
カバックはいかにしてAIエージェントを中心に再構築したか | アレハンドロ・マサ・アヤラ
- メキシコ発の巨大中古車マーケットプレイスKavak(カバック)は、単にAIツールを導入するのではなく、会社そのものをAIエージェント中心に再設計するという大胆な賭けに...
- Kavakのアプローチは、既存の業務にAIを「追加」するのではなく、「もしAIを前提に会社をゼロから作るなら、どう設計するか」という根本的な問いから始まる。この思考法...
- [0:00] エージェント中心の企業への全面的な再設計 Kavakの変革は、2013年に機械学習企業Oppie Analyticsを創業したMaza Ayalaの経験...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
The a16z Show / Andreessen Horowitz
- Kavakは顧客インタラクションの96%、取引の95%をAIエージェントが処理し、販売コンバージョン率は人間チームの2.1倍に達する。
- 同社は「タスクごと」ではなく「顧客ごと」にエージェントを生成し、毎日10万〜20万のエージェントが専用の仮想マシン上で顧客の生涯価値最大化を目指す。
- エージェントの構築と評価システムの構築に同程度のエンジニアリングリソースを投資することが、高速で安全な開発を可能にする鍵である。
- メキシコのクエルナバカ市で実施したAI「CEO」実験では、6週間で利益が50%増加し、AIが経営判断にも適用可能であることを実証した。
- 物理的な作業を伴うメカニックには「El Mic」というAIアシスタントを提供し、点検品質の向上と保証請求の20〜26%削減を達成した。
- 全従業員を対象とした社内トレーニング「ジェダイ・アカデミー」により、CEOからメカニックまでが6週間でAIエージェントを本番リリースできるスキルを習得した。
- AI変革はトップダウンで進めるべきであり、ハッカソンなどのボトムアップアプローチは機能しない。明確なビジョンと戦略が不可欠である。
- 表面的なAI導入は6%程度の改善しかもたらさないが、組織全体をAI前提に再設計すれば10倍の改善が可能であり、これが新興企業にとっての大きな機会となる。
メキシコ発の巨大中古車マーケットプレイスKavak(カバック)は、単にAIツールを導入するのではなく、会社そのものをAIエージェント中心に再設計するという大胆な賭けに出た。その結果、現在では顧客インタラクションの96%、取引の95%がエージェントによって処理され、販売コンバージョン率は人間のチームの2.1倍に達している。この変革を主導したのは、最高製品・AI責任者のAlejandro Maza Ayala(アレハンドロ・マサ・アヤラ)だ。彼はa16zのAngela Strange(アンジェラ・ストレンジ)とGabriel Vasquez(ガブリエル・バスケス)との対談で、単なる業務効率化を超えた「組織そのものの再設計」という哲学と、その実装における具体的な技術的・組織的挑戦を詳細に語った。
Kavakのアプローチは、既存の業務にAIを「追加」するのではなく、「もしAIを前提に会社をゼロから作るなら、どう設計するか」という根本的な問いから始まる。この思考法は、Fordの工場が電気を単に石炭エンジンの代替として使うのではなく、工場全体を平屋建てに再設計したことで生産性が3倍になったという歴史的な逸話に例えられている。表面的なAI導入がもたらすのは6%程度の改善に過ぎず、真の10倍の変革には組織の破壊的再構築が必要だというのが彼の主張だ。本稿では、この画期的な変革の全貌を、エージェントアーキテクチャの詳細から、評価(eval)の重要性、AIによる「CEO」実験、そして未来の組織論に至るまで、深く掘り下げていく。
エージェント中心の企業への全面的な再設計
Kavakの変革は、2013年に機械学習企業Oppie Analyticsを創業したMaza Ayalaの経験に根ざしている。当時はTransformerモデル以前の時代であり、彼は「機械学習モデルがあらゆる複雑な問題を解決できる」という野心的なビジョンを掲げてFortune 500企業向けにリスクアルゴリズムや物流、予測、マーケティングのソリューションを提供していた。しかし、ChatGPTの登場は状況を一変させた。「Transformerの力が、まったく新しい会社と企業の作り方を可能にすることを明確にした」と彼は振り返る。この気づきが、KavakにジョインしてAIネイティブ企業への変革を主導する決断につながった。
Kavakは中古車マーケットプレイスとしてスタートしたが、ラテンアメリカには必要なインフラが存在しなかったため、フィンテック、物流、車両履歴レポート(Carfax相当)まで垂直統合で構築する必要があった。Maza Ayalaは、この変革の核心を「2035年、あるいはGPT-10レベルの知能を持つエージェントを前提にKavakをどう作るか」という問いを自らに投げかけたことだと説明する。その答えは、既存の会社とは根本的に異なるものだった。
このビジョンを実現するために、同社は3つの主要な決断を下した。第一に、AIを導入する際の最も一般的な過ちである「既存構造を維持したままChatGPTやClaudeをチームに渡す」というアプローチを拒否し、エージェントが機能するようにAPIやシステム全体を再構築した。第二に、エージェントを顧客の前に直接出し、フィードバックループを通じてデータを生成し、継続的に学習させるという方法を採用した。第三に、会社の成功指標を「取引ベース」から「関係ベース」へと根本的に転換した。従来は購入・販売台数や部品調達数を測定していたが、現在ではデータベース内の1,000万人の顧客それぞれにエージェントを割り当て、その生涯価値(LTV)の最大化を目指している。
顧客ごとに特化したエージェントのアーキテクチャ
Kavakのエージェントアーキテクチャは、業界標準の「タスクごとのマルチエージェントシステム」とは一線を画す。同社は「顧客ごと」にエージェントを生成するという独自のアプローチを採用している。毎日10万から20万のエージェントが、それぞれ専用の仮想マシン上でインスタンス化され、顧客との過去数年間のインタラクション(ウェブサイトの閲覧履歴、2年前の電話対応など)をすべて記憶し、その顧客の生涯価値を最大化するための長期目標を設定する。エージェントは3分で仕事を終えることもあれば、8時間、あるいは3日間働き続け、次のタスクのためにアラームをセットして「眠りにつく」こともある。
このアーキテクチャへの移行は、順風満帆だったわけではない。2024年12月時点で、同社は複雑な目標を達成するためのマルチエージェントシステムを数万規模で稼働させ、収益性と成長を達成していた。しかし、AnthropicのOpus 4.5の登場により、Maza Ayalaは「このパラダイムはもう正しくない」と確信した。高度な知能を持つモデルにとって、従来のグラフ構造やマルチエージェントの連携はむしろ制約になると判断したのだ。彼は2年間かけて構築し、実際に機能していたシステムをすべて破棄し、ゼロから新しいハーネス(制御基盤)を設計することを決断した。
新しいアーキテクチャは、メモリ、評価機能、そしてCLI(コマンドラインインターフェース)を備えた仮想マシンにエージェントを配置し、会社のすべてのツールとAPIにアクセスできるようにするものだ。各エージェントには「生涯価値の最大化」という長期的な目標が与えられる。Maza Ayalaは、この設計を「自己改善する組織」と呼ぶ。彼は、人間の経済的価値は過去4,000年にわたり個人ではなく組織によって生み出されてきたと指摘し、真に自己改善のループに乗せるべきはモデルではなく組織そのものだと主張する。このループが機能すれば、毎月のように登場する新しいモデルを活用して、知能だけでなく企業が生み出す価値においても指数関数的な成長を達成できるというのが彼の信念だ。
評価(Evals)を基盤とした高速開発の実現
Kavakの成功を支える重要な要素が、エージェントの評価(evals)に対する徹底したこだわりだ。Maza Ayalaは「速く動くためには、ブレーキが必要だ」と比喩を用いて説明する。AIの能力が強力であればあるほど、適切な評価システムなしに高速で動かすことは危険であり、多くの企業がこの点を誤っていると彼は指摘する。Kavakでは、エージェントの構築に費やすエンジニアリング時間、トークン、資金とほぼ同額を、評価システムの構築に投資している。これは評価を「後付け」にしないための重要なルールだ。
評価の最優先事項は、ビジネス成果への直接的な貢献度だ。「顧客が満足すれば、車を購入し、ローンが承認され、車を売却してくれる」というシンプルな原則に基づき、まず「コンバージョンしたかどうか」を測定する。Maza Ayalaは、コール数や通話時間などの表面的なKPIを測定する企業が多いことを批判し、本当に重要なのは顧客が価値を得て、再びエンゲージメントするかどうかだと強調する。この評価を接続した上で、エージェントのアーキテクチャとスキルを最適化し、数百万の顧客に対応できるようスケールさせる。
この評価システムの重要性は、金融サービスの提供において特に顕著だ。Kavakはメキシコで中古車ローンを提供しているが、通常2ヶ月以上かかる承認プロセスを3分未満に短縮した。これは、顧客と車両に関する膨大なデータを活用し、支払い不能に陥った場合でも車両を返却してもらい、より安価な車に乗り換えることで月々の支払いを減らすという垂直統合モデルによって実現している。さらに、顧客が購入を決定するまでに3〜4ヶ月かかる高額なローン商品では、プロセス全体を通じて顧客を深く理解し、金利、リスク、融資上限額を個人レベルで最適化することで、コンバージョン率と維持率が劇的に向上した。
AI「CEO」実験と人間とエージェントの協業
Kavakの最も野心的な実験の一つが、メキシコのクエルナバカ市にAI「CEO」を導入したプロジェクトだ。Maza Ayalaは「AIが最後に奪うとされていた仕事はCEOだ」と述べ、その仮説を自ら検証しようとした。このAI CEOは、市全体の売上、在庫、顧客データ、財務指標を分析し、毎日の実行計画を立案する。そして、物理的な作業員全員にその日の計画をメッセージで送信し、進捗状況を音声メモで報告するよう指示する。この「超人的に賢い」エージェントは、すべての数値、すべての顧客を監視し、計画達成のために必要なあらゆる細部をマイクロマネジメントする。
実験開始から6週間で、AI CEOは最初の1ヶ月の目標だった「利益の倍増」には届かなかったものの、50%の利益増加を達成した。これは、顧客満足度の向上、在庫回転率の改善、ファイナンス浸透率の上昇など、あらゆる主要KPIの改善をもたらした。Maza Ayalaは「AIに奪われるはずだった最後の仕事でさえ、AIが実行できることを証明した」と語る。この実験は、AIエージェントが単なる業務支援ツールではなく、組織全体を管理・最適化する存在になり得ることを示している。
一方で、物理的な作業を伴う分野では、人間とAIの協業モデルが構築されている。Kavakにはメキシコだけで約800人のメカニックがいるが、彼らの仕事は高度な器用さと感覚を必要とするため、完全な代替は難しい。そこで同社は、映画『レミーのおいしいレストラン』のネズミのシェフのように、メカニックの「相棒」として機能する「El Mic」というエージェントを開発した。このエージェントは車両の点検方法を指示し、ヒントを提供し、作業手順をガイドする。その結果、点検の品質は劇的に向上し、点検・修理のスピードが速まり、コストが削減された。最も重要なのは、納車される車両の品質が向上し、保証請求が20〜26%減少したことだ。
組織構造の変革と「ジェダイ・アカデミー」
Kavakは3年前から「未来の組織はどうあるべきか」という問いを真剣に検討してきた。その結論は、全員の仕事が変わるというものだった。Maza Ayalaは「2年前に私たちがやっていた仕事は、おそらくAIエージェントがより良く実行するだろう」と断言する。この認識に基づき、同社は「ジェダイ・アカデミー」と呼ばれる社内トレーニングプログラムを開始した。CEOからAIエンジニア、メカニックまで、全従業員がこのアカデミーに参加し、6週間のトレーニング後に最先端のAIエージェントを本番環境にリリースするという実践的な内容だ。
このプログラムの設計者であるMaza Ayala自身が講師を務めるが、技術の進歩が速すぎるため、カリキュラムは常にアップデートが必要だという。外部のスタンフォード大学などに学びに行くことはできない、なぜならこれは新しい知識だからだ。トレーニングの目的は、全員をAIエンジニアにすることではなく、新しいテクノロジーと協働する方法を理解することにある。実際、一部の参加者はAIエンジニアに転身したが、全員がエージェントシステムの構築方法を理解し、新しい現実で活躍するスキルを習得した。Maza Ayalaは「後戻りはできない」と明確に伝え、トレーニングを受けて新しい世界で活躍するスキルを身につけるか、あるいはKavakを去るかの選択を迫った。
この変革の結果、Kavakの組織構造は根本的に変化した。現在の組織は非常にフラットで、高度なスキルを持つシニアチームで構成され、エンジニアリング、AI、オペレーションが一体となっている。チームの役割は、エージェントを構築するか、エージェントのために働くか、あるいは物理的な世界で顧客と直接向き合うかのいずれかだ。Maza Ayalaは、エージェントが壁にぶつかった場合の人間の関与の仕方についても重要な指摘をしている。多くの企業では、エージェントが失敗するとケースを第2層のサポートにエスカレーションして忘れてしまうが、これではフィードバックループが閉じず、エージェントの学習が進まない。Kavakでは、エージェントが「助けが必要」とAPIを呼び出すと、人間が支援するが、その結果はエージェントのトレーニングデータとしてフィードバックされる。組織図で見ると、エージェントを持つ人間チームがより良い結果を生み出しているという。
大企業リーダーへの助言とAI導入の段階
Maza Ayalaは、大規模な組織のリーダーからAI導入について多くの相談を受けるという。彼が最初に強調するのは、AI変革は「トップダウン」でなければならないということだ。ボトムアップの採用やハッカソンによるユースケースの発掘は機能しないと彼は断言する。「軍隊は、全員が戦略と戦術について独自のアイデアを持って戦場に行くようでは機能しない。明確な戦略が必要だ」と述べ、経営陣が3年後、5年後の会社の姿を明確に描き、そのビジョンに向かって組織を垂直に導くことの重要性を説く。
第二に、彼は「正しい評価」の重要性を強調する。多くの企業がトークンに巨額の費用を費やしているが、その品質を測定できていないと指摘する。彼はトークンを3つのティアに分類する枠組みを提案している。ティア3は最も価値が高く、各トークンのROIを直接計算できるエージェントに使用されるものだ。ティア2は、コードベースへの開発者の関与など、間接的に価値を測定できるもの。そしてティア1は、従業員がChatGPTやCopilotなどを使用する際のもので、その価値はほとんど測定不可能だ。Maza Ayalaは「採用(adoption)だけでは不十分で、各トークンが具体的な利益をもたらしているかを測定し、そこから反復的に改善することが重要だ」と結論づける。
さらに、彼は経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの「創造的破壊」の概念を引き合いに出し、AI時代の大きな機会を説明する。イノベーションが経済に浸透するのは、既存企業が新技術を採用するのではなく、新技術を前提に設計された新興企業が既存企業を破壊することによって起こる。電気の歴史を例に挙げ、Fordの生産ラインの技術は1879年から1881年に開発されていたが、工場全体を電気に合わせて再設計したFordが登場するまで、その真の価値は発揮されなかったと説明する。現在のAIも同様で、表面的な採用では6%から10%の改善しか得られないが、組織全体をAI前提に再設計すれば10倍の改善が可能になる。これは、起業家にとって「今こそ構築する時」だという力強いメッセージだ。
結びに
このエピソードが特に重要なのは、AIエージェントの理論的な可能性を、実際のビジネス成果に結びつけた具体的な事例を示している点だ。Kavakの96%のインタラクション自動化、2.1倍のコンバージョン率向上、AI CEOによる50%の利益増加といった数字は、AIが単なるコスト削減ツールではなく、収益を生み出す変革の原動力であることを証明している。Maza Ayalaの「エージェントの構築と同じだけの労力を評価システムに投資する」という原則は、AI導入に苦戦する多くの企業にとって実践的な指針となるだろう。
また、この対談は、AI時代における組織と人間の役割について深い示唆を与える。Maza Ayalaは「全員の仕事が変わる」と断言し、その現実に向き合うことの重要性を説く。しかし、そのメッセージには恐怖ではなく、むしろ興奮と機会が満ちている。ジェダイ・アカデミーでメカニックまでがAIエージェントを構築できるようになった事例は、テクノロジーの民主化がもたらす可能性を示している。「AIに恐怖を感じたことがないなら、まだAIを試していないということだ」という彼の言葉は、変革の最前線に立つ者だけが知る緊張感と、それを乗り越えた先にある成長の実感を伝えている。このエピソードは、AIを「ツール」としてではなく、「組織の設計原理」として捉え直すための、示唆に富む一石を投じている。
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