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This Week in Startups · 2026年7月28日

他の培養肉企業が倒産する中、黒字化を達成した企業 | E2317

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • 培養肉業界は世界的に崩壊の様相を呈している。莫大な資金を調達した米国の有力企業が次々と事業を停止する中、東京に拠点を置くIntegriCultureは、2023年に黒...
  • Yuki Hanyu(羽生雄毅)は、オックスフォード大学で学んだ化学者であり、そのキャリアはコミックマーケットでDIY培養肉のマニュアルを配布するという異色の活動から...
  • 培養肉の最大の課題はスケーリングと単価である。現状の技術では、大規模な攪拌タンクで細胞の「スラリー( slurry )」を作ることはできても、筋肉組織の繊維構造を再現...
こんな人向け

英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。

出典Podcast

This Week in Startups / Jason Calacanis

要点
  1. IntegriCultureは、培養肉ではなく細胞農業のインフラ企業としてポジショニングし、化粧品原料の販売で2023年に黒字化を達成した。これは、培養肉業界の競合他社が次々と崩壊する中での快挙である。
  2. 創業者のHanyuは、2014年にコミックマーケットでDIY培養肉のマニュアルを配布するという異色の経歴を持ち、そのオープンソースコミュニティが後にIntegriCultureの基盤となった。
  3. 培養肉の最大の課題はスケーリングと単価であり、現状の技術では大規模な「スラリー」生産が限界で、食感は本物の70%程度が最大である。
  4. 最も難しいターゲットは鶏肉のようなコモディティ製品であり、価格競争力を達成するには10年単位の時間と原子力発電所並みの大規模設備投資が必要となる。
  5. IntegriCultureは、培養肉、化粧品、皮革、再生医療など、細胞農業の応用範囲を広く捉え、複数の「ウェイポイント(収益源)」を設定することで、ハイプサイクルの崩壊を乗り越えた。
  6. 日本では消費者庁が2024年夏から秋にかけて培養肉のガイドラインを策定する見込みであり、規制環境が整えば市場投入が加速する可能性がある。
  7. 培養肉の未来は、既存の肉を模倣するのではなく、自然界に存在しない全く新しいフレーバーや、倫理的に問題のある食材(フォアグラなど)の代替としてのニッチ市場から始まると予測される。
  8. オープンソースコミュニティと営利企業の共存は、初期段階から明確な役割分担(オープンソース=ビジョン、非営利=規制対応、営利=インフラ)を示すことで、円滑に実現可能である。
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他のエピソード

培養肉業界は世界的に崩壊の様相を呈している。莫大な資金を調達した米国の有力企業が次々と事業を停止する中、東京に拠点を置くIntegriCultureは、2023年に黒字化を達成した。同社の創業者であるDr. Yuki Hanyu(羽生雄毅)は、オックスフォード大学で学んだ化学者であり、そのキャリアはコミックマーケットでDIY培養肉のマニュアルを配布するという異色の活動から始まった。本エピソードでは、ホストのJason Calacanisが、なぜ培養肉業界が「スタント( stunt )」段階から抜け出せないのか、そしてIntegriCultureがどのようにして化粧品原料という「ビーチヘッド市場」を攻略することで生き残り、利益を出しているのかを深掘りする。

培養肉の最大の課題はスケーリングと単価である。現状の技術では、大規模な攪拌タンクで細胞の「スラリー( slurry )」を作ることはできても、筋肉組織の繊維構造を再現することはできない。そのため、味や食感は本物の肉の70%程度が限界だ。さらに、規制の壁も厚い。米国ではフロリダやテキサスなどで培養肉を禁止する動きがあり、日本でも消費者庁のガイドライン策定が待たれる状況だ。こうした中でIntegriCultureは、培養肉そのものではなく、細胞農業のためのインフラ(培養液、装置、受託製造)を提供する企業としてのポジショニングを確立した。この戦略が、同社を業界の「生存者」たらしめている。

0:00なぜ日本がスタートアップの聖地なのか

Jason Calacanisは、東京を「ニューヨークとオースティンに次いで世界で最も好きな都市」と評し、日本のスタートアップエコシステムの特質を称賛する。彼が強調するのは「Kaizen(改善)」の精神だ。日本の創業者たちは、製品やサービスを毎日少しずつ良くすることに極度の誇りを持って取り組んでいる。この姿勢は、シリコンバレーの「ムーブファストで物を壊せ」という文化とは対照的だが、持続可能な価値創造という点では優れているとCalacanisは指摘する。

Calacanisが日本で運営するアクセラレータープログラム「Founder University」の第2期生は、第1期と比較して明らかに成熟度が高かった。第1期は非常に初期段階の企業が多かったのに対し、第2期ではすでに米国での会社設立を済ませ、グローバル展開を視野に入れた企業が増えたという。この変化は、日本のスタートアップエコシステムが急速に進化している証左だと彼は述べる。Founder Universityは東京で年2回、サウジアラビアのリヤドで年2回、米国で年2回開催されており、参加者は法人化すら必要ない。プロトタイプや「vibe coding」で作ったプロダクトがあれば、誰でも応募できる。

1:48培養肉パイオニア、Dr. Yuki Hanyuの軌跡

Dr. Yuki Hanyuのキャリアは、2014年に始まった「Shojinmeat Project(精進ミートプロジェクト)」というオープンソースのDIY培養肉プロジェクトに遡る。彼は自宅で培養肉を作るためのマニュアルを作成し、なんとコミックマーケット(コミケ)で配布していた。このマニュアルは現在も秋葉原の同人ショップやロンドン科学博物館に保管されているというから驚きだ。このプロジェクトには、高校生を含む数千人が参加したと推定される。ある高校生が自室で細胞培養を行う様子がNHKで全国放送され、それがIntegriCultureのシード資金調達のきっかけとなった。

Hanyuは、培養肉技術が「GMO(遺伝子組み換え作物)問題」のように政治化されることを危惧していた。そこで彼は、単なる営利企業ではなく、エコシステム全体を設計するというアプローチをとった。Shojinmeat Projectはオープンソースのビジョナリー活動を続け、非営利団体「Cellular Agriculture Institute of the Commons(CAIC)」が政府規制当局との対話や業界団体の設立を担い、IntegriCultureが物理的なインフラ(培養液、装置、生産能力)を提供する。この三者構造により、「作り方」はオープンに、「スケールの仕方」はビジネスとして proprietary にするという戦略が可能になった。

3:19なぜ消費者は培養肉を求めていないのか

培養肉業界が直面する根本的な問題は、消費者需要の有無ではなく、技術が未成熟であることだとHanyuは指摘する。現状では、大規模な生産ができないため、十分な量の製品を市場に投入して本当の需要をテストすることすら不可能だ。Jason Calacanisは、サンフランシスコの友人の間でも、消費者が「欲しい」と言うことと実際に購入することは全く異なる、とスティーブ・ジョブズの教訓を引き合いに出す。

現行の培養肉技術の限界は、大規模な攪拌タンク型バイオリアクターで作られるのが細胞の「スラリー」であり、筋肉組織の繊維構造を持たないことにある。そのため、味は化学的に肉に近づけられても、食感は本物には遠く及ばない。Hanyuは現状の完成度を「最大70%」と評価する。ステーキや鶏むね肉のような繊維構造が重要な部位の再現は、3Dプリンティングなどの追加技術が必要であり、コストと複雑さがさらに増す。最も難しいのは鶏肉のようなコモディティ製品であり、価格競争力を持つためには原子力発電所を建設するような規模と時間が必要になるとHanyuは述べる。

10:26コミケから生まれたDIY培養肉ムーブメント

Hanyuのアプローチのユニークさは、その出自にある。彼はオックスフォードで化学を学んだ後、趣味として培養肉を作り始めた。そのマニュアルは学術論文ではなく、コミックマーケットで配布される同人誌のような形式だった。この「オタク的な」アプローチが、後にIntegriCultureの強固なコミュニティ基盤を形成する。Shojinmeat Projectは、単なる趣味の集まりではなく、教師がワークショップで訓練を受け、それを学校で教えるという教育のネットワークに発展した。

このオープンソースコミュニティが商業化された際、メンバーはどのように反応したのか。Hanyuは、プロジェクトの初期段階から「オープンソースコミュニティはビジョナリー活動を、非営利団体は政府との対話を、営利企業は物理的インフラを」という役割分担を明確に示していたため、ほとんどのメンバーにとって驚きではなかったと説明する。VC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達においても、オープンソースであることは特に問題にならなかった。投資家たちは、初期のIP(知的財産)よりも、企業が運営を通じて生成する将来のIPの方が重要だと理解していたからだ。

15:37自然界に存在しないフレーバーの可能性

培養肉の真の可能性は、既存の肉を模倣することではなく、自然界に存在しない全く新しいフレーバーや食感を創造することにある。Hanyuは、オーストラリアのVow Foodsが販売する培養ウズラ肉を例に挙げる。ウズラ肉は既存のスーパーマーケットのカテゴリーに該当しないため、価格を自由に設定できる。同様に、マンモスの肉を使ったスタント商品も話題になったが、実際に流通させたのはウズラ肉だった。

さらに、培養技術は倫理的・文化的に問題のある食材の代替も可能にする。フォアグラは、伝統的な生産方法が残酷だとして一部の地域で禁止されているが、培養フォアグラであればその問題は解決される。同様に、鯨肉やイルカ肉など、アクセスが制限されている食材も、培養技術によってニッチ市場として復活する可能性がある。Hanyuは、この市場は「スタント」→「ニッチ」→「ある程度の主流」→「完全な主流」という段階を経て発展すると予測する。現在の業界は明らかに「スタント」段階にある。

24:23チキンナゲットが最も難しい問題である理由

培養肉の価格競争力を考える上で、最も困難なターゲットは鶏肉のようなコモディティ製品だとHanyuは指摘する。鶏肉は安価であり、培養肉が価格面で競争するためには、巨大な工場を建設し、大量生産する必要がある。そのような工場の建設には10年単位の時間がかかり、しかも現状の技術ではまだ実現不可能だ。一方で、ウナギやフォアグラのような高級品であれば、価格パリティは目前に迫っている。

さらに、既存の食肉価格は気候変動や地政学的リスクにより上昇傾向にある。Hanyuは、食肉価格が年間5%ずつ上昇すると仮定すれば、10年後には倍になる計算だと述べる。この価格上昇が、培養肉の競争力を高める追い風となる。しかし、ブランド価値も重要な要素だ。例えば和牛の場合、消費者は肉そのものではなくブランドにお金を払っている側面がある。培養肉が既存のブランド階層の外側に位置づけられるのか、それとも新たなカテゴリーを形成するのかは、今後のマーケティング戦略次第である。

28:28ビーチヘッド市場とウェイポイント戦略

IntegriCultureが競合他社と一線を画す最大の要因は、培養肉ではなく「細胞農業」のインフラ企業としてのポジショニングである。同社は、培養化粧品原料の販売から収益を上げ、2023年に黒字化を達成した。この化粧品市場は、いわば「ビーチヘッド市場」であり、培養技術の応用範囲の広さを示す好例だ。特に、日本や東アジアで人気のプラセンタや、韓国から輸入される幹細胞血清などの美容成分は、倫理的問題やサプライチェーンの不安定性を抱えている。IntegriCultureの培養版は、より安全で、サプライチェーンが安定し、かつ安価である。

Hanyuは、この戦略を「ウェイポイント(waypoints)」と呼ぶ。大きなビジョン(培養肉で世界を変える)に向かう途中に、立ち寄れる島(収益源)を用意しておくという考え方だ。多くのVCはスタートアップに一点集中を求めるが、それは「罠」だとHanyuは警告する。培養肉のハイプサイクルが崩壊した時、生き残るためには複数の収益源が必要だった。彼は、創業者として社内の意見を「肉に集中すべきだ」という方向から「今日収益を生み出せる化粧品」へと導く必要があったと振り返る。この判断が、同社を業界の「生存者」にした。

35:57Q&A: オープンソースの商業化と宇宙でのタンパク質生産

質疑応答では、オープンソースコミュニティの商業化に対する反応について質問が寄せられた。Hanyuは、初期段階から全体像(オープンソース、非営利、営利の三者構造)を明確に示していたため、コミュニティのメンバーにとって商業化は驚きではなかったと説明する。また、VCは初期のIPよりも、企業が運営を通じて生成する将来のIPを重視するため、オープンソースであることは調達の障壁にならなかった。

もう一つの質問は、宇宙でのタンパク質生産の可能性についてだった。Hanyuは、IntegriCultureの技術が宇宙での食料生産に応用可能であると認め、実際に内閣府の「ムーンショット」プロジェクト(正確には「Stardustプロジェクト」)と連携していることを明かした。この宇宙応用の可能性が、東京女子医科大学の教授であり宇宙愛好家でもある清水教授の関心を引き、同大学との協力関係が構築された。この協力関係が、結果的にシードラウンドの資金調達につながったという。つまり、壮大なビジョンが現実のビジネスチャンスを生み出した好例である。

40:07これを「肉」と呼ぶべきか

培養肉製品を「肉」と呼ぶことができるのかという問題は、規制上もマーケティング上も重要な論点である。日本では、農林水産省(MAFF)が培養食品を「肉」と呼ぶことを控えるよう指導している。米国でも同様の議論があり、培養肉を「肉」と表示することを禁止する州法が提案されている。Hanyu自身は、自社の製品を「肉」ではなく「タンパク質」と呼ぶことを好む。同社の製品は「Kraft Essen(クラフトエッセン)」という商標で販売されており、これは「工芸食品」を意味するドイツ語に由来する。

Jason Calacanisは、培養肉の未来について楽観的な見方を示す。彼は、バーガーキングの「インポッシブル・ワッパー」が成功した例を挙げ、ハンバーガーこそが培養肉の「聖杯」だと述べる。ハンバーガーはコモディティ製品であるため価格競争が激しいが、もし10年以内に価格パリティを達成できれば、市場は爆発的に拡大するだろう。さらに、培養肉は健康面でも優位性を持つ可能性がある。日本で販売されている「コカ・コーラ プラス」のように、特定の健康機能を付加した食品の開発も視野に入る。Calacanisは、この飲料を実際に試し、「アメリカにあれば自分もモデルのようにスリムになれる」と冗談交じりに絶賛した。

結びに

本エピソードが最も印象的に示したのは、テクノロジーの「ロマン」と「現実」のギャップを埋めるための、創業者の戦略的思考である。培養肉という壮大なビジョンを掲げながら、Hanyuは「まずは化粧品で儲ける」という地に足のついた判断を下した。この「ウェイポイント戦略」は、ハイプに踊らされず、持続可能なビジネスを構築するための重要な教訓を提供する。また、オープンソースコミュニティと営利企業の共存モデルは、技術の民主化と商業化の両立を目指す多くのスタートアップにとって、一つのロールモデルとなるだろう。

このエピソードが重要なのは、単に一社の成功物語を伝えるだけでなく、培養肉業界全体の「今」を正確に描写している点にある。業界はまだ「スタント」段階にあり、主流になるまでには10年以上の時間がかかる。しかし、その間に化粧品や高級食材といったニッチ市場で収益を上げ、技術を磨き続ける企業が、最終的な勝者となる可能性が高い。Hanyuの「SFから逆算して必要なコンポーネント技術を特定する」というアプローチは、ディープテック・スタートアップの経営者にとって、極めて示唆に富むものだ。

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