
アニメの可能性を広げ続けるMAPPAの歩み【のん×大塚学】
- MAPPA社長・大塚学が語る、アニメスタジオの「かっこいい」を貫く15年——のんとの対話から見えた挑戦の本質 俳優・アーティストののんがナビゲートする本エピソードには、『...
- [0:28] 「この世界の片隅に」から「ゴリゴリのアクション」へ——のんが驚いたMAPPAの変貌 冒頭、のんが「この世界の片隅に」でお世話になった後、MAPPAが『呪術廻...
- のんが「すごい、もう両極端の魅力で面白いですよね」と感嘆すると、大塚は「見てます」と短く返し、スタジオの多様性を誇るような、しかしどこか照れくさそうな空気が流れる。この冒...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
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MAPPA社長・大塚学が語る、アニメスタジオの「かっこいい」を貫く15年——のんとの対話から見えた挑戦の本質
俳優・アーティストののんがナビゲートする本エピソードには、『チェンソーマン』『呪術廻戦』『進撃の巨人 The Final Season』など、近年のアニメ史に刻まれる作品を次々と生み出してきたスタジオMAPPAの代表取締役社長・大塚学が登場した。のん自身が主演声優を務めた『この世界の片隅に』(2016年)の制作スタジオでもあるMAPPA。のんが「あの後、MAPPAがゴリゴリのアクションものの会社になっていて衝撃だった」と語るほど、同スタジオは多様な作風で知られる。しかし大塚は、その根底に一貫して流れる「かっこいい」という美学と、経営者として「クリエイターの創造性を力強く支えるためのビジネスの強度」を語る。2025年公開の『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』は国内興行収入100億円、全世界興行収入297.8億円を突破。2026年6月には設立15周年を迎えるMAPPAの軌跡と未来を、のんの率直な驚きと共に掘り下げた、密度の高い対話となっている。
「この世界の片隅に」から「ゴリゴリのアクション」へ——のんが驚いたMAPPAの変貌
冒頭、のんが「この世界の片隅に」でお世話になった後、MAPPAが『呪術廻戦』や『チェンソーマン』のようなアクション作品を連発するスタジオに変わっていったことに「びっくりした」「衝撃でした」と率直な驚きを口にする。これに対し大塚は、片渕須直監督のような繊細な作風の作品も、激しいアクション作品も、少女漫画原作も、すべて「作品ごとにいろんな顔で作らせていただいてきた」と説明。MAPPAというスタジオが特定のジャンルに固定されず、作品ごとに最適なクリエイティブを追求してきたことが、のんの感じた「両極端の魅力」の正体だと示唆する。
のんが「すごい、もう両極端の魅力で面白いですよね」と感嘆すると、大塚は「見てます」と短く返し、スタジオの多様性を誇るような、しかしどこか照れくさそうな空気が流れる。この冒頭のやり取りは、のんが単なるゲストではなく、実際にMAPPA作品の制作現場に立ち会った経験を持つ「内部の外部者」として、スタジオの変化を実感を伴って語れる立場であることを印象づける。
サブカル少年が「かっこいいアニメ」に衝撃を受け、業界へ飛び込むまで
大塚がアニメの世界を志したきっかけは、学生時代に「ビレッジヴァンガード」のようなおしゃれな本屋に通い詰めていたサブカルチャー好きの少年だったことにある。当時は「日本のアニメって子どもが見るもの」という一面があったが、その中に「かっこいいんじゃないか」と思える作品に出会ったという。具体的には『AKIRA』、『攻殻機動隊』、そしてコーン・サトシ(今敏)監督の作品群——これらが「かっこいいアニメ」の原体験だった。
その後、アニメーション映画を制作するスタジオ「スタジオヨンドシー」に入社。しかし数年過ごすうちに、「アニメをやっていく上ではテレビシリーズを作った経験がないとダメなんじゃないか」と考えるようになる。巨匠たちも必ずテレビシリーズの時期を持っている——その認識が、大塚を次のステップへと動かす。そこに「MAPPAっていう変な名前の会社が立ち上がるらしいぞ」という噂が耳に入る。第一作がフジテレビの「ノイタミナ」枠で放送される『坂道のアポロン』(少女漫画原作)だと知り、「これだ」と思った。大塚は「少女漫画もすごく好きだった」と付け加え、自らの嗜好がキャリア選択に影響したことを自然に語る。
注目すべきは、大塚が創業者の丸山正雄や片渕監督と事前に面識があったわけではなく、「飛び込んだ感じ」だったという点だ。業界の有名人である丸山のことは知っていたが、直接の面接もなく、入社後に初めて出会ったという。この「未知のスタジオに飛び込む」という決断が、後のMAPPAの成長を支える原動力の一つだったことが示唆される。
社長就任の電話——「思ったより早いタイミング」で回ってきた重責
2016年、大塚は代表取締役社長に就任する。のんが「私が初めて大塚さんにお会いした時、もうB1なんだって紹介された記憶があります」と振り返るほど、のんにとっては「社長=大塚」というイメージが強い。しかし大塚自身は「社長業って何なのかもわかってなかった」と率直に認める。
丸山正雄との関係について大塚は、「いろんな議論を重ねたし、時に喧嘩をしたりした」と述べつつ、将来の会社像について「完全に一致はしてなかったけど、近い熱量で一緒に考えていた」と振り返る。その中で「いつかはそういうような社長をやることが来るんじゃないか」という程度の認識だったが、実際には「急に電話で『社長をやんないか』みたいな」形で話が来たという。大塚は「2016年に関しては、思ったより早いタイミングでこういう話が来たな」と当時の感覚を鮮明に覚えている。
この時期、のん主演の『この世界の片隅に』もヒットし、MAPPAにとっては「激動」の年だった。大塚は「変わらずに作品を一生懸命作ってる」という日常の中で、突然トップに立つことになった。このエピソードは、スタジオの成長と個人のキャリアが予期せぬ形で交錯する瞬間を捉えており、のんも「結構ディープな段階だったんですね」と興味深そうに聞き入る。
「100%出資」の真意——チェンソーマンに込めた、作り手と届け手の一体化
『チェンソーマン』の制作に際し、MAPPAは一般的な「制作委員会方式」を取らず、スタジオが100%出資するという異例の決断をした。この点について大塚は、注目されること自体はありがたいとしつつも、「割と僕たちにとっては数ある手段の中の一つを選択した」という冷静な認識を示す。「制作委員会で作る時もすごく尊重してもらって作れる時もあるし、100でやったからといって何もかも自由になるわけではない」と付け加え、あくまで「手段の一つ」であることを強調する。
その上で、なぜチェンソーマンでこの形を選んだのか。大塚は「この作品とことん向き合ってみたい」というチーム全体の気持ちがあったと語る。さらに重要なのは、「自分たちが作品を作るだけに留まらず、それをどうお客さんに届けるのか」という部分まで意識を伸ばし、自分たちで努力してみようという「意気込み」があった点だ。100%出資によって「やれること」は増えるが、同時に「自分たちがやることがお客さんにとってベストじゃないかもしれない」という領域も認識しており、結果的に様々な企業と協力しながら制作を進めているという。
のんが「選択の幅が増えるって感じなんですかね」と問うと、大塚は「可能性が、自分たちが手を伸ばせる部分の可能性ですね」と応じる。ただし「それが自分たちの実力ですべて完璧に手が届くかというと、まだまだ積み重ねないといけない経験がある」とも認め、現在進行形の挑戦であることを強調した。
「クリエイターに自由を」の落とし穴——経営者が考える「安全に力を発揮できるフィールド」
作品を世界に届ける際に大事にしていることについて、大塚は経営者兼プロデューサーとしての立場から、ビジネスの重要性を明確に語る。「お客さんに届けるというビジネスがすごく重要で、そのビジネスの強度をちゃんと自分たちで作り上げられるからこそ、クリエイターの創造性を力強く支えられる」というのが大塚の信念だ。
アニメ業界では「クリエイターに自由を与えるのが正義」という言説がしばしば見られるが、大塚は「その自由って、何もしないとかだとすごく難しい」と指摘する。本当に必要なのは、「安全に精一杯力を発揮できるようなフィールド」をどう作るかという視点だ。のんが「素晴らしいです」と感動し、「いい関係性ですね」と評すると、大塚は「まだ全然」と謙遜しつつ、「正解はないので、日々自分たちで経験を積み重ねて勉強しながら、クリエイターと会話をしている」と現状を語る。
のんは自身の経験から、アニメが「集団作業」であることのスケールの大きさを実感したエピソードを披露する。『この世界の片隅に』の打ち上げに行った時、関わった人数の多さに「たまげた」という。大塚はこれを受け、「その集団が最適なクリエイティブを発揮できる環境状態を作るのが理想」と応じ、スタジオ全体の調和を重視する姿勢を明確にした。
「かっこいい」という軸——洒落ている作品の裏にある、一人ひとりの「込める」意識
のんが「MAPPAの作品は全部すごく洒落てるなと思う」と評したことから、その秘密に迫るやり取りが展開される。大塚はまず、そうしたクリエイティブを持つ人々がスタジオや作品に集まってきてくれていることに感謝を述べる。その上で、「どんな作品をやるにしても、『かっこいい』というものをちゃんと見つけたいよね」という、スタジオ全体に通底する感覚があると説明する。
重要なのは、それが「会社として統一したかっこよさ」ではないという点だ。関わる人間一人ひとりが、それぞれの作品の中に「かっこいい」を見つけ、それを「込めていく」。子ども向けの作品であっても、どこかにそうした要素を込めたいという考え方が、結果的に「洒落てる」と感じさせるのだろうと大塚は推測する。
のんはこの「かっこいい」という概念に深く共感する。「かっこいいの中に可愛いもあるし美しいもあるし、クールな感じだったり明るいものも、全部かっこいいで包めるセンスがある」と語り、大塚も「かっこいいが軸になってるんだ」と応じる。さらに大塚は、演出や絵だけではない部分——「ちょっとした間の取り方」など——にもクリエイターが思いを込めていると指摘。集団作業であるアニメ制作において、突出した一人のクリエイティブに引っ張られることも多いが、「作品の細部細部には一人ひとりの思いが必要になる」と述べ、スタジオとしてその要素を込めてもらえる環境を作りたいと語る。
15年の変化と、これからのMAPPA——「日本アニメの定着」という可能性
後半、大塚はMAPPA設立15年を振り返り、「一番変わったことは、日本アニメーションが置かれている状況そのもの」だと語る。業界に入った頃は「アニメを楽しむ人がアニメを見ている」という感覚だったが、今は「一般の人もアニメを見ている」。さらに全世界で、日本と同時に作品を視聴できる環境が整い、「世界の多くの人が日本のアニメを見ている」という変化が起きている。
のんが「誰もが心のどこかにオタク心を持ってるみたいな変化を感じますね」と応じると、大塚は「MAPPAっていう名前、僕大っ嫌いだったんですけど」と意外な告白をする。しかし今では「全世界の共通語になりやすい、言いやすい言葉」として、ロゴも含めて「すごいな」と思い、命名した丸山正雄への敬意をにじませる。
音楽レーベル「MAPPA RECORDS」の立ち上げについて、大塚は「アニメーション映像作品全般における音とのリンクの重要性」を挙げる。アニメにおける音楽の影響力の大きさを実感し、「絵が生まれる瞬間と音楽との接続の距離をもっと近づけたい」という思いから始まったという。特にアニメのオープニングは「曲に合わせて気持ちのいいアニメーションが作品の顔になる」という独自の文化があり、音楽とアニメーションの記憶が結びつきやすい。しかし業界が異なることで「お互い遠慮し合いながらやっていたところもあった」と振り返り、「できるだけ早いところから一緒に考えちゃいましょうよ」という目的でレーベルを立ち上げたと説明する。
2025年の「AnimeJapan」に初出展した理由については、日本最大のアニメの祭典において「MAPPAというスタジオがお客さんに対してどういう姿を見せるべきか」を追求したかったと語る。ブースでは「作品世界の中に入ったかのような体験」を設計し、『呪術廻戦』のセットで写真を撮ってもらうなどの工夫を凝らした。行列ができるほどの反響があり、「映像体験の先の体験をどう提供するか」という新たな課題も見えたという。
アニメの可能性と、大塚を支えた一曲——「忍耐」をハイな気持ちで乗り越える
大塚にとってのアニメの可能性とは、「日本アニメを楽しむことが世界的に定着していくこと」だ。それは「一時的なブームに終わらない」ことであり、「時代が変わっても変化にしっかりついていき、世代が変わるときに継承されていく」こと。言語や文化が異なる人々に日本アニメが定着する——その可能性を「信じてアニメを作り続け、届け続ける」のがMAPPAの役割だと語る。
のんが「このまま確立されていくんじゃないか」と期待を寄せると、大塚は「リアルタイムでやってると、いろんな課題が山積みで、日々それを一生懸命乗り越えてるような感じです」と現実的な姿勢を崩さない。それでも「お客さんが楽しんでくれるからこそ仕事が成立している」という原点を「ストイックに一番大事に」し、MAPPAという日本アニメのスタジオだからこそたどり着ける何かを目指したいと語る。
最後に、大塚を支えた一曲として選ばれたのは、Coldplayの「Viva La Vida」だ。2008年頃、大塚が制作進行として働いていた時代、一日の大半を車の中で過ごし、素材を届ける仕事をしていた。将来にどう作用するのかわからない瞬間も多く、「一生懸命安全運転をしながら、でも急いで届けなきゃいけない」ことの繰り返し。そんな時、この壮大な曲がテンションを上げてくれたという。大塚は「忍耐って、歯を食いしばって耐えしのぶだけじゃなくて、ハイな気持ちで耐え切ってやるぜ、みたいな気持ちにさせてくれた曲」と振り返る。後で歌詞の内容を知ると「全然テンション上げるような内容じゃなかった」と笑いを交えつつ、そのギャップも含めて思い出深い一曲だと語った。
まとめ
このエピソードが聴き手に残すのは、「アニメスタジオの経営」という一見地味なテーマが、実はクリエイティブの最前線を支える極めて戦略的な営みであるという認識だ。大塚学という人物は、サブカルチャーに没頭した少年時代から、制作進行の地道な日々、そして予期せぬ社長就任を経て、スタジオの「かっこいい」を貫くためにビジネスの強度を高めてきた。のんの率直な驚きと共感が、大塚の語る「クリエイターに自由を与えるためのフィールド作り」という抽象的な理念に、具体性と温かみを与えている。MAPPAの15年は、日本アニメが世界に広がる過程そのものと重なり、その未来を「定着」という言葉で語る大塚の視点は、業界のリーダーとしての冷静な楽観主義を感じさせる。のんが「かっこいいが軸になってるんだ」と喝采した瞬間が、この対話の核心を象徴している。