
X-Pyr with Johannes Helleland
- X-Pyr 2024:パラグライダー Hike & Fly の過酷な旅路 本エピソードでは、ホストのMikael UlstrupとArne Kristian Boiese...
- [0:00] ゲスト紹介:Johannes Hellelandの背景 Johannes Hellelandは41歳、2児の父であり、18歳からパラグライダーを始めて23年...
- パラグライダーの経歴は、当初アクロバティックな飛行から始まり、その後フリーフライトやクロスカントリー(XC)へと移行。近年はHike & Fly、特に長距離競技への関心が...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Flybart / Team Streamer
X-Pyr 2024:パラグライダー Hike & Fly の過酷な旅路
本エピソードでは、ホストのMikael UlstrupとArne Kristian Boiesenが、41歳のパラグライダーパイロットでありヘリコプターパイロットでもあるJohannes Hellelandを迎え、2024年6月23日開幕の「X-Pyr」への準備と意気込みを語り合う。大西洋岸から地中海までピレネー山脈を縦断する約600kmの「Hike & Fly(徒歩と飛行)」競技は、パラグライダー界で最も過酷な挑戦の一つとされる。Johannesは2022年の初出場で得た教訓を基に、身体のケア、チーム編成、メンタルマネジメントを全面的に見直し、完走という明確な目標を掲げる。会話は終始リラックスした雰囲気でありながら、競技の本質的な厳しさと、それを乗り越えるための実践的知恵に満ちている。
ゲスト紹介:Johannes Hellelandの背景
Johannes Hellelandは41歳、2児の父であり、18歳からパラグライダーを始めて23年のキャリアを持つ。普段は北海でヘリコプターパイロットとして働き、捜索救難任務にも従事している。幼少期から飛行への関心を持ち、ノルウェーのVossやHardanger地域で育った経験が、彼のアウトドア志向と飛行技術の基盤を形成している。現在はBergen在住だが、レクリエーションとしては故郷Hardangerに戻り、その慣れ親しんだ景観と壮大な自然を楽しんでいるという。
パラグライダーの経歴は、当初アクロバティックな飛行から始まり、その後フリーフライトやクロスカントリー(XC)へと移行。近年はHike & Fly、特に長距離競技への関心が高まっている。その理由についてJohannesは「競技が長ければ長いほど、自分自身でコントロールできる要素が増える」と説明する。通常のXC競技では、集合時間、スタート時刻、課題、ゴール時間がすべて主催者側で決められるが、Hike & Flyではスタートとゴール以外のすべてを自分で判断し、天候や地形に応じて自由にルートを選択できる。この「自由」と「戦術的要素」こそが彼を魅了してやまないのだ。
Hike & Fly への目覚め:インスピレーションの源
Johannesが本格的にHike & Flyに興味を持ったきっかけは、2020年にフランス人パイロット、Antoine GirardとJulien Dussertがノルウェーを訪れたことに遡る。彼らは本来パキスタン遠征を計画していたが、COVID-19の制限により行き先をノルウェーに変更。Antoine Girardは世界的に有名な冒険家であり、Julien Dussertは経験豊富な山岳ガイドで、Himalayaでの多くの遠征を共にしてきた。Johannesは彼らと数日間一緒に飛行する機会を得て、その経験から多くを学んだ。
「彼らは非常にプロフェッショナルでありながら、とても親しみやすい人々だった」とJohannesは振り返る。この出会いが、後に彼自身がX-Pyrに参加するための重要なインスピレーションとなった。さらに、同じくノルウェーのパイロットであるDagfinn GranengがX-Pyr 2020に選抜されたことを受け、Johannesは彼のサポーターとして参加する機会を得る。この時点ではまだ自分が選手として出場するとは考えていなかったが、サポーターとしての準備を通じて、競技に必要な装備、体力、精神力のレベルの一端を垣間見ることになる。
Antoine GirardとJulien Dussertと共にノルウェーを縦断する旅では、16日間の自給自足を想定し、30kgもの荷物を背負って歩いた。この経験はJohannesにとって「非常に重かった」が、同時に「飛行技術の面では、自分もそれほど遅れを取っていない」という自信にもつながった。この気づきが、後に選手としてX-Pyrに挑戦する原動力となった。
身体と精神の限界:トレーニングと年齢の効用
X-Pyrのような過酷な競技では、身体的な準備はもちろん、精神的なタフネスが極めて重要になる。Johannesは「年齢を重ねるごとに粘り強くなる」と語り、その例として過去に参加した自転車レース「Jotunheimen rundt」のエピソードを紹介する。このレースは夜6時にスタートし、一晩中走り続けて翌日の昼過ぎにゴールするというもの。途中、多くのセミエリートサイクリストが力尽きて道端に座り込む中、Johannesと義兄は幼い子どもの親として「睡眠不足に慣れている」というアドバンテージを活かし、走り続けることができたという。
「身体のベーストレーニングができていれば、あとは頭の問題だ」とJohannesは強調する。重要なのは、苦しい局面でも「ポジティブで前向きな姿勢を保ち続けること」と、「一度落ち込んでも、また体が動き出すことを理解していること」だという。この精神的な粘り強さは、X-Pyrのような長期間にわたる競技では、純粋な体力以上に重要な要素となる。
一方で、前回の出場時にはトレーニングのやり過ぎで「ランナーズニー(膝蓋大腿関節痛症候群)」を発症し、初日から痛みに悩まされたという教訓もある。この経験から、現在は「トレーニングを楽しむこと」を最優先にしている。「あまりに構造的にやりすぎると、日常生活や家族との時間を犠牲にしすぎてしまう。楽しさを失えば、競技そのものへのモチベーションも続かない」と彼は語る。具体的には、前回よりもトレーニング量は減らしたが、質を高め、身体のシグナルをより注意深く聞くようになったという。
X-Pyr の競技特性:X-Alps との比較
X-Pyrは、同じくHike & Flyの先駆け的存在である「X-Alps」とよく比較される。Johannesは両者の違いを明確に説明する。X-Alpsは商業的に非常に洗練されており、大規模なマーケティングとメディア露出が特徴だが、X-Pyrは「ボランティアによって運営される、より控えめな大会」だという。最も顕著な違いは賞金の有無で、X-Pyrには一切の賞金がない。「名誉と栄光だけが報酬」であり、Johannesはこの点を高く評価する。「賞金がないことで、不必要なリスクを取るインセンティブが生まれない。この競技にはもともと十分なリスクが存在するのだから」と彼は述べる。
ルートの設定方法も異なる。X-Pyrでは、スタートとゴールの位置は事前に公表されるが、中間のチェックポイント(ターンポイント)は大会直前に発表される。2022年大会では、ルート発表がイースター頃に行われた。参加者はそれから約2ヶ月かけて、Google Earthや現地での下見を通じてルートを研究する。Johannesは2022年の前に実際にピレネーを訪れて下見を行ったが、その経験について「自分のためというより、サポーターにとって非常に価値があった」と振り返る。ピレネーは多くの谷が行き止まりになっており、道路網も複雑で、サポーターが車で追跡するのが極めて困難だからだ。
ルートの全長は2022年大会で約610km(直線距離)。実際の移動距離はこれをはるかに上回り、7〜8日間の制限時間内に完走するのは至難の業である。2022年大会では、参加者のうち完走できたのはわずか4名だったという事実が、その困難さを物語っている。
チームの重要性:サポーターとロジスティクス
X-Pyrのような競技では、選手本人だけでなく、それを支えるチームの存在が極めて重要である。Johannesは2022年大会で、Niklas FarnettenとKnut Fostad Aarhusという2人の友人にサポートされた。Knutは「メインサポーター」として、選手と共に山を歩き、装備を運ぶ役割を担う。Niklasは「チームの結節点」として、選手とKnutの間の連絡役、ルート計画の立案、運転手、そして大会運営との窓口という多岐にわたる任務をこなした。
「参加者が脚光を浴びるのは当然だが、チームなしでは何もできない」とJohannesは強調する。彼は「40代の危機をピレネーで乗り越えるため」に時間を割いてくれる友人たちへの感謝の念を繰り返し述べた。2024年大会では、さらにチームを4名に拡大する計画だ。その理由は、2022年に「チームが分断される」場面が何度かあったからだ。ピレネーの複雑な道路網では、選手の飛行ルートを車で追跡するのが難しく、サポーターが山を下りて別の場所から車で回る必要が生じることがある。2台の車があれば、一方がサポーターをピックアップし、もう一方が物資の補給や長距離の移動を担当できる。この体制により、選手はより安心して飛行に集中できるという。
さらに、2024年は新たなサポーターとして、スイス人の同僚Jermolayを迎える。彼とは前年の「Bones to Fly」や「Fly Chablis」といった大会で既に連携を試しており、その相性は確認済みだ。Johannesは「これをチーム全体の旅であり冒険として捉えている」と語り、競技であると同時に共有体験であることの重要性を強調する。
リスク判断と「フロー」の維持:失敗から学んだ教訓
X-Pyrのような長距離競技では、一つの判断ミスが連鎖的に悪影響を及ぼす「スノーボール効果」がしばしば発生する。Johannesは2022年大会で、この現象を身をもって経験した。ある日、非常に良い飛行条件に恵まれ、積極的にルートを進んでいたところ、突然地形が一変。森林が密集し、着陸可能な場所がまったく見当たらなくなった。彼は緊急判断で細い林道に降下し、木に翼を引っ掛けてしまい、一人では回収できない状況に陥った。チームが夜中に駆けつけ、Niklasが深夜にラインを縫い直して修理する事態となった。
この経験からJohannesが学んだのは、「一つの悪い判断が次の悪い判断を生む」という連鎖を断ち切るためには、「リセット」が不可欠だということだ。「チーム全体で『ゼロリセット』することを徹底した。すべての選択が悪い方向に転がり始めたら、一度座って、リセットし、新しい計画を立て、楽観的に再出発する」と彼は説明する。
この「リセット」の重要性は、翌日の飛行にも影響を与えた。前日のトラウマから、彼は「常に着陸可能な場所を確保する」という防衛的な飛行スタイルに終始し、結果として早々に地面に降りてしまい、灼熱の中を再び歩いて登る羽目になった。その間、他の競技者が頭上を悠々と飛び越えていく光景は「非常に辛かった」という。しかし、この経験もまた、次回への貴重な教訓となった。
一方で、この競技の魅力は、予期せぬ場所での素晴らしい出会いにもある。Johannesはアルゼンチン人の参加者と最終日を共に飛行し、ピレネー最高峰の美しい景色を楽しんだエピソードを語る。「競技が進むにつれて、同じ人と何度も出会い、親しくなる。そんな時、競争心は消え去り、同じ情熱を共有する仲間としての一体感が生まれる」と彼は微笑む。
身体への負荷と回復:2022年の教訓を2024年に活かす
2022年大会の最大の教訓の一つは、身体のケアの重要性だった。Johannesは準備段階で過剰なトレーニング量をこなし、ランナーズニーを発症。さらにCOVID-19にも罹患し、万全ではない状態でスタートラインに立つことになった。その結果、初日から膝に痛みが生じ、特に下りの起伏のある地形で激しい痛みに襲われた。また、足首にも負担がかかり、全参加者の足が腫れ上がり、最終的には全員が靴下を切らなければならないほどだったという。
「同じ過ちを繰り返してはいけない」とJohannesは言う。2022年以降、彼はトレーニング量を大幅に減らし、身体の回復を優先してきた。現在は「身体の声を聞く」ことを徹底し、無理のない範囲で徐々に負荷を上げている。その結果、前回大会時よりも基礎体力は格段に向上し、膝や足首への違和感もなくなったという。
トレーニングの計画は、1年前からではなく、大会の出場が確定した1月頃から本格化する。しかし、彼は「あまりに構造的になりすぎない」ことを心がけている。「トレーニングが生活のエネルギーを奪いすぎてはいけない。家族との時間を犠牲にしないバランスが重要だ」と強調する。具体的には、トレーニングを「楽しむこと」を最優先にし、短くても質の高いセッションを積み重ねている。
2024年の目標と展望:完走への決意
2024年大会への意気込みについて、Johannesは「楽しむこと」を最優先に掲げる。「常に楽しいわけではないが、トータルで良い経験にしたい。そして、自分ができる最大限の力を出し切ったと言えるようにしたい」と語る。具体的な目標は「完走」である。2022年大会では、参加者のうち完走者はわずか4名だった。この事実を踏まえ、彼は「トップ4に入る」という目標は控えめにしつつも、「完走を目指す」という明確な目標を設定している。
競技の難しさは、天候や風の条件に大きく左右される点にある。しかし、Johannesは「数字だけ見れば、600kmを7日間で移動するのは不可能ではない」と冷静に分析する。重要なのは、良い飛行条件に恵まれた時に最大限に活用し、悪条件の時には無理をせず、徒歩で確実に進むことだ。
競技のライバルについて、彼は「前回優勝者のMaurerは今回は不参加なので、その分順位が上がる可能性はある」と冗談めかして語る。その他にも、スイスの若手有望株であるSimon Oberauer、Pinot、Noe Kort、Lars Merstedterなど、非常にレベルの高い参加者が名を連ねている。特に近年の若いパイロットたちは、アルプス地域で年間500〜1000時間もの飛行時間を積んでおり、その技術レベルは非常に高い。Johannesは「彼らと競えること自体が刺激的だ」と語る。
発信とコミュニケーション:ソーシャルメディアの課題
X-PyrはX-Alpsと比較して、メディア露出やライブトラッキングの面で劣る。これは運営がボランティアベースであるためで、Johannes自身も「製品としての見せ方がもっと上手くできるはず」と認める。しかし、彼とチームは2024年大会では、InstagramとFacebookを通じて積極的に情報発信を行う計画だ。アカウント名は「Team Helleland」(Instagramでは「Jodd Helleland」)で、大会期間中は定期的にアップデートが行われる。
Johannesは「40代の人間にとって、ソーシャルメディアでの露出は最大の課題の一つだ」と苦笑いする。しかし、2022年大会でブログや動画を発信した経験から、その重要性を痛感している。特に、彼の翼が木に引っ掛かったエピソードを写真付きで公開したX-Pyr公式ブログは、多くの反響を呼んだ。このようなリアルタイムの発信が、競技の魅力を伝え、次世代の参加者を増やすことにつながると彼は期待している。
まとめ
このエピソードは、単なる競技の準備報告ではなく、人間の限界に挑むための総合的なアプローチを描き出している。Johannes Hellelandの語り口は、プロフェッショナルでありながらも謙虚で、自身の失敗から学び、それを次に活かす姿勢が印象的だ。特に印象的なのは、「競技は自分自身との戦いであり、チームとの共有体験である」という彼の哲学である。賞金もなく、メディアの注目も限定的なX-Pyrだからこそ、参加者は純粋な冒険心と自己研鑽の精神で挑むことができる。このエピソードは、パラグライダー愛好家だけでなく、目標に向かって努力するすべての人にとって、実践的な知恵と深いインスピレーションを与える内容となっている。
要点
- Johannes Hellelandは41歳、ヘリコプターパイロットであり、23年のパラグライダー経験を持つ。2024年6月23日開幕のX-Pyrに2度目の挑戦をする。
- X-Pyrは大西洋岸から地中海までピレネー山脈を縦断する約600kmのHike & Fly競技で、賞金はなく、名誉のみが報酬。2022年大会の完走者はわずか4名。
- 2022年の初出場では、過剰なトレーニングによるランナーズニーとCOVID-19の影響で万全な状態で臨めず、初日から膝の痛みに苦しんだ。この教訓から、現在はトレーニングの質と楽しさを重視している。
- チーム編成を2022年の3人体制から4人体制(2台の車)に拡大。ピレネーの複雑な道路網とサポーターの分断リスクに対応するため。
- 競技中の「スノーボール効果」(悪い判断の連鎖)を断ち切るため、チーム全体で「ゼロリセット」の習慣を徹底。一度状況をリセットし、新たな計画で楽観的に再出発する。
- 2024年の目標は「完走」。自身の限界を最大限に引き出し、楽しむことを最優先とする。
- ソーシャルメディア(Instagram: Jodd Helleland、Facebook: Team Helleland)を通じて、大会期間中にリアルタイムの情報発信を行う計画。