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The Animal Behavior Podcast · 2026年6月9日

S3E7 Jenny Tung:分子生物学と行動の相乗効果について

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • S3E7 Jenny Tung on Synergy Between Molecular Biology and Behavior 本エピソードでは、ホストのMatt...
  • [0:07] 分子生物学と行動生態学の相互利益 Tung博士はまず、行動生態学者に向けて分子生物学的手法の価値を明確に語る。多くの行動生態学者は、行動が長期的な適応度...
  • 「Tim Burke的な究極要因の観点から動機づけられていたとしても、AからBに至るプロセスを理解するには分子アプローチが有用です」とTung博士は述べる。ゲノミクス...
こんな人向け

自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。

出典Podcast

The Animal Behavior Podcast / The Animal Behavior Podcast

要点
  1. 分子生物学的手法は、行動が「皮膚の下」でどのように生理学的プロセスを介して適応度に影響するかを解明し、行動観察だけでは見えない因果経路を可視化する。
  2. アンボセリのヒヒ集団の全ゲノム解析により、すべての個体がキイロヒヒとアヌビスヒヒの交雑個体であることが判明。1982年以降の「最近の」交雑に加え、数百万年にわたる古代の交雑の痕跡がすべての個体に残っていた。
  3. ゲノム上の特定領域ではアヌビス由来の遺伝子が統計的に少なく、「交雑に対する選択」が働いている。これは遺伝子発現の種間差が大きい領域で特に顕著で、有害な遺伝子の流入を防ぐ自然選択の痕跡と考えられる。
  4. エピジェネティック・クロックはDNAメチル化パターンから年齢を高精度に予測するが、個体ごとの「予測からのずれ」が生物学的状態の指標となる。
  5. アンボセリのヒヒでは、高順位オスが「年齢より老けて見える」傾向があり、これは高順位オスの死亡率が高いという独立したデモグラフィックデータと一致する。これは繁殖成功と長期的健康のトレードオフを示唆する。
  6. Oxford Nanopore MinIONのような小型シーケンサーにより、フィールドサイトで糞サンプルから数日以内に遺伝子データを取得することが可能になりつつあり、父性判定などの研究が加速する可能性がある。
  7. マックス・プランク進化人類学研究所の長期安定支援モデルは、ネアンデルタール人ゲノム解読のような「スローバーン」研究を可能にし、分野横断的な統合研究の基盤となる。
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S3E7 Jenny Tung on Synergy Between Molecular Biology and Behavior

本エピソードでは、ホストのMatthew Zippelが、マッカーサー・フェローでありマックス・プランク進化人類学研究所の所長を務めるJenny Tung博士と対談する。Tung博士は、分子生物学的手法(エピジェネティクス、ゲノム、遺伝子発現)を行動生態学に統合することで、動物の行動とその進化について、従来の行動観察だけでは見えなかった深層を明らかにできると主張する。アンボセリ・ヒヒ研究プロジェクトでの具体的な研究事例——集団の交雑史の解明と「生物学的年齢」の測定——を通じて、分子データとフィールドデータが互いの盲点を補完し合う力が示される。会話は、南アフリカの高速道路を車で移動中に収録されたという臨場感あふれる雰囲気の中で進む。

0:07分子生物学と行動生態学の相互利益

Tung博士はまず、行動生態学者に向けて分子生物学的手法の価値を明確に語る。多くの行動生態学者は、行動が長期的な適応度(fitness)——生存期間や繁殖成功——にどう影響するかに関心を持つが、その因果経路の多くは「皮膚の下(under the skin)」で起こっている。社会的経験や行動がどのようにして生理学的プロセスを介して健康や適応度に影響を与えるのかを理解するには、分子レベルの情報が不可欠だと彼女は主張する。

「Tim Burke的な究極要因の観点から動機づけられていたとしても、AからBに至るプロセスを理解するには分子アプローチが有用です」とTung博士は述べる。ゲノミクスの強みは、比較的バイアスのない方法で探索できる点にある。例えば、社会的関係の進化を考えるとき、多くの研究者はまず免疫遺伝子を思い浮かべないかもしれないが、実際にゲノムワイドな解析を行うと免疫系への影響が顕著に現れる。これにより、事前には想定していなかった新しい仮説の扉が開かれる。

同時にTung博士は、この相乗効果は遺伝学者側にも利益をもたらすと指摘する。多くの種において、集団の遺伝的構造は行動——誰がどこへ移動し、誰と交尾するか——によって決定される。したがって、遺伝的パターンを理解したい遺伝学者も、行動に注意を払う必要があるのだ。

5:11アンボセリ・ヒヒ研究プロジェクトと交雑の歴史

アンボセリ・ヒヒ研究プロジェクト(Amboseli Baboon Research Project)は、1971年にGene AltmannとStuart Altmannによって設立された、52年にわたる野生ヒヒの継続研究である。ケニア南部、タンザニア国境に位置するアンボセリで、現在約250〜300頭の個体を個体識別して追跡し、累計で約2,000頭の生涯データを蓄積している。出生、死亡、移入・移出といったデモグラフィーデータに加え、個体間の社会的相互作用、敵対関係や友好関係、遺伝子データ、ホルモンデータ、寄生虫データなどを収集し、環境曝露が「皮膚の下」で何を引き起こすかを解明しようとしている。

この研究の核心的な問いの一つが、キイロヒヒ(yellow baboon, *Papio cynocephalus*)とアヌビスヒヒ(olive baboon, *Papio anubis*)の交雑である。1982年、Gene Altmannと学生のAmy Samuelsは、明らかにアヌビスヒヒの特徴を持つ個体が集団に移入し、交配するのを初めて観察した。アヌビスヒヒはより暗く頑丈な体型を持ち、キイロヒヒはより淡色で細身である。以来、断続的にアヌビスヒヒが流入し、複雑な交雑集団が形成されてきた。

Tung博士が大学院生だった頃は、ほとんどの個体が純粋なキイロヒヒで、約4分の1程度がアヌビス祖先を持つと考えられていた。しかし、行動データから興味深いパターンが浮かび上がった。アヌビス的な特徴を持つ個体は、初経年齢が早く、オスは分散(出生群を離れる)が早く、さらに同類交配(assortative mating)——似た者同士が交尾する傾向——を示した。これは、2種が接触した際に分離を維持するか、あるいは1種に融合するかに重要な影響を持つ。

12:33全ゲノムシーケンシングが明らかにした驚きの事実

Tung博士の研究室は、Taras VilgalysとAriel Fogelが主導した2022年の研究で、集団内の多数の個体の全ゲノムをシーケンシングした。その結果、驚くべき事実が判明した。なんと、現在の集団のすべての個体が交雑個体(hybrid)だったのだ。つまり、1982年以降の「最近の」交雑波だけでなく、はるか過去——数千年、数百万年にわたる——の交雑の痕跡が、すべての個体のゲノムに刻まれていた。

キイロヒヒとアヌビスヒヒは、約150万年前に分岐し、それ以来ほぼ独立して進化してきた。そのため、ゲノム上の特定の位置に、どちらの種に由来するかを示す「診断的な」塩基配列が存在する。ゲノムをスキャンすることで、各個体のゲノムのどの部分がキイロヒヒ由来で、どの部分がアヌビスヒヒ由来かを特定できる。そして、すべての個体が少なくとも一部のアヌビス祖先配列を持っていることが明らかになった。違いは、最後にアヌビスの祖先を持ったのが何世代前かという点だけだった。

さらに、ゲノム全体で交雑が均一に起こっているわけではないこともわかった。特定のゲノム領域では、アヌビス由来の配列が統計的に期待されるよりも少なく、これは「交雑に対する選択(selection against admixture)」が働いていることを示唆する。特に、遺伝子の調節領域や、キイロヒヒとアヌビスヒヒで遺伝子発現が大きく異なる領域の近くで、このパターンが顕著だった。つまり、自然選択が、何らかの有害な影響を持つアヌビス由来の遺伝子を排除している可能性がある。

しかし、Tung博士は重要な注意点を加える。遺伝データだけでは誤解を招く可能性がある。行動データと組み合わせることで、アヌビス的な特徴を持つ個体が早期成熟や早期分散といった「有利に見える」形質を持つ一方で、それが生涯適応度にどう影響するかは複雑な計算が必要だ。早期分散が競争能力の低下や早期死亡とトレードオフする可能性もあり、全体としての適応度への正味の効果は単純ではない。

25:45エピジェネティクスと「生物学的年齢」の測定

Tung博士は、エピジェネティクス——特にDNAメチル化——の基礎から説明する。エピジェネティクスとは、DNA配列自体の変化を伴わずに遺伝子発現を調節する機構の総称である。DNAメチル化は、シトシン塩基(C)にメチル基(CH₃)が付加される化学修飾で、哺乳類では主にCpG配列(Cの後にGが続く部位)で起こる。この修飾は細胞分裂を超えて忠実に伝達されるため、環境応答の長期的影響を研究する上で重要な指標となる。

「エピジェネティック・クロック(epigenetic clock)」とは、DNAメチル化レベルから個体の年齢を高精度に予測する機械学習モデルである。ゲノム上の多数の部位でのメチル化レベルを測定し、既知の年齢を持つ個体のデータから「年齢予測のレシピ」を学習させる。胎児期にはメチル化レベルが低く、加齢とともに特定のパターンで変化することを利用している。

重要なのは、このクロックが単に年齢を予測するだけでなく、個体の「見かけの年齢」と実際の年齢のずれ(deviation)が、その個体の状態や脆弱性に関する追加情報を提供する点だ。例えば、実際は10歳なのにクロックが11歳と予測する場合、その個体は「年齢より老けて見える」状態にあり、死亡リスクが高い可能性がある。人間の研究では、このずれが疾患リスクや寿命予測と関連することが示されている。

34:36アンボセリのヒヒにおけるエピジェネティック・クロックの応用

Tung博士の研究室は、Jordan AndersonとRachel Johnstonが主導し、アンボセリのヒヒでもエピジェネティック・クロックを構築した。予想通り、メスとオスの両方で実年齢を高い精度で予測できた。次に、個体ごとの予測からのずれが、既知の健康・適応度の予測因子——初期逆境、社会的絆、社会的地位——によって説明できるかを調べた。

結果は意外なものだった。初期逆境や社会的絆は、エピジェネティック・クロックのずれと有意な関連を示さなかった。しかし、オスの社会的地位については強い関連が見られた。高順位のオスは「年齢より老けて見える」傾向があり、低順位のオスは「若く見える」傾向があった。さらに、地位が変化したオスの繰り返しサンプルから、高順位を失うと「老けて見える」状態が解消されることが示された。

この結果は、独立したデモグラフィック分析(Susan Albertsによる)と見事に一致する。高順位のオスは実際に死亡率がやや高いのだ。Tung博士は、このパターンを「高順位オスの生理的投資戦略」として解釈する。高順位のオスは、交尾機会を確保するために他のオスとの激しい物理的競争に直面する。そのため、創傷治癒に必要な炎症反応を活性化するなど、短期的な競争力向上に生理的資源を投資する。この投資は長期的な健康には不利かもしれないが、繁殖成功という観点からは合理的だ。このトレードオフは、オスがメスより早く死亡するという哺乳類に広く見られるパターン(男性的早死)と整合する。

42:04学際的研究の実践とマックス・プランク研究所での展望

Tung博士は、自身の学際的アプローチについて「単に好きだから」と率直に語る。彼女は社会的行動を遺伝学のレンズを通して理解したいと考え、そのために行動生態学、進化遺伝学、統計遺伝学など様々な分野の専門家と協力してきた。「私はどの分野でも深さでは協力者に及ばない、いわばディレッタントです」と彼女は認めるが、それが逆に強みになっている。学生たちが特定の分野で深く掘り下げる一方で、彼女は異なる分野をつなぐアイデアを提供できる。

彼女は、人間の社会心理学の会議、人口統計学の会議、さらには政府高官が参加する人口転換に関する会議など、通常の動物行動学者が参加しないような会議にも積極的に足を運んできた。これにより、自身の研究を異なる視点から見直す機会を得ている。

2023年から所長を務めるマックス・プランク進化人類学研究所について、Tung博士はそのユニークな資金提供モデルを説明する。マックス・プランク協会は、各研究所の部門長(ディレクター)に、67歳の定年まで継続する generous な予算とインフラを提供する。これにより、単一のグラントでは実現できない「スローバーン(slow burn)」の長期的研究が可能になる。例えば、研究所の創設ディレクターであるSvante Pääboがネアンデルタール人ゲノムの解読に成功したのは、この長期安定支援があってこそだった。

Tung博士は自身の部門で、野生集団の表現型・行動を研究するフィールドワーカー、機能ゲノミクスを専門とするラボ研究者、集団遺伝学者、デモグラファーが日常的に交流し、統合的な研究を生み出す環境を構築したいと考えている。特に、フィールドサイトで直接、高度な分子分析を迅速に行えるようにすることで、観察と分子データのフィードバックループを加速させたいと述べる。

52:09フィールドでの分子生物学の革命

Tung博士は、フィールドでの分子分析の可能性について具体的に語る。従来、野生動物の遺伝子サンプル(糞や毛など)は、収集後、輸出許可を取得し、遠くの研究室に送って分析するまでに数年かかるのが一般的だった。しかし、Oxford Nanopore社のMinIONのような小型シーケンサーが登場し、状況は変わりつつある。

彼女の学生Jordan Andersonは、アンボセリのフィールドキャンプで、糞からDNAを抽出し、MinIONでシーケンシングすることに成功した。キャンプの部屋は40度近くになり、プロトコルが要求する20度を達成するために、野菜を冷やすための「スワンプクーラー」(水の蒸発冷却を利用した簡易冷蔵庫)を流用するなど、即興的な工夫が必要だった。それでも、Andersonはフィールドで採取したサンプルから、翌日にはシーケンスデータをTung博士に送信できた。

この技術が実用化されれば、例えば父親の特定が数日で可能になり、父性行動の研究が飛躍的に進む。しかしTung博士は、この技術の真の価値を科学コミュニティに示すためには、「単に便利」という理由だけでなく、これまで不可能だった科学的問いに答える具体的な事例が必要だと指摘する。彼女は「誰か良いアイデアがあればメールしてください」と聴衆に呼びかけている。

1:00:09マッカーサー・フェローシップ受賞の舞台裏

エピソードの終盤、Tung博士は2019年のマッカーサー・フェローシップ(通称「天才賞」)受賞時のユーモラスなエピソードを語る。マッカーサー財団は受賞者に電話で通知するが、Tung博士は知らない番号からの電話に出ない習慣があったため、何度も電話を逃していた。最終的に財団は策略を変え、「100 & Change」という助成プログラムについて意見を聞きたいというメールを送り、電話での面談を設定した。電話口で「実は嘘をつきました。マッカーサー・フェローシップについてご存知ですか?」と言われ、受賞を知ったという。

財団からは「あなたは連絡が取りにくかった。でも、Lin-Manuel Mirandaよりはマシだった」と言われたそうだ。Tung博士は「これが私とLin-Manuel Mirandaの最も近い接点でしょう」と笑う。受賞後1ヶ月間は誰にも話せないというルールがあり、彼女は夫と両親の3人だけに打ち明けた。その後、他の研究者の素晴らしい講演を聞くたびに「この人が受賞すべきだ」と思い、一種の「詐欺症候群(imposter syndrome)」に苛まれたと振り返る。

まとめ

このエピソードが聴き手に残す最大のメッセージは、分子生物学と行動生態学の統合が、どちらか一方だけでは決して到達できない深い理解をもたらすという点だ。アンボセリのヒヒにおける交雑研究は、遺伝データが明らかにする「すべての個体が交雑個体である」という事実と、行動データが示す「アヌビス的な形質の適応度への複雑な影響」が、互いに補完し合う美しい例である。また、エピジェネティック・クロックの研究は、高順位オスが「年齢より老けて見える」という予想外の発見を通じて、繁殖成功と健康のトレードオフという進化生物学の核心的な問いに分子レベルから迫る。Tung博士の学際的なキャリアとマックス・プランク研究所でのビジョンは、分野の壁を越えた協力が科学のフロンティアを切り拓く力を持つことを示している。

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