
#270 チェコの山々からケニアの火山へ:ヤクブ・ロットのフライトの旅
- チェコの丘陵からケニアの火山まで:ヤコブ・ロットの飛行の旅 チェコのハイク&フライ王者ヤコブ・ロットが、スカイダイビングからスピードフライング、パラグライディングへと移行...
- [0:00] オープニング:エピソードの背景とホストの紹介 ギャビン・マクラーグはまず、自身が主催するレースについて告知する。ユタ州南部で開催される「Nivic Red...
- 今回のゲスト、ヤコブ・ロットは、リスナーからの推薦で番組に登場した。チェコ共和国のモラヴィア・ハイク&フライチャレンジの優勝者であり、同国のハイク&フライチャンピオンでも...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Cloudbase Mayhem Podcast / Gavin McClurg
チェコの丘陵からケニアの火山まで:ヤコブ・ロットの飛行の旅
チェコのハイク&フライ王者ヤコブ・ロットが、スカイダイビングからスピードフライング、パラグライディングへと移行し、世界の多様な地形で飛び続けてきた10年の軌跡を語る。ホストのギャビン・マクラーグとの会話は、若さゆえの無謀さと大怪我、そこから得た教訓、そして「楽しむこと」を最優先する現在の哲学へと至る自然な流れを持ち、競技と安全、情熱と冷静さのバランスについて深い洞察を提供する。
オープニング:エピソードの背景とホストの紹介
ギャビン・マクラーグはまず、自身が主催するレースについて告知する。ユタ州南部で開催される「Nivic Red Rocks Wide Open」はUSナショナルズのカテゴリー2レースで、壮大な地形と大きなタスクが特徴だ。また、アイダホ州のロストリバー山脈で行われる「X Lost」は3日間の完全セルフサポート型ハイク&フライレースで、ワナカハイク&フライのような宝探し形式を採用している。これらのレースからは、アーロン・ダーガッティ、パトリック・フォン・カネル、タンジール・ルノー・グードなど、後にレッドブルXアルプスで活躍する多くのパイロットが輩出された。
今回のゲスト、ヤコブ・ロットは、リスナーからの推薦で番組に登場した。チェコ共和国のモラヴィア・ハイク&フライチャレンジの優勝者であり、同国のハイク&フライチャンピオンでもある。ギャビンは「彼は非常に興味深い人物で、会話が本当に楽しかった。あまりにも速く、激しくスタートし、厳しい教訓を学び、今はかなり落ち着いている」と紹介する。
チェコの飛行環境とモラヴィア・ハイク&フライチャレンジ
ヤコブはチェコのピルゼン(ビールの町として有名なピルスナーの発祥地)に住んでいる。インタビュー時、彼は60時間の断食の最中だった。断食の目的は減量ではなく、体の浄化とトレーニング効果の向上だという。
チェコ共和国にはアルプスのような高い山はなく、「小さな丘か、せいぜい中程度の丘」しかない。しかし、この環境が逆に優秀なパイロットを育てている。「小さなバブルをすべて捉える方法を学ばなければならない。常に地面に近く、低空でサーマルを探し、地形を読む必要がある」とヤコブは説明する。ベスキディ山地はチェコで最も飛行に適した場所の一つで、ポーランドとの国境に位置する。
モラヴィア・ハイク&フライチャレンジは完全セルフサポート型の大会で、参加者は装備をすべて背負い、自然の中で野宿する。昨年は3日間で250kmの飛行が計画されていたが、ヤコブとスタニスラフ・マイヤー(チェコ最高のハイク&フライ選手の一人でXアルプス経験者)の2人だけが2日間で完走した。参加者35名のうち完走者はわずか10名だった。
ヤコブの勝利は偶然と機転の連続だった。初日、新品のウイング(飛行時間15時間)で飛行中、ギャラリーのラインが1本切れるトラブルが発生。しかし彼は「飛べるし、着陸もできるだろう」と判断し、そのまま飛行を続けた。次のターンポイントでトップランディングし、スマホを固定していたタンデム用の太いラインを代用して15分で修理。その後、追い風と横風の中を巧みに飛び、初日終了時点で1時間半のリードを築いた。2日目は約50〜55kmのランニングを含む長い一日となったが、スタニスラフの追撃を20分差で振り切り、優勝を果たした。
ビバーク装備と軽量化の哲学
セルフサポート型の大会では、いかに軽くパッキングするかが鍵となる。ヤコブはオゾンの軽量ウイング(最大積載95kg)を使用し、通常時は92〜93kgで飛んでいる。ビバーク装備として、軽量寝袋、寝 pad、乾燥食料、水を持参する。水は現地で購入するか、小川で補給できるため、最も重い荷物になるという。
「ホテルや村に行くことはできない。車も使えない。すべてを背負って自然の中で過ごさなければならない」とヤコブは説明する。ベスキディ山地には山頂に小屋や小さなレストランがあり、ターンポイントとしても機能する。初日の終点では簡単な夕食と朝食用のケーキを購入し、翌朝のエネルギー源にした。
パラグライディングを生業とすることのジレンマ
ヤコブは過去4年間、パラグライディングで生計を立てている。夏はオーストリアのヴォルフガングゼー(ザルツブルク近郊の美しい湖)でタンデム飛行を行い、観光客を相手にしている。しかし、この仕事にはジレンマがある。「最高のコンディションの日は、タンデムの仕事を休まなければならない。休むと自分の収入に響く」と彼は語る。
そのため、彼のベストフライトは冬に行われることが多い。今年1月にはケニアで300kmトライアングルを記録し、以前はオーストラリアやコロンビアでも大きなフライトを達成している。アルプスでは主に競技と短いフライトを楽しむ程度だ。
「パラグライディングに完全に依存するのは危険だ。家族ができて、家族の生活が自分のビジネスに依存するようになると、プレッシャーがかかりすぎて趣味を失ってしまう」とヤコブは率直に語る。現在はパドルボードスクールも運営しており、複数の収入源を持つことでバランスを取っている。
ケニアでの飛行:記録と危険の狭間で
ケニアでの飛行はヤコブにとって初めての経験だった。アンドレア(おそらくアンドレア・アダミ)と偶然出会い、一緒に飛ぶ機会を得た。アンドレアはスピードバーを積極的に使うスタイルで、ヤコブにとって「もっと速く飛ぶ方法」の良い教訓になったという。
ケニアの飛行は独特の難しさがある。朝7時半、時には7時15分から飛び始められるのが利点だ。東風が尾根に強く当たり、パイロットはフルスピードバーかハーフスピードバーを常に使いながら、地上100m程度の高度を維持して南へ40km飛ぶ。その後、方向を変えてさらに100km飛行し、そこからアルパインスタイルのサーマル飛行に移行する。
しかし、この飛行には常に危険が伴う。「ある時、尾根の裏側(風下側)をフルスピードバーで飛んでいて、前に進めなくなった。着陸できる場所はなく、谷の風速は8m/s以上で、川しかなかった」とヤコブは当時を振り返る。彼の親友は初日にクラッシュし、2週間飛行できなくなった。滞在中にはフランス人女性パイロットの死亡事故も発生し、チェコのトップパイロット、トマーシュ・スレドニークもこの地で命を落としている。
ヤコブは306.3kmのフライトを記録したが、これは当時のアウト&バック記録まであと300mという惜しい距離だった。しかし彼は「記録のために飛んでいるわけではない。楽しむために飛んでいる」と強調する。前日には315kmを記録したが、モバイルバッテリーが切れてスマホが使えなくなり、バリオも紛失していたため、時計の高度表示(15秒の遅延あり)と「お尻で感じる」感覚だけを頼りに飛行したという。
飛行の始まり:スカイダイビングからスピードフライングへ
ヤコブの飛行人生は、スポーツ一家に育ったことから始まる。両親はともにウィンドサーフィンとカイトサーフィンを楽しみ、彼自身も15歳でカイトサーフィンのインストラクターになった。その後、友人と酒場で酔った勢いで「何かクレイジーなことをしよう」とスカイダイビングを始める。
2シーズンで100ジャンプをこなした頃、スピードフライングのビデオに魅了される。ある日、スカイダイビングのコンディションが悪かったため、友人がパラグライディングを勧めた。ピルゼン近郊の50mの丘(「厄介な木々が生い茂った場所」)から飛ばされ、「パラシュートと比べて本当に滑空する」と感動したという。
最初のパラグライダーを購入すると同時にスピードフライも購入。当初はパラグライディングよりもスピードフライングに没頭した。「当時はもっとエゴマニアでアドレナリン中毒だった。スピードフライングはスカイダイビングに近く、自分に合っていた」と振り返る。独学で学び、時には「今なら絶対にやらないようなクレイジーなこと」もやったという。
背骨骨折の教訓:若さと過信の代償
飛行開始から2〜3年目、ヤコブは地元の丘で背骨を骨折する大事故を経験した。父親の会社でハードに働いた後、「今日は飛ぶぞ」という強迫観念でテイクオフに向かった。新しいポッドハーネスが適切にセットされておらず、前傾姿勢でライザーを握っていたという。
「風が強すぎて、鳥も歩いていて飛んでいなかった」とヤコブは当時のコンディションを振り返る。テイクオフ直後、非常に古いBグレードのウイングの3分の2が collapse し、反射的に反応できずに地面に激突。背骨の一部が100%圧迫され、鋼鉄のインプラントを埋め込む手術を受けた。
回復には3ヶ月を要し、最初のフライトはスピードフライングだった。「まだ背中に痛みがある状態で飛ぶべきではなかった。ハードランディングは特に危険だった」と認める。しかし当時は若さとエゴが勝り、「やるんだ」という気持ちで飛び続けた。
現在、ヤコブはこの経験を指導に活かしている。「学生たちには『ハーネスの前に座りすぎるとライザーを握ってしまい、ウイングからの感覚が失われる』と教えている。私が犯したミスを彼らには繰り返してほしくない」と語る。
指導哲学:無意識への落とし込み
ヤコブの指導哲学の核心は、「スキルよりもマインドセットとアプローチがはるかに重要」という信念にある。彼は車の運転の例えを用いて説明する。「初めて車を運転する時は、すべてを意識的に行う。しかし今では無意識に運転し、同乗者と会話しながら、子供が飛び出せば無意識にブレーキを踏む。無意識は意識よりはるかに速く、強い」。
パラグライディングでも同じで、ウイングの操作を無意識化することが目標だ。「ショートカットは存在しない。才能はあるかもしれないが、ゆっくりと段階的に学び、自分を追い込まずに楽しむことが、より安全でより良い飛行につながる」と強調する。
最近はイタリアのノルマで少人数の学生を指導し、個別に時間をかけて「何をすべきか、何をすべきでないか、サーマルの見つけ方、どこに注目すべきか」を教えている。「学生が上達する姿を見ると、自分が飛ぶ以上に幸せを感じる」とヤコブは語る。
多様な飛行スタイルと世界のベストスポット
ヤコブはスピードフライング、スカイダイビング、XC、ハイク&フライ、タンデム、指導と、パラグライディングのあらゆる側面を経験している。彼が最も愛するのは「自由と自然との触れ合い、そして素晴らしいコミュニティ」だ。
特に印象的なエピソードとして、トルコのオルデニズゲームズでのパフォーマンスを挙げる。友人のベースジャンパーと協力し、3人乗りの大型タンデムでテイクオフ。飛行中に8平方メートルのスピードウイングに切り替え、さらに passenger がカットアウェイしてベースジャンプを開くという離れ業を披露した。「おそらく当時、最も小さなウイングでのタンデム飛行だった」と自負する。着水するハプニングもあったが、無事に終えた。
世界で最も好きな飛行場所として、ヤコブはドロミテ(パラグライディング)、レインボービーチ・オーストラリア(スピードフライング)、ニュージーランド(自然の美しさ)を挙げる。ニュージーランドのワナカ・ハイク&フライでは、スキッパーズバレーに取り残され、川沿いを8時間ハイキングした経験を持つ。「美しい自然体験だった」と振り返る。
過去の自分へのアドバイス
最後にギャビンが「50時間飛行した頃の自分に何を伝えたいか」と質問する。ヤコブの答えは明確だった。「若者よ、小さなことに集中しろ。そんなにプッシュするな」。彼は「プッシュしたからこそ今の自分がある」と認めつつ、「もっとリラックスして楽しんでいれば、1年ほど遅れたかもしれないが、もっと楽しめたはずだ」と付け加える。
「パイロットはプッシュしすぎで、エゴとともに飛びすぎている。みんな、ただ楽しめ」というヤコブの言葉は、ギャビンも同意する。「私も同じだ。周りに優れたパイロットがいて、『スローンダウン、殺されるぞ』と言われた。でも若い時はそれを実行するのが難しい。興奮していて、早く上手くなりたくて仕方ない。私もプッシュしなければ今の自分はいない。しかし、それには運に頼るしかなく、運はあまり信頼できない」とギャビンは応じる。
まとめ
このエピソードは、パラグライディングというスポーツの多面性と、一つの情熱に人生を捧げることの光と影を描き出している。ヤコブ・ロットの物語は、若さゆえの無謀さと大怪我、そこからの回復と成長、そして「楽しむこと」を最優先する現在の境地に至るまでの過程が、非常にリアルで共感を呼ぶ。特に、スピードフライングからクロスカントリーへ、競技志向から指導者へと移行する中で、安全と挑戦のバランスをどう取るかという問いは、すべてのパイロットにとって普遍的なテーマだ。ケニアの危険な飛行環境や、チェコの丘陵地帯でのハイク&フライの戦略など、具体的な技術的知見も豊富で、ベテランから初心者まで学びの多い内容となっている。
要点
- ヤコブ・ロットはチェコのハイク&フライチャンピオンで、モラヴィア・ハイク&フライチャレンジを2日間で完走して優勝。35名中完走者は10名のみ。
- チェコの丘陵地帯(ベスキディ山地)は標高が低いため、低空でのサーマル読みと地形判断が必須。この環境が優秀なパイロットを育んでいる。
- ケニアの飛行は朝7時台から可能だが、強風と着陸場所の少なさから非常に危険。ヤコブの滞在中にも死亡事故が発生した。
- 飛行開始2〜3年目に背骨を骨折する大事故を経験。原因は不適切なハーネス設定と強風下での無謀なテイクオフ。現在はこの経験を指導に活かしている。
- 指導哲学の核心は「スキルよりマインドセット」。ウイング操作を無意識化することが安全で楽しい飛行の鍵だと説く。
- パラグライディングを生業とすることにはジレンマがあり、複数の収入源を持つことでバランスを取っている。
- ヤコブは「楽しむこと」を最優先し、記録や勝利よりもプロセスを重視する姿勢に至っている。