motpod
My First Million · 2026年10月26日

アービトラージの見つけ方(3度成功した男)ft. Nick Kokonas

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • Nick Kokonas(ニック・ココナス)は、日本ではほぼ無名だが、アメリカの起業家として異例の経歴を持つ人物だ。シカゴの取引所で20代を過ごした後、レストラン未経...
  • 番組の通底するテーマは「あらゆるアービトラージは時間軸(タイムスケール)の問題である」という主張だ。市場の非効率、業界の常識のズレ、情報の非対称性——それらはすべて「...
  • [0:00] 恐怖をシグナルとして使う——「吐きそうで吐いていない」が正しい場所 Kokonas が繰り返し引用するのは「毎日気分よく目覚めているならリスクを取ってい...
こんな人向け

英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。

出典Podcast

My First Million / Hubspot Media

要点
  1. あらゆるアービトラージは時間軸の問題である。Kokonas は取引所の紙伝票30秒の遅延をニューヨーク〜シカゴ専用回線でハックし、6か月でアメリカン証券取引所の1日出来高の数%を占め、年間1億ドル超の裁定利益を上げた。
  2. 「毎日気分よく目覚めているならリスク不足、毎日吐きそうなら取りすぎ。吐きそうで吐いていない状態が正しい」——Keith Goggin の言葉を内面化し、家庭内では All Talk, No Action の略で「ATNA」と互いを戒める。
  3. 目標は「smallest highest hoops(小さく高いフープ)」。地面の大きなフープは誰でも飛べるが、30フィートの高所にある小さなフープなら競争が少なく賞が大きい。哲学専攻から履歴書を下方偽装して時給5.25ドルのランナーになり、1年以内にトレーダーになる目標をほぼ達成した。
  4. 成功の再現性は地味な反復にある。Jeff Tweedy は週2〜3曲書かないと年末に12曲の良い曲が残らないと言い、Chris Rock は「ネタは毎朝書く。金は昼に稼ぎ夜に回収する」。陶芸の寓話では量で評価された群が質でも勝つ。Kokonas は若い起業家に「ロゴではなく50個のソースを作れ」と言う。
  5. Alinea は開店前に eGullet でビジネスプランをオープンソース化し、数十万回閲覧されて主要メディアに取り上げられ、初日からニューヨーク・タイムズの評論家が来店。Tock は「火曜21時と土曜19時の価値を同じにする」予約システムへの怒りから生まれ、ジオフェンス型の動的価格設定は数千億ドル規模の機会だと主張する。
  6. 接客と演出はマジシャンから学ぶ。テーブルの正面ではなく横に立ち、客と同じ側の「チーム・ダイナー」になる。客の Louboutin や時計を読み、間違ったワインを売らずに同じ予算で2〜3本を提案した。Alinea の体験設計は『Stop Making Sense』の「空の舞台から組み上げる」構造とコールバックに基づく。
  7. Tock 売却では896項目のデューデリを3日で回答し、投資銀行を使わず手数料を2%に抑え、最終日正午まで粘る相手の「Spock」に「黙れ」と言い放った。Alinea の投資家は2005年の投資に対し出口で8倍、累計27〜28倍のリターンを得ている。
  8. 現在はマンハッタン地下9万平方フィートで、マジシャン Nate Staniforth と没入型体験施設 Strange House を構想中。AI 時代に人間的つながりの価値は高まると確信し、「政治的に対立する二人でも最後には互いを愛せるようにする」ことを目的に掲げる。実現の可否は「やるかやらないか」の選択に帰着する。
アプリで聴く・質問する

音声を聴く・要約に質問・好きな言語や深さで生成

他のエピソード

Nick Kokonas(ニック・ココナス)は、日本ではほぼ無名だが、アメリカの起業家として異例の経歴を持つ人物だ。シカゴの取引所で20代を過ごした後、レストラン未経験から世界最高峰と評されるレストラン「Alinea」を創業し、予約・決済ソフトウェア企業「Tock」を数億ドル規模で売却した。本エピソードは、そんな彼が「アービトラージ(裁定取引)」という概念を軸に、金融、飲食、ソフトウェア、そして現在進行中の巨大プロジェクトまでを語る、My First Million らしい軽快かつ濃密な対話である。ホストを務めるのは Shaan Puri(シャーン・プリ)で、両者は長年の友人関係にある。

番組の通底するテーマは「あらゆるアービトラージは時間軸(タイムスケール)の問題である」という主張だ。市場の非効率、業界の常識のズレ、情報の非対称性——それらはすべて「誰もが気づく前に、あるいは誰もが動く前に、どれだけ早く動けるか」に還元される。Kokonas はこれを取引所の物理的な紙の伝票が行き交う30秒の遅延から説き起こし、レストランの予約という「遅すぎる価格決定」の仕組みへと接続し、最後はマンハッタン地下9万平方フィートの没入型マジック体験施設「Strange House」構想にまで至る。単なる成功談ではなく、恐怖をシグナルとして使う思考法、専門性の罠、そして「仕事こそが報酬」という哲学が随所に織り込まれている。

0:00恐怖をシグナルとして使う——「吐きそうで吐いていない」が正しい場所

Kokonas が繰り返し引用するのは「毎日気分よく目覚めているならリスクを取っていない。毎日吐きそうなら取りすぎている。不快感のチリチリした感覚が必要だ」という言葉だ。これは彼の友人で元ビジネスパートナーの Keith Goggin が、1990年代から2000年代初頭にかけて Plug Power の巨大な空売りポジションを抱えて毎朝吐きそうになっていた Kokonas にかけた言葉だという。Goggin は「まだ吐いてないだろ?なら大丈夫だ」と言った。Kokonas はこれを内面化し、逆に「居心地が良くなったら、もうリスクを取っていない、学んでいない」と感じるようになった。

家庭内ではこれを「ATNA」という略語で運用している。All Talk, No Action(口だけ、行動なし)の頭文字で、妻も彼も互いに対して、そして子供にさえ使うという。実際、現在所有するナパの不動産を買う決断を迫ったのも妻で、「引き金を引くのか、それともこの件で ATNA するのか」と言われたことが契機だった。彼は超低価格でオファーを出し、15分後にカウンターなしで承諾された——それ自体が「高すぎたかもしれない」という不安のシグナルになったと振り返る。

この「恐怖=正しい場所の指標」という発想は、単なる根性論ではない。恐怖が身体反応として現れるとき、それは未知の領域に踏み出している証拠であり、学習と成長が起きている場所の近傍にいるということだ。Kokonas はこれを「10年ごとにまったく新しいキャリアを始める」という自身の生き方の原動力として説明する。快適さは専門性と結びついて罠になり、専門家になった瞬間に、より若く飢えた、慣習を破る用意のある誰かに追い抜かれる。だから「蹴られる前に辞める」のだと。

9:4560,000ドルからのトレーダー修業——「小さく高いフープ」を探す

Kokonas は哲学専攻で、卒業後に何をしたいかは分からず、ただ「したくないこと」だけは分かっていた。給与という「予測可能性の監獄」を拒み、シカゴの取引所フロアという世界を選ぶ。ニューヨークが投資銀行の街ならシカゴはトレーダーの街であり、彼はこれを「金融キャリア」ではなく「トレーディング・キャリア」と呼んで区別する。まずは学士歴をすべて消して履歴書を「下方偽装」し、時給5.25ドルのランナー職を得る。目標は1年以内に自分でトレードすること。ランナーから電話係、ピット・クレークへと進みながら、閉場後のオープン・アウトクライの授業を受け、手信号を学んだ。

彼が求めていたのは「smallest highest hoops(最も小さく、最も高いフープ)」だった。地面にある大きなフープは誰でも飛び込めるが、30フィートの高さにある小さなフープなら、そこまで登れる人は少ない。つまり賞が大きく、競争が少なく、かつ理解が難しい領域だ。オプションの教科書を読み漁っても「なぜこれを買い、あれを売るのか」は分からなかったが、やがて定量金融を学び HP のプログラマブル電卓にマクロを仕込むような、超ギークなトレーダーに出会う。彼こそが自分を教えられる唯一の人物だと直感し、「給料を払うから雇ってくれ」と申し出た。週250ドルという(今の基準では違法すれすれの)条件で働き始め、6か月後にはオプションのマーケットメイクの初歩を理解し、自己資金2万ドル+相手の4万ドルでスイスフラン・オプションのトレードを始めた。目標の1年からは1週間遅れたが、ほぼ計画通りだった。

初日には必ず1回トレードさせるというルールを、彼は後に30〜40人に課している。物理的で騒がしく混沌としたゼロサムの敵対環境で、大口を開けて「馬鹿に見えるリスク」を取らなければならない。この「封を切る」経験の重要性を、ホストは Facebook の「新人エンジニアは初日に本番コードをデプロイする」慣行や、自身の寿司店修業の初日に酢飯を握らされた話と重ねる。Kokonas の元には3週間フリーズして取引できなかった男もいたといい、恐怖への反応は人によって大きく分かれることがうかがえる。

23:50アービトラージとは時間軸である——紙の伝票30秒をハックした話

Kokonas がこのポッドキャスト出演を3年間断り続けた末に応じた理由が、まさにこの「すべてのアービトラージは時間軸の問題だ」という確信だった。取引所では注文が紙の伝票として行き交い、片道30秒かかっていた。ニューヨークで ETF(QQQ など)を売買する側は、シカゴの先物でヘッジするために電話と伝票を介する必要があった。もしピットの中からニューヨークと直接通話できれば、ゴールドマン Sachs に対して20〜30秒の優位に立てる。彼はまず規則を読んだ。CFTC の分厚い規制を、理事会の誰も、弁護士さえも通読していないことに気づく。同一税務 ID の同一会社内でニューヨークとシカゴが通話することを禁じる明文は見つからなかった。

そこでニューヨーク〜シカゴ間に専用回線を引こうとしたが、取引所は許可しなかった。ピットの下の配線を握るのは組合であり、その背後にはブローカー・グループの利害があったからだ。彼は工事をする組合の作業員に Jameson のウイスキーをケースで渡して工事を通した——今だから話せると笑う。回線が開通した瞬間、彼らは「リンゴがこっちに3ドル、あっちで5ドル」という状況で、缶電話の糸を渡したように取引を成立させ、瞬時に数十万ドルを稼いだ。リスクはゼロ。だが彼は即座に「これは怖い」と感じた。あまりに完璧すぎて、既得権益に殺される(比喩ではなく)と直感したからだ。

だから彼は初日に相手を壊滅させるのではなく、いったん止めた。そして「シカゴ側が自然なヘッジである」という証拠を揃えてパイロット・プログラムを申請し、6〜8か月かかると見られた許認可を短期間で取得。以後は公然と複数のピットで執行できるようになった。大学時代の友人で表計算の達人だった Goggin と組んで拡大し、6か月でアメリカン証券取引所の1日出来高の数%を占めるまでになり、その年は1億ドル超のアービトラージ利益を上げた。ただし彼自身の取り分は少数株主として小さく、しかも全額がトレードの原資としてリスクにさらされていた。28歳頃に最初の100万ドルを手にしたが、それは「脆い」ものだったと振り返る。

32:00父の教えと「ショーアップすること」——成功の再現性は地味な反復にある

巨額の税金を払うことになった Kokonas は、その小切手を父の家に持って行って見せた。父の第一声は「お前のやっていることは合法なのか」、次が「長くは続かない。しまっておけ。船も女も薬もなしだ」だった。そして「祖父母がこの国に来たのはこのためだ。税金を払うのは愛国的義務だ」と言われ、同情を期待していた彼は面食らったという。父は14〜15歳で父(Kokonas の祖父)を亡くし、12歳から働いた食料品店を28〜29歳で買い取った「必要に迫られた起業家」だった。Kokonas が父から学んだのは、頭の良さよりも「毎日、早く、時間通りに現れる」こと。早ければ時間通り、時間通りは遅刻、遅刻は失格——この感覚を彼は文字通り体現している。

「ショーアップ」には二種類あると彼は言う。準備して現れること、そして準備できていなくてもそれを認めて現れること。どちらもカウントされるが、遅刻・欠席・キャンセルは違う。ホストが「メールやテキストへの返信はどれくらいか」と尋ねると「ほぼ即答」と答え、それを一貫してやるのは難しくないし、長期的に膨大な利益が複利で積み上がると説明する。3週間先の予定を立てる必要はなく、「今すぐ電話しよう」で物事を進められる。

この「反復の重視」は、Jeff Tweedy(Wilco)の逸話や Chris Rock の助言、そして陶芸クラスの寓話へと接続する。Tweedy がシカゴのロフトで毎日、正直あまり良くない曲を書いているのを見て、Kokonas は「なぜ毎日来るのか」と尋ねた。答えは「週に2〜3曲書かないと、年末に12曲の良い曲が残らない」。Chris Rock は若いコメディアンに「今夜の2ステージの前に、今日何をしているか」と問い、「ネタは毎朝書く。金は昼に稼ぎ、夜は回収するだけだ」と説いた。陶芸の寓話では、作品の出来で評価される群より量で評価される群の方が、最終的に良い作品を作る。Kokonas は「グレードが何かを知ること、それは99%の時間、たいていクソを作ることだ」と喝破する。若い起業家からアイデアの相談を受けたら「5週間後に戻ってこい。ロゴの話はするな。50個のソースを作れ」と言うのだという。

47:55Alinea と Tock——「毎日が土曜日」を設計し、マジシャンから接客を学ぶ

レストラン未経験の男が、なぜアメリカ最高のレストランを作れたのか。Kokonas はまず Grant Achatz という「アスキッカー(蹴り倒す者)」に出会ったことを挙げる。Charlie Trotter がシカゴを地図に載せてから15年、次に誰かが現れて前の世代を蹴り倒す番だという直感があった。Achatz は朝6時に来て朝4時まで残り、次の一手を考え、ハードワークをこなす——「ショーアップ」の体現者だった。Kokonas は Alinea を開く前に、インターネット掲示板 eGullet で「Alinea Project」としてビジネスプランをオープンソース化した。店名の候補と没案、メニュー開発、パンの役割について4,000語を書くなど、今読み返すと赤面する内容も多いが、数十万回閲覧され、Food & Wine、Gourmet、ニューヨーク・タイムズ、WSJ が取り上げ、開店初日にはニューヨーク・タイムズの料理評論家 Michael Ruhlman が来店し、著名シェフ Sean Brock が最初の客になった。「あの公開がなければ、同じレストランを開いても同じ成功はなかった」と断言する。

Tock は「レストランの予約」という、紙の伝票30秒に相当する非効率への怒りから生まれた。2005年当時の OpenTable は顧客と店の関係を中間化し、火曜21時と土曜19時の価値を同じにしていた。Kokonas は「KYC(顧客を知る)」と、時間帯による価値の違いを可視化する仕組みを作った。彼の主張は過激だ。「ダイナミックプライシングを禁じる法律を作るべき」という Elizabeth Warren のツイートに対し、すべてはすでにダイナミックに価格付けされている、ただ遅いだけだ、と反論する。Uber の「サージプライシング」は正しいアイデアに最悪の名前を付けた例であり、「ダイナミック」と呼べばよかったのに、と。そして「ジオフェンスされた、局所的・動的・変動的な時間枠ビジネスの価格設定は、誰かが数千億ドルを稼ぐ領域だ。私は説得に疲れただけだ」と語る。

接客と演出の設計では、マジシャンの技法を徹底的に研究した。かつて Kokonas が6人の客に「間違ったワイン」を売りそうになった場面を思い出す。客の妻は新品の Louboutin(赤いソールが完璧で約1,200ドル)、別の男は5万5,000ドルの時計、注文している男は背伸びをしている——だから「それは料理に合わない」と直接言わず、隣に立って「ピザには何を飲む?」と問いかけ、2〜3本を同じ予算で提案した。マジシャンは環境を読み、効果から逆算して立ち位置・視線・心理を設計する。Kokonas は Darren Brown の動画をスタッフに見せ、アンカリングや手の使い方を教えた。テーブルの正面ではなく横に立つこと、客と同じ側のチームになること——「チーム・レストラン」ではなく「チーム・ダイナー」でなければならない。

1:03:40逆算とコールバック——Stop Making Sense と「50個のソース」

Alinea の体験設計は演劇、とりわけ David Byrne の映画『Stop Making Sense』から着想を得ている。何もない舞台に Byrne がラジカセとギターだけで現れ、曲ごとにステージが組み上がり、最後には巨大スーツで相対的に小さく見える——この「空の舞台から始める」構造をレストランに移植した。着席時にテーブルへ何かが置かれ、それが2時間後にコールバックとして回収される。蜂の巣のような飾りに見えたものに食用の要素が隠れていたり、デザートの風船が登場したり。テーブルクロスを敷かないのは、下のテーブルが粗悪だから隠すのではなく、良いテーブルを客に感じてほしいから。フォークやナイフを18本並べるような威圧も排除した。

Achatz が「1906年パリ」のメニューでソースを修正するため、朝6時に25個の小さなソースパンを並べ、青テープでAからPまでラベルを貼って、甘い側から酸っぱい側までのスペクトルを作っていた場面は象徴的だ。誰も正解を知らない、レシピもグラム単位でしか残っていない。だから「グレードが何か」を、99%の失敗作を作りながら身体で覚えるしかない。Kokonas はこれを料理学校の卒業式スピーチで語った。「偉大なシェフになりたければ、朝6時に来て25個のソースを作れ」。ホストはこれを「アート・アンド・フィア」の陶芸の寓話と重ね、Kokonas 自身も「俺も毎朝、偉大な壺を作ろうとして起きる」と自嘲する。

「逆算」の思考法は迷路の比喩で説明される。子供の頃、教室では禁じられていたが、チーズから出口へと逆に辿る。Strange House の構想も、Nate Staniforth のロト当選番号マジックの「効果」から逆算して仕組みを設計したことから始まった。Kokonas はこのマジックの欠陥——当選番号が昇順でなく観客が叫んだ順に読まれる——に気づき、長文のコールドメールを送った。5分後に電話が鳴り、Nate は「これを指摘したのは他に一人だけだ」と驚いた。後に Nate は「観客は2人しか気づかない。君には重要でも、効果としては最善ではなかった」と説明し、Kokonas は「その通りだ」と納得する。この出会いが、のちの Strange House の種になる。

1:19:10注意を制御する——M&A 交渉と「毎日が土曜日」のインセンティブ設計

Tock の売却交渉では、Kokonas は「乗客」ではなく「運転手」であろうとした。デューデリジェンスの質問リスト896項目を、投資銀行や弁護士は4〜6週間かかると言ったが、彼らは社内ダッシュボードがあったため3日で回答した。弁護士は時間課金で、4人いれば時給3,200ドル、投資銀行は3〜4%の手数料——だから彼は投資銀行を使わず、取締役会の反対を押し切って「2%でやる」と申し出た。相手側には「Spock」と渾名した人物がいて、戦略は「最終日の正午にクローズする」ことだけ。Kokonas は Zoom の30人の法務陣に向かって「Spock、黙れ」と言い放ち、スクリーンショットを撮り続けた。相手が公開企業で、S1情報を3月31日までに確定させる必要があったため、期限は動かせなかった。

インセンティブの非対称性は Alinea でも痛感した。マネージャーは水曜夜に満席になることを望まず、「毎日が土曜日なら疲れ果てる」と言った。Kokonas は「10人増やせば週4日勤務で給料も上がる」と説明したが通じず、その男は長く持たなかった。彼はこれを自分の失敗だったと認める。なぜその数字が重要かを説明せず、インセンティブを揃えなかったからだ。ホストの「強度が戦略である(intensity is the strategy)」という言葉に、Kokonas は「成功するトレーダーは成功するトレーダーになる方法を自分で見つける」という Market Wizards の一節を重ねる。毎日終わりにポストモーテムを行い、愚かな行動を少しずつ削っていく——それが成功の正体だ、と。失敗したトレーダーはパンチを避ける練習をせず、パンチした相手やレフェリーを責める。

マジック研究の延長で、Kokonas は「効果から逆算する」手法をソフトウェアにも応用する。UX デザイナーが嫌う「行き止まり(dead end)」をあえて作り、ユーザーを意図した旅路に導く。すべてのボタンをすべてのページに置く Microsoft 的な設計ではなく、おまかせ(omakase)のように「選択肢を与えず連れて行く」体験を重視する。ホストの「最も記憶に残る食事」の話——22歳の頃、ラスベガスの Nobu で「omakase」と言うだけで次々と料理が出てきた体験——を引き合いに、Kokonas は「では毎晩それをどう作るか」をスタッフに問い続けたと語る。

1:46:18Strange House——マンハッタン地下9万平方フィートの「驚きの家」

現在進行中の最大のプロジェクトが Strange House だ。発端は Kokonas が水曜夜10時にワインを開けて YouTube で見た Nate Staniforth のロト・マジック。観客が叫んだ6つの数字が、舞台のスツールに置かれた財布の中のロト券と一致する——本物の観客で、仕込みは見えない。Kokonas はこの「効果」に感嘆しつつ、番号の順序の欠陥を指摘するメールを送り、Nate と意気投合。Nate はデビッド・ブレインの Vegas ショーのコンサルタントをしており、Kokonas は観た感想を「正直に」伝えたところ、Nate は「ブレインが君を仕向けたのか」と驚き、実は自分も制作チームにほぼ同じメールを1週間前に書いていたと明かす。そこから「マジックのビジネス」の話になり、Nate は「次のデビッド・ブレインは生まれない。あの種のテレビはもう作られない。YouTube の再生数は金にならない」と嘆いた。

Kokonas はかねて「レストランに物語の弧を持たせ、Disney のホーンテッドマンションのように客が部屋を移動する」構想を持っていたが、コスト構造が合わず断念していた。しかしマジックなら劇場のスケールを変えられる——大きな舞台でライオンを出せば驚きは薄いが、小さな部屋でライオンが出れば衝撃だ。彼が最も愛するのはクローズアップ・マジックで、優れたマジシャンは偉大な音楽家やバレリーナのような芸術だと語る。Nate は8か月かけて、部屋のスケールモデルを使った QR コード付きの動画、保険、スプレッドシートを含む提案書を FedEx で送りつけた。Kokonas は「人生で今一番要らないものだが、やらないわけにはいかない」と応じた。

構想は「驚きと畏敬の瞬間で、5歳の頃の感覚を取り戻し、政治的に対立する二人でも最後には互いを愛せるようにする」こと。AI がすべてを代替していく時代に、人間同士の身体的・感情的なつながりの価値はむしろ高まるという確信がある。マンハッタンのウォール街の地下9万平方フィートの物件を見つけ、REIT との LOI 交渉に6か月を費やしたが、「マジシャンに9万平方フィートを貸したくない」と言われる。そこで Exploding Kittens の Elan Lee のような「ビルダー」を巻き込み、ドリームチームを組もうとしている。Taylor Swift のステージを作った人々が「部屋3」を実際に建設する予定だという。課題は「小規模なプレイテストができない」こと。数百万ドルをかけて部屋3を建てるまで、部屋3は存在しない。それでも Kokonas は「これは存在するに値する」と信じ、毎日 Nate と電話で次の一歩を詰めている。

結びに

このエピソードが残すのは、成功を「魔法の公式」ではなく「時間軸への洞察と反復の強度」として捉え直す視点だ。Kokonas は取引所の30秒の遅延を専用回線でハックし、レストランの予約という何十年も固定された価格構造を Tock で解体し、今はマンハッタン地下の巨大空間で「驚き」という体験を設計しようとしている。一見バラバラなキャリアだが、根底にあるのは「小さく高いフープ」を探し、「効果から逆算」し、「毎日ショーアップする」という一貫した方法論である。そして最も印象的なのは、彼が「専門性の罠」を明確に言語化している点だ。専門家になった瞬間に追い抜かれるからこそ、蹴られる前に辞め、新しい囚人服を自分で仕立てる。恐怖と吐き気をシグナルとして使い、居心地の良さを危険信号として扱う姿勢は、安定を求める読者にとっては挑発的だが、同時に「仕事こそが報酬(the work is the win)」という Sisyphus 的な肯定でもある。Alinea の投資家が8倍で出口を迎えたという事実は、芸術性と事業性の対立という思い込みを崩す。そして Strange House が実現するかどうかは、結局のところ「やるかやらないか」の選択に帰着する——成功するトレーダーは成功するトレーダーになる方法を自分で見つける、というあの言葉の通りに。

あわせて読む

同じ番組の別エピソードや、近いテーマの記事から続けて読めます。