
ベン・ホロウィッツとトラビス・カラニック、再構築について語る
- Travis Kalanick(トラビス・カラニック)が約8年の沈黙を破り、a16zのイベントでBen Horowitz(ベン・ホロウィッツ)とErik Torenb...
- Kalanickは、Uberでの経験を「生存モード」と表現し、その状態が大組織には危険だったと振り返る。一方で、彼の起業家としての本能や競争への執念は今も健在であり、...
- [0:00] Lyft買収の決断とUber文化の本質 対談の冒頭、Torenbergが「なぜLyftを買収しなかったのか、後悔はあるか」と切り込むと、Kalanick...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
The a16z Show / Andreessen Horowitz
- Travis Kalanickは約8年の沈黙を破り、新会社Atomsで産業用AIに参入。食品生産、鉱業、製造業など複数の1兆ドル規模産業の自動化を目指す。
- Lyft買収を見送った決断は「文化が合わなかった」ためであり、時間を戻しても同じ選択をするとKalanickは断言。年間10億ドル規模の消耗戦の中でも文化的適合性を優先した。
- KalanickはUber時代の「生存モード」経営を反省し、現在は「ラインから数インチ後退」した位置で経営。大組織では信頼を伴わせることが不可欠と語った。
- Atomsの文化は「Best Idea Wins(最高のアイデアが勝つ)」で、Uberの「meritocracy and toe-stepping」を継承しつつ再ブランド化したもの。
- a16zのBen HorowitzはAtomsへの投資を「これまで書いた中で最大のチェック」と認め、Kalanickの競争心と「まだ最高の人生を送っていない」姿勢に確信を得た。
- Kalanickの原動力は復讐や失敗への恐怖から「再び恋に落ちる」ことによる純粋な創造へと進化。Uberへの怒りは新しい情熱によって自然と消えた。
- メディア環境の変化により、起業家はニューヨーク・タイムズなどの従来メディアに依存せず、直接語る手段を得た。KalanickはElon MuskのTwitter買収を「意見の自由の回復」と評価。
- AtomsにはUberのCFO、エンジニアリングSVP、先進技術グループ責任者など多数の元Uber幹部が参加。ただし、現在はUber出身でないエグゼクティブの方が多い。
Travis Kalanick(トラビス・カラニック)が約8年の沈黙を破り、a16zのイベントでBen Horowitz(ベン・ホロウィッツ)とErik Torenberg(エリック・トーレンバーグ)を相手に、自身の新会社Atomsの立ち上げと産業用AIへの野望について語った。Uber追放から8年、彼は公の場から姿を消し、静かに次の巨大プロジェクトを準備していた。この対談は、単なる起業家のカムバックインタビューではなく、失敗と成功の両方を経験した稀有な創業者が、自身の進化と不変の信念を赤裸々に語る貴重な機会となった。
Kalanickは、Uberでの経験を「生存モード」と表現し、その状態が大組織には危険だったと振り返る。一方で、彼の起業家としての本能や競争への執念は今も健在であり、Atomsでは「最高のアイデアが勝つ」という文化を掲げ、食品生産、鉱業、製造業といった物理世界の産業を自動化するという壮大なビジョンを描く。この対談では、Lyft買収を見送った決断の真意、Uber時代の文化の継承と断絶、そしてメディア環境の変化が起業家に与えた影響など、多岐にわたるテーマが議論された。
Lyft買収の決断とUber文化の本質
対談の冒頭、Torenbergが「なぜLyftを買収しなかったのか、後悔はあるか」と切り込むと、Kalanickは「文化が合わなかった」と即答した。ピンクの口ひげで知られるLyftとUberでは、企業文化があまりにも異なっていたという。当時、両社は年間10億ドル規模の消耗戦を繰り広げており、買収による統合のメリットは明白だったが、交渉のテーブルで向かい合うたびに文化的な隔たりを感じたと振り返る。この決断について長年批判を受けてきたが、時間を戻せても同じ選択をするだろうと断言した。
この話題を受けて、Ben Horowitzは重要な指摘を行った。もしKalanickがUberに留まっていたら、同社の文化は現在とは異なるものになっていただろうという。HorowitzはUberの文化ドキュメントに記載されていた「meritocracy and toe-stepping(メリトクラシーとつま先踏み)」という概念を挙げ、それがUberの核心的な要素だったと語る。感情を排し、最高の成果を追求するために他者のつま先を踏むことも厭わないというこの姿勢こそが、Uberを急成長させた原動力だった。しかし、Kalanick退任後のUberは、外部からの批判への反動から「milquetoast(気の弱い)」な文化に変わってしまったとHorowitzは指摘した。
Kalanickはこの考えをAtomsに引き継ぎ、「Best Idea Wins(最高のアイデアが勝つ)」という原則を掲げている。多くの人は他者を怒らせることを恐れて最高のアイデアのために戦わないが、そうでなければ結局は平凡なアイデアや政治的打算に基づくアイデアに落ち着いてしまう。Andy GroveがIntelで「建設的対立(constructive confrontation)」と呼んだものと同様に、真の成長にはテストと対立が必要だとKalanickは主張する。
Torenbergが「Uberを買い戻すつもりはあるか」と冗談交じりに尋ねると、Kalanickは「まだやるべきことがたくさんある」と笑いながら答えた。そして、Uberで実現しようとしていたことの多くが、現在Atomsで進行中のプロジェクトと連続していると明かした。彼の視野には、食品の自動生産と自動配達、鉱業の完全自動化など、100億ドルから1兆ドル規模の産業が複数含まれており、これらを「第二次産業革命」に例えた。
創業者としての進化:生存モードから数インチ後退
Torenbergが「Uber時代と比較して、Atomsの創業者としてどう変わったか」と質問すると、Kalanickは自身の起業家としての軌跡を振り返った。Uber以前の彼は、給料なしで4年間働き、「blood, sweat and ramen(血と汗とラーメン)」と書かれた靴下を履くような生活を送っていた。最初の会社は辛うじて買収され、その後のファイル共有システムは33の大手メディア企業から2,500億ドルの訴訟を起こされるという失敗を経験している。
このような極限状態からUberのような超成長企業を率いることになったため、彼は常に「ラインぎりぎり」で経営していたという。電磁走査顕微鏡で確認しないとチョークが付いていないか分からないほどの際どいラインだったと比喩する。しかし、大規模な組織を率いる際にこの生存モードは危険だと悟った。変化を急速に進める一方で、信頼を伴わせていなかったのだ。現在のKalanickは、そのラインから「数インチ後退」した位置で経営していると語る。
一方で、起業家としての熟達も実感している。かつて数百時間かかっていたビジョンノートの執筆が、今では45分で完了するという。Atomsの立ち上げ時に書いたビジョンノートや資金調達のための書類が、ほとんど流れるように完成した経験を挙げ、「何度も会社を立ち上げると、本当に上手くなる」と述べた。しかし、逆境に慣れすぎることの弊害も自覚しており、「怒りが起業家を強くする」という側面を失わないよう注意していると語った。
Horowitzはこの変化を「20,000人の従業員を抱えながら生存モードにあった」と総括し、その考え方が大組織では二重の意味で危険だったと指摘する。第一に、十分な人々を味方につけられないこと。第二に、8階層下の従業員が愚かな行動を取らないように、経営者がラインのさらに手前側に立たなければならなくなることだ。しかし、Kalanickは常に優れた起業家であり、a16zがUberに投資しなかったことが「悲劇的」だったと述べた。
投資判断とAtomsの設立プロセス
Kalanickの最初の外部資金調達が4百万ドルのプレマネー評価だったのに対し、今回のAtomsの調達は「数桁大きい」ものとなった。Horowitzは「これまで書いた中で最大のチェック」と認め、その確信に至ったプロセスを説明した。彼がKalanickと最初に話した時点で、すでに確信は100%だったという。長年の知人であり、会話は常に「本物の話」だったと振り返る。
HorowitzはLyftの取締役を務めていた時期があり、その立場でKalanickとUberについて話し合っていた。当時Kalanickは中国のライドシェア企業が自社のアプリに侵入し、無料サービスを提供するなどの攻撃を仕掛けてきたことに興奮していたという。「あの連中に対処できれば、世界の他の地域は問題ない」という彼の競争心に、Horowitzは強い感銘を受けた。また、Kalanickが「最高の人生」を送っていなかったこと、つまり成功に浮かれることなく、まだ戦い続けていたことも投資判断の重要な要素だった。
KalanickはAtomsの設立過程について、複数の別々の会社を立ち上げていたことを明かした。資金調達の際には、トレンチコートに時計をたくさん入れて「どの時計が欲しい?食品関連もあるよ。鉱業関連もなかなかクールだ」と売り込むような状況だったという。投資家たちは「その全部が欲しい」と答えたが、問題は異なる投資家を持つ別々のエンティティを統合する比率をどう決めるかだった。この統合プロセスが今回の取引を複雑にし、困難にしたと語る。
KalanickはElon Musk(イーロン・マスク)が複数の会社を統合しつつある動きに言及し、自分はそれを「単一の屋根の下」で実現しようとしていると述べた。Muskが5〜6の会社を同時に経営しているのに対し、Kalanickは共通のインフラとリソースを共有する構造を選択した。これにより、製造、ソフトウェア、人事などの機能を各ビジネスユニットが個別に持つよりも、専門性の高い人材を獲得できるという利点があると説明した。
Uberチームの再結集と新たな人材構成
KalanickがAtomsを立ち上げると、Uberの従業員から数千件の「行こう」という連絡が殺到したという。しかし、彼はUberの取締役を務めていたため、数千人規模で人材を引き抜くことは「違法」だと述べ、慎重に対応した。「悪い見た目」だけでなく、実際に法律違反になるため、厳格にルールを守ったという。それでも、特別な人材を選抜してチームに迎え入れた。
具体的には、UberのCFOだったGautam(ガウタム)がAtomsに参加し、エンジニアリング担当SVPだったGanesh(ガネーシュ)も最近加入した。Uberで若手だったエンジニアたちが、今ではAtomsの主要なリーダーに成長しているという。Brian Atwell(ブライアン・アトウェル)は食品部門とインフラのエンジニアリングリードを務め、Anthony Levandowski(アンソニー・レバンドウスキー)も参加。Uberの先進技術グループを率いていたEric Meihofer(エリック・マイホーファー)は食品ロボティクス部門を統括している。
また、Uber Eats Japanの責任者だったJessica Morton(ジェシカ・モートン)も参加しており、Kalanickが日本で最初に会った人物の一人だという。彼は日本市場への参入を検討する際、孫正義(Masayoshi Son)に会いに行ったが、孫が自分のアイデアを盗んで類似の8社に投資していることに苛立ちを感じたと冗談交じりに語った。現在のAtomsは「Uberの会社」ではなくなっており、Uber出身でないエグゼクティブの方が多くなっているが、当時の「心」は受け継がれていると述べた。
Kalanickはこの再結集を「run it back(もう一度やる)」と表現しつつも、「run it forward(前進させる)」ことの重要性を強調した。過去の再現ではなく、新しく異なる方法で挑戦することが大切だという。Uber時代の文化や情熱を基盤にしつつも、新しい産業と技術に適応した形で進化させている。
起業家の原動力:復讐、恐怖、そして愛
質疑応答の時間、ある参加者が「怒りが優れた起業家を作るという話について、復讐心は汚れた燃料ではないか。よりクリーンな原動力を見つけたか」と質問した。Kalanickは自身の経験を率直に語り、Uber以前にピアツーピアのファイル共有システムを開発し、世界の33の大手メディア企業から2,500億ドルの訴訟を起こされたことを明かした。その後の会社は「完全な復讐ビジネス」であり、自分を訴えた企業を顧客に変えることを目的としたCDN(コンテンツ配信ネットワーク)だったという。
しかし、復讐心や失敗への恐怖は「汚れた燃料」であり、成功はできるかもしれないが、本来達成できるべき水準には達しないとKalanickは認める。恐怖は長い夜と非生産的な時間をもたらし、「あの男は何かおかしい」と思われるような異様な雰囲気を生み出す。完全な成功には到達できないのだ。
転機はUberを離れて8ヶ月後に新しい事業を始めた時だった。彼は「再び恋に落ちた」と表現する。Uberに対する怒りや恨みは、新しい情熱を見つけることで自然と消えていった。「再び恋に落ちると、元彼女のことをあまり考えないものだ」という比喩で、過去への執着から解放された状態を説明した。この状態から生まれる創造は「美しく、汚れのない」ものだと語る。
ただし、この境地に達するには努力が必要であり、時間がかかることも認めている。また、この状態を維持するには「retard maxing(退化すること)」を避けなければならないと述べ、常に前進し続けることの重要性を強調した。Kalanickの原動力は、復讐や恐怖から、純粋な創造への愛へと進化したのだ。
産業用AIの「最終ボス」とメディア環境の変化
KalanickはAtomsのビジョンを説明する際、「Killer Boss(最終ボス)」という概念を紹介した。これは彼の財務部門における表現で、産業用AIの分野で最高峰の競争相手を指す。彼は「誰が産業用AIのベストか」と問いかけ、「その名前は『シュメロン』と韻を踏む」とほのめかし、Elon Muskを暗に指した。Muskは明らかにこの分野の「最高の中の最高」であり、Kalanick自身は「赤ちゃんヤギ」に過ぎないと謙虚に語りつつも、最大限の敬意を表した。
この「最終ボス」の概念は、Kalanickの競争哲学を象徴している。彼は常に最強の競争相手を意識し、その存在を成長の原動力として捉える。Magic JohnsonとLarry Birdのようなライバル関係を例に挙げ、互いに打ち負かそうとすることで高みに到達できると語った。産業用AIの分野では、Muskがその基準を設定しており、彼の存在が業界全体を引き上げているという認識を示した。
Torenbergが「8年間の沈黙から戻ってきて、シリコンバレーの変化で最も驚いたことは何か」と質問すると、Kalanickはメディア環境の激変を挙げた。10年前はメディアの90%が否定的な内容で、ビジネスが政治化していたという。当時はニューヨーク・タイムズの報道がすべて真実だと思っていたが、今ではそうではないと理解している。現在はDavid SenraやJoe Roganのようなプラットフォームで直接語ることができ、「毛沢東中国の闘争会議」のような環境で話す必要がなくなったと述べた。
KalanickはElon MuskによるTwitter買収を「意見を言えるようになった始まり」と評価し、「意見の相違が違法でなくなった」と感謝の意を示した。彼自身は8年間、ロシアの資本家が従うような「黙れ(Shut the fuck up)」というKPIに従って行動してきたと振り返る。しかし現在はそのモードから脱却しつつあり、この変化が起業家にとって最大の環境改善だと語った。メディアの多様化により、起業家は本来の仕事に集中できるようになったというのが彼の結論だ。
結びに
この対談の核心は、失敗と成功の両方を経験した創業者が、どのように進化し、どのように不変の信念を維持しているかという問いに対する答えにある。KalanickはUberでの追放劇を否定もせず、美化もせず、そこから学んだ教訓を率直に語った。特に「生存モード」から「数インチ後退」した経営スタイルへの変化は、大組織を率いるリーダーにとって重要な示唆を含んでいる。一方で、「最高のアイデアが勝つ」という文化や、競争への執念、怒りを原動力に変える能力は、彼の起業家としての本質が変わっていないことを示している。
また、この対談は単なるカムバックインタビューではなく、産業用AIという新たなフロンティアへの宣言でもあった。食品生産、鉱業、製造業といった物理世界の産業を自動化するというビジョンは、デジタルAIが注目を集める中で、見過ごされがちな巨大な機会を浮き彫りにした。Kalanickは「第二次産業革命」という言葉で、この変革の規模感を表現した。そして、メディア環境の変化により、起業家が再び自由に語り、挑戦できる時代が戻ってきたという彼の認識は、シリコンバレーの現状を理解する上で重要な視点を提供している。
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