motpod
This Week in Startups · 2026年7月23日

なぜこの長寿スタートアップはシリコンバレーではなく日本で資金調達したのか | TWiST Tokyo | E2315

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • ジェイソン・カラカニスがホストを務める「This Week in Startups」の東京収録回では、老化研究と再生医療に特化したスタートアップ、Ekei Labsの...
  • [4:05] Ekei Labsの事業内容とエピジェネティクスの革新 Bilal Kharouniが率いるEkei Labsは、創薬プロセスを加速するための高解像度か...
  • Kharouniは、生物学におけるAIの真の参入障壁(moat)はモデルではなく、データ生成にあると主張する。公開データは特定の表現型や適応症のために収集されたもので...
こんな人向け

英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。

出典Podcast

This Week in Startups / Jason Calacanis

要点
  1. Ekei Labsは、高解像度・低コストのエピジェネティックデータ生成を強みとし、創薬と細胞治療の品質管理に特化する。生物学におけるAIの真の参入障壁(moat)はモデルではなく、独自のデータ生成プロセスにある。
  2. 日本の再生医療等安全性確保法(2013年制定)は、細胞治療・遺伝子治療の承認を迅速化し、米国では利用できない先進治療へのアクセスを可能にする。これがEkei Labsの日本立地の主要因である。
  3. 日本の資金調達環境は、低いバリュエーションと小口のエンジェル投資が一般的だが、事業運営コストの低さと、政府保証付きの低金利融資・助成金(非希釈化型資金)の活用により、少ないエクイティ調達額でも大きな成果を生み出せる。
  4. Ekei Labsは、成長中の長寿クリニック向けサービスを戦略的に停止し、長期的なプラットフォーム構築とIP創出に集中する決断を下した。これは短期的収益よりも長期的価値創造を優先した好例である。
  5. ブルーゾーン研究には年齢詐称などの論争があるが、沖縄を含む地域における「社交性(sociability)」の長寿効果は科学的に有意であり、孤独はストレスや炎症を通じて生物学的老化を促進する可能性がある。
  6. スタートアップにおける過酷な労働(996)は時に不可避だが、持続可能性が重要である。カラカニスは、効率性と戦略的思考が単純な労働時間を凌駕し、7時間の睡眠と健康維持が長期的な成功の基盤になると主張する。
  7. 権利行使(Right to Try)は個人の自由とリスクテイクを尊重する一方で、健康な被験者への意図的な疾患接種(チャレンジトライアル)には倫理的な一線が存在する。この議論は、医学進歩と個人の尊厳のバランスを問うものである。
  8. 日本のスタートアップエコシステムは、M&Aによる出口を促進する方向に進化しており、IPOに依存しない多様な出口戦略が模索されている。これは、創業者への資金還流とエコシステムの活性化に寄与する。
アプリで聴く・質問する

音声を聴く・要約に質問・好きな言語や深さで生成

他のエピソード

ジェイソン・カラカニスがホストを務める「This Week in Startups」の東京収録回では、老化研究と再生医療に特化したスタートアップ、Ekei Labsの創業者Bilal Kharouniをゲストに迎え、日本で起業する戦略的優位性について深く掘り下げた。同社は沖縄のOIST(沖縄科学技術大学院大学)に研究拠点を置き、エピジェネティックデータの高解像度・低コスト生成技術を強みとする。カラカニスは、シリコンバレーと比較した際の日本のエコシステムの特異性——低い資金調達額でも驚異的な成果を生み出す能力、規制の先進性、そして非希薄化型資金調達の仕組み——に強い関心を示した。議論は、製品市場適合(PMF)の追求、倫理的ジレンマを伴う「権利行使(Right to Try)」、ブルーゾーン研究の論争、そしてスタートアップ文化における持続可能性と過酷な労働のバランスにまで及んだ。このエピソードは、グローバルな視点でスタートアップを構築する際の戦略的思考と、日本市場のユニークな可能性を浮き彫りにした。

4:05Ekei Labsの事業内容とエピジェネティクスの革新

Bilal Kharouniが率いるEkei Labsは、創薬プロセスを加速するための高解像度かつ低コストなエピジェネティックデータを生成する企業である。エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列そのものではなく、その上層に存在する化学的な修飾(メチル化)を指す。この修飾は遺伝子の発現をオン・オフするスイッチの役割を果たし、加齢や治療への応答に伴って変化する。同社の技術は、このメチル化パターンを従来にない解像度で読み取ることを可能にする。顧客は製薬企業やバイオテクノロジースタートアップであり、老化の基礎研究や、細胞治療製造における品質管理(バッチの効力、同一性、一貫性の確認)のために同社のサービスを利用している。

Kharouniは、生物学におけるAIの真の参入障壁(moat)はモデルではなく、データ生成にあると主張する。公開データは特定の表現型や適応症のために収集されたものではないため、それらを用いたモデル化には限界がある。Ekei Labsは、自社の独自技術でこれまでにないデータを生成し、比較的シンプルなAIモデル(elastic regressionなど)を用いて、創薬、患者層別化、製造品質管理のためのモデルを提供する。彼は、次のフロンティアは「仮想細胞生物(virtual cell organism)」のモデル化であり、それが実現すれば、現在のAlphaFoldのようなブレークスルーを超える、全く新しい創薬が可能になると予測する。

現在、AIによって設計された初の医薬品が規制当局の第3相試験に到達しており、この分野は急速に進展している。Kharouniは、将来的には老化自体がFDA(米国食品医薬品局)によって臨床適応症として認められることを期待している。Life BiosciencesやNewLimit(CoinbaseのBrian Armstrongが資金提供)といった企業が、老化を逆転させる可能性のある薬剤の初の臨床試験を2026年にも開始する見込みであることも紹介された。

15:58権利行使(Right to Try)と実験的治療の倫理

議論は、未承認の治療法へのアクセスを認める「権利行使(Right to Try)」の法的・倫理的枠組みに及んだ。米国の一部の州では、末期疾患の患者がFDA承認前の薬剤や細胞治療にアクセスする権利を認める法律が制定されている。Kharouniは、この考え方に強く共感を示し、自らリスクを理解した上で治療を試みる個人の自由を尊重する立場をとる。彼自身、元格闘家であり、負傷を経験したことから、個人の選択とリスクテイクの重要性を強調した。

カラカニスは、この議論をさらに発展させ、健康な若者が未承認のペプチドやGLP-1受容体作動薬(レタトルチドなど)を試したい場合の倫理的課題を提起した。彼は、COVID-19のチャレンジトライアル(健康な被験者に意図的にウイルスを感染させる試験)を例に挙げ、宇宙飛行士や消防士のような勇敢な行為と、医学進歩のために自らを犠牲にする行為の間に本質的な違いはあるのかと問いかけた。Kharouniは、健康な被験者に意図的に疾患を接種することは、たとえ研究の進展に寄与するとしても、個人の健康を積極的に損なう点で倫理的な一線を越えると述べ、消防士の例を挙げて「我々は皮膚の治癒を研究するために消防士の皮膚を焼いたりはしない」と反論した。

議論の中で、毒蛇の毒液を自ら注射して耐性を獲得し、その血漿から抗毒素の開発に貢献した個人の事例が紹介された。カラカニスは、このような自己実験が数千人の命を救った可能性に言及し、個人の犠牲と社会全体の利益のバランスについて、複雑な倫理的考察を促した。Kharouniは、この事例を「非常に興味深い」と評価しつつも、倫理的な線引きの難しさを改めて認識した。

24:49日本の再生医療規制と資金調達の優位性

Kharouniが日本で起業した最大の理由の一つは、再生医療に関する規制の先進性である。2012年に山中伸弥博士がiPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した直後の2013年、日本は「再生医療等安全性確保法」を制定し、細胞治療や遺伝子治療の承認プロセスを大幅に迅速化した。この法律により、日本では米国ではまだ利用できない多くの先進的な治療法へのアクセスが可能となっている。Ekei Labsは、この規制環境と、超高齢社会というマクロ環境、そして優秀な科学者コミュニティを享受するために日本を拠点として選んだ。

資金調達の面でも、日本は独自のエコシステムを提供する。Kharouniによれば、日本のエンジェル投資家のチェックサイズは数千ドルから数十万ドルと、シリコンバレーに比べて小さい。しかし、事業運営コストが大幅に低いため、調達額が少なくても十分に事業を推進できる。さらに特筆すべきは、日本の地域銀行がバイオテクノロジースタートアップに対して低金利・長期の融資を積極的に行う点である。政府の保証制度も活用され、Ekei Labsはエクイティ調達額と同程度の非希薄化型資金(融資・助成金)を確保できている。Kharouniは「200Kドル(約3,000万円)の調達で、シリコンバレーの2Mドル(約3億円)調達と同等以上の成果を上げられる」と述べ、日本の資金調達環境の効率性を強調した。

カラカニスは、この状況を「裁定取引(arbitrage)の機会」と評した。米国のVCは大型ファンドを運用しているが、日本では低いバリュエーションで優れたチームに投資できる。そして、出口戦略の段階でデラウェア法人にフリップ(法人格変更)することで、米国市場でのIPOや大型M&Aも視野に入れられる。日本の株式市場もIPOの基準を引き上げ、M&Aによる出口を促進する方向に変化しており、エコシステム全体がより健全な方向へと進化している。

40:44製品市場適合(PMF)の追求と戦略的フォーカス

Ekei Labsは、事業の軌道修正において重要な決断を下した。同社はかつて、長寿クリニック向けに個人の老化度を測定するサービスを提供し、一定の成長と収益を上げていた。しかし、Kharouniはこの事業が「真に企業価値を爆発的に高めるものへの妨げになる」と判断し、完全に停止することを決断した。彼は、短期的な収益よりも、誰も生成できない高解像度のエピジェネティックデータを生み出すプラットフォームの構築に集中すべきだと考えた。この決断は、短期的な欲求を捨て、長期的な価値創造を選択した好例である。

カラカニスは、この決断の背景にある緊張関係を解説した。エンジェル投資家は投資回収のリスクを恐れて短期的な収益を求める傾向がある一方、VCはパワーロー(一社の大成功がファンド全体のリターンを決定づける)を信奉し、長期的な価値構築を促す。Kharouniは、幸いにも自社のキャップテーブルにはバイオテクノロジーに精通したエンジェル投資家が名を連ねており、この緊張は生じなかったと述べた。また、取締役会の承認を得る前に、社内で「どのような会社を築きたいか」というコンセンサスを形成することの重要性を強調した。

製品市場適合(PMF)の定義について、Kharouniは「自社のプラットフォームから独自の知的財産(IP)を生み出し、診断薬や治療薬といったアセットを創出できる状態」と語った。これは、単に顧客が製品を気に入るという段階を超え、持続可能な競争優位性を確立することを意味する。カラカニスは、この考え方を「Kaizen(改善)」の精神に結びつけ、毎週少しずつでも効率を改善し、無駄な週を過ごさないことの重要性を説いた。特にAIの進展が目覚ましい現在、一週間の遅れが致命的な差となる可能性があると警告した。

47:11ブルーゾーン論争と社会化の長寿効果

沖縄は世界有数の長寿地域「ブルーゾーン」の一つとして知られるが、近年その研究結果に対する論争が生じている。一部の研究では、ブルーゾーンとされる地域の多くが当該国の中でも貧困地域であり、長寿との直感的な関連性に疑問が呈された。さらに、現地調査により、年齢を実際より高く偽って報告していたケースや、死亡後も家族が年金を受け取り続けていたケースが発覚した。Kharouniは、これらの論点を認めつつも、沖縄を含むブルーゾーンにおける「社交性(sociability)」の重要性を強調した。

Kharouniによれば、社会的な繋がりが長寿に寄与するメカニズムは複数考えられる。毎日誰かが安否を確認に来ることで健康行動が促進されること、精神的なサポートがあることでストレスが軽減されること、そして何より、人生に目的と喜びをもたらすことである。彼は沖縄で、何十年にもわたって続く強固な連帯ネットワークを目の当たりにし、その美しさを語った。一方で、このようなサポートネットワークが突然失われると、個人の健康状態が急速に悪化するケースもあると指摘した。

カラカニスは、この議論に関連して、バイリンガルや多言語話者においてアルツハイマー病やパーキンソン病のリスクが劇的に低下するという最近の研究を紹介した。これは、脳の可塑性(plasticity)が維持されることによる効果と推測される。彼は、ブルーゾーンが方言や多言語環境と関連している可能性について、Kharouniに意見を求めた。Kharouniはこの研究に同意し、脳の健康と社会的・認知的刺激の関連性は非常に興味深いテーマであると応じた。

1:04:29健康とハッスル文化のバランス

質疑応答では、日本の過酷な労働文化(996:朝9時から夜9時まで週6日勤務)と長寿の関係について質問が上がった。Kharouniは、スタートアップにおいてはマラソンとスプリントの両方が必要であり、情熱があれば長時間労働は避けられないと認めつつも、Ekei Labsではワークライフバランスを重視していると述べた。彼は、従業員の「医療的年齢」を測定し、過労の兆候を検出する企業の事例を紹介し、持続可能性の重要性を強調した。

カラカニスは、自身の経験を基に、効率性と戦略的思考の重要性を説いた。彼は若い頃は週7日働くハッスル文化の申し子だったが、現在は「効率性が時間を凌駕する」と語る。無駄な電話を避け、資料は録画ビデオ(Loom)で送らせ、2倍速で視聴するなど、時間を ruthlessly( ruthlessly)に管理する。彼は、睡眠時間を3時間未満に抑える日本の首相の例を「愚かだ」と切り捨て、7時間の睡眠と健康維持が思考の明晰さと長期的な成功に不可欠であると断言した。

カラカニスは、スタートアップの過酷な追求を、オリンピック選手やネイビーシールズのような「極限の追求」に例えた。彼らはピザやアイスクリームを犠牲にして記録に挑む。同様に、創業者は自身の選択と責任を自覚すべきであり、家族がいる場合は時間の使い方にさらに ruthless になる必要がある。彼は、自身が3人の娘を持つ父親として、朝早く仕事をし、家族との時間を確保し、夜に再び仕事をするというルーティンを実践していることを明かした。最終的に、効率性と戦略的な時間配分が、単純な労働時間の長さを凌駕するというのが彼の結論である。

結びに

このエピソードは、単なるスタートアップの成功談ではなく、グローバルな視点で事業を構築する際の戦略的思考の重要性を浮き彫りにした。Bilal KharouniのEkei Labsは、日本の規制の優位性、低コストな運営環境、そして独自のデータ生成技術という「三位一体」の戦略で、シリコンバレーとは異なる道を切り開いている。特に印象的だったのは、短期的な収益を捨てて長期的なプラットフォーム構築に集中するという決断と、それを可能にする日本の資金調達エコシステムのユニークさである。また、権利行使(Right to Try)やブルーゾーン論争といった倫理的・科学的な議論は、長寿ビジネスが単なるビジネスではなく、人間の生と死、自由と責任に直結する深遠なテーマであることを再認識させた。カラカニスの「効率性と戦略が時間を凌駕する」というメッセージは、過酷なスタートアップ環境において、持続可能な成功を目指す全ての創業者にとって示唆に富むものである。

あわせて読む

同じ番組の別エピソードや、近いテーマの記事から続けて読めます。