために、アプリケーション層に直接進出する可能性がある。「もしあなたがスタートアップなら、自分の市場がAnthropicやOpenAIにとって十分に大きくないことを願うしかない」とAlexは皮肉を込めて語る。
AIブックマーク「Mark II」と知識管理の未来
Alexが紹介した「Mark II」は、Think With Mark社が開発した159ドルのAIガジェットだ。物理的なブックマークにスキャナーとボイスレコーダーが内蔵されており、読書中に気に入った引用文をスキャンしたり、音声でアイデアを記録したりできる。Alexは「Plaud(AIメモデバイス)以来、本当に欲しいと思った初めてのAIガジェットだ」と絶賛する。彼は図書館から借りた『収容所群島』を返却する際に、マークした箇所をすべて失った経験を引き合いに出し、このデバイスの実用性を強調する。
一方Jasonは、自身が主にKindleとAudibleを使用しているため、このデバイスにはあまり魅力を感じないと述べる。しかし彼は、このガジェットが示すより大きなビジョンに注目する。それは「バックアップ・ブレイン」の構築だ。Jasonは、TikTok、Instagram、Twitterなど各プラットフォームに分散したブックマークを一箇所に集約し、AIエージェントがその知識を横断的に活用できる未来を構想している。彼はドメイン「begin.com」で同様のプロジェクトを進めており、「あなたが読んだ本、ブックマークしたデザイナー、そのデザイナーが作ったTシャツの情報がすべて連携する」世界を描く。これは、Neuralinkのような脳内インターフェースが実用化される前の、知識管理の過渡期的なソリューションとして位置づけられる。
Flock Safetyと監視社会のジレンマ
Flock Safetyは、AI搭載のナンバープレート読み取りカメラを提供する企業だ。先日テキサス州オースティンで発生した複数箇所での銃撃事件では、オースティン市がプライバシー問題を理由にFlockカメラを導入していなかったため、容疑者の追跡に難航した。しかし、隣接するマナー市(Manor)ではFlockカメラが作動しており、容疑者のナンバープレートを即座に捕捉、200人以上の警官を動員した大規模な捜索の末に逮捕に至った。FlockのCEO Garrett Langleyは、この事例を「プライバシーと安全性のトレードオフ」の典型例として強調する。
Jasonはこの問題に対して複雑な立場を示す。一方で彼は、自身の牧場に設置したセキュリティシステムがナンバープレート読み取りや顔認識を行い、ゲートの開閉を自動化していることを認める。他方で、公共空間での監視には「監査証跡」と「データ保持期間の制限」という2つのセーフガードが必要だと主張する。Alexは、ロードアイランド州プロビデンスの地図を示し、177台のカメラのうち155台がFlock製であることを明らかにする。彼は「このような監視網が国民的議論なしに構築されたことに不安を感じる」と述べ、ベンジャミン・フランクリンの「安全のために自由を放棄する者は、どちらも得るに値しない」という言葉を引用する。Jasonはこれに対し、Flockカメラは地域コミュニティのボトムアップな意思決定で導入されている点を挙げ、「個人の自由を放棄しているのではなく、個人の自由を行使しているのだ」と反論する。
Noti Gang:AI特許出願とローカルAI実行の実用性
リスナーからの質問コーナーでは、AIを使った特許出願の是非が議論された。Jasonは、特許は法律の中でも特に高度でリスクの高い分野であり、AIのみに依存するのは危険だと警告する。「AIで下書きをし、人間の弁護士がレビューする」というHuman-in-the-loopのアプローチを推奨する一方、ほとんどのスタートアップにとって特許は「世界で最も迷惑な虚栄の指標」に過ぎないと切り捨てる。IBMのように年間数千件の特許を取得する企業は存在するが、実際のビジネスで特許が重要な役割を果たすケースは稀だと指摘する。
もう一つの質問は、Mac Studioなどのハードウェアを使ってローカルでAIモデルを実行する動きについてだ。Jasonはこれを「一時的な流行ではなく、未来」と断言する。トークン価格が十分に低下するまでは、特定の用途においてローカル実行が経済的に合理的だと説明する。さらに、企業にとって最大のメリットはプライバシーだと強調する。ベンチャーキャピタル企業が投資戦略や機密文書をAnthropicやOpenAIにアップロードすれば、そのデータがモデルの学習に使われ、競合他社に間接的に情報が漏洩するリスクがある。データ漏洩がLLMを通じて発生した場合の影響は「計り知れないほど深刻」だとJasonは警告する。
結びに
このエピソードが最も印象的に描き出したのは、テクノロジー業界の「楽観主義」と、それを享受しない世代の「現実主義」の間にある埋めがたい溝である。Eric Schmidtのブーイング事件は、単なる卒業式のハプニングではなく、AIが社会にもたらす恩恵と脅威を巡る、世代間の価値観の衝突を象徴している。Jason Calacanisは「誰でも起業できる」というラディカルな自己責任論を展開するが、Alex Wilhelmが指摘する構造的な障壁や、Theo Bakerのエッセイが描く虚無感は、単純な楽観論では解決できない複雑な問題を提起している。
AnthropicとOpenAIによる収益の複占化、Flock Safetyの監視網の拡大、そしてAIガジェットの登場は、テクノロジーが「誰のためのものか」という根本的な問いを投げかけている。このエピソードは、投資家としての楽観と、社会現象としての懐疑の間で揺れる、現代のテクノロジーを巡る議論の縮図と言えるだろう。
要点
- Eric Schmidtのアリゾナ大学でのスピーチは、学生たちから大規模なブーイングを浴びた。Z世代はAIに対して恐怖ではなく「裏切り」感情を抱いており、テクノロジーリーダーたちの楽観的なメッセージを受け入れていない。
- スタンフォード大生Theo BakerのNYTエッセイは、AIが大学教育の基盤を破壊し、学生たちに「すべては茶番だ」という虚無感を広げている実態を描いた。
- ユタ大学のデータによると、2030年までにデータセンターが生み出す雇用(約65,000人)は、既に行われたテック企業のレイオフ(10万人)にも及ばない。
- AnthropicとOpenAIの2社で、全AIスタートアップ収益の89%を占める。6ヶ月間でシェアは4.5%拡大しており、アプリ層のスタートアップは急速に立場を弱めている。
- Jasonは「誰でも起業できる」と主張し、年商50万〜500万ドルの小規模ビジネスを推奨する。一方Alexは、医療保険のポータビリティなど構造的な障壁を指摘する。
- Flock Safetyのカメラは、オースティン銃撃事件で容疑者の迅速な逮捕に貢献した。しかし、公共空間での監視網の拡大は、プライバシーと安全性のトレードオフに関する深刻な議論を呼んでいる。
- AIを使った特許出願は、Human-in-the-loopが必須だが、ほとんどのスタートアップにとって特許は「虚栄の指標」に過ぎない。
- ローカルでのAIモデル実行は、プライバシーとコストの観点から「未来」であり、企業機密を外部LLMにアップロードするリスクは計り知れない。