森林再生の推進 | 論文の背景にある物語
- 森林再生を前進させる:変動する世界における7つの社会生態学的課題 本エピソードでは、英国生態学会(British Ecological Society)のポッドキャスト「...
- [0:00] 研究の背景と二人の研究者の道筋 Marianaはベネズエラのアンデス山脈とマラカイボ湖の間で育ち、幼少期から自然環境への強い意識を持っていた。生物学(保全学...
- 一方Katieは、幼少期から地理に熱中し、キッチンの壁に貼られた世界地図を何時間も眺めていたという「地理オタク」としての出自を持つ。大学で地理学を学び、物理地理学から経済...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
Ecology Podcast / Ecology Podcast
森林再生を前進させる:変動する世界における7つの社会生態学的課題
本エピソードでは、英国生態学会(British Ecological Society)のポッドキャスト「The Story Behind the Paper」において、ホストのAnnaがマンチェスター大学の研究者Mariana Hernandez-Montilla(博士課程3年)とKatie Devenish(ポスドク研究員)を迎え、2026年2月に『People and Nature』誌に掲載された論文「Forwarding forest restoration: Seven key socio-ecological issues for advancing forest restoration in a world in flux」の背後にある研究プロセスと知見を掘り下げている。森林再生が国際的な大規模コミットメントと数十億ドルの投資を集める一方で、その成功が単なる植林面積や予算規模で測定され、地域コミュニティの福祉や生態学的実効性が軽視されている現状への「集合的フラストレーション」が研究の出発点だ。25名の国際的専門家を集めたホライゾン・スキャニング(将来予測手法)を通じて、今後5〜10年に森林再生を根本的に形作る7つの重要課題が特定され、その内容は「木を植えるべきでない場所への植林」から「AI技術の恩恵とリスクの分配」まで多岐にわたる。
研究の背景と二人の研究者の道筋
Marianaはベネズエラのアンデス山脈とマラカイボ湖の間で育ち、幼少期から自然環境への強い意識を持っていた。生物学(保全学専攻)を学び、メキシコで天然資源の修士号を取得、カリフォルニアでは芸術も学んだ。その後、リモートセンシングやGIS、生態系評価といった技術的アプローチで環境問題に長年取り組んできたが、「私の地図や生態系分析には人々が含まれておらず、人々は地図の中にいなかった」という違和感を抱き続けた。人を抜きにした保全は意味をなさないという認識から、政治生態学と科学コミュニケーションへと軸足を移し、現在はコミュニティ森林再生、人々の将来への願望、環境ガバナンスをテーマに博士研究を進めている。
一方Katieは、幼少期から地理に熱中し、キッチンの壁に貼られた世界地図を何時間も眺めていたという「地理オタク」としての出自を持つ。大学で地理学を学び、物理地理学から経済地理学、文化地理学まで多様な分野に触れる中で、「地球上のすべての人がニーズを満たしながら、将来世代のために地球を保全するにはどうすればよいか」という人と環境の相互作用への関心が決定的となった。修士課程、博士課程を通じて、人々がどのように土地を利用し、より持続可能な土地利用を実現できるかを問うマッピングと統計のスキルを磨いてきた。両者は異なるルートから同じ研究テーマに収斂した。
研究の動機:なぜ今、この問いなのか
Marianaはこの論文を「集合的フラストレーションの産物」と表現する。森林再生は現在、保全分野で最大のアジェンダの一つであり、数十億ドルの投資と政治的勢いがある。しかし、実際の再生事業の進め方や成功の測定方法を詳しく見ると、ほとんどの場合「面積、ヘクタール、予算」という数字に還元されている。生態学的に効果的か、地域コミュニティに真の利益をもたらしているか、植えられた森林が1年後に生き残っているか、誰が樹木の維持管理を担当するのか、土地の所有者は誰か——こうした問いはほとんど考慮されていない。
研究指導教員であるJohanが提案したホライゾン・スキャニングという手法は、Marianaにとって「とても楽しいプロセス」だったという。この手法では、世界中から研究者、実務家、資金提供機関の関係者、民間セクターの代表など25名の専門家を集め、「今後10年間に森林再生を真剣に形作るが、まだ適切に対処されていない課題は何か」を問うた。最終的に7つの課題が抽出されたが、その中には「間違った場所への植林」「再生資金のエリートによる掌握」「AIがもたらす影響」などが含まれる。
研究方法:ホライゾン・スキャニングの実際
研究は数ヶ月にわたる反復的かつ集合的なプロセスとして実施された。まず全参加者がGoogleフォームを通じて、自分が緊急または未検討と考える課題を提出。これにより約100の課題が集まった。コアグループは何時間ものセッションを重ねてスコアリングとランキングを行い、その後ローマで開催されたFLARE会議でのワークショップにおいて、25名の専門家が一堂に会して議論を重ね、最終的に7課題に絞り込んだ。
このプロセスで特筆すべきは、参加者の思考が複数ラウンドを経て大きく変化した点だ。最初は各自が自分の専門分野に基づく優先順位を強く主張するが、議論を重ねるうちにリストは当初とは全く異なるものへと変容した。Katieは「このホライゾン・スキャンは、今後5〜10年の間に起こりうる経済的・政治的・社会的変化が森林再生の実施と成功にどう影響するかを前もって見通す点で斬新であり、関係者が将来に備える助けとなる」と説明する。
7つの重要課題:詳細解説
Katieが提示した7課題は以下の通りである。
第一に、設計の悪い再生イニシアチブによる環境への悪影響。 これは「木を植えるべきでない場所に木を植える」問題であり、単一栽培や外来種の植林、乾燥地での過剰な植林による下流コミュニティへの水資源問題、長期的な生存率を考慮しない計画の失敗などを含む。
第二に、人間の福祉と多様な価値への継続的な無関心。 政府が「ここに数百ヘクタールの木を植える」とトップダウンで決定し、地域住民が意思決定に参加できず、有用でない樹種が植えられ、土地へのアクセスも制限される——この問題は長年にわたって保全・再生分野で指摘されながら、いまだに解決されていない。
第三に、長期再生のための資金ギャップと民間投資の課題。 政府が約束した規模での森林再生に必要な資金は不足している。炭素市場や生物多様性市場などの自然資本市場が新たな機会を提供する可能性はあるが、それが持続可能で公正な森林再生に寄与するかどうかは、規制とガバナンスの質に完全に依存する。
第四に、新たな権力ダイナミクスとエリートによる掌握。 外部からの資金流入は、コミュニティ内の既存の権力不均衡を悪化させる可能性がある。仲介者としての立場を利用して、権力者が不均衡に利益を享受するリスクが存在する。
第五に、AIと関連技術による技術革命。 衛星による森林変化のモニタリングは飛躍的に進歩し、個々の樹木や樹種までも識別可能になった。この技術が一部の手に集中するのではなく、広く利用可能になれば、地域コミュニティは自分たちの土地管理の証拠を示し、炭素市場へのアクセスを得るために活用できる。技術の影響は、アクセスの公平性次第で正にも負にもなる。
第六に、気候変動適応を再生実践に組み込む必要性の高まり。 気候が変化する中で、適応を考慮しない再生事業は、数年後に植えた樹木が気候に適応できずに失敗するリスクが高く、コスト増と成功率低下を招く。
第七に、土地をめぐる競争と紛争の激化。 これは他のすべての課題を枠づける根本的な問題である。農業、都市開発、鉱業、生物多様性保全、森林再生——限られた土地をめぐる多様な需要が競合し、多くの場合、経済的な土地利用が保全や再生に優先される。「混雑した惑星」の中で、いかにして再生のための空間を確保するかが問われる。
ボトムアップ・アプローチの重要性と環境正義
Marianaの専門領域である環境正義の観点から、地域コミュニティの参加の欠如がもたらす問題が深掘りされた。彼女の博士研究のケーススタディはメキシコ・オアハカ州のMixteca地域であり、先住民族コミュニティと協働して森林再生における環境正義を研究している。政策文書では「コミュニティに聞く」と謳われていても、実際の意思決定プロセスにコミュニティが参加できるかは別問題だ。森林再生の社会的側面——人間の福祉、多様な価値、権力関係、土地保有権——が二次的に扱われる限り、真に機能する再生は実現しない。
Marianaの研究の核心的な問いは「誰が再生の決定に対する権力を持つのか」「何が『カウント』されるのか」「誰が除外されるのか」「森林再生の勝者と敗者は誰か」である。この問いは現在、彼女がコミュニティと共同制作しているドキュメンタリー作品にも展開されており、研究手法としての映像制作の可能性も探っている。
研究の意義と今後の展望
この論文の実践的な意義は、政策立案者、実務家、NGOなどが将来の課題に備え、森林再生をより適応的でレジリエントなものにするための「ウォッチリスト」を提供した点にある。学術的には、低い生存率や再生林の再伐採の原因解明、自然資本市場の正負両方の影響評価、植林面積や炭素貯蔵量を超えた再生成功の評価ツール開発、社会的・制度的条件のエビデンス構築など、具体的な研究課題が提示された。
Katieはこの研究を継続し、翌年には森林と生計に焦点を当てた第二弾のホライゾン・スキャンを『Forest Policy and Economics』に発表した。さらに今年も第三弾を計画しており、年次開催を目指している。Marianaはこの論文が自身の博士研究とは別の「サイドリサーチ」でありながら深く接続し、人々の将来への願望を探る民族誌的ケーススタディや、国際ガバナンスが森林再生のグローバルな物語をどう形成するかを分析する第二論文、そしてコミュニティとの共同ドキュメンタリー制作へと研究が展開している。
研究プロセスのユーモアと発見
ローマでのワークショップでは、25課題から7課題への絞り込みが行われた。Marianaは各課題の議論時間を12分に制限するタイムキーパー役を務め、「ストップ」と言うたびに研究者たちの表情が変わるのを見るのが「楽しすぎた」と笑う。専門家たちが自分のテーマに強い情熱を持ち、議論が白熱する様子は印象的だったという。
一方Katieは、参加者のフライトや宿泊の手配を担当した際の「旅行代理店としての失敗談」を語った。高額で返金不可のフライトを予約した後に参加者が来られなくなったこと、上司の宿泊予約をミスして別のホテルに泊まらせることになったこと、帰路に間違った空港(チャンピーノ空港)にUberで到着してしまったこと——幸いにもフライトには間に合ったが、「それ以来、誰も私にロジスティクスを頼まなくなりました」と自嘲する。
研究者としての喜びと困難
Marianaは自身の研究分野について「最良であり最悪でもあること」として、問いが絶えず変化することを挙げる。「答えにたどり着いたと思った瞬間に、問い自体がすでにシフトしている」。成功を定義するのは誰かという問いを深めるほど、新たな層が見えてくる。土地と気候変動をめぐる政治が急速に変化する中で、この「深さと緊急性」の中で研究できることは特権だと語る。
Katieは「オタクでいることにお金をもらえる」ことが最大の利点だと述べる。地図を眺め、重要な社会的問いに答え、同じ関心を持つ人々と交流する——これが職業であることの喜び。しかし「十分な情報はあるのに、それに基づいて行動する力がない」というフラストレーションも大きい。政治家やビジネスリーダーが行動を起こすかどうかは研究者の手の届かないところにあり、時には自分の仕事がどれだけインパクトを持っているのか疑問に感じることもあるという。
次世代へのアドバイス
Marianaは「最も複雑な問いに対する答えは、時に非常にシンプルである」と語る。保全における最も根強い問題は、最も洗練された枠組みによってではなく、何世代にもわたって森に生きてきた人々の声に耳を傾けることによって解決される。シンプルな答えは、すでにそこにある——それを信じることの重要性を強調する。
Katieは「長期的な計画を気にしすぎず、自分の興味が向かう方向に従うこと」を勧める。興味を追いかけていけば、面白くて充実した仕事にたどり着く。次の最善の一歩だけを考えればよいという。
まとめ
このエピソードが聴き手に残すのは、森林再生という一見シンプルな「木を植える」活動が、実際には権力関係、資金の流れ、技術の分配、気候変動、土地をめぐる競争という複雑な社会生態学的システムの中に埋め込まれているという認識である。単なる面積目標の達成ではなく、誰が決定権を持ち、誰が利益を得て、誰が排除されるのかという正義の問いが、再生の成否を分ける。ホライゾン・スキャンという手法の価値は、未来の不確実性を直視し、それに備えるための「ウォッチリスト」を提供した点にある。そして何より、研究プロセスそのものが、異なる専門性と立場を持つ人々が真剣に議論し、時に衝突しながらも共通の理解を築くことの重要性を示している。
要点
- 森林再生の成功は現在、植林面積や予算規模で測定されているが、生態学的実効性や地域コミュニティの福祉は軽視されている
- 25名の国際的専門家によるホライゾン・スキャニングを通じて、今後5〜10年に森林再生を形作る7つの重要課題を特定
- 7課題には「不適切な場所への植林」「人間の福祉への無関心」「資金ギャップ」「エリートによる資金掌握」「AI技術の影響」「気候変動適応の欠如」「土地をめぐる競争」が含まれる
- 地域コミュニティを意思決定から排除するトップダウン型のアプローチは、長期的な再生の失敗要因となる
- AIや衛星技術は森林モニタリングを革新するが、その恩恵が一部に集中するリスクがあり、アクセスの公平性が鍵となる
- 自然資本市場(炭素市場など)は新たな資金源となる可能性があるが、規制とガバナンス次第で結果が正負に分かれる
- 研究者は「十分な情報があるのに行動する力がない」というフラストレーションを抱えつつも、政策立案者や実務家に将来への備えを促す役割を果たす