
ハワード・マークス:市場暴落を心配する間に私がどうやってお金を稼ぐか
- 伝説的投資家ハワード・マークスが、AIへの認識をどのように変えたのか、そして恐怖と不確実性の中でどのように投資判断を下すのかについて、My First Million...
- マークスの語り口は、驚くほど謙虚で自己批判的だ。自身のキャリアの初期を「無意識だった」「恥ずかしいほど意思決定が下手だった」と振り返り、成功の多くを運とタイミングに帰...
- [0:14] AIへの認識変更とその本質 ハワード・マークスは、AIに対する自身の見解をどのように変更したのか、その経緯を詳細に語った。数ヶ月前、彼はAIバブルの可能...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
My First Million / Hubspot Media
- ハワード・マークスはAIの「自律性」を歴史上類を見ない画期的性質と評価する一方、投資判断における「直感」や「違和感」は人間に残る領域だと主張した。
- 「第二水準の思考」とは、市場のコンセンサスとは異なる独自の認識(変異認識)を持ち、それに賭けて正解することであり、教えることが極めて難しい才能である。
- 2008年のリーマン・ショック時、マークスとブルース・カーションは「世界の終わり」への恐怖を抱えながらも、週平均4.5億ドルを15週間にわたり投資し、その決断は「恐怖を感じながらも行動する」という哲学に基づいていた。
- 39年にわたるパートナーシップの秘訣は、「共有された価値観」「補完的なスキル」「感謝の念」の3点に集約される。喧嘩をしたことがないという事実は、相互尊重の重要性を物語る。
- マークスは自身のキャリア初期を「無意識で恥ずかしいほど下手な意思決定」と振り返り、50歳近くになってようやく意図を持って生きるようになったと語った。
- ウォーレン・バフェットとの交流は、エンロン関連の債務処理がきっかけであり、バフェットからの「本を書け」という一言がマークスの初の著書執筆を後押しした。
- チャーリー・マンガーの最大の貢献は、バフェットを「葉巻の吸い殻投資(安いが質の低い企業への投資)」から「素晴らしい会社を適正な価格で買う」戦略へと導いたことにある。
- マークスは、ガルブレイスの『バブルの物語』とタレブの『まぐれ』を、自身の思考形成に最も影響を与えた2冊として推薦した。
伝説的投資家ハワード・マークスが、AIへの認識をどのように変えたのか、そして恐怖と不確実性の中でどのように投資判断を下すのかについて、My First MillionのホストSam ParrとShaan Puriが深く掘り下げた。マークスは、AIの自律性という前例のない性質に注目し、これまでの技術革新とは一線を画すと語る。しかし同時に、AIが投資家の役割を完全に代替することには懐疑的であり、特に「第二水準の思考」や「首の毛が逆立つ」ような直感的な判断は、人間にしかできない領域として残ると主張する。本エピソードでは、2008年のリーマンショック時に110億ドルものファンドを運用した際の意思決定プロセス、39年にわたるブルース・カーションとのパートナーシップの秘訣、そしてウォーレン・バフェットとの個人的な交流など、マークスの半生を貫く投資哲学と人間観が余すところなく語られた。
マークスの語り口は、驚くほど謙虚で自己批判的だ。自身のキャリアの初期を「無意識だった」「恥ずかしいほど意思決定が下手だった」と振り返り、成功の多くを運とタイミングに帰する。この謙虚さこそが、彼の投資哲学の根幹をなす「間違っているかもしれない」という姿勢に直結している。エピソード全体を通じて、投資とは単なる分析技術ではなく、恐怖を抱えながらも行動する勇気、パートナーへの敬意、そして自分自身の限界を認める知性の総合芸術であることが浮き彫りになった。
AIへの認識変更とその本質
ハワード・マークスは、AIに対する自身の見解をどのように変更したのか、その経緯を詳細に語った。数ヶ月前、彼はAIバブルの可能性について言及するメモを執筆した。しかし、VCとしてAI企業と日々向き合う息子のアンドリューから「多くのことが変わった。メモをアップデートすべきだ」と促され、全面的に書き直すに至った。このエピソードは、マークスが「良い思考者」であることの証左として、ホストたちから高く評価された。
マークスがAIに「魅了された」と評される所以は、その能力の質にある。彼はAIの本質を「自律性(autonomy)」と定義する。鉄道、コンピュータ、インターネットといった過去の技術革新はすべて、人間の生産性を高めるための「道具」だった。しかしAIは、仕事のやり方を指示せずとも、自ら解決策を見出す能力を持つ。この点が、歴史上のどの発明とも異なる、まったく新しい性質だとマークスは強調する。さらに、AIの将来は「予測不可能」であり、インターネットの登場時でさえ、これほど将来像が見えないと感じたことはなかったと述べる。
しかし、マークスはAIが投資家の仕事を完全に奪うとは考えていない。彼は「インデックス投資が多くのアクティブ運用者を失業させた」という歴史を引き合いに出し、AIも同様に、実力以上の成果を謳っていた投資家たちを「裸にする」だろうと予測する。それでもなお、人間に残された役割があると確信している。その根拠として、彼は「悪い人に投資しない」という判断を挙げる。データや過去のパターンでは説明できない、経験に裏打ちされた「直感」や「違和感」は、AIには再現できない領域だと主張する。「AIには首の毛がない」という彼のユーモアを交えた表現は、この点を鮮やかに印象づける。
第二水準の思考と投資の才能
マークスの投資哲学の核心をなす概念が「第二水準の思考(Second Level Thinking)」である。これは、単に「良い会社だから買う」といった第一水準の思考ではなく、市場のコンセンサスとは異なる「変異認識(variant perception)」を持ち、それに賭けて正解することだと説明される。つまり、大多数の投資家が企業の品質や成長率を過大評価しているか、あるいは過小評価しているという独自の視点が不可欠となる。
しかし、マークスはこの思考法を教えることは極めて困難だと認める。彼は「バスケットボールでは身長をコーチできないように、洞察力(insight)というものは教えられない」と述べ、投資の才能の一部は生得的なものであると示唆する。彼の著書『投資で最も大切なこと(The Most Important Thing)』の第一章もこのテーマに充てられており、第二水準の思考の重要性を説くことはできても、それをどうやって身につけるかを教えることはできないと率直に語る。
この議論は、AIがAGI(汎用人工知能)に到達したとしても、人間の「洞察力」を再現できるのかという問いへとつながる。マークスは、AIが過去のデータからパターンを認識し外挿することは得意だが、歴史のない未知の状況や、確率分布の理解を超えた判断は人間に残るだろうと考える。スティーブ・コーエンに関する本で読んだ「彼はティッカー(株価表示機)の流れを感じ取ることができる」という逸話を引き合いに出し、この「流れとの一体感」のようなものは、再現不可能な才能の一例だと述べた。
恐怖と不確実性の中での意思決定
マークスのキャリアにおける最大の決断の一つが、2008年のリーマン・ショック直後、110億ドルもの資金を積極的に投資したことだ。彼らは事前に「危機が来る」と予見し、過去最大のディストレスト債ファンドを組成していた。しかし、いざリーマンが破綻し「世界の終わり」が現実味を帯びると、誰もが恐怖に支配された。マークスは「世界の終わりに対するパターン認識は存在しない」と述べ、データも過去の経験もない中で、唯一「推測(supposition)」だけを頼りに決断を下したと振り返る。
彼らの判断基準はシンプルだった。「もし金融システムが崩壊すれば、投資しても意味がない。しかし、崩壊しなかった場合に投資しなければ、我々の仕事を果たしたことにならない」。この論理に基づき、彼らは行動した。ブルース・カーションは15週間にわたり、平均で週4億5,000万ドル、四半期で70億ドルもの資金を投入した。この決断は、定量的な分析によっても裏付けられていた。彼らが購入した社債は、仮に企業価値がPEファンドの買収価格から4分の1や5分の1にまで下落しても、元本が保たれるような「安全域(margin of safety)」が確保されていた。
驚くべきことに、マークスはこの決断に「まったく自信がなかった」と認める。彼は「私はいつも『間違っているかもしれない』と言うタイプだ」と語り、恐怖を感じながらも行動することの重要性を強調する。「戦場の英雄は恐れを知らない人ではない。恐れを抱きながらも、やるべきことをやる人だ」という言葉は、彼の投資哲学を象徴している。もし恐怖を感じずに投資できるなら、むしろ何かがおかしいとさえ彼は言う。チャーチルの「謙虚な男には謙虚になるべきことがたくさんある」という警句や、マーク・トウェインの「問題を引き起こすのは、知らないことではなく、確かに知っていると思っていることが実は間違っていることだ」という言葉を引用し、確信過多の危険性を繰り返し警告した。
39年にわたるパートナーシップの秘訣
Shaan Puriが「30年以上のパートナーシップを築く秘訣は何か」と問うと、マークスはブルース・カーションとの関係を紐解きながら、その核心を語った。彼らは39年間のパートナーシップで、一度も喧嘩をしたことがないという。その基盤にあるのは「相互尊重」であり、その前提として「共有された価値観(shared values)」と「補完的なスキル(complementary skills)」の二つが不可欠だと説く。
価値観が共有されていなければ、一方が超攻撃的で他方が臆病だったり、一方が倫理的で他方がずる賢い場合、良い時は「臆病者が足を引っ張る」と非難し合い、悪い時は「野蛮人が我々を殺そうとしている」と罵り合うことになる。マークスは、ウォール街の投資銀行の大半が消え去った理由を、この「カウボーイとチキン」の力学に求めた。一方、補完的なスキルとは、相手にできないことを自分ができ、自分にできないことを相手ができる関係性だ。マークスは「もし君が私と同じことしかできないなら、私は君を必要としない」と断言する。
具体的には、マークスは投資家への営業やポッドキャスト出演を担当し、カーションは資金運用に専念するという役割分担が、まさにこの補完性の好例だ。さらに、マークスは「感謝すること」の重要性を強調する。パートナーが自分がやりたくないことを引き受けてくれている事実に「ラッキーだ」と感謝の念を持ち続けることが、長期的な関係を円滑にする。このパートナーシップ論は、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの関係にも通じるものとして、エピソード後半で再び語られることになる。
子育てと「自分の人生を生きる」こと
マークスは、投資哲学と同様に、子育てにおいても深い洞察を示した。彼は、ウォール街の精神科医の言葉を引用し、患者の問題は父親から受けたサポートに反比例するという事実を紹介する。多くの成功した男性が、息子に対して自分の優位性を証明しようとし、それが子供の成長を阻害していると指摘する。マークスは「私は決してそんな父親になりたくなかった」と語り、息子のアンドリューに対しては、彼が自分より賢い分野があることを認め、やりたいことを全面的に支援してきたと述べる。
彼の子育ての指針は、子供に選択させることだ。娘が進学先を選ぶ際、両校とも良い選択肢である以上、たとえ自分たちの希望とは違っても、娘自身に決めさせた。たとえ間違った選択をしても、それは貴重な経験になると考えるからだ。この姿勢は、投資における「間違っているかもしれない」という謙虚さと完全に一致している。
この文脈で、マークスは自身のキャリア選択を「無意識で恥ずかしいほど下手だった」と自己批判する。シティバンクの調査部門に入ったのは「前年の夏に良いインターンシップを経験したから」であり、債券部門に異動したのは「株式調査で成果が出ず、追い出されたから」だ。カリフォルニアに移った理由は「太陽とヤシの木」だった。彼は、これらの決断に意図(intention)が欠けていたと認める。しかし、50歳近くになってオークツリーを創業した頃から、ようやく意図を持って生きるようになったという。
若者へのアドバイスとして、マークスは作家クリストファー・モーレイの言葉「成功はただ一つ、自分の人生を自分のやり方で生きることだ」を紹介する。彼は名門ビジネススクールの学生たちにこう語る。「あなたたちは知性と勤勉さを持っている。だから、自分の人生を自分のやり方で生きることはできるはずだ。しかし、肝心なのは『それが何か』を自分で見つけることだ。友達や社会や親に決めさせてはいけない。自分の強みを活かし、弱みを避け、幸せになれることを探しなさい」。
ウォーレン・バフェットとの交流とチャーリー・マンガーの貢献
マークスは、ウォーレン・バフェットとの個人的な交流について、これまで公にしたことのないエピソードを交えて語った。きっかけは、エンロン破綻後に組成されたオスプレイという特別目的会社の債務処理だった。オークツリーが最大の債権者となり、バフェットが2番目の債権者だった。ブルース・カーションの見事なリストラクチャリングにより大きな利益が上がり、バフェットから「オマハに来たらランチをご馳走する」という手紙が届いた。これが二人の関係の始まりだった。
さらに、2009年にマークスがバフェットに言及したメモを送ったところ、バフェットから「本を書くべきだ。書いたら推薦文を書こう」という返事が来た。マークスは「引退したら書こうと思っていたが、ウォーレン・バフェットからのそんな申し出を無視できるはずがない」と述べ、これが彼の初の著書『投資で最も大切なこと』執筆の直接の動機になったことを明かした。
マークスは、バフェットに関する一般的な認識で誤っている点はほとんどないとしつつも、人々が知らないこととして「チャーリー・マンガーへの深い愛情」を挙げる。昨年の感謝祭にバフェットが送った手紙には、マンガーとの関係が「兄と弟」のようであったことが綴られており、マークスは自身とカーションの関係もそれに似ていると語る。マンガーの最大の貢献は、バフェットを「葉巻の吸い殻投資(cigar butt investing)」から「素晴らしい会社を適正な価格で買う」戦略へと導いたことだとされる。葉巻の吸い殻投資とは、路上に捨てられた吸い殻を拾い、あと3回吸えるだけの価値を搾り取るような投資法で、バフェットはかつて、安いが質の低い企業を買うこの手法を好んでいた。マンガーはそれを「素晴らしい会社を良い価格で買う」という、今日のバークシャー・ハサウェイの哲学へと転換させた。マークスは、この二人のパートナーシップを「歴史上、最も高いIQの組み合わせ」と評し、その関係性に深い敬意を表した。
ハワード・マークス推薦の必読書
エピソードの締めくくりとして、マークスは自身の思考形成に影響を与えた2冊の本を紹介した。一冊目は、ジョン・ケネス・ガルブレイス著『バブルの物語(A Short History of Financial Euphoria)』である。この本は、好況と不況を引き起こす人間の精神的な弱さについて教えてくれるとマークスは言う。市場の循環を客観的に捉えることは彼の投資哲学の大きな部分を占めており、この本はその基盤となった。マークスは幸運にもガルブレイス本人に会う機会にも恵まれたと述べている。
二冊目は、ナシーム・ニコラス・タレブ著『まぐれ(Fooled by Randomness)』である。マークスは「人生の多くはランダムである」という信念の持ち主であり、この本はその考えを強固なものにした。タレブは、短期的にはランダム性によって何でも起こり得ると主張する。この視点は、リスクに対する態度、ポートフォリオの構築方法、そして公表された運用成績の解釈に決定的な影響を与える。ある年に素晴らしいリターンを上げた投資家がいたとしても、それは彼が優れた投資家だからなのか、単に運が良かっただけなのかを判断するのは難しい。マークスは、この本のエッセンスを凝縮した自身のメモも公開していると付け加えた。
結びに
本エピソードがリスナーに残すものは、単なる投資テクニックではない。それは、不確実性と恐怖に直面した時の人間の在り方そのものである。ハワード・マークスは、自身の成功を運と謙虚さに帰し、確信過多の危険性を繰り返し警告する。彼の語る「間違っているかもしれない」という姿勢は、弱さの表明ではなく、むしろ強さの源泉だ。このエピソードが重要なのは、伝説的投資家の生の声を通じて、投資とは結局のところ、数字を読む技術ではなく、自分自身と向き合い、恐怖を抱えながらも行動する勇気であり、他者との関係を築く知恵であることを教えてくれるからだ。AI時代においても、人間の「洞察力」や「直感」、そして「パートナーシップ」の価値は決して色あせないという確信を与えてくれる、深い示唆に富んだ対話だった。
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