
Ep. 118: Galloway Wild Foods - 野生キノコ、海岸の採集、ボタニカルカクテル(feat. マーク・ウィリアムズ)
- エピソード概要 スコットランドのガロウェイを拠点とするフォージング(野生採取)の第一人者マーク・ウィリアムズが、キノコ、海藻、沿岸植物、そして針葉樹を使ったボタニカルカク...
- [0:00] フォージングへの入り口 — キノコがもたらした原体験 マーク・ウィリアムズはスコットランドのアラン島で育ち、幼少期から家族と山登りを楽しむアウトドア一家だっ...
- 彼のフォージングへの最初の火花は、16〜17歳のときにキノコがもたらした。きっかけは、夏のバイト先のレストランで出会った一冊の本、アントニオ・カルルッチョの『A Pass...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
The Mushroom Hour Podcast / Mushroom Hour
エピソード概要
スコットランドのガロウェイを拠点とするフォージング(野生採取)の第一人者マーク・ウィリアムズが、キノコ、海藻、沿岸植物、そして針葉樹を使ったボタニカルカクテルに至るまで、野生食材の驚くべき多様性と可能性を語る。彼の中心的な主張は、フォージングとは単なる食材調達ではなく、人間と自然の深い絆を回復する実践であり、精神的・肉体的健康と生態系全体の健全性に寄与するというもの。会話は、初心者の恐怖心への共感、キノコ狩りのスリル、そして「食べられる自然」への探究心にあふれ、温かくも知的な雰囲気に包まれている。
フォージングへの入り口 — キノコがもたらした原体験
マーク・ウィリアムズはスコットランドのアラン島で育ち、幼少期から家族と山登りを楽しむアウトドア一家だった。しかし、野生食材のフォージングは家庭の習慣ではまったくなかった。1970〜80年代のイギリスでは、食材の産地(プロヴェナンス)への関心は今ほど高くなく、家庭では電子レンジが主流だったという。
彼のフォージングへの最初の火花は、16〜17歳のときにキノコがもたらした。きっかけは、夏のバイト先のレストランで出会った一冊の本、アントニオ・カルルッチョの『A Passion for Mushrooms』だった。この本は単なる図鑑ではなく、イタリア人シェフが「三番目の妻と一緒にアンズタケを採った思い出」など、物語と情熱にあふれたスタイルでキノコを紹介していた。マークは「乾いたフィールドガイドではなく、彼の描写から香りや感触が伝わってきた」と振り返る。当時一緒に働いていたシェフと、シフトの合間に森へ出かけ、キノコ探しに夢中になった。
彼は今でも、教えるときには「最初の1〜2年はすべてのキノコがドクツルタケに見えた」という初心者の恐怖心を忘れないようにしているという。このエピソードは、キノコが「自然への入り口」として機能するというテーマを鮮やかに示している。
スコットランドというキノコの楽園
スコットランド、特に西海岸はキノコにとって理想的な環境だ。マークは「西海岸では秋が年に8ヶ月続く」と表現する。春は3ヶ月、冬は2週間、夏も2週間ほどで、残りはすべて秋のような気候だという。その結果、アンズタケのシーズンは最低でも6ヶ月、年によっては8ヶ月に及ぶ。
特筆すべきは、スコットランドの植林地帯の価値だ。古代のオーク林だけでなく、シトカスプルース(Sitka spruce)の大規模な単一栽培プランテーションも、キノコの宝庫となっている。マークはこれを「漁業で言うところの混獲(バイキャッチ)」と表現する。本来は木材生産のための人工林だが、そこにポルチーニなどの菌根性キノコが豊富に発生する。カナダのユーコン準州では広大な自然林でも食用キノコは3〜4種類しか見つからなかったのに対し、スコットランドの植林地はそれ以上の多様性を持つという。
スコットランドの野生食材の伝統と現代
スコットランドには確かにフォージングの伝統が存在する。特に西海岸のクロフト(小規模な自給自足的農地)コミュニティでは、厳しい時代に海岸でシルバーウィード(銀葉の植物)や、カラギーン(アイリッシュモス)、ダルス(紅藻)などの海藻を採る習慣があった。しかしマークは、これらは「作物が不作のときの非常時の糧」であり、現代のフォージングのように日常的・美食的なものではなかったと指摘する。
現代のフォージングムーブメントは、三つの層が重なったものだという。第一に、古代の狩猟採集民の伝統が失われた後に残った「戦後型の伝統的フォージング」。第二に、シェフや食品科学者たちが主導する「美食的関心の爆発」。そして第三に、ソーシャルメディアによる「再発見と再結合」の波。マーク自身にとってフォージングの核心は、特定の場所との深い結びつきにある。35年前に初めてアンズタケを見つけた木の場所を今でも覚えており、「そこは私にとっての小さな大聖堂」と語る。食べられるという事実が、その土地との関係に「余分な深い層」を加えるのだ。
沿岸フォージング — 未開のフロンティア
沿岸でのフォージングは、キノコや山の植物に比べてまだ広く知られていないが、マークにとっては「計り知れないほど豊かな未開の資源」だ。春のガロウェイ海岸では、シーオラク(Sea Orache)が1ヶ月で「生け垣のような膨大な緑」に成長する。シーケール(Sea Kale)は紫色のブロッコリーのような新芽をつけ、その花は蜂蜜のような味がするという。
特に海藻への情熱は深い。マークは「海藻は地球上で最もミネラルを豊富に含む野菜」と評する。ダルス(Dulse)は「ビーガンベーコン」としても知られ、強いうま味を持つ。彼の大好物は、ポルフィラ(Porphyra)という海藻を使ったウェールズの伝統料理「ラーバーブレッド(Laverbread)」だ。海藻を長時間煮てペースト状にし、オートミールと混ぜて揚げるこの料理は、「食べると体に染み渡るような滋養を感じる」という。
しかし、海藻にも汚染リスクは存在する。マークの住むガロウェイは、ソルウェイ湾を挟んでイギリスのセラフィールド原子力発電所と向かい合っている。そのため、定期的に学術機関から「野生食材の消費量調査」の連絡が来るという。彼は対策として、より自然が豊かな西海岸沖の海域で一年分の海藻をまとめて収穫している。また、イギリスでは環境保護庁(SEPA)が海水浴用水質を公表しているが、食用目的の水質データはまだ整備されていないのが現状だ。
サイバーフォージングとソーシャルメディアの課題
マークは「サイバーフォージング(Cyber-foraging)」という言葉で、ソーシャルメディア上でのフォージング情報の氾濫に警鐘を鳴らす。Instagramなどで「見てください、この素晴らしいキノコの山を」と投稿するのは簡単だが、その裏には「4日間何も見つからなかった日々」がある。成功だけを見せると、フォージングが単なる「採集ゲーム」のように誤解される危険がある。
彼の提案は、短い投稿には必ず詳細な情報へのリンクを添えることだ。自身のウェブサイト(gallowaywildfoods.com)では、10年以上にわたって蓄積した深い知識を無料で公開している。彼は「書くことで自分の知識を整理し、さらに深く調べる必要が生まれる」と語り、このプロセス自体が学習の核だと強調する。ロジャー・フィリップス(著名なキノコ図鑑の著者)が彼に語った「自分がキノコについて何も知らないと気づいたからあの本を書いた」という言葉は、知識を外在化することの本質を突いている。
針葉樹のフレーバーとボタニカルカクテル
マークの最新の関心領域の一つが、針葉樹の料理・飲料への活用だ。彼の入り口は「酒とフォージング」という二つの情熱の交差点だった。ここ10年でボタニカルジンのブームが起こり、蒸留所やバーテンダーとの協働が始まった。針葉樹には、グレープフルーツからレモン、リンゴの皮、ライムに至るまで、驚くほど多様な柑橘系フレーバーが含まれている。これは、針葉樹と柑橘類が共有するテルペン化合物(リモネンやピネンなど)によるものだ。
基本的なフレーバー抽出法は五つある。熱湯での抽出(お茶)、アルコールでの浸漬(マセレーション)、シロップ、ビネガー(酢)への infusion、そしてこれらを組み合わせた「シュラブ(Shrub)」だ。マークは「レシピは他人のビジネスプランに過ぎない」とし、古典的なカクテルの構造を理解した上で、身近な野生植物で代用する自由な発想を推奨する。
さらに彼は、キノコを使ったベルモットも開発した。8種類のキノコを配合したこのベルモットは、特にアメリカン・バーボンウイスキーとの相性が抜群だという。ビーフステックキノコ(Beefsteak fungus)をウォッカに6ヶ月以上漬けると、オークのタンニンが移ってロゼポートのような風味になる。アンズタケのウォッカ漬けは果実味を引き出し、チャーガやカバノアナタケ(Birch polypore)は苦味と薬効を加える。彼は「フォージングの第二幕は、採ったものをどう料理するか」と語り、抽出という技法がその可能性を大きく広げると説く。
野生食材の薬用価値と多様性の重要性
マークは野生食材の薬用効果について、慎重かつ実践的な立場をとる。彼は「健康オタク」ではないと断りつつも、最も重要なのは「生物多様性を食べること」だと主張する。人間は進化的に数百種類の植物を食べるように適応してきたが、現代人は6種類の植物から90%の栄養を摂取しているという統計を引用する。
彼自身は冬の間、ほぼ毎日チャーガかカバノアナタケの茶を飲み、スープのストックにトルコテール(カワラタケ)を加える。しかし、これは「組織だった健康法」ではなく、風味と「おそらく体に良いだろう」という程度のものだ。彼は「薬用効果は自分にとっては理論的な話になりがち」と認める。なぜなら、幸いにも病気になることが少なく、実際に体験として語れることが限られているからだ。
しかし、彼が強調するのは、フォージングそのものがもたらすメンタルヘルス効果だ。「外に出て、探し、つながる」という実践そのものが、薬効成分以上に重要かもしれない。また、都市部でも公園には50種類以上の野生食材が存在し、「少し摘んで味わう」程度のインパクトは、多くの人が心配するほど環境に負荷をかけないという。彼は「人間が自然に触れること自体が問題なのではなく、むしろ断絶こそが問題だ」と指摘する。
フォージング教育の進化と未来
コロナ禍のロックダウンは、マークの教育活動に大きな変化をもたらした。対面でのグループツアーができなくなり、彼は無料のオンラインメンタリングを開始した。40分間の1対1セッションで、参加者のレベルに合わせて深く掘り下げる。初心者から本を執筆中のベテラン、さらにはアリゾナ州からの参加者まで、多様なニーズに対応した。
この経験から彼は、対面のグループツアーでは12人に分散せざるを得なかった注意が、1対1では「なぜ」「いつ」という本質的な問いに集中できることを発見した。現在はこのメンタリングを有料化しつつ、より構造化した形で継続している。また、真菌学のウェビナーも開催し、今後は植物化学に関するウェビナーを予定している。
彼はまた、イギリスのフォージャー協会(Association of Foragers)の中心メンバーでもある。この協会は、テリー・プラチェットの小説に登場する「ギルド」のパロディから始まった。アイラ島のブルックラディ蒸留所が主催したフォージャー同士の集まりで、「私たちはライバルではなく、同じ流れの一部だ」という気づきを得たことが団体結成のきっかけだ。現在約120名の会員がおり、毎年1回の合宿イベントを行っている。
野生食材の認証制度 — 次なるステップ
マークが現在最も力を入れているプロジェクトの一つが、野生食材の種別認証制度の構築だ。フィンランドで見た「スタンプ帳方式」の認証制度に触発された。フィンランドでは、チューターと一緒に特定のキノコや植物の識別テストに合格すると、その種についての認定が得られる仕組みがある。
彼は「フォージングに余計な官僚制を持ち込むのは本意ではない」と認めつつ、現実的な必要性を説く。レストランのシェフや野生食材ビジネスは、HACCP(危害分析)や持続可能性の基準を満たすために、信頼できる供給元を必要としている。しかし、従来の「フォージング全般」の試験では、種ごとの生態や収穫の影響が異なるという現実に対応できない。
そこで彼が提案するのは、種別・レベル別の自主的な認証だ。例えば、チャーガのレベル1、レベル2という形で、その種に特化した知識と実践を証明する。重要なのは、この制度が「排除」ではなく「情報提供」と「自主的な基準」として機能することだ。フォージャー、保護団体、シェフ、食品基準庁など、多様なステークホルダーを巻き込んで合意形成を目指している。スコットランドでは「 roam の権利(Right to Roam)」が法的に認められており、個人消費のためのフォージングは自由だが、商業目的では地主の許可が必要となる。この法的枠組みも、制度設計に影響を与えている。
まとめ
このエピソードが聴き手に残すものは、フォージングが単なる「食材の無料調達」をはるかに超えた、人間と自然の関係を再構築する実践であるという確信だ。マーク・ウィリアムズの語り口は、初心者の不安からベテランの深い知識までを包摂し、キノコから海藻、針葉樹のカクテルに至るまで、あらゆる野生食材に「物語」と「つながり」を見出す視点を提供する。特に印象的なのは、彼が「フォージングの第二幕は料理」と語り、抽出や発酵といった技法で野生のフレーバーを最大限に引き出す創造性だ。そして、種別認証制度や学校教育への導入といった具体的なビジョンは、フォージングを「趣味」から「文化」へと昇華させるための現実的なロードマップを示している。
要点
- マーク・ウィリアムズはスコットランド・ガロウェイを拠点とするフォージング教育者で、キノコ、海藻、沿岸植物、針葉樹など幅広い野生食材を扱う。
- スコットランド西海岸は「年に8ヶ月が秋」とも言える多湿な気候で、アンズタケのシーズンが6〜8ヶ月続くキノコの楽園。
- シトカスプルースの植林地は「混獲」として豊富な菌根性キノコ(ポルチーニなど)を産出する、見過ごされがちな重要な採集地。
- 沿岸フォージング、特に海藻は「最もミネラル豊富な野菜」であり、ダルスやラーバーブレッドなど伝統的な活用法が再評価されている。
- 針葉樹には柑橘系のテルペン化合物が豊富で、ジンやベルモットなどのボタニカルカクテルに活用できる。キノコを使ったベルモットも開発済み。
- ソーシャルメディア上の「サイバーフォージング」は誤解を招く危険があり、詳細な情報へのリンクを添える責任が発信者にはある。
- フォージャー協会(Association of Foragers)は、種別・レベル別の自主的認証制度を構築中で、シェフや保護団体、食品基準庁との合意形成を目指している。
- マークの最大の希望は、フォージングが学校の標準カリキュラムに組み込まれ、子どもたちが自然との深い結びつきを早期に獲得すること。