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99% Invisible · 2026年5月14日

エンシッティフィケーション

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • エピソード概要 「エンシッティフィケーション(Enshittification)」——作家・活動家のコリー・ドクターロウが生み出したこの言葉は、かつて優れていたプラットフ...
  • [0:00] スマートデバイスがもたらすフラストレーション ローマン・マーズは自身のスマートサーモスタットに苛立ちを感じている。ベイエリアに住む彼は暖房を年に数回しか使わ...
  • しかし、クリス・ベルーブは、この現象が単なる不便さを超えて、人々の生活を積極的に悪化させているケースがあると指摘する。その典型例として彼が取り上げたのが、現代のトラクター...
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英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。

出典Podcast

99% Invisible / Roman Mars

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エピソード概要

「エンシッティフィケーション(Enshittification)」——作家・活動家のコリー・ドクターロウが生み出したこの言葉は、かつて優れていたプラットフォームや製品が、ユーザーを囲い込んだ後に徐々に品質を低下させ、企業の利益を優先する現象を指す。99% Invisibleのプロデューサー、クリス・ベルーブがホストのローマン・マーズを怒りのレベル10段階評価でどこまで引き上げられるかに挑戦するこのエピソードは、ジョン・ディアのトラクターからiPhone、プリンター、電動車椅子に至るまで、デジタル化されたあらゆるモノがどのように「クソ化」しているかを、ミズーリ州の農家ジャレッド・ウィルソンの実体験を軸に描き出す。そして、この問題に対抗する「修理する権利(Right to Repair)」運動の現状と、より急進的な解決策の可能性を探る。

0:00スマートデバイスがもたらすフラストレーション

ローマン・マーズは自身のスマートサーモスタットに苛立ちを感じている。ベイエリアに住む彼は暖房を年に数回しか使わないが、そのたびにサーモスタットがヒーターと「切断」されているという。彼が望むのは、昔ながらの真鍮製の丸いハネウェルのアナログサーモスタット——単純に温度を設定してオンオフできるもの——だけだ。この不満は多くの人が共感するものであり、冷蔵庫がなぜ「スマート」である必要があるのかという疑問につながる。

しかし、クリス・ベルーブは、この現象が単なる不便さを超えて、人々の生活を積極的に悪化させているケースがあると指摘する。その典型例として彼が取り上げたのが、現代のトラクターの設計だ。

4:04トラクターのデジタル化と「デレーティング」の罠

ミズーリ州の農家ジャレッド・ウィルソンは、少なくとも7代続く農業一家の出身だ。彼によれば、1990年代のトラクターは機械式燃料ポンプなど、ほぼすべてが機械的なリンケージで動いていた。しかし現代のトラクターはコンピューターのオペレーティングシステムで制御されており、すべてが「electric over hydraulic」や「electric over engine controls」に置き換わっている。

このデジタル化には確かに利点もある。例えば「オートステア」機能により、トラクターは圃場に設定したラインに沿って自動運転できる。20時間もの長時間作業でハンドルを握り続ける必要がないのは、農家にとって大きな負担軽減だ。

しかし問題は、ソフトウェアに不具合が生じたときに発生する。ジャレッドによれば、排出ガスシステムのセンサーが故障すると、トラクターのソフトウェアが「デレーティング(出力低下)」を実行する。これは馬力を極端に落とし、実質的にトラクターを使用不能にする機能だ。さらに悪いことに、エラーコードは表示されるが、何が問題なのかを具体的に教えてくれない。問題を診断するには、専用の外部ソフトウェアを機械に接続する必要がある。

ジャレッドは実際にこの問題に直面し、ディーラーの技術者を呼ばざるを得なかった。技術者が来てデルタ圧力センサーを交換したが、問題は解決しなかった。しかし、成長期に1〜2日を無駄にすることは壊滅的な打撃となる。彼はこう語る。「大豆は乾燥した年で、圃場に立つと莢がはじけて大豆が地面に落ちる音が聞こえる。それがどれほど胃が痛む思いか、想像できるだろう。一度地面に落ちたら取り戻せない。それは失われた収入だ。」

2023年、公益研究グループ(PIRG)の推計によれば、こうした修理の遅延によって農家が被ったダウンタイムのコストは約30億ドルに上る。ジャレッドは言う。「これらのコストは、節約から得られる利益の余地をほとんど消し去ってしまった。結局、その利益をメーカーに還元しているだけだ。」

10:29「エンシッティフィケーション」の三段階プロセス

コリー・ドクターロウは、この現象を説明するために「エンシッティフィケーション」という言葉を広めた。彼はSF作家であり、活動家、ジャーナリストでもある(ちなみにカナダ人だ)。この概念は、プラットフォームの崩壊と劣化を三段階のプロセスとして説明する。

第一段階:プラットフォームはエンドユーザーに優しく、彼らを引き付ける。例えばFacebookで1980年代の野球カードというニッチな趣味のグループに参加すると、同じ趣味を持つ仲間と出会い、コミュニティを築くことができる。

第二段階:しかし、ユーザーはプラットフォームに「ロックイン」される。競合を買収して逃げ場をなくしたり、グループを他の場所に移行するのを困難にしたりする。何年もの会話の蓄積を失いたくないという心理も働く。

第三段階:ユーザーが閉じ込められたところで、プラットフォームは「クソ化」を始める。ユーザーではなくビジネス顧客を優先し、個人データを販売し、スパム広告で溢れさせる。価値はすべてプラットフォームに吸い上げられ、株主と経営陣に分配される。

ドクターロウの主張の核心は、この現象がオンラインだけのものではないということだ。ウィリアム・ギブスンが「サイバースペースはエバージョン(内側から外側へ反転する)」と表現したように、現実そのものがデジタルに感染している。かつてアナログだったモノ——車、スマート冷蔵庫、トラクター——がすべてコンピューターになりつつある。2023年の調査によれば、平均的なアメリカの家庭には約21台の接続デバイスがあるという。

14:11修理の囲い込みと「パーツペアリング」

ローマ時代から、農民は自分たちの道具を自分で修理してきた。嵐が来て作物を収穫しなければならない時に、他人の修理を待っている余裕はないからだ。1990年代までは、トラクターの部品を交換したい場合、地元のジョン・ディア販売店に行けばよかった。そこは地域の顔の見える店主が経営しており、不満があれば別の販売店に行くことも、独立した修理業者に頼むこともできた。

しかし現在、ジャレッドがエラーコードを受け取った時、彼にはジョン・ディアに頼る以外の選択肢がなかった。トラクターを再起動するには、コンピューターにアクセスできる技術者が必要だからだ。農家は部品を交換することはできても、200ドルを支払って誰かに来てもらい、トラクターのキーボードに解除コードを入力してもらわなければ動かない。

独立した修理業者は、ジョン・ディアの専用ツールを購入するのに6,000ドルもかかるため、それを持っていない。これが「ロックイン」の仕組みだ。さらに悪質なのが「パーツペアリング」という手法だ。特定の部品は、ジョン・ディアのソフトウェアと互換性がなければ動作しない。つまり、たとえ安価な汎用品を購入しても、ソフトウェアがそれを拒否するのだ。

これは「相互運用性(interoperability)」の問題である。靴と靴ひもが適切なサイズであれば機能するように、デジタル機器でも異なるメーカーの部品が互いに通信できなければならない。しかしパーツペアリングはそれを妨げる。

ドクターロウはプリンターの例を挙げる。「HPやエプソンはサードパーティのインクを拒否するようプリンターを設計している。プリンターがそのインクを使えないわけではない。『お前のインクはもう1ガロン1万ドルだ』と拒否するよう設計されているのだ。民間人が特別なライセンスなしで買える液体の中で、インクは最も高価だ。ケンタッキーダービー優勝馬の精液で印刷するよりも、食料品リストを印刷する方がコストがかかる。」(実際にはプリンターインクは1ガロンあたり数千ドルと、優勝馬の精液よりは安いが、それでも法外な値段だ。)

この問題は電動車椅子、スマート冷蔵庫、人工呼吸器にも及ぶ。そしてiPhoneも例外ではない。2019年、ティム・クックは投資家宛ての書簡で「最大のリスクは、顧客が新しい電話を買う代わりに修理することだ」と書いた。Appleは、下取りに出されたiPhoneを、部品を修理に転用できないようシュレッダーで粉砕している。

24:42ハッカー的解決策と「修理する権利」運動

この問題に対抗する方法は二つある。「グレーゾーン」の方法と、合法的な方法だ。

グレーゾーンの方法は、ソフトウェアをハッキングすることだ。iPhoneの「ジェイルブレイク」のように、ユーザーがサードパーティのアプリケーションを動作させるためにソフトウェアの制限を解除する。ジャレッドによれば、実際に中国製のラップトップにクラックされたジョン・ディアのソフトウェアを搭載し、独立した修理業者が使用しているケースがあるという。しかしジャレッド自身はこの方法を使ったことがない。何を自分のコンピューターにインストールしているのか分からないし、問題が起きてもジョン・ディアに助けを求められなくなるからだ。

さらに、こうしたハッキングは多くの場合違法である。1998年に米国で成立したデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の第1201条は、デジタルロックを破ることを重罪とし、5年の懲役と50万ドルの罰金を科すと定めている。この法律はもともとMP3の違法共有を防ぐために作られたが、現在では私たちが日常的に使うあらゆるデバイスに適用されている。

合法的な解決策として注目されているのが「修理する権利(Right to Repair)」運動だ。この運動のリーダーであるゲイ・ゴードン・バーンは、TEDトークで250万回以上再生されている。彼女が率いる「Repair Association」は、真に所有しているのであれば、修理できるべきだと主張する。「現在市場に出回っている製品の圧倒的多数は、メーカーに完全に依存しなければ修理できない。メーカーが修理を認めないと決めた日、すべてが終わる。これは完全に人為的な問題だ。」

この運動は成果を上げている。2024年、欧州連合はすべての加盟国に対し、2026年夏までに修理する権利に関する法律を制定するよう義務付ける指令を可決した。これにより、洗濯機からスマートフォンまで、すべての家庭用電化製品の修理がメーカーに義務付けられる。

米国でも進展がある。2023年にコロラド州は農民の修理する権利を認める法律を可決した。オレゴン州は電子機器と電動車椅子を対象とする法律を可決した。複数の州が携帯電話やノートパソコンの修理に関する法律を可決しており、テキサス州のような伝統的にビジネス寄りの州も含まれている。下院では自動車修理に関する超党派の全国的な修理する権利法案が検討中だ。

32:28企業の対応と残された課題

この流れを受けて、一部の企業は先手を打って動き始めている。ジョン・ディアは農家がエラーメッセージを解読し、トラクターの問題をトラブルシューティングできるソフトウェアを提供し始めた。2024年現在、農家は一部のケースでデレーティングをオーバーライド(無効化)できるようになったという。

しかしジャレッドは、この修理ソフトウェアにも欠点があると指摘する。特に、収穫データの収集方法に懸念を抱いている。彼は実際に、ジョン・ディアが修理ツールに関して不当な独占状態にあるとして、集団訴訟の原告の一人となっている。このエピソードの公開後、ジョン・ディアはこの訴訟を解決するために9,900万ドルを支払うことで合意した。

また、修理する権利法は万能薬ではない。多くの法律はパーツペアリングを禁止しておらず、相互運用性の問題は解決されない。つまり、サードパーティの部品を使って修理することは依然として難しい。

ドクターロウはより急進的な解決策を提案する。米国と貿易戦争を繰り広げているカナダやメキシコが、デジタルロックを迂回する汎用部品を製造し、世界中に輸出するというアイデアだ。「オンタリオには自動車部品工場がすべてある。もし国境を越えて部品を出荷できなくなったら、オンタリオで汎用部品を作り、車の部品チェックツールを無効にするソフトウェアと一緒に世界中に売ればいい。」これはカナダを「ジェイルブレイクの無法地帯」にするという、ドクターロウらしい大胆な発想だが、実現可能性は低い。

まとめ

このエピソードが核心的に問いかけるのは、私たちが「所有する」ということの意味だ。デジタル化が進むほど、私たちはモノを真に所有しているのではなく、メーカーの許可のもとで使用を許されているに過ぎなくなる。農家ジャレッド・ウィルソンの「作物が地面に落ちていくのを手をこまねいて見ているしかない」というフラストレーションは、単なる不便さを超えた、システムへの依存と無力感の象徴だ。

しかし希望もある。修理する権利運動は超党派の支持を集め、実際に法律が可決され始めている。コリー・ドクターロウの言葉を借りれば、「永遠に続けられないものは、いずれ止まる」。消費者としての怒りが、具体的な政策と行動に変わりつつあることを、このエピソードは力強く示している。

要点

  • 「エンシッティフィケーション」とは、プラットフォームがユーザーを囲い込んだ後、品質を低下させて企業利益を優先する三段階のプロセスである
  • 現代のトラクターはソフトウェアで制御され、センサー故障時に「デレーティング」で出力を強制的に低下させるが、エラーコードは具体的な原因を教えてくれない
  • 2023年の推計では、修理遅延による農家のダウンタイムコストは約30億ドルに上る
  • 「パーツペアリング」により、メーカー純正部品以外はソフトウェアが拒否するため、消費者は高額な純正部品を買わざるを得ない
  • DMCA第1201条はデジタルロックの解除を重罪とし、この法律が修理の妨げになっている
  • 欧州連合は2026年夏までに全加盟国での修理する権利法制定を義務付ける指令を可決した
  • 米国では複数の州が修理する権利法を可決し、下院では超党派の自動車修理法案が検討中である
  • ジョン・ディアは集団訴訟を解決するため9,900万ドルの支払いに合意し、修理ソフトウェアの提供を開始したが、データ収集や相互運用性の問題は残っている
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