
#257- Chrigel Maurer and the Safety Debate
- パラグライダー競技の安全論争:クリゲル・マウラーが語る「人間は競技中にバカになる」という本質 2023年、ブラジルのコステロで開催された世界選手権中に起きた死亡事故をきっ...
- [3:00] 安全とパフォーマンスの振り子——歴史が教える循環 クリゲルは1998年にパラグライダーを始めたが、その頃はすでに最も危険な時代は過ぎていたという。1995〜...
- 「トップスピードを制限するルールは受け入れるのが難しいステップだったが、結果的に事故を減らした」とクリゲルは振り返る。しかし現在、CCCグライダーは再び非常に剛性が高く速...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Cloudbase Mayhem Podcast / Gavin McClurg
パラグライダー競技の安全論争:クリゲル・マウラーが語る「人間は競技中にバカになる」という本質
2023年、ブラジルのコステロで開催された世界選手権中に起きた死亡事故をきっかけに、パラグライダー競技界は激しい安全論争の渦中にある。ソーシャルメディアではCIVL(国際競技統括団体)への辞任要求が噴出し、組織の責任が厳しく問われている。しかし、2年前のフランス世界選手権では10件以上のインシデントが発生しながら、当時は「パイロットの技量と判断力」の問題として片付けられていた。このダブルスタンダードに違和感を覚えたクリゲル・マウラー(パラグライダー界のレジェンドであり、レッドブルXアルプス4連覇の覇者)が、トレーニング中にホストのギャビン・マクラーグに8分間のボイスメモを送り、そこからこの緊急エピソードが生まれた。感情論が飛び交うオンラインの議論とは一線を画し、20年の競技経験とメーカー開発者としての視点から、冷静かつ本質的な対話が繰り広げられる。
安全とパフォーマンスの振り子——歴史が教える循環
クリゲルは1998年にパラグライダーを始めたが、その頃はすでに最も危険な時代は過ぎていたという。1995〜96年の競技用ウイングは極めて危険だったが、その後より安全で軽量な方向へと舵が切られた。2008〜09年にはトップスピードが時速75〜80kmに達するグライダーが登場し、その後シャークノーズのコンセプトによってさらに剛性と速度が増した。この流れを受けて導入されたのがCCCクラスだ。オープンクラスの禁止とCCCクラスの開発は、ピーター・ヒーターの死亡事故が直接の引き金となった。
「トップスピードを制限するルールは受け入れるのが難しいステップだったが、結果的に事故を減らした」とクリゲルは振り返る。しかし現在、CCCグライダーは再び非常に剛性が高く速くなり、強い条件下では「恐怖と良い感覚の間で常にストレスを感じる」という。彼は自身の感覚をこう分析する:CCCグライダーで飛んでいる時間のうち、40%は「ややストレス」、50%は「まあ大丈夫」、そして10%は「本当に限界を超えている」と感じる。アルプスではこの「限界」の割合が15〜20%に跳ね上がり、フラットランドでは2〜5%に下がる。「競技でより多くの楽しみと余裕を得るためには、このストレスフルな時間の割合を減らす必要がある」と彼は主張する。
この「安全とパフォーマンスの振り子」は彼の20年のキャリアを通じて常に存在した。「事故の多い年には皆が安全について考え、叫ぶ。事故の少ない年には皆が効率と機材の性能を求めて、安全に目を向けなくなる」。この循環を彼は初心者の頃に先輩パイロットから教えられたという。
「人間は競技中にバカになる」——自己責任の限界
ギャビンは、モトクロスやダウンヒルマウンテンバイク、F1など他の危険スポーツとの比較を持ち出す。これらのスポーツではトップアスリートがトレーニングを非常に真剣に取り組み、リスクを軽視しない。F1ドライバーがレース当日にいきなり車に飛び乗ることはない。しかしパラグライダー競技では、多くのパイロットが「コンペに現れてCCCグライダーで飛び、帰って次のコンペまでしまい込む」という現実がある。
クリゲルはここで核心的な問題を指摘する。「アスリート、つまり人間は競技中にバカになる。これは私自身も知っている。ハードな競技の中では、自分自身ではなくなってしまう」。レッドブルXアルプスのようなチーム戦では、チームメイトがストップをかけられる。しかし通常のフライング競技では、一度空中に出れば自分が自分の上司だ。「人間は競技中にバカになる」という現象が、すべてのスポーツ、特にパラグライダー競技における大きな問題だと彼は言う。
ギャビンもこれに同調する。彼はミートディレクターとして、近年「安全の責任が組織や主催者にどんどん押し付けられている」傾向を危惧する。マーティン・シェーレがグリンデルワルドのワールドカップで行った講演に触れ、「タスクが設定され、ミートが開催されているからといって、パイロットが自分の安全を無視して『よし、レースに行こう』となるのは間違った方向だ」と語る。パイロット・イン・コマンドとして、最終的な責任は常にパイロット自身にあるべきだというのが彼の信念だ。
数字が語る現実——競技事故とレクリエーション事故の非対称性
ギャビンはXCマガジンのエド・ユーイングから得た衝撃的な統計を紹介する。スイスでは今年(2023年)、パラグライダーによる死亡者が39人に上った。フランスでも同程度の数字だ。そして「そのほとんどすべてがレクリエーショナルな飛行での事故であり、競技中の死亡はせいぜい1〜2件」だったという。この数字は毎年ほぼ変わらず、珍しいことではない。
「競技中の事故はより公的なので注目されるが、このスポーツ全体が本質的に危険であるという事実が議論の中で見失われている」とギャビンは嘆く。クリゲルはその根源をフライトスクールの教育に求める。「フライトスクールでは『パラグライダーは世界で最も安全なスポーツ』という感覚を植え付けられる。しかしそれは真実ではない。離陸して2秒後にはかなりの高さにいて、危険になりうる」。彼は登山を例に挙げる。「登山を始めるとき、ヘルメットを着用するよう教えられる。それは落石が本当に危険だからだ。しかしパラグライダーでは間違ったマインドセットで飛び始め、それが競技にまで持ち越される」。
ルールのジレンマ——安全と冒険のトレードオフ
「もし主催者に安全の責任を負わせすぎれば、主催者は競技会を開かなくなるか、安全だが退屈なエリアでしか開催しなくなる」とクリゲルは警告する。「曇っているだけで飛ばない」というルールが増えれば、結果的に「非常に退屈な条件での競技しか残らない」。しかし一方で、安全に関する対話を増やし、トレーニングと機材に関するルールを強化することで、より安全なスポーツにできる可能性もある。
ギャビンはレッドブルXアルプスを例に挙げる。今年は「危険すぎる」「フェルディ(レースディレクター)がその日のフライトを中止すべきだ」という声が多く上がったが、彼はこれに強く反対する。「他の危険スポーツでは『誰かが死んだからすべてを止めよう』という発想にはならない」。彼はシモーネ(おそらくシモーネ・モランディーニ)との会話を引用し、「あの日は彼にとっては完全に許容範囲内だった。彼はそのためにトレーニングしてきた」と語る。問題は「32人のレーサー全員がその日飛ぶべきかどうか」であり、それは各パイロット自身が判断すべきことであって、フェルディが決めることではないというのが彼の立場だ。
クリゲルはここで「マーシャル委員会」というアイデアを提案する。競技には参加しないが空中で監視するパイロットたちが、危険を察知して明確な判断を下せる仕組みだ。「自分が競技パイロットだと、危険に気づいても責任を感じなかったり、反応しなかったりする」。この第三者による安全監視が一つの解決策になりうると彼は考える。
コミュニケーションの革新——匿名性が変える安全文化
フライマスタートラッカーに導入された新機能について、ギャビンは肯定的に評価する。以前は無線で「レベル3」をコールする必要があったが、それには「着陸しなければならない」というプレッシャーと「自分だけがコールするのは恥ずかしい」という文化的な障壁があった。新しいシステムではボタン一つで匿名でレベルを報告できる。「文化を変えるのは非常に難しいが、別の道具を与えれば人は変わる」とギャビンは言う。
クリゲルはさらに、ブリーフィングでのコミュニケーションの重要性を強調する。「競技前に何がOKで、どこで止めるべきかを明確に話せば、パイロットは準備できる」。彼はクロスカントリー競技における「レベル1、2、3」の概念を引き合いに出し、「レベル1では無線で会話できるが、レベル3ではパイロットはコミュニケーション不能になる」と説明する。この段階的な危険度の認識を、より明確に共有する必要があるという。
機材の進化が生む逆説——全員が同じ不利を背負う愚かさ
クリゲルはアドバンス社のデザイナー・開発者としての経験から、機材の問題にも切り込む。メーカーは性能、安全性、ハンドリング、軽量化において驚くべき進歩を遂げてきた。しかしその一方で、「効率」の方向に強く押し進められた結果、妥協も生まれている。新しいハーネスはバックプロテクションが非常に小さく、ハイクアンドフライ用のエアバッグ式プロテクションも、パイロットが「空中でやる」と言いながら実際には膨らませないまま飛ぶことがある。
ここでクリゲルは逆説的な指摘をする。「もし全員に安全を向上させるルールがあれば、すべてのアスリートがより安全になり、誰も不利にならない。しかし、全員が高性能製品を必要とすれば、全員が安全面で不利を背負い、誰も性能面でアドバンテージを得られない。これは愚かなことだ」。この現象はハンググライダーでも同じ問題を引き起こし、性能の微増的な向上がコストを押し上げ、結局ごく少数のパイロットしか機材を扱えなくなった。
現在、クロスカントリー競技をリードするメーカーは実質2社だけだ。クリゲルが現役だった頃は20社がチームを持ち、開発を競っていた。「あの頃はモデルに大きなモチベーションがあった。今はそれが消えた」。ハイクアンドフライの分野では6〜7社が存在するが、彼らも「より複雑で重く、少しでも性能を上げる」方向に進んでいる。「ルールがなければ、すぐに高性能Dグライダーが登場し、ハーネスはより重く複雑で、おそらくより安全でなくなる。アスリートはさらにトレーニングを強いられる」。
ツーライナーグライダーの危険性——安定と崩壊のパラドックス
クリゲルは最後に、現在の競技用グライダーの主流であるツーライナー(2本のラインで構成されるグライダー)の本質的な危険性について詳しく説明する。「飛んでいる間はより安定し、安全だ。しかし、いったん崩壊(コラプス)が起きると、より強い乱気流が必要で、崩壊はよりアグレッシブになる」。適切な反応ができれば問題ないが、ブレーキ操作がワンテンポ遅れると、高圧による大きなクラバット(ラインの絡まり)が発生しやすい。アスペクト比が高いほど、その力は強烈になる。
彼は自身の経験を率直に語る。「8〜10メートルのサーマル(上昇気流)を扱うには多くの練習が必要だ。時々、自分がビギナーのように感じることもある。しかし私はツーライナーで年間150時間、通常時は年間300時間を20年間飛び続けてきた」。この言葉には、経験の重要性と同時に、その経験さえあれば十分とは言えない危険性がにじむ。
まとめ——建設的な対話への希望
このエピソードが聴き手に残すのは、単なる「安全論争」の賛否ではない。クリゲル・マウラーという、競技者としても開発者としても頂点に立つ人物が、自身の脆弱性を認めながら「完璧な解決策はない」と語る姿勢そのものに重みがある。彼が最後に強調したのは「より大きな対話」の必要性だ。トップパイロット、競技パイロット、メーカー、主催者の間で、互いの立場を理解し合う対話が不足しているという認識は、ソーシャルメディア上の断定的な非難合戦とは対極にある。
「人間は競技中にバカになる」——この自己認識から出発し、ルール、トレーニング、機材、コミュニケーションの各側面で何ができるかを冷静に検討する姿勢こそが、このエピソードの真価だ。感情論ではなく、20年の経験と内省から紡がれた言葉の一つ一つが、パラグライダー競技の未来を考える上での貴重な羅針盤となる。そして、このスポーツが本質的に危険であるという前提を忘れずに、いかにして「楽しく、挑戦的で、可能な限り安全な」競技を維持していくか——その問いに対する答えは、おそらくこの対話の中にこそある。