
#267 Bivvy and Adventure Flying by HANG GLIDER with Emi Carvalho
- ハンググライダーでビバーク飛行?ポルトガル人パイロット、エミ・カルヴァーリョが語る「ショートパック・ハンググライダー」の可能性 ポルトガル出身、現在スイス在住のエミ・カル...
- [3:33] 「ショートパック・ハンググライダー」とは何か?——なぜ今、注目すべきなのか エミが説明するには、標準的なハンググライダーはパッキングすると全長約5メートル(...
- ただし、空中での姿は標準的なハンググライダーと変わらない。エミが所有する機体は1989年製で、最近の点検でもケーブルを数本交換しただけでまだまだ現役だという。ただし、性能...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Cloudbase Mayhem Podcast / Gavin McClurg
ハンググライダーでビバーク飛行?ポルトガル人パイロット、エミ・カルヴァーリョが語る「ショートパック・ハンググライダー」の可能性
ポルトガル出身、現在スイス在住のエミ・カルヴァーリョは、ハンググライダーとパラグライダーの両方を操る「バイウィングアル」パイロットだ。彼が今回のエピソードで熱く語るのは、通常は車の屋根に載せるような長大なハンググライダーを、わずか2メートルにまで短縮できる「ショートパック・ハンググライダー」を使ったアドベンチャー飛行とビバーク旅の魅力。ホストのギャビン・マクラーグも「そんな存在すら知らなかった」と驚くこのテーマは、ハンググライダーというスポーツの新たな可能性と、パラグライダーとの比較、そして「飛ぶこと」の本質的な喜びについての深い考察へと広がっていく。
「ショートパック・ハンググライダー」とは何か?——なぜ今、注目すべきなのか
エミが説明するには、標準的なハンググライダーはパッキングすると全長約5メートル(15フィート)にもなる長いチューブ状のバッグになる。これを車の屋根に載せるのが一般的だが、ケーブルカーやバス、電車での移動は困難を極める。ところがショートパック・ハンググライダーは、チューブを3分割できる構造になっており、パッキング時の長さがわずか2メートルに収まる。これは「ファミリーサイズのスキーバッグ」ほどのサイズ感で、背負って運べるのだ。
ただし、空中での姿は標準的なハンググライダーと変わらない。エミが所有する機体は1989年製で、最近の点検でもケーブルを数本交換しただけでまだまだ現役だという。ただし、性能面では最新の競技用ハンググライダーには及ばず、どちらかと言えば「初心者から中級者向け」のレベルに相当する。それでも、滑空比は10対1程度と、当時のパラグライダー(3〜5対1)を大きく上回っていた。
このコンセプト自体は新しいものではない。1980年代、パラグライダーがまだ発展途上だった時代に、あるメーカーが「ハイク&フライ」用として開発したのが始まりだ。当時は15キロ程度のパラグライダーに対して、25キロと重いながらも圧倒的な滑空性能を誇るハンググライダーは、冒険飛行の有力な選択肢だった。しかしその後、パラグライダーの性能が飛躍的に向上し、競技用パラグライダーなら容易に10対1以上の滑空比を達成できるようになったことで、ショートパック・ハンググライダーの存在意義は一旦薄れた。
だがエミは言う。「今こそ、このアドベンチャー型のハンググライディングに再びスポットライトが当たるべきだ」と。
「うつ伏せで飛ぶ」という体験——パラグライダーとの決定的な違い
エミがハンググライダーを選ぶ最大の理由、それは「ボディポジション」だ。「鳥は座って飛ばない。うつ伏せで飛ぶ。それがハンググライディングの一番セクシーなところ」とギャビンが語ると、エミも深く同意する。
パラグライダーは「指の延長」で操る感覚だが、ハンググライダーは「翼が自分の体の一部になる」感覚だという。翼が体のすぐ近くにあり、オートバイを運転するように体重移動でコントロールする。その一体感は、スーパーマンやネオが空を飛ぶイメージに近いとエミは表現する。
もちろん、スピードや滑空比の違いもある。しかし何より「うつ伏せで飛ぶ」という体験そのものが、ハンググライディングを特別なものにしている。この身体感覚の違いは、単なる「趣味の選択」を超えて、空を飛ぶことの本質的な喜びに直結しているのだ。
どちらを先に学ぶべきか?——ハンググライダーとパラグライダーの学習曲線
エミは「ハンググライダーを先に学んで本当に良かった」と断言する。その理由は、パラグライダーの方が圧倒的に学びやすいからだ。初心者ライセンス(IPPI 3レベル)を取得するのに、パラグライダーなら約10日。一方ハンググライダーは、その2倍以上、場合によってはそれ以上の時間がかかる。
「スキーとスノーボードの関係に似ている」とエミは例える。もし先にパラグライダーを始めていたら、おそらくハンググライダーに挑戦しようとは思わなかっただろう。なぜなら、一度ある程度のレベルに達したスポーツがあると、同じ場所で再び初心者に戻るのは心理的なハードルが高いからだ。
学習段階でのリスクも異なる。パラグライダーは翼が頭上高くにあるため、着地時に地面との接触をあまり気にしなくてよい。高齢者でも学べるのはそのためだ。一方ハンググライダーは、翼が地面に近いため、着地時にバーやノーズ(翼の先端)が地面に接触しやすく、顔面を打つリスクがある。だからハンググライダーパイロットはほぼ全員がフルフェイスのヘルメットを着用するのだ。
しかし、その後のリスクの性質は異なる。パラグライダーでは翼の「 collapse( collapse )」や「 stall(失速)」が初心者にとって重大な危険だが、ハンググライダーではアルミやカーボンファイバーの骨格構造を持つため、 collapse は起こらない。失速に関しても、機体が「ノーズヘビー」に設計されているため、失速しても自動的にノーズが下がり、飛行を回復する。高度があれば、2回目や3回目のフライトで失速を経験しても問題ないという。
着陸の難しさ——ハンググライダーでのビバーク飛行の現実
ギャビンが最も気にしていたのは、ハンググライダーでのビバーク飛行における着陸の問題だ。パラグライダーならほとんどどこにでも着陸できるが、ハンググライダーはより平坦で広い場所が必要になる。X-Alpsのようなレースで見られるような「壁に張り付くような」タイトな着陸は、ハンググライダーではさらに難易度が高い。
しかしエミは、いくつかの対策を挙げる。第一に、機体の選択。高性能な競技用ハンググライダーは滑空性能が高く、地面効果で着陸時に50メートルも滑ってしまう。一方、性能の低い中級機種なら、より短い距離で着陸できる。第二に、ドラグシュート(減速用パラシュート)の使用。第三に、斜面を「上りながら」着陸する技術。パラグライダーが斜面を横切って着陸するのに対し、ハンググライダーは斜面を真っ直ぐ上るように着陸する。これにより、翼の片側が地面に接触するリスクを減らせる。
「上り斜面への着陸」は、実はハンググライダーでは何十年も前から標準的な技術だった。パラグライダー界でクリューガーやパトリックが「フライ・オン・ザ・ウォール」着陸を広めたのは、ハンググライダーの技術に触発された部分もあるのではないかとエミは推測する。ハンググライダーはスピードの調整幅が広いため、最終進入で加速し、そのエネルギーを上向きの角度に変換するのが容易なのだ。
ビバーク戦略——「谷に降りる」という選択肢
パラグライダーでのビバーク飛行といえば、山頂付近に「トップランディング」して、そこでキャンプし、翌日同じ場所から離陸するのが理想とされる。しかしハンググライダーの場合、山頂の凹凸のある地形での着陸は非常にリスキーだ。翼が地面に近いため、少しの不整地でもクラッシュにつながる。
そこでエミが実践するのは、あえて谷底に降りる戦略だ。谷底なら夕方には谷風が吹くことが多く、着陸が容易になる。その後、ハイキングで登るか、ケーブルカーやバスなどの公共交通機関を使って再び山頂へ向かう。パラグライダーから見れば「それは本当のビバークじゃない」と思われるかもしれないが、ハンググライダーにとっては、機材を運ぶだけでも大きなロジスティクス上の挑戦なのだ。「それでも十分、ビバークの感覚は味わえる」とエミは言う。
また、ハンググライダーはパラグライダーと違い、1日に複数回のフライトは現実的ではない。パッキングとアンパッキングに約1時間かかるため、1日1回のフライトが精一杯だ。そのため、朝食をゆっくり取り、ケーブルカーで上がり、コンディションを見極めてから飛ぶという、より悠然としたスタイルになる。
天気と地形で選ぶ——パラグライダーか、ハンググライダーか
エミは天気予報の専門家でもある。彼の選択基準は明確だ。「北風の日は、迷わずハンググライダーを選ぶ」。スイス・ルツェルン近郊の氷河(標高約3,000メートル)へはケーブルカーでアクセスでき、ショートパックなら問題なく運べる。そこから東か西へ、着陸可能なスポットを熟知しているからだ。
一方、風向きが変わりやすい不安定な状況では、パラグライダーを選ぶ。ハンググライダーの離陸には、ある程度の向かい風が必要だ。追い風や横風での離陸は、翼が地面に接触するリスクが高く、非常に危険。パラグライダーなら、より多様な風向きに対応できる。
「もしどちらか一つだけを選ばなければならないなら、パラグライダーを勧める」とエミは率直に言う。パラグライダーの方が汎用性が高く、より多くの条件、より多くの場所で飛べるからだ。しかし「うつ伏せで飛ぶ感覚」をどうしても味わいたいなら、ショートパック・ハンググライダーは良い選択肢になる。ロジスティクスの負担はタンデム用パラグライダーキットと同程度で、都会のアパートのベッド下にも収納できる。
ハンググライディングの未来——「アドベンチャー型」が救うか?
ハンググライディングは1960〜80年代に隆盛を極めたが、パラグライダーの登場以降、参加者数は減少の一途をたどっている。パラグライダーは「バッグ一つで、走って飛べる」手軽さが魅力で、デックウィングなら1キロ、エックスアルプスキットでも2〜3キロ。ハンググライダーがこの手軽さで競争するのは不可能だ。
その結果、ハンググライディングは「性能」の方向に特化していった。競技用の高性能機は滑空比15〜25対1を誇るが、ロジスティクスはますます困難になる。しかしエミは、ショートパック・ハンググライダーが新たな可能性を開くと確信する。
「この1年だけでも、無人島での飛行、氷河からのフライト、凍った湖への着陸、熱気球との共演を経験した。どれも特別に難しいフライトではない。しかし標準的なハンググライダーではロジスティクスが難しすぎて、そもそも挑戦すらできなかった」
アメリカのハンググライダー雑誌にも、カリフォルニアのインストラクターが同様の主張を寄稿し、コミュニティ内で議論を呼んだ。既存のハンググライダーパイロットの多くは「ショートパックがスポーツを救うとは思えない」と懐疑的だが、エミは「新しい層の参加者を呼び込む可能性は十分にある」と反論する。パラグライダーでも「ハイク&フライ」が普及したのは2000年代に入ってからだ。今では学校に来る生徒の3人に1人がハイク&フライを目的にしている。同じことがハンググライディングにも起こり得るという。
もし時間を巻き戻せるなら——エミの後悔と教訓
エミは11年前の自分にこう伝えたいと言う。「もっと早くショートパック・ハンググライダーを買え」。価格は標準機と変わらず、飛び方も同じ。ただパッキング方法が違うだけだ。滑空比で多少の劣位はあるが、それを補って余りある機動性がある。
ただし、パラグライダーも並行して続けることの価値は認めている。新しい場所に初めて行くときは、まずパラグライダーで飛んで地形や風の特性を理解し、その後でハンググライダーでの本格的な冒険に臨む——この「二刀流」が、エミの冒険の質を高めているのだ。
まとめ
このエピソードが残すものは、「飛ぶこと」の多様性と、技術の進化がもたらす新たな可能性への驚きだ。パラグライダー全盛の時代にあって、あえて「うつ伏せで飛ぶ」という原初的な体験を追求するエミの姿勢は、単なる趣味の選択を超えて、人間が空と向き合う本質的な方法論を問いかけている。ショートパック・ハンググライダーは、パラグライダーの手軽さとハンググライダーの身体性の間にある「隙間」を埋める存在だ。そしてその隙間こそが、これまで誰も挑戦しなかった冒険の扉を開く鍵なのかもしれない。ギャビンが最後に漏らした「私も飛んでみたい」という言葉は、リスナー全員の心の声だったに違いない。