
Service Request #3: Why Is There So Much Litter in San Francisco?
- サンフランシスコのゴミ箱問題:10年かけてたどり着いた「デザインだけでは解決しない」という真実 サンフランシスコの路上にゴミ箱が少ない——いや、実は多い——という逆説から...
- [0:00] なぜゴミ箱が見つからないのか?——ロマン・マーズの素朴な疑問 エピソードは、ロマン・マーズがサンフランシスコのノースビーチ地区でピザを食べた後の何気ない体験...
- デラニー・ホールは、この「誰がゴミ箱の配置を決めているのか」という疑問を公共事業局に持ち込む。そこで明らかになるのは、サンフランシスコには約3,000箇所のゴミ箱設置場所...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
99% Invisible / Roman Mars
サンフランシスコのゴミ箱問題:10年かけてたどり着いた「デザインだけでは解決しない」という真実
サンフランシスコの路上にゴミ箱が少ない——いや、実は多い——という逆説から始まったこのエピソードは、都市の清掃問題をめぐる政治、行動心理学、そして公共調達の迷宮を巡る旅となる。99% Invisibleの創設者ロマン・マーズが自ら「サービスリクエスト」として持ち込んだこの疑問は、単なるゴミ箱のデザインや配置の話を超えて、都市が「基本的なサービス」を提供するとはどういうことかを問いかける。ホストのデラニー・ホールがサンフランシスコ公共事業局のレイチェル・ゴードンに話を聞きながら、一つのゴミ箱が街に設置されるまでに9年もの歳月がかかるという驚きのプロセスを明らかにしていく。
なぜゴミ箱が見つからないのか?——ロマン・マーズの素朴な疑問
エピソードは、ロマン・マーズがサンフランシスコのノースビーチ地区でピザを食べた後の何気ない体験から始まる。食べ終えた彼はゴミ箱を探すが見つからない。「主要な交差点にはゴミ箱があるべきだ」と彼は考え、街が汚い理由はゴミ箱の不足にあるのではないかと推測する。しかし、この直感的な仮説は、後にまったく異なる現実に直面することになる。
デラニー・ホールは、この「誰がゴミ箱の配置を決めているのか」という疑問を公共事業局に持ち込む。そこで明らかになるのは、サンフランシスコには約3,000箇所のゴミ箱設置場所があり、同じ規模の都市と比較しても決して少なくないという事実だ。むしろ、ゴミ箱の数は多い部類に入る。問題は「数」ではなく、別のところにあるらしい。
ゴミ箱の配置を決める「戦い」——住民の声と公共事業局のジレンマ
公共事業局のレイチェル・ゴードンは、ゴミ箱の配置が単純な「人が多い場所に置く」というロジックだけでは決まらないことを説明する。交通機関の停留所、商業地区、学校や病院の近くが優先される一方、住宅地では需要が低いため設置数は少なくなる。ただし、犬の散歩ルートになっている場所では、住民からの要望で設置されることもある。
ここで重要なのは、ゴミ箱をめぐって「賛成派」と「反対派」の間で繰り返される抗争だ。住民からの要望で設置されたゴミ箱が、別の住民からの苦情で撤去され、また再設置される——この「行ったり来たり」が何度も起こるという。公共事業局は、こうした対立に対処するため、実際のデータを収集するパイロットプログラムを実施する。2017年に始まったこの試みは、結果的に約10年に及ぶ壮大なプロジェクトへと発展していく。
「ゴミ箱を増やせば街はきれいになる」という神話の崩壊
2017年、公共事業局はミッション地区の約30ブロックを対象にパイロットを開始した。各交差点に4つ、さらにブロックの中間にもゴミ箱を設置し、文字通り「ゴミ箱だらけ」の状態を作り出した。ウォルト・ディズニーがディズニーランドで実践したとされる「30歩ごとにゴミ箱を置く」という伝説的なエピソードや、研究で裏付けられた「ゴミ箱の可視性と密度がポイ捨てを減らす」という知見に基づいた実験だった。
しかし結果は驚くべきものだった。「ほとんど違いはなかった」とゴードンは語る。場所によってはゴミが減ったところもあったが、逆に増えた場所もあり、全体的な改善は見られなかった。さらに衝撃的だったのは、ゴミ箱のすぐ横に立ちながら、平然と地面にキャンディの包み紙を捨てる人々の存在だ。ゴードンはこれを「ホテルのメイドサービス」に例える——誰かが掃除してくれるという暗黙の前提が、人々の行動を変えているのではないかと指摘する。
ゴミの「文化」の違い——東京とサンフランシスコの比較から見えるもの
ゴードンは、ゴミ問題を考える上で「文化」の違いが重要だと指摘する。東京を例に挙げ、1995年の地下鉄サリン事件以降、公共のゴミ箱がほとんど撤去されたにもかかわらず、街が驚くほど清潔に保たれている事実を紹介する。日本では「ゴミは家に持ち帰る」という文化が根付いており、ゴミ箱の有無とは別の次元で清潔さが維持されている。
一方、サンフランシスコには独自の「ゴミの文化」がある。ホームレスの人々がリサイクル可能な物を求めてゴミ箱を漁り、中身を路上に散乱させる。年間18,000トンもの不法投棄——マットレス、家具、建設廃材、家庭ゴミ——が路上に捨てられている。公共事業局には、捨てられたゴミ袋を開封し、住所や配送ラベルを手がかりに投棄者を特定する調査チームまであるという。
ゴミ箱のデザインコンテスト——20万ドルのプロトタイプと市民参加の代償
ゴミ箱を増やすだけでは効果がないと判断した公共事業局は、次に「デザイン」に焦点を当てる。1993年から使われてきた「ルネサンス缶」と呼ばれる旧型は寿命を迎え、新しいデザインのゴミ箱を導入する絶好の機会だった。求められたのは、ゴミ漁りが困難で、落書きが簡単に清掃でき、頑丈で、ロック機構が優れたもの——そして何より、サンフランシスコの過酷な環境に耐えられるものだ。
市は3つのカスタムデザイン(「ソルト&ペッパー」「スリムシルエット」「ソフトスクエア」)と、市販の3モデルを選び、52箇所で2.5ヶ月間のテストを実施した。市民はQRコードからフィードバックを送ることができ、数千人が参加した。しかし、このプロトタイプ1基あたりのコストが20,000ドルに上ったことが、Fox Newsを含むメディアの格好の標的となる。「サンフランシスコはおかしくなっている」という批判が巻き起こる。
ゴードンはこの批判に対して、プロトタイプのコストには工業デザイナーへの報酬と実際の製造コストが含まれており、量産時の価格は1基あたり約1,375ドルと市販品と同等かそれ以下になることを説明する。しかし、批判はコストだけにとどまらなかった。プロセス全体が2017年から始まり、2024年現在もまだゴミ箱が路上に設置されていないという「遅さ」への不満も噴出した。
選ばれたデザインと、それでも残る根本問題
最終的に選ばれたのは「スリムシルエット」——ステンレススチールのバーが外側に付いた細身のデザインだ。メンテナンス担当者と一般市民の両方から最も高い評価を得た。ただし、開口部のサイズ変更や外側のリブの形状変更、ロック機構の強化など、複数の改良が加えられた。現在はメーカーによる「ゴミ箱テスター」による過酷な耐久テストが行われているという。
しかし、ゴードンは繰り返し強調する——完璧なゴミ箱をデザインしても、街はきれいにならない。サンフランシスコのゴミ問題は、デザインの問題ではなく、行動の問題だ。不法投棄、ゴミ箱漁り、そして「誰かが掃除してくれる」という心理——これらは新しいゴミ箱では解決できない。18,000トンという年間不法投棄量が物語るように、根本的な行動変容なしには、どんなに優れたデザインも無力なのだ。
「ゴミ箱に賛成か反対か」——政治と清掃が交差する場所
ゴードンは、サンフランシスコのゴミ問題が政治的に利用される現状についても語る。サンフランシスコは民主党の牙城であり、ギャビン・ニューサム、カマラ・ハリス、ダイアン・ファインスタインなど多くの著名な政治家を輩出してきた。「青い街」を叩きやすいという政治的な力学が、ゴミ問題を過度にセンセーショナルに報じる一因になっていると指摘する。
しかし同時に、ゴミ問題は「基本的なサービス」の象徴でもある。中西部や東海岸では除雪がそうであるように、サンフランシスコではゴミの清掃が「街が機能しているか」のバロメーターになっている。ゴードンはこれを「ポットホール政治」と呼ぶ——道路の穴を直せるかどうかが市長の評価につながるように、ゴミの清掃は行政の信頼性を測るリトマス試験紙なのだ。
まとめ
このエピソードが残すのは、一見単純なインフラの問題が、実は都市の複雑な生態系を映し出す鏡だという認識だ。ゴミ箱のデザインに9年かかるプロセス、20,000ドルのプロトタイプ、市民の賛否が分かれるゴミ箱の設置——これらはすべて、民主主義と公共サービスが現実の街でどう機能するかを示している。そして何より、ゴードンの言葉が強く印象に残る:「人をゴミ箱に連れて行くことはできても、ゴミを捨てさせることはできない」。デザインの限界と、行動変容の難しさ——このエピソードは、都市の清潔さが単なる「箱」の問題ではないことを、ユーモアと諦念を交えて教えてくれる。