
#264 – A Monster record downwind wave flight across the US with Gordon Boettger
- 夢の40年——無動力グライダーでアメリカ大陸を横断する1112マイルの記録 2025年12月19日、ゴードン・ベトガーとブルース・キャンベルは、ネバダ州ミンデンを午前3時...
- [0:00] 「40年来の夢」——なぜこの飛行が特別なのか ゴードンはこの飛行を「40年以上にわたる夢」と語る。その夢とは「山岳波(マウンテンウェーブ)で可能な限り高く上...
- 今回の飛行の鍵となったのは「ゾーナルフロー」と呼ばれる気流の状態。ジェット気流がほぼ真西(270度)から一直線にロッキー山脈まで流れるこのパターンは、非常に珍しい。ゴード...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Cloudbase Mayhem Podcast / Gavin McClurg
夢の40年——無動力グライダーでアメリカ大陸を横断する1112マイルの記録
2025年12月19日、ゴードン・ベトガーとブルース・キャンベルは、ネバダ州ミンデンを午前3時に離陸し、ロッキー山脈を越えてカンザス州ドッジシティまで1112マイル(約1790km)を無動力で飛び切った。これは「ダウンウィンド・ウェーブ」という極めて特殊な気象条件を利用した飛行としては史上最長距離であり、40年来の夢がついに現実となった瞬間だった。ホストのギャビン・マクラーグとの会話は、技術的な緻密さと少年のような興奮が同居する、まさに「伝説級の冒険」の空気に満ちている。
「40年来の夢」——なぜこの飛行が特別なのか
ゴードンはこの飛行を「40年以上にわたる夢」と語る。その夢とは「山岳波(マウンテンウェーブ)で可能な限り高く上がり、風下に向かって可能な限り遠くへ飛ぶこと」だ。彼が住むシエラネバダ山脈の麓は、この種の飛行に理想的な場所だが、それでも条件が揃うのは年に1〜2回、あるいは2〜3年に一度という極めて稀な現象だ。
今回の飛行の鍵となったのは「ゾーナルフロー」と呼ばれる気流の状態。ジェット気流がほぼ真西(270度)から一直線にロッキー山脈まで流れるこのパターンは、非常に珍しい。ゴードンは「サーファーがナザレの大波を待つのと同じ」と表現し、1週間前から気象モデルを凝視していたという。さらに、彼が「夜間飛行を可能にする」と強調するナイトビジョンゴーグル(NVG)の存在が、この飛行を現実のものにした。冬の短い日照時間に縛られず、12月という一年で最も日が短い時期に離陸できたのは、NVGのおかげに他ならない。
ゴードンはこの飛行を「ヨアヒム・クットナーの夢も叶えた」と語る。クットナーはNCAR(米国大気研究センター)の気象学者で、ドイツで山岳波を発見した人物。103歳で亡くなるまで山岳波研究に情熱を注ぎ、「グライダーでカンザスに着陸する」というアイデアを半世紀以上前から提唱していた。ゴードンは「彼の夢と自分の夢、そして多くの人の夢を同時に叶えた」と感慨深く振り返る。
午前3時9分の離陸——準備と決断のドラマ
離陸時刻は午前3時9分(太平洋標準時)。ゴードンは「もう少し早く離陸したかったが、機内に積み込む装備の量が尋常じゃない」と苦笑する。酸素システム、ナイトビジョンゴーグル、スターリンク衛星通信、複数のフライトコンピューター——これらすべてを狭いコックピットに収める作業は、それだけで数時間を要する。
特筆すべきは、ゴードンが離陸の前日に回収チームを出発させていたことだ。17回の全米ソアリングチャンピオンであるゲイリー・イトナーがトレーラーを牽引し、木曜日の朝6時にミンデンを出発。その夜、グランドジャンクションに到着したという連絡を受けたゴードンは「これで後戻りできなくなった」と語る。この「先に回収チームを送る」という戦略は、飛行そのものと同じくらい大胆な決断だった。
離陸時の状況は決して穏やかではなかった。格納庫では無風だったが、滑走路に出ると突風32ノットの70度クロスウィンド。2人が翼を押さえなければならないほどの強風の中、ゴードンは「もう待っても仕方ない」と判断し、強行離陸した。直後のロータ(乱気流)で機体は激しく揺さぶられ、「なぜこんなことをしているんだ」と自問したという。
山岳波の科学——「ゾーナルフロー」が生み出す奇跡
山岳波(マウンテンウェーブ)とは、強風が山脈にぶつかったときに風下側に発生する波状の気流だ。ゴードンは「川の中の岩の下流にできる波紋と同じ」と説明する。この波の「上昇気流部分」に乗れば、グライダーはエンジンなしで高度を維持し、あるいは上昇し続けることができる。
通常の山岳波飛行は、一つの山脈に沿って往復する「アップダウン」が主流だ。しかしゴードンが挑んだ「ダウンウィンド」飛行は、次々と異なる山岳波システムを渡り歩く必要がある。シエラネバダで上昇し、風下に飛び出し、次の山脈(例えばトヤベ山脈)で再び上昇気流を捕まえる——この繰り返しだ。
今回の飛行で決定的だったのは、気象予測ソフト「SkySight」の存在だ。開発者のマット・スカダーによるこのツールは、18のウェイポイントをIFR(計器飛行方式)飛行計画に組み込むことを可能にした。ゴードンは「SkySightが示す上昇気流のポイントをそのまま飛行計画に落とし込んだ」と語る。特に危険だったのは、ユタ州モンティチェロ周辺の「ソフトスポット」。ここで高度を確保できなければ、コロラド州デュランゴに不時着する可能性が高かった。ゴードンは「24,000フィート以上あれば大丈夫だと読んでいた」と言い、実際にその通りになった。
160ノットの地上速度——「スケートボードで坂を下る」感覚
シエラネバダのアップダウン飛行が「髪の毛が逆立つような緊張感」だとすれば、ダウンウィンド飛行は「スケートボードで坂を下るような快適さ」だとゴードンは表現する。対気速度60〜65ノットでも、65ノットの追い風を受ければ地上速度は150〜160ノット(時速約280km)に達する。滑空比は驚異の100:1を超え、「まるで地面を食べているようだ」と笑う。
しかし、この快適さの裏には別種のストレスが潜む。上昇気流を離れると、毎秒10〜15メートルもの強烈な下降気流に襲われる。ゴードンは「機首を下げて、そのゾーンから素早く脱出しなければならない」と説明する。SkySightが示す濃い青色の領域(強い下降気流)を避けながら、次の上昇気流を探す——この「シェイク・アンド・ジブ(揺れ動き)」の連続が、飛行の本質だった。
高度28,000フィート(約8,500m)が今回の上限だった。これはRVSM(縮小垂直間隔最小化)と呼ばれる航空管制の制約によるもの。29,000フィート以上は航空機にデュアルオートパイロットなど厳格な装備が義務付けられており、グライダーでは対応できない。ゴードンは「もしRVSM空域に入ることができれば、38,000〜40,000フィートまで上昇し、さらに200〜400マイルは飛べる」と将来の可能性を示唆する。
夜間飛行の現実——氷と闇と疲労との戦い
ナイトビジョンゴーグル(NVG)の使用は、この飛行を可能にした最重要技術の一つだ。しかしゴードンは「NVGは決して楽な道具ではない」と強調する。視野は狭く、閉所感があり、慣れるまでに2時間はかかるという。さらに深刻だったのは、キャノピーの内側が完全に氷結したこと。クリアビジョンパネルとキャノピーの間にわずかな隙間があり、そこに侵入した湿気が凍りついた。ゴードンは「NVGを使っても氷で覆われたキャノピーは見えない。完全に計器飛行になる」と当時の状況を語る。
この状態で、地上速度160ノットから突然5ノットに落ちる「波の駐機(ウェーブパーキング)」を繰り返す。フライトコンピューターは混乱し、ForeFlightとLXナビゲーターの表示が食い違う。酸素システムの管理、ATCとの交信、波の維持——これらすべてを同時に処理する脳の負荷は「尋常じゃない」とゴードンは言う。
離陸から最初の3時間が最も過酷だった。高度24,000フィートを超えると気温は指数関数的に低下し、「20,000フィートまで下がると『ああ、暖かい』と感じる」という皮肉な表現が、いかに過酷な環境だったかを物語る。
「あれ、グライダー?」——航空管制とのユニークな交流
IFR飛行計画で18,000フィート以上のクラスA空域を飛行するグライダーは、航空管制官や他のパイロットにとって珍しい存在だ。ゴードンは、デンバーセンターとの交信で起きたエピソードを嬉しそうに語る。ある旅客機のパイロットが「デンバー、質問があるんだけど、そのグライダーって、本当にグライダーなのか?」と尋ね、管制官が「そうだ。レイクタホ地域から飛び立って、現在28,000フィート、ドッジシティを目指している」と答えると、相手は「なんてこった」と絶句したという。
さらに、スターリンク衛星通信を使ったライブ配信も話題を呼んだ。26,000フィートからInstagramでライブ配信を始めると、オーストラリア、ノルウェー、ドイツから視聴者が殺到。Flight Awareで飛行経路を追跡する人々も続出し、「グライダーがロッキー山脈を越えている」という情報が瞬く間に広まった。ゴードンは「これでソアリング(滑空飛行)が多くの人に認知された」と手応えを語る。
未来への展望——2,500kmへの可能性
今回の飛行は1112マイル(約1790km)で、ダウンウィンド・ウェーブ飛行としては史上最長記録となった。しかしゴードンの視線はすでにその先にある。彼が描く次のシナリオは、ロッキー山脈を越えた後にサングレ・デ・クリスト山脈沿いを南下し、ニューメキシコ州アルバカーキ付近で可能な限り高く上昇。その後、カンザス州の平原地帯でサーマル(熱上昇気流)を利用してさらに東へ進むというものだ。
「もしRVSM空域に入れれば、38,000〜40,000フィートからスタートできる。そうすれば、さらに200〜400マイルは伸びる」とゴードンは計算する。サーマルを組み合わせれば、2,000km、さらには2,500kmのダウンウィンド飛行も夢ではない。現在の直線距離世界記録は、クラウス・ウルマンがアルゼンチンのアンデス山脈沿いで達成した約2,300kmだが、これはあくまで山脈に沿った飛行であり、純粋なダウンウィンドではない。
ゴードンは「この飛行が可能な場所は、世界でここしかない」と断言する。南米は海に落ちてしまう。カナダのロッキー山脈も可能性はあるが、ネバダ州のような「中継点」となる山脈群がない。アメリカ西部の独特な地形——シエラネバダ、トヤベ、ワサッチ、そしてロッキー——が、この種の飛行を唯一可能にしている。
「なぜこんなことを」と「やってよかった」の間で
ギャビンが「一週間経って、何が一番心に残っている?」と問うと、ゴードンは少し間を置いて答える。「いまだに信じられない。パラグライダーであれ、グライダーであれ、自然のエネルギーをこうやって利用できることが、本当に不思議でならない。」
彼は飛行中の感情の起伏についても率直に語る。「悪魔が肩に乗って『全部ダメになればいいのに』とささやくんだ。そうすれば、もう準備に悩まなくて済むから。」しかし、その苦しみを乗り越えた先にある達成感こそが、すべてを報いてくれる。着陸した瞬間、機体も自分も無事で、目的地にたどり着いた——その感覚は「何物にも代えがたい」と彼は言う。
そして、回収チームのゲイリー・イトナーが、着陸からわずか5分後に「あと5分で着く」と電話してきたエピソードを紹介する。ミンデンからカンザス州ドッジシティまで、トレーラーを牽引して走り続けたイトナー。ゴードンは「彼がいなければ、この飛行は成立しなかった」と感謝を忘れない。
まとめ——夢を現実に変えた男の物語
このエピソードが特別なのは、単なる記録達成の報告ではないからだ。ゴードン・ベトガーという一人のグライダーパイロットが、40年にわたる夢を、最新技術と気象科学、そして周到な準備と勇気で現実に変えた物語である。ナイトビジョンゴーグル、スターリンク、SkySight——これらのテクノロジーが「不可能」を「可能」に変えた一方で、午前3時の凍てつくコックピットで氷に覆われたキャノピーと格闘する人間の脆さと強さも、この物語の核心だ。
「まだ信じられない」と繰り返すゴードンの口調には、達成感よりもむしろ驚きが満ちている。そして彼はすでに次の夢——2,500kmのダウンウィンド飛行——を見据えている。このエピソードは、限界を押し広げる人間の営みの美しさと、それを可能にする自然の驚異を、これ以上ない形で伝えてくれる。