
決済の中に隠れた1000億ドルのニッチ
- 決済業界は四半世紀にわたり、テクノロジー分野で最も巨大でありながら、最も変革が遅れている領域の一つであり続けた。このエピソードでは、ホストのErik Torenber...
- 本稿は、単なる過去の回顧録ではない。決済という巨大な市場の構造を理解し、次なるイノベーションの波がどこに押し寄せるのかを探るための、深い洞察に満ちた対話の記録である。...
- [0:00] 決済の進化を振り返る:予想外の出来事と不変の構造 議論は、過去25年間で最も驚いた出来事についての問いから始まった。Alex Rampellは、Appl...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
The a16z Show / Andreessen Horowitz
- Alex Rampellは、Apple PayとGoogle Payの普及は、EMV移行に伴う加盟店端末の更新、パンデミック、モバイル端末の普及という偶然が重なった結果であり、消費者行動の変化だけでは説明できないと指摘した。
- Max Levchinは、VisaとMastercardのネットワークが維持する「2.5秒ルール」が、オフライン決済におけるイノベーションの余地を60年以上にわたって制限してきたと批判した。
- Max Levchinは「決済には、1000億ドル以下のニッチ市場は存在しない」と断言し、一方でAlex Rampellは、高額な送金よりも少額で高頻度な取引にこそ大きな収益機会があるという「決済の逆説」を説明した。
- Affirmの転機は、マットレス業界への参入であり、高い粗利率を背景に加盟店が手数料を負担することで、消費者に「本当の0%金利」の分割払いを提供できるビジネスモデルを確立したことにある。
- Max Levchinは、業界に蔓延する「繰延利息」のような欺瞞的な「偽物の0%金利」を強く批判し、Affirmのブランド約束は「隠れたコストがない」ことにあると強調した。
- Alex Rampellは、Affirmの本質は「負の顧客獲得コスト」を持つ点にあり、加盟店が顧客関係をAffirmに委ねることで、広告費をかけずに需要を創出できると分析した。
- Max Levchinは、AIエージェントが消費者の好みを理解して購入する「エージェンティック・ショッピング」には懐疑的だが、支払い方法を最適化する「エージェンティック・ペイメント」には大きな可能性を見出している。
- Alex Rampellは、AIエージェントによる購入代行は、すでにInstacartのようなサービスで実証されているように、時間はかかるものの確実に普及していくという楽観的な見方を示した。
決済業界は四半世紀にわたり、テクノロジー分野で最も巨大でありながら、最も変革が遅れている領域の一つであり続けた。このエピソードでは、ホストのErik Torenbergが、a16zのゼネラルパートナーであるAlex Rampellと、Affirmの共同創業者兼CEOであるMax Levchinを迎え、25年にわたるフィンテックの進化を振り返りながら、なぜクレジットカードというインターフェースがこれほどまでに根強いのか、そしてAIエージェントの登場によって、その牙城がようやく崩れようとしているのかを徹底的に議論した。二人はPayPalの黎明期からAffirm創業の着想に至るまでの「アイデア迷路」を辿り、決済の世界に「小さな市場」は存在しないという驚くべき事実を浮き彫りにする。
本稿は、単なる過去の回顧録ではない。決済という巨大な市場の構造を理解し、次なるイノベーションの波がどこに押し寄せるのかを探るための、深い洞察に満ちた対話の記録である。パーソナルファイナンスの未来、広告と決済の収束、そしてAIエージェントがもたらす「エージェンティック・ペイメント」の可能性について、業界の最前線で戦ってきた二人の視点から、その本質に迫る。
決済の進化を振り返る:予想外の出来事と不変の構造
議論は、過去25年間で最も驚いた出来事についての問いから始まった。Alex Rampellは、Apple PayとGoogle Payの浸透度の高さを挙げる。消費者行動の変革は一般的に非常に困難であるにもかかわらず、これらのモバイル決済がこれほどまでに普及した背景には、いくつかの偶然が重なったと彼は分析する。その一つが「EMVスイッチ」と呼ばれる、磁気ストライプからチップへの移行だ。磁気ストライプは複製が容易で不正被害が多発したため、カード発行会社と加盟店の間で、チップ対応端末に切り替えない限り、不正利用の責任は加盟店側が負うという「加盟店責任シフト」が発生した。このため、全米の小売店は新しい端末への交換を余儀なくされた。そして、その新しい端末には、当初誰も使っていなかった「タップ決済」の機能が搭載されており、パンデミックと相まって、この非接触決済が瞬く間に標準となった。Alexは、この「消費者行動の変化」と「加盟店端末の更新」、そして「モバイル端末の普及」という3つの要素が揃わなければ、モバイル決済の現在は存在しなかっただろうと指摘する。
一方、Max Levchinは、より構造的な驚きを語る。それは、VisaとMastercardのネットワークが、オフライン取引において「2.5秒ルール」と呼ばれる厳格な制限を今もなお維持していることだ。カードが提示されてから、ネットワーク、発行銀行、加盟店、加盟店 acquiring bank の間で承認処理が完了するまで、その時間は2.5秒以内でなければならず、それを超えると取引は失敗する。この硬直的なルールが、決済分野における抜本的なイノベーションの余地を長年にわたって奪ってきたと彼は主張する。Apple PayやGoogle Payは、チップ内にセキュアエレメントを設け、VisaやMastercardと通信する前に端末側で処理を行うことで、この時間制約を巧みに回避しているが、ネットワーク側がこのルール自体を見直す動きを見せないことに、彼は批判的な見方を示す。
しかし、何よりもMaxを驚かせたのは、決済市場の規模そのものだ。彼は「決済には、1000億ドル以下のニッチ市場は存在しない」と断言する。一見ニッチに思えるような小さなアイデアでも、それが決済に関わるものであれば、必ず巨大な市場に成長する潜在性を秘めているというのだ。この指摘を受けて、Alexは「数字が大きくなると、手数料収入は小さくなる」という逆説を提示する。例えば、1兆ドルの送金が発生したとしても、その処理手数料は微々たるものだ。なぜなら、高額な取引ほど、送金者は手数料率の交渉力を持ち、また、その処理には高度なセキュリティと信頼が求められるため、低コストの決済手段が好まれるからだ。実際、決済業界で大きな収益を生むのは、スターバックスが独自のプリペイドカード「Starbucks Pay」を導入した理由にもあるように、少額で高頻度な取引である。スターバックスは、顧客がアプリにチャージした金額を一度だけ決済処理することで、毎回のコーヒー購入時に発生するカード手数料を回避している。このように、決済における収益機会は、取引額が小さければ小さいほど大きくなるという、直感に反する構造を持っているのだ。
Affirm創業の原点:パジャマ問題から「アイデンティティで支払う」へ
対話は、Affirm創業の物語へと移る。Alexは、2011年4月に交わされたMaxとの初期のメールのやり取りを回想する。当時、AlexはTrialPayという、デジタルグッズの代替決済サービスを運営しており、Maxはソーシャルゲーム会社Slideを経てGoogleに買収された後だった。二人は、Bill Me Later(後払いサービス)の可能性について議論を重ねるが、法人向けの「Pay Me Sooner(早期支払い)」というアイデアは、大企業が中小企業への支払いを遅らせることで資金繰り圧力をかける構造を変えるものとして、一考の価値があるとされた。しかし、この分野は規制が及ばないものの、消費者向けに比べると利便性の向上による付加価値が生まれにくく、収益機会は限定的だと結論づけられた。
Maxにとって、Googleでの1年間は、自身のキャリアを見つめ直す期間だった。彼は、5年以上にわたって経営したSlideが、本当にやりたかったことではなかったという後悔を抱えていた。そんな中、妻から「あなたが最もハードに働き、最も幸せそうだったのは、PayPalで不正対策に明け暮れていた頃だ」と言われ、再び金融サービスの世界に足を踏み入れる決意をする。そんな折、Alexから連絡が来た。二人はGoogleの社内でコーヒーを飲みながら、モバイル決済の未来について語り合う。そこで生まれたのが「パジャマ問題」というコンセプトだ。夜、パジャマ姿でベッドにいるときに何かを買いたくなっても、クレジットカードは階下にある。そんな時、どうやって支払うのか。当時普及し始めていたスマートフォンとソーシャルネットワークを活用すれば、この問題を解決できるのではないかという発想だった。
さらに、彼らは「アイデンティティで支払う」という、より大胆なアイデアを模索していた。19世紀のアメリカの雑貨店では、店主が顧客の人柄を知っていれば、現金がなくても商品を後払いで売ってくれた。これをデジタル時代に再現しようとしたのだ。Alexは、Facebookの友達が500人いて、写真を1000枚アップロードしているような人物は、信用リスクが低いのではないかと理論づけた。重要なのは、その人物が積極的に融資を求めていないことだ。融資を求めて検索する人物は信用リスクが高いが、単に財布を忘れただけの人物は、ソーシャルグラフから高い信用力を推定できるという考え方だ。このアイデアを具体化するため、Alexは2012年のAllen & Companyカンファレンスで、1-800-Flowersのサイトを模倣したデモを一晩かけてPHPで作成した。それは、チェックアウト時に「Facebookで支払う」ボタンを表示し、友達の数などを基に与信判断を行うというものだった。このデモを見た1-800-FlowersのCEO、Jim McCannは即座にその可能性を理解し、実際にサービス導入を決めた。かつて、軍人が妻に花を贈りたいと電話をかけてきた際、クレジットカード情報がなくても、信用できる相手だと判断して後払いを受け付けていた経験があったからだ。
ビジネスモデルの転換:融資がもたらす「コンバージョン率」の劇的向上
しかし、Affirm(当時はExpediteという社名だった)の初期のビジネスは、決して順風満帆ではなかった。1-800-Flowersの担当者であるSaid Ahmedは、コンバージョン率とユーザーインターフェースに常に不満を抱いており、Affirmが課す7%という高い手数料(Merchant Discount Rate、MDR)を支払う価値がないと主張した。彼にしてみれば、Affirmは自社のクレジットカード売上を侵食するだけで、追加の価値を生んでいないように見えたのだ。Affirmは、このたった一社の大口顧客の不満に応えるのに苦心し、ビジネスは行き詰まりを見せていた。
転機は、化粧品のオンラインショップ「Beautylish」との出会いだった。Beautylishは、他の加盟店とは異なり、顧客が商品を選ぶ段階、つまり「ファネルの上流」で「3回払い」や「30日後払い」が可能であることを積極的にアピールした。すると、コンバージョン率が瞬時に30%も上昇したのだ。この瞬間、AlexとMaxは、自分たちのビジネスが「パジャマ問題」を解決する代替決済手段ではなく、消費者の「予算制約」を解決する融資サービスであることに気づいた。高額な商品でも、分割払いにすれば月々の支払いは手頃になり、購入意欲が大きく高まる。これは、単なる利便性の向上ではなく、需要そのものを創出する力を持っていたのだ。
この発見をきっかけに、Affirmはマットレス業界に活路を見出す。CasperやPurpleといったD2C(Direct-to-Consumer)のマットレスブランドは、粗利率が非常に高く、顧客獲得のために高いMDRを支払うことに前向きだった。マットレスは一度購入すると買い替えサイクルが7年と長く、その一瞬の購入機会を逃さないためには、あらゆる手段を講じる必要があった。Affirmが提供する「実質0%金利」の分割払いは、消費者にとって大きな購入動機となり、マットレスブランドにとっては、広告費をかけるよりも効果的な販売促進策となった。こうして、Affirmはマットレス業界を皮切りに、多くのD2Cブランドへとサービスを拡大していった。
この成功の裏には、Maxの「偽物の0%金利」に対する強い怒りがあった。多くの小売店が提供する「0% APR」のストアカードには、しばしば「繰延利息」という落とし穴が存在する。これは、期間内に残高を完済できないと、猶予期間中の利息が全て遡って請求されるという仕組みだ。Maxは、このような業界の欺瞞的な慣行を憎悪し、Affirmの0%金利は「本当の0%」であり、遅延が発生しても利息が遡って請求されることはないと強調する。この「隠れたコストがない」というブランド約束は、消費者からの信頼を勝ち取り、Affirmの成長を支える重要な柱となった。
Affirmの現在地:広告と決済の収束、そして「負の顧客獲得コスト」
現在のAffirmに対する一般的な認識は「Buy Now, Pay Later(BNPL)」だが、Alexは、それは同社の本質の一部に過ぎないと指摘する。彼は、Affirm創業時のメールのやり取りの中で、自身が「広告と決済が収束する」と予言していたことを明かし、今まさにその時代が到来していると語る。Affirmは単に需要を満たすだけでなく、加盟店が新しい商品の需要を「創造」または「保証」するためのプラットフォームへと進化している。5,000万人以上のアメリカ人消費者との直接的な金融関係を持つAffirmは、もはや単なる決済手段ではなく、マーケティングチャネルとしての役割を担い始めているのだ。
この文脈で、Alexは「負の顧客獲得コスト(Negative CAC)」という概念を強調する。多くの消費者向け企業は、GoogleやFacebookへの広告費として莫大な顧客獲得コストを支払っているが、Affirmは融資サービスを提供することで、むしろ「顧客を獲得することに対して報酬を得ている」という逆転の構造を持っている。加盟店は、自社の顧客に融資を提供する代わりに手数料を支払うが、その見返りとして、返済督促などの顧客対応の負担から解放される。Affirmが顧客との関係を所有することで、ブランドは自社の顧客基盤を維持しながら、煩雑な与信・債権管理業務をアウトソーシングできるのだ。
さらに、Maxは、この「顧客関係の所有」が、長期間にわたるローンの提供を可能にしていると説明する。一般的なBNPLが6週間程度の短期融資であるのに対し、Affirmは3年半に及ぶ長期ローンを提供している。これは、単にFICOスコアを見るだけではない、高度な機械学習に基づく緻密な与信モデルを構築しているからこそ可能なのだ。そして、この長期ローンには、返済期間中に消費者と39回ものタッチポイントが生まれるという利点がある。毎回の返済通知やコミュニケーションを通じて、新たなサービスを提案する機会が生まれる。つまり、長期ローンは、管理が難しいという課題はあるものの、顧客に追加のサービスを販売するための「39回のシュートチャンス」を提供する、極めて戦略的な商品なのである。
PayPalの遺産:起業家を選別し、真の姿を知ることの力
議論は、PayPalが生んだ起業家の系譜についての問いへと移る。Maxは、PayPalの歴史を描いた書籍『The Founders』(ジミー・ソニ著)を高く評価しつつ、その成功の理由を「起業家を意図的に採用していたからだ」と語る。彼は面接の際、候補者に「PayPalの後、何をするつもりか」と質問していたという。そして、「これが最後の仕事だ。その後は自分で会社を興すつもりだ」と答える人物を最も高く評価した。PayPalは、起業を志す優秀な人材が集まる「大学院」のような場所であり、そこで研鑽を積んだ者たちが、後にYouTubeやYelp、LinkedInといった企業を次々と創業していったのだ。
しかし、Maxが最も重要だと考えるのは、この「選別」のプロセスだけではない。彼は、PayPalの初期のメンバーが、互いの「本当の姿」を知っていたことを強調する。彼らは、狭い部屋で共に汗をかき、ホワイトボードを囲んで激論を交わし、時には相手のアイデアを「愚かだ」と罵倒しながら、お互いの人間性を深く理解していた。ピーター・ティールの哲学的な側面、イーロン・マスクの全力投球な姿勢、デビッド・サックス(現在はカリフォルニア州知事候補)の知性など、彼らは外から見える「プレゼンテーション層」ではなく、ストレスで頭を抱えるような「素の姿」を知っていたのだ。
この「互いの人間性を知っている」という経験は、その後の彼らの挑戦に大きな影響を与えたとMaxは語る。イーロン・マスクが人類を火星に送り込もうとするような巨大な挑戦をするとき、彼はそれを「神」の所業ではなく、かつて社内のキッチンで疲れ果てた姿を見たことのある「普通の人間」の挑戦として捉えることができる。同じように、資金調達に奔走し、「資金が尽きるかもしれない」と電話をかけてきたピーター・ティールの姿を知っているからこそ、自分ももっと大きな夢に挑戦できるという自信が湧いてくるのだ。PayPalの遺産は、単に成功した起業家を輩出したことではなく、彼らが互いに「普通の人間」であることを認め合い、それが次の挑戦への勇気を与えたという、より深い人間関係の物語なのである。
エージェンティック・コマースの未来:買い物の主体は誰になるのか
エピソードの終盤では、AIエージェントが買い物や決済に与える影響について議論が交わされた。Maxは、AIエージェントが消費者の好みを理解し、服や自転車の部品などを自律的に購入する「エージェンティック・ショッピング」には懐疑的な見方を示す。なぜなら、人々は自分が何を買うのか、それを身につけたときの自分を想像したいと強く思っており、その意思決定のプロセスを楽しんでいる部分があるからだ。彼自身、自転車の部品を選ぶのに多くの時間を費やす愛好家であり、その「選ぶ楽しみ」をAIに委ねたいとは思わないと語る。
しかし、その一方で、Maxは「エージェンティック・ペイメント」には大きな可能性を見出している。彼は「クレジットカードはこれまでに作られた中で最も優れたユーザーインターフェースだ」と認めつつも、AIエージェントの登場によって、その牙城が崩れる時が来たと主張する。エージェントは、プラスチックのカードや、書き換え可能なチップを搭載したカードよりもはるかに賢い。将来的には、人間が「どのカードを使うか」を考える必要すらなくなり、エージェントが最適な支払い方法を自動的に選択するようになるだろう。これは、決済のユーザーインターフェースにおける革命であり、クレジットカードという物理的な媒体の優位性が、ついに問い直される時が来たというのだ。
Alexはこの意見に概ね同意しつつも、より nuanced な見方を示す。彼は、買い物のプロセスを「何を買うか」のリサーチ段階と、「それをどこで買うか」の調達段階に分けて考える。AIはまず、リサーチ段階で強力なツールとなるだろう。しかし、本当の変革は、購入する商品(SKU)が決まった後の調達段階で起こると彼は予測する。例えば、Amazonで特定の本を探しているとき、価格比較サイトのCamelCamelCamel(カメルカメルカメル)を使うように、AIエージェントに「この商品を最安値で買ってきて」と指示するようになる。これは、時間はあるがお金がない人々が現在行っている行動を、AIが代行するという構図だ。そして、この「どこで買うか」という選択は、実は「どのカードで払うか」という決済の選択と深く結びついている。9枚の異なるクレジットカードを使い分け、それぞれの特典を最適化するのは、時間対お金のトレードオフに敏感な人々の行動だが、AIエージェントはこの複雑な最適化を瞬時に行うことができるだろう。
しかし、Alexは、この移行がすぐに起こるとは考えていない。消費者がAIエージェントを信頼して購入を任せるまでには、時間がかかるだろう。特に、返品や配送遅延など、購入後のトラブルが発生した場合に、エージェントがどこまで責任を持って対処してくれるのかという不安は残る。それでも、彼は希望的な兆候として、すでに「100%エージェンティック」な買い物が存在することを指摘する。それが、Instacart(インスタカート)のような買い物代行サービスだ。ユーザーは「牛乳を買ってきて」と指示するだけで、買い物代行員が店舗で代替品を選び、配達してくれる。このプロセスは、ユーザーが細かい指示を出さなくても、99.9%の確率で期待通りの結果をもたらす。この「買い物の外部委託」に対する人々の適応を見れば、AIエージェントによる購入代行も、時間はかかるかもしれないが、確実に普及していくはずだと、彼は楽観的な見方を示した。
結びに
今回の対談は、単なるフィンテックの回顧録ではなく、決済というビジネスの本質を理解するための格好の教材である。Alex RampellとMax Levchinという、この業界を牽引してきた二人の起業家が、それぞれの経験と視点から、決済市場の「不変の構造」と「変革の兆し」を浮き彫りにした。クレジットカードというインターフェースの圧倒的な強さ、高額取引よりも少額取引に収益機会が集中するという逆説、そして「負の顧客獲得コスト」というビジネスモデルの優位性。これらの洞察は、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスに通じる普遍的な教訓を含んでいる。
そして、何よりも示唆に富むのは、AIエージェントの登場によって、決済の世界に「再交渉」の時が訪れているという認識だ。人間の「買い物をしたい」という欲求は不変だが、その「支払い」という行為は、もはや人間が直接行う必要がなくなるかもしれない。エージェンティック・コマースの未来は、AIが何を買うかを決めることではなく、人間の意思決定を支援し、決済という煩雑なプロセスを代行することにある。この対談は、その新しい時代の幕開けを予感させるとともに、決済という巨大な市場に、まだまだ多くのイノベーションの余地が残されていることを強く示唆している。
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