
ベンチャーキャピタルの終焉?(VC座談会)| E2285
- 米国のベンチャーキャピタル業界において、2025年第1四半期に上位5社が全LPコミットメントの73.1%を獲得したという驚異的なデータが示すのは、業界の構造的転換点である...
- [2:13] ベンチャーキャピタルの終焉か、二極化か Michael Eisenbergは、ベンチャーキャピタルが「非対称的なアップサイド」を少数の企業に依存するビジネス...
- Larry Covertはこれに対し、業界は「コンセンサスVC(CVC)」と「伝統的VC(TVC)」の二つに分化していると主張する。前者はa16zのような巨大ファンドが代...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
This Week in Startups / Jason Calacanis
米国のベンチャーキャピタル業界において、2025年第1四半期に上位5社が全LPコミットメントの73.1%を獲得したという驚異的なデータが示すのは、業界の構造的転換点である。本エピソードでは、AlephのMichael Eisenberg、ManivのMike Granoff、Oxcart VenturesのLarry Covertという3人のベテランVCが、この前例のない資本集中がもたらす影響について徹底討論を行った。Eisenbergは「我々はベンチャーキャピタル業界の終焉を目撃しているかもしれない」と警鐘を鳴らし、60年にわたるクラフトビジネスとしてのVCが消滅する可能性を指摘する。一方、GranoffとCovertは、業界が「コンセンサスVC」と「伝統的VC」という二つの資産クラスに分裂しつつあると主張し、中規模ファンドの需要はむしろ高まるとの見解を示した。議論はAI企業の粗利益率問題、GPU不足とエネルギー制約、イスラエルの地政学的状況と防衛テクノロジー、そしてIPO市場の閉塞感にまで及んだ。特に注目すべきは、Eisenbergが提唱する「テルアビブ証券取引所が次のNASDAQになる」という大胆な予測であり、これは従来の金融市場の枠組みが根本から変容しつつあることを示唆している。
ベンチャーキャピタルの終焉か、二極化か
Michael Eisenbergは、ベンチャーキャピタルが「非対称的なアップサイド」を少数の企業に依存するビジネスモデルであると定義する。しかし、資本が過剰に集中し、初期段階から巨額の資金が投入されるようになると、損失が大きくなりすぎて、一部の大成功案件がそれをカバーできなくなるという。彼は「数学が機能しなくなる」と表現し、特に所有権比率の低下が深刻な問題だと指摘する。自身のファンドAlephでは、業界平均の2倍以上の所有権を維持していると述べ、これが非対称的ビジネスにおける成功の鍵だと強調した。
Larry Covertはこれに対し、業界は「コンセンサスVC(CVC)」と「伝統的VC(TVC)」の二つに分化していると主張する。前者はa16zのような巨大ファンドが代表し、機関投資家が「新しいマネージャーに賭けた」と非難されるリスクを回避するために投資する領域である。後者はXerox PARCの時代に遡る、真のフロンティアを開拓する創業者への少数投資を本質とする。Covertは自身のファンドが「サザンスマイル」(南カリフォルニアからサウスカロライナまでの地域)の大規模ファミリーオフィスにアクセスし、彼らに本来は手の届かないベンチャー投資の機会を提供していると説明した。
Mike Granoffは、この二極化は自然な循環現象だと捉える。テクノロジー業界における「バンドリングとアンバンドリング」のサイクルが、資金調達の世界にも適用されると述べ、中規模ファンドへの需要はむしろ増加すると予測する。その理由として、巨大ファンドでは創業者との密接な関係構築が困難であることを挙げ、自身のファンドが創業者とWhatsAppベースで毎日コミュニケーションを取っている実例を示した。また、ファンドサイズが戦略そのものであるという原則に立ち返り、5億ドルを超えるファンドはもはやベンチャーキャピタルとは呼べず、プレIPO資金に過ぎないとの見解を示した。
中規模ファンドの競争優位性と創業者アクセス
中規模ファンドの最大の強みは、創業者へのアクセスとハンズオン支援にある。Mike Granoffは、自身のファンドが創業者と毎日WhatsAppでやり取りしていると述べ、巨大ファンドでは得られない密度の高い関係性を強調した。特に、ファンドの専門性が明確であるほど、創業者にとっての付加価値は高まる。Manivは自動車、Tier1サプライヤー、フリート管理、エネルギーインフラ、保険といった特定産業に特化しており、LPの半数以上が戦略的投資家である。この専門特化により、汎用的な巨大ファンドとは異なるポジショニングを確立している。
Michael Eisenbergは、Alephが「コンセンサスの反対」を標榜していると述べる。同社はBenchmarkと同様のパートナーシップモデルを採用し、激しい議論を経て投資判断を行う。Gen AIやサイバーセキュリティといったホットな領域には意図的に投資せず、クラフトビジネスとしてのVCを追求する。彼は、創業者にとって真の価値は「アクセス」にあると指摘する。Alephは管理報酬の大部分を費やして独自のデータベースを構築し、AI以前の時代から複数のネットワークを横断して創業者とリソースを結びつける仕組みを整えている。しかし、最終的なコネクションはパートナー自身が行うことが不可欠だと強調する。
Larry Covertは、シリコンバレーから無視されていたエッジAI企業をグランドラピッズ(ミシガン州)で発見した事例を紹介する。評価額7,000万ドルで投資し、パートナーや顧客の紹介、人材採用支援を経て、現在はオースティンに拠点を移し、評価額25億ドルに成長した。このような「非自明な場所」での発見と支援こそが伝統的VCの本質だと語る。彼は、巨大ファンドが「コンセンサス巨大協調資本(CCCC)」と揶揄する新しい資産クラスを形成している一方で、真のベンチャーキャピタルは創業者との密接な関係構築にこそ価値があると主張する。
AI企業の「ブルシットARR」問題と粗利益率の実態
Michael Eisenbergは、AI企業の収益報告に深刻な疑問を呈する。彼は「収益は粗利益率の代理指標に過ぎない」と述べ、AI企業の粗利益率が従来のソフトウェア企業の水準には遠く及ばないと指摘する。トークンには計算コストが伴い、このコストは今後も低下するとは限らない。むしろ、電力網の制約から「サージプライシング」が常態化する可能性があり、これがアプリケーション層の粗利益率をさらに圧迫すると予測する。Cursorが一時的にマイナス23%の粗利益率を記録した事例を挙げ、表面的なARRの数字だけでは企業の健全性を判断できないと警告する。
Mike Granoffは、エネルギーがコンピューティングの制約要因になっていると指摘する。彼は20年以上にわたってバッテリー技術を追跡してきた経験から、太陽光発電とエネルギー貯蔵のコスト低下が、データセンターや製造施設向けの独立型エネルギー源の構築を可能にしつつあると説明する。この動きは、グリッドに依存しない「仮想発電所」の概念を現実のものとし、エネルギー分野そのものに革命をもたらす可能性がある。彼のポートフォリオ企業では、AI導入により人員計画が減少する一方で、トークン費用という新たなコスト項目が出現しており、どちらのトレンドがより支配的になるかは現時点では判断できないと述べる。
Larry Covertは、エネルギー制約がモデルの小型化を促進する「強制関数」として機能すると主張する。彼は、NVIDIAのJensen Huangが述べた「AGIからASIへの移行には数十億のナノモデルの合成が必要」という見解を引用し、真に信頼できるAIは個人化されたモデルの集積によって初めて実現すると述べる。現在のAIは80〜90%の信頼性で日常的なタスクに使用できるが、高度な判断を要する領域ではまだ不十分であり、これは専門家が自身のモデルを100%の精度にまで高めることで解決されるという。彼のポートフォリオ企業であるNexarが開発した「Badass 2.0」モデルは、NVIDIAのCosmosを2.5〜3倍上回る性能を示しながら、モデルサイズは一桁小さいと報告した。
NVIDIAの支配とチップ戦争の行方
Michael Eisenbergは、NVIDIAのGPUがAI経済の中核であり続けるかという問いに対し、自らのポッドキャストでNext SiliconのCEO Elad Razと行った対談を引用する。Razは、NVIDIAのチップが世代を追うごとに計算能力と消費電力を線形的にしか改善していないと指摘し、指数関数的なブレークスルーが必要だと主張する。Next Siliconは第3世代チップでその成果を示しつつある。しかしEisenbergは、チップ設計と製造の難しさを強調し、Intelが過去6ヶ月で世界最高の株価パフォーマンスを示している事実を挙げ、チップ業界におけるリーダーシップの持続性を指摘する。
Eisenbergは、AIのフルスタック(半導体設計、製造装置、製造、トークン、アプリケーション)を持つ国は世界に6カ国しかないと述べる。米国、中国、日本、韓国、そしてイスラエルである。特にイスラエルは、Amazon、Google、AppleのCPUやTPUの多くを設計しており、NVIDIA自身もイスラエルに3,000〜4,000人の従業員を擁し、6,000人に拡大中である。NVIDIAがデータセンター向けGPUのスケーリングを可能にしたMellanoxの買収もイスラエル発の技術であり、その創業者Eyal Waldmanの娘が10月7日のテロ攻撃で命を落とした事実に言及し、イスラエルの半導体エコシステムの深さを浮き彫りにした。
Larry Covertは、エッジコンピューティングの重要性を強調する。企業のデータ生成と利用の75%はオンプレミスで発生しており、彼の最初の投資先であるWeb AI(エッジAI企業)はこの領域に特化している。彼は、AppleのMシリーズチップが消費者向けCPUとして最高水準にあると評価し、モデルの小型化と蒸留技術の進展により、AppleがエッジAIで優位に立つ可能性を指摘する。Mike Granoffもこれに同意し、GPUのコスト制約がモデルをより広く分散した計算デバイスに押し込む「強制関数」として機能し、結果的には大多数のモデルがユーザーの手元で動作するようになると予測する。
自動運転とAIへの社会的信頼
Michael Eisenbergは、自動運転車の安全性データが圧倒的であるにもかかわらず、社会的受容が進まない理由をメディアのバイアスに求める。Waymoの統計は人間の運転より10倍以上安全であることを示しているが、メディアは事故のニュースを過大に報道し、命を救った事例を無視する傾向があると批判する。彼は「民主主義社会では、特定の利益団体が技術的飛躍を妨げる力を過小評価している」と述べ、イスラエルでUberがタクシーロビーの政治的压力により12年間導入されていない事例を挙げた。自動運転車は選挙権を持たないため、政府による義務化が極めて困難だと指摘する。
Mike Granoffは、消費者の非合理性に注目する。イスラエルの心理学者Dan Arielyの著書『予測どおりに不合理』を引用し、モビリティ消費者が最も非合理的な行動を取ると述べる。ロサンゼルスで従妹にWaymoの安全性を説明しても「怖い」と拒否された経験を語り、統計的事実だけでは行動変容を促せないと指摘する。しかし、アメリカ人の半数以上が週に1回以上AIを職場で使用しているという統計を示し、技術の採用ペース自体は驚くほど速いとも述べる。
Larry Covertは、自身の体験談として、テスラのFSD(完全自動運転)が深夜の高速道路でシカを回避したエピソードを紹介する。彼は、テスラが全世界で100億マイルの走行データを蓄積している事実を挙げ、FSDの安全性に対する確信を表明する。しかし同時に、自動運転の義務化には慎重な立場を示す。彼は「人間は自分の運転技術に誇りを持っている」と述べ、文化的な障壁の大きさを認める。Eisenbergはこれに対し、航空業界の例を挙げる。乗客はパイロットが実際に操縦していないことを知らないが、コックピットへのカーテンがあるため安心している。同様の「許可のアーキテクチャ」を自動運転にも構築すべきだと主張する。
防衛テクノロジーとイラン紛争のサプライチェーン影響
Larry Covertは、ウクライナ戦争が防衛技術投資の新たな時代を切り開いたと評価する。特にドローン分野では前例のないイノベーションが起きているが、イラン紛争では従来の大手防衛企業(レガシープライム)がより重要な役割を果たしていると指摘する。彼は、AndurilやSaronicのような新興防衛企業が急速に評価額を拡大している一方で、2,000社以上のドローン企業が存在する市場では「アンドリュー・カーネギー効果」(過剰参入による淘汰)が働くと警告する。過去のIED対策車両市場では200社が参入したが、最終的にBAEとOshkoshが生き残り、MRAPを開発した事例を挙げ、防衛分野でも同様の統合が進むと予測する。
Michael Eisenbergは、イラン紛争がグローバルサプライチェーンに与える構造的影響を分析する。彼は、NATOの崩壊、米中対立、ロシア・ウクライナ戦争、中東紛争という4つの地政学的ショックが同時に進行しており、世界は「グローバリストのサプライチェーン」から「同盟国のサプライチェーン」へと移行すると主張する。この移行は原子(物理的インフラ)を伴うため、長期間を要する。彼は、米国とイスラエルの軍事協力が「世界戦争史上類を見ないレベル」に達していると評価し、UAEが5ギガワットのデータセンターを建設し、NVIDIAチップの輸出が許可されている事実を挙げ、新たな同盟関係の形成を示唆する。
Mike Granoffは、イラン問題を「世界最大のバイナリーイベント」と表現する。イランが民主化されれば、その石油が世界市場に流入し、エネルギー価格に劇的な影響を与えるだけでなく、長年抑圧されてきた才能あるイラン国民からイノベーションが生まれる可能性があると述べる。彼は、テルアビブ証券取引所が過去1年以上にわたって他のすべての指数をアウトパフォームしている事実を指摘し、これは投資家が「イランの脅威」という長年のオーバーハングが解消される可能性を織り込み始めている証拠だと分析する。また、イスラエルの若い世代を「イスラエル史上最高の世代」と称し、彼らが経験した困難が起業家精神を刺激していると述べる。
ライトニングラウンド:注目のポートフォリオ企業
Michael Eisenbergは、Jiga(ジガ)を推す。この企業はAIを活用した調達プラットフォームで、特に個別製造業向けに設計されている。エンジニアリングチームが特定の部品を発注・設計するプロセスを劇的に高速化し、中国に依存しないサプライチェーンの構築を可能にする。同社はカスタムCNC加工に特化しており、製造業のターンアラウンドタイムを大幅に短縮している。
Larry Covertは、Divergent(ダイバージェント)を紹介する。同社はZingerブランドで約200万ドルのハイパーカーを製造する一方、その真の価値は「過酷な環境でのオンデマンド製造」にある。海軍や陸軍との契約を背景に、F1や自動車メーカーへの供給も行っている。また、最初の投資先であるWeb AI(エッジAI企業)が評価額7,000万ドルから25億ドルに成長した事例を挙げ、さらに合成開口レーダーを用いた宇宙偵察企業Umbra、素材科学企業Volaback、3Dプリント推進薬企業Firehawkなどを紹介する。
Mike Granoffは、Harbinger Industries(ハービンジャー・インダストリーズ)を推す。同社は中型トラック市場に焦点を当て、電気自動車を従来のトラックより低コストで生産することに成功している。Tesla Model 3の「生産地獄」を解決したエンジニアが製造を統括しており、EVスケートボードシャーシの上に任意のボディを載せる「コーチビルド」モデルを採用している。同社はすでに多額の資金を調達しており、産業製造分野への展開も視野に入れている。
結びに
本エピソードの核心は、ベンチャーキャピタル業界が単なる循環変動ではなく、構造的な転換点にあるという認識である。上位5社への資本集中が示すのは、VCが「クラフトビジネス」から「コンセンサス巨大資本」へと変質しつつあるプロセスであり、これは創業者、LP、そしてイノベーションの未来に深刻な影響を及ぼす。同時に、AI企業の粗利益率問題、エネルギー制約、地政学的リスクの高まりは、従来の投資フレームワークでは捉えきれない新たな複雑性を露呈している。特に印象的なのは、Eisenbergが提示した「テルアビブ証券取引所が次のNASDAQになる」という逆説的な予測である。これは、従来の金融市場の階層構造が崩壊し、新たな資金調達の場が出現する可能性を示唆している。3人のベテランVCの間で見解の相違はあったものの、全員が「これまでと同じやり方では成功できない」という認識で一致していた点が、このエピソードの最も重要なメッセージである。
要点
- 2025年第1四半期、米国VC上位5社が全LPコミットメントの73.1%を獲得し、業界の資本集中が加速している。
- Michael Eisenbergは、過剰な資本投入が所有権比率を低下させ、VCの数学的モデルを崩壊させる可能性を警告する。
- Larry Covertは、業界が「コンセンサスVC(巨大ファンド)」と「伝統的VC(クラフトビジネス)」の二資産クラスに分裂しつつあると分析する。
- AI企業の粗利益率は従来のソフトウェア企業を大幅に下回り、Cursorの事例ではマイナス23%を記録。表面的なARRだけでは企業価値を判断できない。
- エネルギー制約がコンピューティングコストを押し上げ、サージプライシングの常態化が予測される。これがAIアプリケーションの収益性をさらに圧迫する。
- NVIDIAのGPU支配は続くが、Next SiliconやHailoなどイスラエルのチップ企業が指数関数的なブレークスルーを目指している。
- 自動運転車の安全性データは圧倒的だが、メディアバイアスと消費者の非合理性が普及の障壁となっている。
- イラン紛争はグローバルサプライチェーンを「同盟国ベース」へと構造転換させ、テルアビブ証券取引所が新たな資金調達ハブとなる可能性がある。