
The Thermal - Episode #66
- オーストラリアの若きグライダーパイロットたちが集う「Joey Glide」——その成功の秘密に迫る エピソード66の「The Thermal」は、オーストラリアのジュニア...
- [0:06] 「Joey Glide」って何?——カンガルーの赤ちゃんが名付け親 番組冒頭、ハリーはまずこのユニークな名称の由来を尋ねる。答えるのは、オーストラリア・ジュ...
- 今年はJoey Glideの20周年記念の年であり、参加者数は37名と、過去14年で最大の規模を記録した。その内訳は、競技部門に15〜16名、コーチングプログラムに約20...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
The Thermal Podcast / Herrie ten Cate
オーストラリアの若きグライダーパイロットたちが集う「Joey Glide」——その成功の秘密に迫る
エピソード66の「The Thermal」は、オーストラリアのジュニアグライダー競技会兼トレーニングプログラム「Joey Glide」に焦点を当てた特別編だ。ホストのハリー・テンゲイトが、大会運営者、カナダから参加した若き競技パイロット、そして地元のコーチー(訓練生)という3人の若者にインタビュー。彼らの語る言葉から浮かび上がるのは、単なる競技会を超えた、次世代のクロスカントリーパイロットを育成するための緻密なプログラム設計と、何より「仲間との絆」というかけがえのない価値だ。参加者の平均年齢が20歳にも満たないこのイベントが、なぜ世界クラスのパイロットを輩出し続けているのか。その理由が、熱気とユーモアに満ちた会話のなかで明らかになる。
「Joey Glide」って何?——カンガルーの赤ちゃんが名付け親
番組冒頭、ハリーはまずこのユニークな名称の由来を尋ねる。答えるのは、オーストラリア・ジュニア・グライディング・クラブの会長であり、Joey Glideの主催者の一人であるアヌーシュカ・ドゥ・ラ・シェラールだ。彼女は笑いを交えながら説明する。「オーストラリアにはカンガルーという象徴的な動物がいますよね。その赤ちゃんを『Joey』と呼ぶんです。ジュニア・グライディングのムーブメントであり全国選手権でもあるこのイベントに、ぴったりの名前だと思いました」。この命名には、若者たちの成長と可能性への愛情が込められている。ハリーも「完璧な答えだ」と感心する。
今年はJoey Glideの20周年記念の年であり、参加者数は37名と、過去14年で最大の規模を記録した。その内訳は、競技部門に15〜16名、コーチングプログラムに約20〜23名。アヌーシュカはこの数字を「とても素晴らしい広がり」と評価する。競技パイロットはAAT(Assigned Area Task)と呼ばれる課題を250〜330kmの距離で飛行するが、コーチングプログラムの参加者はそれより短い距離を飛ぶ。理由は明確だ。「彼らの多くは、初めての競技であり、クロスカントリー飛行の初期体験でもあります。持久力の面でも負荷をかけすぎないようにしているんです」。この配慮が、プログラムの成功の一端を担っている。
19歳の会長が語る「二つの帽子」——競技者と運営者の狭間で
アヌーシュカ自身もかつてはコーチー(訓練生)だった。最初のJoey Glideで飛んだ初飛行の1時間で「恋に落ちた」という彼女は、2年目もコーチングプログラムに参加したが、「もっとやりたい」という itch(かゆみ)が募った。3年目に競技者としてデビューし、以来毎年参加している。彼女が現在操縦するのは、クラブのメンバーから貸与されたASW20C。以前飛んでいた40年物のスタンダード・シーラスよりはるかに競争力が高いが、その機体を「本当に美しい。こんな機会を与えられて光栄です」と語る口調には、謙虚さと情熱が同居している。
しかし、彼女は競技者であると同時に、Joey Glideの運営責任者でもある。この「二つの帽子」を被ることの難しさを、彼女は正直に認める。「競技には多くの準備と計画が必要です。機体だけでなく、自分自身も肉体的にも精神的にも準備しなければならない。人々は競技がどれほど消耗するものかを理解していないことが多いんです」。さらに彼女は、シニア全国選手権(マルチクラス Nationals)を終えた直後で「少し疲れている」とも打ち明ける。「でも、あと数時間睡眠を取って、ジュニアパイロットたちの登録書類を追いかけ回すのを減らせば、なんとかなるでしょう」。このユーモア混じりの言葉には、若さゆえのエネルギーと、責任を引き受ける覚悟がにじんでいる。
カナダから来た20歳——異国の地で夢を追う若者
次に登場するのは、カナダ・アルバータ州のクラブ「Q Nim」から参加したジョシュ・ピース。彼は故郷から文字通り地球の反対側にいる。ハリーが「ここは寒いけど、そっちの天気は?」と尋ねると、ジョシュは「今は19〜20度。快晴です」と答える。彼が操縦するのはスタンダード・リベット——「素晴らしい飛行機です。登りもいいし、クルーズはあまり良くないけど、大事なのは登りですからね」と、年季の入った機体への愛情を語る。ハリーが「そのグライダーは君の父親より年上かもしれないな」と冗談を言うと、ジョシュも「そう思います」と笑う。
ジョシュがオーストラリアに来たのは、この競技会のためだけではない。彼は Narromine グライディングクラブでシーズン限定のインストラクターとして働いている。カナダのインストラクター資格を取得したのは昨年7月。「インストラクターとしてのスキルを広げる絶好の機会です」と語る。彼の目はすでに2029年のレイクキープイット世界選手権(オーストラリア開催)に向いている。「その時はまだジュニアの年齢ですからね」。この先を見据えた姿勢に、ハリーも「10年後に世界選手権で再会するかもしれないな」と期待を寄せる。
会話のなかで印象的なのは、オーストラリア特有の危険についてのやりとりだ。ハリーが「蛇に注意して、ブーツを履けと言われなかったか?」と尋ねると、ジョシュは「それもありますが、それ以上に『SWER line』(単線地絡帰線方式の電線)が危険だと警告されました」と答える。これは、畑の真ん中に低く張られた一本の電線で、視認が極めて難しい。「アルバータではこんなものは見たことがない。現地の知識が重要だと痛感しました」。このエピソードは、異国の地で飛ぶことのリアルな課題を浮き彫りにしている。
19歳のコーチーが語る「記録的な年」——友情と献身の現場
3人目のゲストは、キーラ・マック。彼女はJoey Glideのコーチングプログラムに参加する19歳のコーチーだ。今年のコーチーは21名で、これは記録的な数字だと彼女は誇らしげに語る。コーチ陣は10名で、毎日ローテーションしながら指導にあたる。使用する機材は、Duo Discus、K21、DJ-1000、Janusなど、フラップ付きと無しのバランスの取れた fleet だ。
彼女の日常は、グライダーだけではない。スキーシーズンにはビクトリア州のマウント・ホーサムでスキーパトロールとして働き、観光地でバーテンダーもこなす。「今月はJoey Glideの前までに、たぶん合計7日しか休みがなかったんです」。その言葉には、若者特有のタフさと、好きなことに資金を注ぐための努力がにじむ。彼女は今年中にライセンスを取得し、来年は競技者としてJoey Glideに参加することを目標にしている。すでにクラブから奨学金も得ているという。
キーラがグライダーを始めたきっかけは、父親の影響だ。父親はかつてハンググライダーとセイルプレーンを飛ばしていたが、彼女が3歳になる年にやめてしまった。その後、友人の誘いで無料の体験飛行イベントに参加し、「一目惚れした」という。「父と私は『よし、やろう』って即決しました」。彼女にとってJoey Glideの最大の魅力は「 camaraderie(仲間意識)」だ。「今年は記録的な参加者数ですが、出身地や所属クラブに関係なく、誰とでもすぐに打ち解けられる。冗談を言い合って、ただただ楽しいんです」。この言葉は、番組全体を通じて繰り返されるテーマを象徴している。
エピローグ——58歳の若者たちと62歳のホスト
インタビューを終えたハリーは、3人のゲストの年齢を合計すると58歳になることに気づく。「私は62歳です。でも、それで年を取った気にはなりませんね。実際、私の靴のほうが彼らより年上ですから」。この軽妙なジョークには、若者たちへの愛情と、世代を超えたグライダーコミュニティの温かさが表れている。「彼らの前にはたくさんのサーマル(上昇気流)が待っている。私の後ろにはもっと多くのサーマルがあるけれど、それでいい。彼らの熱意が素晴らしいんです」。ハリーは来月、南アフリカのグライダーサファリのエピソードを予告し、番組を締めくくる。
まとめ
このエピソードが特別なのは、単なる競技会の報告ではなく、次世代を育てるための「場」の力を描き出した点にある。Joey Glideは、競技と訓練を巧みに融合させ、若者たちが互いに刺激し合い、成長する環境を提供している。アヌーシュカの運営者としての視点、ジョシュの国際的な挑戦、キーラの地元に根ざした情熱——3人の異なる立場の声が、一つのテーマに収束する。それは「仲間と共に飛ぶことの喜び」だ。ハリーが最後に語った「彼らの熱意が素晴らしい」という言葉は、この番組を聴いた誰もが共有する感覚だろう。若者たちの未来に、そしてグライダーというスポーツの未来に、確かな手応えを感じさせる一編だった。