
#268 Control Theory, Winning a PWC, and behind the scenes of X-Alps madness with Estefano Salgado
- レッドブルX-Alpsの狂気、コントロール理論、そしてパラグライダー競技の深層:Estefano Salgadoとの対話 メキシコ・バジェ・デ・ブラボーが生んだ世界クラス...
- [0:00] なぜ今、Estefanoは飛ぶことに「やる気が出ない」のか?
- 冒頭、Gavinが「最近飛んでる?」と問いかけると、Estefanoは意外な答えを返す。「いや、今はチキンになってるんだ。年を取ったよ。」彼は新しいCCC(競技用グライダ...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Cloudbase Mayhem Podcast / Gavin McClurg
レッドブルX-Alpsの狂気、コントロール理論、そしてパラグライダー競技の深層:Estefano Salgadoとの対話
メキシコ・バジェ・デ・ブラボーが生んだ世界クラスのパイロット、Estefano Salgadoが、レッドブルX-Alpsのサポートクルーとしての狂気の体験、ジュリアン・ガルシア(フランスチームコーチ)と共に実践する「コントロール理論」の真髄、そして自身が北米大陸で唯一(かもしれない)PWC優勝を果たした舞台裏を、ホストGavin McClurgとの軽妙かつ深い対話の中で明かす。シェフとしての腕前を活かしたチームマネジメントのリアルから、競技パラグライダーにおける「感情を殺す」メンタリティの重要性、そして次世代育成への熱い想いまで、パラグライダー競技の表と裏を余すところなく描き出す一時間だ。
なぜ今、Estefanoは飛ぶことに「やる気が出ない」のか?
冒頭、Gavinが「最近飛んでる?」と問いかけると、Estefanoは意外な答えを返す。「いや、今はチキンになってるんだ。年を取ったよ。」彼は新しいCCC(競技用グライダー)のルール変更を待っている状態だと説明する。「新しいグライダーにどんなルールが適用されるのか、様子を見ているんだ。」彼は今年はオープンクラスの大会を数戦こなす予定だが、メインの活動はモナルカと、もし実現すれば年末のPWCだけになるという。この「待ちの姿勢」は、彼がかつてのような「カウボーイ」スタイルのパイロットではなくなったことを示唆している。むしろ、戦略的に自分のリソースを管理する、成熟した競技者の顔が見える。
レッドブルX-Alpsのサポートクルーという地獄——「これはパラグライダーじゃない」
Estefanoが語るX-Alpsのサポート体験は、想像を絶するものだった。「朝6時に運転を始めて、夕方6時に終わる。その間、ずっと移動と待機の連続だ。」彼の役割はチームの食事担当。しかし、アスリートのTanguy Renoud-Goudは超偏食家で、5歳児のように好き嫌いが激しい。「彼に作るのは地獄だ。ファストフードしか食べたがらない。」一方で、チームメイトのTimやPedroは食通で、毎日「今日はタコスナイトか?」と聞いてくるという、笑い話のようなエピソードも飛び出す。
最も衝撃的だったのは、サポーターの一人がTanguyと一緒に山を走った後、完全にケトーシス状態になり、肌が黄色くなって「バート・シンプソンみたいになった」という話だ。「これはパラグライダーじゃない。今まで見たことのない世界だ。あいつらはエイリアンだよ。」Estefanoは競技パイロットとしての視点から、アスリートの行動を理解しつつも、サポート側の過酷さを痛感したという。特に、アスリートが40〜50km先の別の谷に着陸しても、車で回り道をするのに6時間かかるという地理的な制約が、彼の最大のストレス要因だった。「毎回、彼が着陸した瞬間に温かい食事を届ける。それが私の使命だった。」
新婚の妻Nataliaとの「新婚旅行」としてのX-Alpsは、彼女にとって二度と経験したくないものになったかもしれない。「彼女はほとんど私と離婚するところだったよ。」しかし、Estefano自身は「またやりたい」と言う。彼はすでに「Red Bull XLタコストラック」というアイデアを主催者に提案している。全チームを追いかけながらタコスを振る舞う移動式キッチンカーだ。
最終日、Aaron Durogatiが見せた「王者のメンタリティ」
X-Alps最終日、Estefanoは優勝者Aaron Durogatiの行動に圧倒されたという。「彼はX-Alpsのパイロットとしてではなく、クロスカントリー競技のパイロットとして飛んでいた。まるでスーパーファイナルの最終日のように、ひたすら登っては滑空し、登っては滑空する。谷を横切って山を回るような無駄な動きは一切なかった。」Gavinもこれに同意し、Aaronが前日に「勝つことだけを考えている」と断言したエピソードを紹介する。彼はリスクの高いラインを選び、複雑な空域を突破して勝利を掴んだ。
一方、常勝のChrigel Maurerは機材面で不利だった。Estefanoはある峡谷で、AaronとChrigelのグライダーの性能差を目の当たりにする。「Chrigelは他の選手より2km手前に着陸した。彼の魔法はいつも、その2kmの差を生み出すことだった。でも今年は天候に恵まれ、機材の差が露呈した。」この観察は、X-Alpsが単なる体力勝負ではなく、機材、戦略、そして冷静な判断力の総合戦であることを如実に示している。
PWC優勝の秘密——「自分の古い自分をホテルに置き去りにした」
Estefanoがブラジル・アンドラダスでPWCを制したのは、彼自身の言葉を借りれば「簡単だった」。それまでの最高順位は70位台だった彼が、なぜ優勝できたのか。鍵はフランスチームのコーチ、Julian Garciaとの出会いにあった。「Julianが来てくれて、私は言われた通りにした。毎日、『これが戦略だ。こうやって飛べ』と言われた通りに。そして驚いたことに、優勝したんだ。」
彼は自身の「カウボーイ」スタイルを完全に封印した。「自分の古い自分を箱に入れて、ホテルに置き去りにしたんだ。」Julianの指示は明確だった。「トップ15、トップ10、トップ5を毎日コンスタントに狙え。焦るな、無理するな。」そして、優勝のチャンスが訪れた瞬間、彼は「箱から古い自分を取り出し」、一気に加速して勝利を決めた。
機材面でも彼は独自のセッティングを採用していた。現在のトレンドとは逆に、中央のグループを非常に遅く、グループ2をやや速く、グループ3を最速に設定。自分の体重を活かしたこのセッティングが、上昇性能で圧倒的なアドバンテージを生んだ。「みんなイコライザーだの何だのと新しいものを発明するけど、俺のところに来て正しいサイズのグライダーを飛ばせばいいんだ。」
コントロール理論の実践——「ウサギを追いかけろ」
Julian Garciaが教える「コントロール理論」の核心は、自転車レースのペロトン戦略に似ている。「ツール・ド・フランスで、一人で逃げ切ってステージ優勝するのはほとんど不可能だ。勝者はペロトンの中から、最後のスプリントで生まれる。」パラグライダーも同じで、一人で飛び出して勝つ時代は終わった。グライダーの性能差が縮まった今、勝負は「いかに速く登るか」に集約される。
EstefanoとJulianがモナルカで実施したトレーニングは、この理論を実践的に体感させるものだった。一人のパイロット(「ウサギ」)を5分先行させ、残りのグループが追いかける。結果は予想通り、最初のサーマルで捕まえられた。「一人のウサギは必ず捕まる。だから、ウサギになるのは意味がない。」さらに、「王様ゲーム」では、サーマルの頂上にいる者が底にいる者をコントロールする。底にいる者だけがアタックを仕掛けられるというルールで、ポジションの優位性を体感させる。
「10の頭脳は1の頭脳より優れている。カウボーイが大きな大会で勝ったのは、もうずいぶん前のことだ。」Estefanoは、感情を排した客観的な分析の重要性も強調する。Julianはフライト後すぐのデブリーフィングを禁じている。「アドレナリンが残っている状態で分析しても、正しい判断はできない。」彼は夜通しかけて10〜12のトラックをターンごとに分析し、翌朝、感情を完全に排除したフィードバックを行う。これこそが、オーストリア人やイタリア人パイロットがX-Alpsで強い理由だとEstefanoは言う。「彼らは冷血だ。感情がパフォーマンスを殺す。」
フランス式育成システムと、メキシコの小さな革命
Julianのコーチングの効果は、早くも現れている。モナルカのクリニック参加者であるメキシコ人パイロット、Pabloは、クリニック直後の初めての国際大会(British Open)でシリアルクラス優勝を果たした。「彼は今まで一度も表彰台に立ったことがなかったんだ。」Estefanoはこれを、フランスの育成システムの成功例として語る。
フランスでは、パラグライダーは大学の専攻として認められている。選手は段階的にコーチが割り当てられ、Maxime PinotやCharles Cazauxといったトップコーチがジュニアを指導し、全体をJulianが統括する。「まるで野球のマイナーリーグからメジャーリーグまでのシステムだ。だからフランスは過去15年間、世界選手権を独占している。」このシステムの前では、アメリカやメキシコの「週末戦士」は太刀打ちできない。
しかし、メキシコにも希望の光はある。バジェ・デ・ブラボーのスクール「Skyrights」を運営するPotroは、若者に機材と知識を提供し、その代わりに学校の成績を提出させるというユニークなシステムを取っている。その成果が、今や世界を驚かせ始めている若手Andresだ。「彼はもうすぐ世界の新星になる。」Estefanoは、自分たちの世代の役割は「次世代のために道を舗装すること」だと語る。「俺は北米大陸で唯一PWCに勝ったパイロットかもしれない。でも、それを達成するのに20年かかった。Julianというコーチを得て、『ああ、こんなに簡単だったのか』と思った。だから、その知識を次の世代に伝えたい。」
プロとアマチュアの狭間で——パラグライダー競技のジレンマ
Gavinが投げかけた「このスポーツの正当性」という問いは、会話に深い影を落とす。「フランスではパラグライダーは正当なキャリアパスだ。でも他の国では、単なる趣味だ。」アメリカ女子チームの急成長を称賛しつつも、Gavinはその持続可能性に疑問を呈する。「彼女たちは個人の情熱で動いている。でも、それを維持するには膨大な時間と資金が必要だ。誰もスーパーファイナルの4年前の勝者を覚えていない。名声も金もない。ただの自己満足だ。」
Estefanoもこれに同意する。「資本主義の世界では、競技に出られるのは予算のある者だけだ。」彼はメキシコのサッカー代表を引き合いに出し、「何百万ドルも投資してもワールドカップに勝てない。一方、パラグライダーには一銭の支援もない」と皮肉る。しかし、彼は悲観的ではない。「私たちの世代の役割は、次世代がよりスムーズでプロフェッショナルな道を歩めるようにすることだ。」競技パラグライダーは、単なる「自己満足」から、組織的な育成システムへと移行しつつある。その小さな革命が、メキシコのバジェ・デ・ブラボーから始まっている。
まとめ
このエピソードは、パラグライダー競技の「華やかさ」の裏側にある、泥臭い現実と、それを乗り越えるための知性と情熱を描き出している。X-Alpsのサポートクルーとしての過酷な体験、PWC優勝を可能にした「コントロール理論」の実践、そしてフランス式育成システムの優位性と、メキシコの草の根的な取り組み。Estefano Salgadoの語り口は、シェフとしての経験に裏打ちされたユーモアと、トップアスリートとしての冷静な分析が絶妙に混ざり合っている。彼が最後に残した言葉——「私たちの時代は、次世代のために道を舗装することだ」——は、このスポーツの未来に対する希望と責任を静かに、しかし力強く示している。パラグライダーが「趣味」から「正当な競技」へと変貌する過程を、この一時間は見事に切り取っていた。