
あなたのクリックを監視するAIが仕事の未来を変えるかもしれない | E2314
- 今週のThis Week in Startupsでは、AIとサイバーセキュリティの融合領域に焦点を当て、2つの注目スタートアップを深掘りした。まず、エンドポイントセキ...
- Entの核心は、企業のエンドポイント(ノートPCやスマートフォン)上で動作するAIエージェントである。このエージェントは、ユーザーの操作を監視し、「危険なクリック」「...
- [13:54] オンデバイスAIとクラウドベースセキュリティの比較 Entがオンデバイス(エンドポイント上)での処理を重視する理由は、予防にはリアルタイム性が不可欠だ...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
This Week in Startups / Jason Calacanis
- Entは、エンドポイント上のAIエージェントでユーザー行動をリアルタイム監視し、インシデント発生を「予防」する。従来のEDRとは異なるアプローチ。
- 技術的には、軽量なエンベディングモデルをCPU上で動作させ、サブ秒の判断を実現。クラウド依存ではなく、オンデバイス処理を基本とする。
- 企業ポリシーを自然言語で解釈し、セマンティックな意味理解に基づいて違反を検知。2週間のベースライン期間で正常行動を学習する。
- ビジネスモデルはSaaS版とセルフホスト版の両方を提供。データ主権を重視する大企業向けに、顧客環境内でのデプロイを標準とする。
- シードラウンドで1億ドルを調達。主な使途はエンドポイントエージェントの研究開発と、Fortune 500級企業への営業体制構築。
- Sume's Avatarは、複数の動画生成モデルを統合するオーケストレーション層。1回のプロンプトで60秒の一貫したUGC動画を生成する。
- 顔の一貫性維持が技術的な差別化要因。複数の短いクリップを単一音声で結合する手法を採用。
- 両スタートアップに共通するテーマは「AIの不確実性を制御し、実用的なビジネスツールに変える」こと。AIは攻撃手段から防御・創造の基盤へと進化している。
今週のThis Week in Startupsでは、AIとサイバーセキュリティの融合領域に焦点を当て、2つの注目スタートアップを深掘りした。まず、エンドポイントセキュリティの新興企業Ent(エント)の共同創業者兼CTOであるBrandon Dixonが登場。同社は、人間の行動をリアルタイムで監視・分析し、インシデント発生前に防止するオンデバイスAIエージェントを開発し、シードラウンドで1億ドルという異例の大型調達を実施した。ホストのAlex Wilhelmは、従来のセキュリティが「事後対応」に終始している現状を批判し、Entの「予防」というアプローチに強い関心を示した。後半では、前回Clara(AIガールフレンド)で話題を呼んだDavid Imが再登場。新プロジェクトSume's Avatarは、複数の動画生成モデルを統合するオーケストレーション層であり、1回のプロンプトで60秒のUGC(ユーザー生成コンテンツ)風動画を生成する。従来の「スロットマシン的」な試行錯誤を排除し、一発でプロダクション品質の動画を出力することを目指している。
Entの核心は、企業のエンドポイント(ノートPCやスマートフォン)上で動作するAIエージェントである。このエージェントは、ユーザーの操作を監視し、「危険なクリック」「機密ファイルの漏洩」「不正なエージェントの動作」などを、それが発生する前に検知・阻止する。Brandonは、現在のセキュリティ業界が「侵害が起きてから対応する」リアクティブな姿勢に甘んじていると批判。Entのアプローチは、人間のミスや悪意ある行動を「予防」することにある。特に、AIツールの普及により、非技術系の従業員(シチズンデベロッパー)が高度な操作を行うようになり、新たなリスクが生まれている点を強調した。例えば、従業員が許可されていないAIツールに機密データを入力したり、開発者が複数のAIエージェントを同時に走らせて制御不能になるケースなどが想定される。Entは、企業のポリシーを自然言語で解釈し、ユーザーの行動がポリシー違反かどうかをセマンティック(意味的)に判断する。この判断は、エンベディング(単語や文をベクトル化する技術)とベクトルデータベースを活用し、サブ秒単位で実行される。アーキテクチャは、エンドポイント上でもバックエンド上でも動作可能な単一設計であり、顧客のデータ主権要件に柔軟に対応する。特に、大規模言語モデル(LLM)の推論能力ではなく、軽量なエンベディングモデルをCPU上で動作させることで、レイテンシとコストを最適化している点が技術的な差別化要因である。
オンデバイスAIとクラウドベースセキュリティの比較
Entがオンデバイス(エンドポイント上)での処理を重視する理由は、予防にはリアルタイム性が不可欠だからである。Alexは「ユーザーが危険な操作をしようとした瞬間に『Alex、それは危険だ』と止められるのか」と質問。Brandonは「予防にはサブ秒の応答が必要であり、クラウドにデータを送って判断を仰ぐ余裕はない」と答えた。Entのエージェントは、まず2週間程度の「ベースライン期間」を設け、ユーザーや部署ごとの正常な行動パターンを学習する。その上で、企業ポリシーと照合し、本当に介入すべき違反(例:機密データのAIツールへの送信)を特定する。この段階的アプローチにより、従業員のワークフローを不必要に妨げず、かつ効果的な防止を実現する。Brandonは、この仕組みを「組織のワークモデル」と表現。自動運転車が「ワールドモデル」を用いて環境を予測するように、Entは企業内の行動をモデル化し、予測的なセキュリティを提供する。このデータは、単なるセキュリティ監視を超え、業務の非効率の発見や、AIエージェントの導入判断など、生産性向上にも応用可能である。Alexは「これはサイバーセキュリティ企業というより、ワークオブザーバビリティ(業務可視化)企業だ」と評し、その将来性に驚きを示した。
Entのビジネスモデルと市場戦略
EntはSaaS版とセルフホスト版の両方を提供する。セルフホストを可能にしたのは、Microsoft出身のBrandonが、大企業のデータ主権(データを自社環境内に留めたいという要求)を痛感していたからである。Entは顧客のクラウド環境(AWS、GCP、Azure)内にデプロイされ、Ent自身も顧客のデータにアクセスできない設計となっている。課金は年間ライセンス方式で、セルフホスト版はホスティングコストを顧客が負担する分、ライセンス料が低くなる。シードラウンドで調達した1億ドルは、主にエンドポイントエージェントの研究開発と、グローバル2000(Fortune 500級)企業への営業体制構築に充てられる。Brandonは、既存のEDR(エンドポイント検出・対応)市場はコモディティ化しており、Entはそれと競合するのではなく、補完する立場を取ると明言。EDRではカバーできない「内部リスク」や「データ損失防止(DLP)」の領域を、AIの意味理解能力で攻略する。市場の反応は極めて良好で、ステルス状態から完全に脱する前からパイプラインは潤沢だった。既に75名以上の従業員を採用しているが、ヘッドハンティング費用は一切支払っていないという。
David Imの新プロジェクト:Sume's Avatar
David Imは、前回出演時に紹介したClara(AIガールフレンド)から一転、B2B向けの動画生成API「Sume's Avatar」を発表した。現状の動画生成AIは「スロットマシン」のようなもので、満足のいく結果を得るまで何度もプロンプトを打ち直す必要がある。Sume's Avatarは、複数の動画生成モデル(Gemini Omni、Seedanceなど)をルーティングするオーケストレーション層であり、ユーザーはアバターを選び、スクリプトを書くだけで、60秒の一貫したUGC風動画を生成できる。デモでは、同一プロンプトから3つの異なるモデルが生成した動画が表示され、その品質差が明確に示された。特に、顔の一貫性(同一人物の顔が動画全体で変わらないこと)を維持する点が強調された。これは、複数の短いクリップ(各15〜30秒)を生成し、それらを単一の音声ファイルでシームレスに結合する技術によって実現されている。現在のユーザー数は2万人で、有料顧客の90%はブランド(企業)である。主な顧客層はInstagramやTikTokでマーケティング動画を制作するマーケターであり、Twitter上のテックコミュニティとは異なる層をターゲットにしている。Jasonは、AI生成の「シャーク動画」が増えている現状を例に挙げ、コンテンツのAI化が急速に進んでいることを指摘した。
Sume's Avatarの技術的課題と将来展望
Davidは、動画生成の最大の課題は「確率論的(stochastic)な性質」にあると説明する。同じプロンプトでも、生成のたびに結果が異なり、プロダクション品質を得るには試行錯誤が不可欠だった。Sume's Avatarは、この不確実性を排除するために、複数のモデルを並列実行し、最適な結果を選択するルーターを構築した。さらに、画像、動画、音声、クリッピング(動画編集)の各モジュールを統合し、エンドツーエンドのパイプラインを提供する。現在は60秒までの動画生成に対応しているが、目標は「ワンショットでマーケティング動画を生成するエージェント」の実現である。Alexは、このアプローチを「バイブコーディング(vibe coding)」になぞらえ、ユーザーが細かい調整をせずに大まかな意図を伝えるだけで良い点を評価した。ドメイン名「sume.com」は4文字で、Jasonはその価値を10万ドル以上と推定したが、Davidは「GoDaddyの割引で安く取得した」と笑った。
結びに
今回のエピソードが示したのは、AIが「攻撃ツール」としてだけでなく、「防御の基盤」としても極めて有効であるという逆転の発想である。Entは、AIの意味理解能力をエンドポイントに持ち込むことで、従来のセキュリティ製品では不可能だった「予防」を現実のものにしようとしている。1億ドルのシード調達は、このビジョンに対する市場の期待の大きさを物語る。一方、Sume's Avatarは、AI動画生成の「スロットマシン問題」を解決し、マーケティングの民主化を加速させる可能性を秘めている。両者に共通するのは、「AIの不確実性をいかに制御し、実用的なツールに変えるか」という課題への挑戦である。視聴者は、AIが単なる「実験的なおもちゃ」から「ビジネスの中核インフラ」へと移行する過渡期を、生々しい事例とともに体感できる内容だった。
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