
なぜa16zはマシンエイジファンドを立ち上げたのか | Jen Kha
- a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)は2024年8月28日、AIを支える物理インフラに特化した新ファンド「Machine Age Fund(マシン・エイジ・ファン...
- Khaは、このファンドが単なる投資手段ではなく、起業家たちへの「バットシグナル」であると強調する。ソフトウェア中心の時代に埋もれていた物理インフラの課題に取り組もうと...
- [0:00] なぜ今なのか——AIがソフトウェアを解決し、物理インフラがボトルネックに Khaはまず、このファンドを発表したタイミング自体が時代を象徴していると語る。...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
The a16z Show / Andreessen Horowitz
- a16zは2024年8月28日、AIの物理インフラに特化した11億ドル(約1,650億円)の「Machine Age Fund」を発表した。投資対象はチップ、ネットワーキング、メモリ、冷却、データセンターなど「ソフトウェアスタックの下にあるすべて」。
- AIがソフトウェアを解決した今、ボトルネックは物理インフラに移行している。現在のインフラは前のインターネット時代とSaaS時代の「貧者の版」であり、AI向けに再構築が必要。
- a16zは今年、全ベンチャーキャピタル資金の23%以上を調達。AIの価値蓄積は主にプライベート市場で起きており、機関投資家は非公開企業へのエクスポージャーを強く求めている。
- NVIDIAの時価総額5.5兆ドルはアメリカを除くG7諸国のGDPをすべて上回る。データセンターサプライチェーン企業の株価は急騰しており、起業家たちは非効率な既存インフラに代わる新設計に挑戦している。
- 韓国は全市民にプレミアムAIを公共料金として提供すると発表。エルサルバドルは学校で無料のGrokを導入しAI医師を活用。世界のAI導入はアメリカより速いペースで進んでいる。
- 次世代チップはAC電力ではなくDC電力で動作するが、アメリカの電気技師のうちDC電源の訓練を受けているのは2%未満。データセンターの技術的ボトルネックは深刻。
- ハードウェア分野の創業者は若手ではなく、Arista NetworksやVMware、Intelなどで経験を積んだ世代がスピンアウトして起業するケースが増えている。デューデリジェンスも長年の関係性に基づいて行われる。
- ハードウェア関連のピッチはa16z全体の20%以上に増加。ソフトウェア中心の時代から、物理インフラ中心の時代への転換点にある。
a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)は2024年8月28日、AIを支える物理インフラに特化した新ファンド「Machine Age Fund(マシン・エイジ・ファンド)」を発表した。その規模は11億ドル(約1,650億円)に上る。このエピソードでは、a16zのマネージング・パートナーでありグローバル・パートナーシップ責任者を務めるJen Kha(ジェン・カー)が、ホストのTheo Jaffee(テオ・ジャフィー)とSophia Dew(ソフィア・デュー)を相手に、なぜ今このファンドを立ち上げたのか、その投資テーゼの内実を詳しく語っている。中心となる主張は明確だ。ソフトウェアが世界を飲み込むというマーク・アンドリーセンの有名な格言は、AIの登場によって逆転した。AIがソフトウェアそのものを解決してしまった今、ボトルネックは物理的な計算基盤に移っており、チップ、ネットワーキング、メモリ、冷却、データセンターといった「ソフトウェアスタックの下にあるもの」すべてが再構築の対象になっている。この30年間、ベンチャーキャピタルはハードウェアから遠ざかり続けてきたが、AIがその流れを根本から引き戻そうとしている。
Khaは、このファンドが単なる投資手段ではなく、起業家たちへの「バットシグナル」であると強調する。ソフトウェア中心の時代に埋もれていた物理インフラの課題に取り組もうとする創業者たちに、a16zが本気でコミットするという意思表示だ。さらに彼女は、このインフラ競争がもはや企業レベルではなく国家レベルの優先事項になっていると指摘する。韓国が全市民にプレミアムAIを公共料金のように提供すると発表した事例や、エルサルバドルが学校で無料のGrokを導入しAI医師を活用している事例を挙げ、世界の多くの国々がアメリカよりもはるかに速いスピードでAIの導入を進めている現状を浮き彫りにした。アメリカ国内ではデータセンターに対する政治的な逆風が強まっているが、Khaはそれを悲観するのではなく、むしろ機会として捉えている。この対談からは、ハードウェアが再びベンチャーキャピタルの主役の座に返り咲こうとしている時代の転換点が、生々しい手触りとともに伝わってくる。
なぜ今なのか——AIがソフトウェアを解決し、物理インフラがボトルネックに
Khaはまず、このファンドを発表したタイミング自体が時代を象徴していると語る。ウォール街の慣用句に「セル・イン・メイ・アンド・ゴー・アウェイ(5月に売って去れ)」というものがあるが、通常なら誰もいない8月の夏にファンドを発表できたこと自体が、この分野への需要の高まりを示しているという。彼女は「これほど実りの多い夏はなかった」と述べ、市場の熱気を率直に表現した。
ファンドの投資対象は「ソフトウェアスタックの下にあるすべて」だ。データセンター、チップ、カスタムシリコン、ネットワーキング、ラックスタック(サーバーラックの構成要素)、液体冷却など、物理世界のあらゆる構成要素が含まれる。Khaによれば、これらの分野は過去30年間、ほとんど投資不可能なカテゴリーだった。前のインターネット時代とSaaS時代に必要なインフラはすでに構築されていたからだ。しかしAIは数学的にも計算的にもはるかに集約的であり、現在のインフラは「貧者の版」としてかろうじて動いているに過ぎない。この老朽化したインフラをAI時代向けに作り直す必要がある。
なぜ専用ファンドなのかという問いに対して、Khaは二つの理由を挙げた。第一に、機会のうねりがある。マーク・アンドリーセンの「ソフトウェアが世界を食べる」という格言は有名だが、実際にはAIがソフトウェアを解決してしまった。あらゆるソフトウェアのニーズをAIが満たせる時代になった以上、AIがソフトウェアを解決するためには物理的な制約を解決しなければならない。第二に、組織的なポートフォリオ構築の観点だ。ハードウェア企業は立ち上がりに多額の資本を必要とするため、ソフトウェア企業と同じファンドで比較すると、どうしても確実性の高いソフトウェア案件に資金が偏ってしまう。専用ファンドを設立することで、このカテゴリーへのコミットメントを示し、初期段階で所有権を最大化し、勝者を早期に捕捉するという明確な意図がある。
11億ドルのファンドの位置づけ——ハイパースケーラーの1兆ドル投資との関係
ホストの一人であるTheo Jaffeeは、11億ドルという金額は確かに大きいが、アメリカのハイパースケーラー企業(大規模なクラウドインフラを運営する企業)が今年だけで費やすとされる約1兆ドルと比較すると、その千分の一に過ぎないと指摘した。この規模で何ができるのかという問いに対し、Khaはファンドの戦略を明確に説明した。a16zはあくまでアーリーステージの投資家であり、シードやシリーズAの段階で参入し、変曲点で追加投資を行う。25百万ドルから35百万ドルを初期段階で投入すれば、後期投資家や公開市場の投資家とは比較にならないほど実質的な所有権を獲得できる。
具体例として、Khaは二つの投資先を挙げた。一つは「Next Hop」というAIファーストの高性能ネットワーキング企業で、シリーズBの変曲点でグロースファンドから6,500万ドルを投入した。もう一つは「Unconventional」という企業で、元DatabricksのNaveen Rao(ナビーン・ラオ)が創業した。この会社はAI向けにチップを設計し直すというアプローチを取っており、より単純な構造をターゲットにすることでチップ自体の性能を高めようとしている。a16zはシード段階で投資し、その後、同社は大幅な増資に成功した。Khaは「変曲点が始まる前の初期段階で参入し、所有権を最大化することが重要だ」と強調した。
ファンドの規模をめぐっては内部でも議論があったという。Khaは「名前は伏せるが、あるパートナーは『この資金は6週間で使い切ってしまう』と言っていた」と明かし、機会の多さを印象づけた。彼女は、このファンドが目指すのは後期投資家や公開市場投資家と同じゲームをすることではなく、カテゴリーとしてまったく異なるものを狙っていると説明する。初期段階で実質的な所有権を確保し、ファンドのリターンを牽引できるだけの規模感を築くことが目的だ。
機関投資家との対話——LPの関心はなぜAIハードウェアに向かうのか
Khaは自身の役割について、機関投資家との関係構築と資金調達戦略の全体を統括していると説明する。a16zは今年、全ベンチャーキャピタル資金の23%以上を調達したという。この数字が示すのは、AIにおける価値の蓄積が主にプライベート市場で起きているという事実だ。公開市場ではなく非公開市場に成長の中心があるため、機関投資家はプライベート資本へのアクセスを切望している。
さらに、データセンターサプライチェーンに関わる公開企業の株価は急騰している。Khaは社内の全体会議での冗談を交えながら、NVIDIAのCEOであるSanjay(サンジェイ)氏が「業界のテイラー・スウィフト」になったと語った。実際、NVIDIAの時価総額は5.5兆ドルに達し、これはアメリカを除くG7諸国のGDPをすべて上回る規模だ。SK HynixやSamsungといったデータセンターサプライチェーン企業も同様に大きな関心を集めている。しかし起業家たちは、現在のインフラがAI向けに適切に構成されていないことを認識しており、白紙の状態から再構築するなら現在のインフラを無理やり流用するのとはまったく異なる設計になるはずだと気づき始めている。
最後にKhaは、流動性の変化を指摘した。SpaceXの上場、AnthropicやOpenAIの上場が目前に迫る中、歴史的にプライベート企業が非公開のままでいる期間は長期化していたが、今後は複数の時価総額1兆ドル規模の企業が公開市場に登場するだろう。しかし、まだ公開されていないプライベート企業の層は厚く、機関投資家はそうした企業へのエクスポージャーを求めている。彼女は「私がキャリアを始めた頃なら、夏の2ヶ月でファンドをクローズすることは不可能だった」と述べ、このスピード感自体が市場の需要の強さを物語っていると語った。
資本以上の価値——国家レベルのAI競争とグローバル・パートナーシップ
Khaは、ハードウェア企業が必要とするものは資本だけではないと強調する。市場アクセスや地政学的な関係性も重要な要素だ。彼女は「これは国家レベルに達している」と述べ、1ヶ月前に韓国大統領がアメリカ訪問で最初で唯一の訪問先としてシリコンバレーを選んだ事実を紹介した。NVIDIAの時価総額が国のGDPと同じ規模になる時代、テクノロジーは経済のますます大きな部分を占めるようになっており、各国はAIを国家の優先事項として捉え始めている。
マーク・アンドリーセンの言葉を借りれば「テクノロジーはバスに追いついた犬」だ。過去100年間で軍事的・文化的・経済的に最も成功した国々は、最初に工業化した国々だった。Khaは「未来の国々は、最初にAIを採用した国々になるだろう」と予測する。防衛、公共安全、ヘルスケアなど、あらゆる分野でAIが政府全体に浸透し、市民がボトムアップで利用することになる。この文脈で、a16zはLPとの関係を単なる資本提供の枠を超えて捉えている。アメリカ製の最先端技術を各国が採用し、直接投資にも参加してもらうことで、AIの採用プロセスを加速させ、経済発展の恩恵も共有できるという考え方だ。
具体例として、韓国は全市民にプレミアムAIを公共料金のように提供すると発表した。Khaは韓国を「最も極端な形の民主主義」と表現し、今年の夏には韓国人の3分の1がマージンコール(証拠金の追加差し入れ要求)を受けたという状況も紹介した。韓国はBTSやBLACKPINK、『イカゲーム』などコンテンツ分野で「未来のハリウッド」となっているが、AIにも全面的にコミットしている。エルサルバドルも同様で、ブケレ大統領は学校で無料のGrokを導入し、AI医師を活用している。シンガポールやUAEのような都市国家も、人口規模が小さいため技術導入が容易で、補助金や無料提供がしやすいという利点がある。
データセンターへの逆風——アメリカの政治的な障壁と新世代インフラの実態
アメリカ国内ではデータセンターに対する政治的な逆風が強まっているが、Khaはこの問題について「残念ながら、物語が現実の邪魔をしている」と指摘する。現代のデータセンター、特にAWSやMeta、そしてa16zのポートフォリオ企業であるSwitchのような施設は、不動産屋ではなく技術者によって建設されている。これらの施設は、データセンターに対する人々の懸念を考慮して設計されているのだ。
Switchの例を挙げると、同社は電力網に電力を還元しており、奪うのではなく貢献している。さらに水の使用量も非常に少なく、将来のチップに必要な流体管理(フルイディクス)に対応できる数少ないデータセンターの一つだ。Khaは「データセンターを一括りにするのは誤りだ。悪質な事業者はごく一部であり、大多数は新しいフォームファクターに合わせて設計されている」と主張する。
しかし、技術的な課題は山積している。次世代のチップはAC電力ではなくDC電力で動作するようになるが、ほとんどのデータセンターはそのインフラに対応していない。さらに、アメリカの電気技師のうちDC電源の訓練を受けているのは2%未満だという。DC電源は非常に危険で、取り扱いを誤ると命に関わる可能性があるため、訓練には時間がかかる。こうしたインフラのボトルネックが至るところに存在しており、AIが機能するためには解決が必要だ。Khaは、このファンドの焦点の大部分がこうした問題の解決に向けられていると説明する。また、アメリカ国内の逆風によって、データセンターのサプライチェーン構築が海外に流出する可能性も指摘した。イーロン・マスクが宇宙にデータセンターを建設しているように、アメリカの感情的な反発が海外への投資を促進する可能性もあるという。
投資テーゼの全体像——アクセラレーターからロボティクスまで
ファンドの投資対象はデータセンター内のあらゆるものに及ぶ。アクセラレーター(GPUなどの高速計算チップ)、CPU、カスタムシリコン、メモリ、ストレージ、液体冷却、そしてデータセンター内のロボティクスやシステムソフトウェアなどだ。Khaは「過去数十年間、投資可能なカテゴリーとして忘れられていたものすべて」と表現する。ただし、電力のような規制産業には投資しない。これは「アメリカン・ダイナミズム」チームの担当領域であり、このファンドはあくまでコンピューターサイエンスに導かれたインフラ側に焦点を当てる。
需要側のテーゼも明確だ。AIエージェントは人間の5倍のトークンを使用しており、インターネット上のエージェントの数は人間の数を超えた。この傾向は、消費者向けのパーソナルユースケース(RockbotやInstinctなど)が増えるにつれて、パラボリックに成長し続けるだろう。しかし、現在のAI利用率はまだ5%未満だという。つまり需要は爆発的に伸びる余地があり、その供給側を支えるのがこのファンドの役割だ。
Khaは、この分野の創業者たちが「ある意味で昔ながらのタイプ」だと述べる。大学を卒業したばかりの若者がこのカテゴリーに挑戦することは稀で、ハイパースケーラーとの関係構築や物理的なダイナミクスの理解には深い経験が必要だ。そのため、以前の時代から生き残った世代の才能が、既存企業からスピンアウトして新しい会社を立ち上げるケースが多い。Next Hopの創業者たちはArista Networksの出身だ。彼らは30年以上にわたって培われてきた経験を活かし、新しい形のインフラ企業を建設しようとしている。
デューデリジェンスのプロセスもソフトウェア企業とは異なる。a16zのチームには、Martin Casado(マーティン・カサド、元Nicira創業者でVMwareに売却)、Raghu Raghuram(ラグー・ラグラム、元VMware CEO)、Guido Appenzeller(グイド・アペンツェラー、元Intel CTO)といった、データセンター分野に深い知見を持つメンバーが揃っている。彼らは過去10〜15年の間にソフトウェアに引き寄せられていたが、今またハードウェアの世界に戻ってきている。デューデリジェンスは、長年の付き合いがある人物や、顧客を知り尽くした人々に対して行われるため、ソフトウェア企業とは異なるアプローチが必要だ。
結びに
このエピソードの核心は、ベンチャーキャピタルの歴史が一周回って原点に戻ろうとしているという認識だ。Khaは「古いものが再び新しいものになる」と繰り返し述べ、シリコンバレーがなぜシリコンバレーと呼ばれるのか、その理由を思い出させてくれると語った。ベンチャーキャピタルはもともとハードウェアから始まった。半導体、コンピューター、ネットワーク機器。それがソフトウェアの時代に移り変わり、ハードウェアは投資対象としての魅力を失っていた。しかしAIの登場によって、物理インフラが再び最もエキサイティングな投資領域に返り咲こうとしている。
この対談から浮かび上がるのは、単なる投資ファンドの話を超えた、より大きな時代の転換だ。AIはソフトウェアを解決したが、その先には物理世界の再構築という巨大なフロンティアが広がっている。国家レベルのAI競争、データセンターをめぐる政治的な軋轢、熟練した技術者の再起業、そしてDC電源という新たな技術的課題。これらはすべて、AI時代のインフラを誰がどのように建設するのかという根本的な問いに収斂する。Khaの語り口からは、この巨大な課題に対する興奮と、それに立ち向かう起業家たちへの信頼が感じられた。このエピソードは、AIの次なる戦場がソフトウェアではなく物理インフラにあることを、具体的な事例とともに示した点で重要な意味を持っている。
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