
エージェンティック経済:Circle共同創業者兼CEO Jeremy Allaireが語る、AIエージェントが金融システムをどう変革するか
- Circleの共同創業者兼CEOであるJeremy Allaireが、ホストのElad Gilとの対話を通じて、AIエージェントが主導する「エージェンティック経済」の到来...
- Allaireは、自身が長年研究してきた「完全準備銀行制度(full-reserve banking)」の思想が、ステーブルコインという形で現実のものとなり、米国では「G...
- [0:21] Circleの創業と「インターネット上のドル」というビジョン Jeremy Allaireは2013年にCircleを創業した。その原動力は、「インターネッ...
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Circleの共同創業者兼CEOであるJeremy Allaireが、ホストのElad Gilとの対話を通じて、AIエージェントが主導する「エージェンティック経済」の到来と、それを支える新たな金融インフラのビジョンを描き出した。Allaireは、従来の銀行システムがグローバルで即時、かつプログラム可能な決済を提供できないという根本的な課題を指摘し、その解決策として、ステーブルコイン「USDC」と、新たに開発したブロックチェーン「Arc」を「経済のオペレーティングシステム」として位置づける。この議論の核心は、AIエージェント同士が自律的に経済活動を行う未来において、信頼でき、検証可能で、超低コストの決済・契約基盤が不可欠であるという点にある。
Allaireは、自身が長年研究してきた「完全準備銀行制度(full-reserve banking)」の思想が、ステーブルコインという形で現実のものとなり、米国では「GENIUS Act」として法制化された経緯を説明する。さらに、単なる決済手段を超え、ブロックチェーンが「タンパー耐性」と「完全監査可能性」を持つコンピューティング環境であることを強調し、これがAIエージェントの自律的な協調や契約執行に理想的な基盤を提供すると論じる。エピソード全体を通じて、Allaireは1990年代のインターネット黎明期と現在のブロックチェーン業界を比較し、今まさに「ブロードバンドの瞬間」を迎えているという強い確信を示した。
Circleの創業と「インターネット上のドル」というビジョン
Jeremy Allaireは2013年にCircleを創業した。その原動力は、「インターネット上のドルのためのプロトコル」を創造するというアイデアだった。彼はビットコインのような技術に触発され、価値を瞬時に、グローバルに、摩擦なく、究極的には無料で移動できる手段の必要性を痛感していた。当時から彼は、ブロックチェーンネットワークが単なる通貨の枠を超え、「オペレーティングシステム」へと進化し、自律的なソフトウェアマシン(AIエージェント)が経済活動や金融活動を仲介する未来を構想していた。これは生成AIが登場するはるか以前の構想であり、Allaireの先見性を示している。
Allaireの思想の根底には、オーストリア学派の経済思想と、2008年の世界金融危機への深い関心がある。彼は、銀行の過剰なレバレッジ(30倍、12倍、14倍といった数字を例示)が危機の原因であると分析し、より安全な金融システムの構築を模索した。その解決策として彼が注目したのが「完全準備銀行制度」であり、これは預金を貸し出すことができない、つまり預金を元にした信用創造が不可能な仕組みである。この考えは、1930年代の大恐慌後に経済学者アーヴィング・フィッシャーが提唱した「シカゴ・プラン」に端を発するが、当時は銀行の激しいロビー活動により採用されず、代わりにFDIC(連邦預金保険公社)による保険制度が導入された経緯がある。
Allaireは、この完全準備の考え方を現代的に具現化したものがステーブルコインであると主張する。特にドル建てステーブルコインは、発行体が保有する資産(主に短期の米国債や現金)と常に1対1で償還可能であり、これは法律(米国のGENIUS Act)によっても厳格に定められている。USDCの場合、その準備資産の平均満期は約13日と極めて短期であり、実質的に現金と同等の流動性を持つように設計されている。この「狭義のマネー(narrow money)」モデルこそが、Allaireが目指す安全な金融システムの基盤である。
USDCのユースケース:マイクロペイメントから機関投資家の決済まで
USDCのユースケースは極めて多様であり、その設計思想は「インターネット上の汎用ドルプロトコル」としての地位を確立している。最も小規模な例としては、ブロックチェーン上に構築されたデジタルゲーム内で、ユーザーが25セントのデジタルオブジェクトを購入するといった取引が挙げられる。また、AIエージェント同士が、互いのAIトークン(推論結果など)に対して20セントや50セントといった超少額を支払う、マイクロペイメントのユースケースも現れ始めている。一方で、最大手の電子取引会社は、数億ドル規模の資本市場取引の決済にUSDCを利用している。
USDCが従来の銀行システムよりも優れている点は、まず「24時間365日、いつでも取引可能」であることだ。週末や深夜でも送金が可能であり、これは銀行の営業時間に縛られる電信送金(wire)とは決定的に異なる。次に、取引コストが極めて低く、特に後述するArcブロックチェーン上では、取引手数料が1ペニーの100万分の1という水準にまで低下する可能性がある。そして三つ目に、米ドルへのアクセスが困難な地域の人々にとって、USDCは事実上、ドル建ての価値保存手段として機能する。これは、米国にとって地政学的・経済的に極めて重要な「デジタルドルの輸出」戦略の一環でもある。
さらに、USDCの本質的な価値は「プログラムマネー」である点にある。Allaireは、USDCのネットワークは「公開API」であり、世界中の誰もが許可なく接続して利用できると説明する。開発者は、スマートコントラクト(コードで書かれた自動執行契約)を通じて、特定の条件が満たされた場合に自動的に支払いを行うといった、複雑な金融ロジックを簡単に組み込むことができる。この「許可不要」で「プログラム可能」な性質が、従来の金融システムにはない革新性であり、AIエージェント経済の基盤となる。
ブロックチェーンは「オペレーティングシステム」である
Allaireは、ブロックチェーンネットワークを単なる台帳技術ではなく、「オペレーティングシステム」として捉えるべきだと主張する。彼は、モバイルOS、Web、クラウド、そしてAI基盤モデルに至るまで、テクノロジーの進化は常に新しい「オペレーティングシステム」の登場によって牽引されてきたと指摘する。ブロックチェーンも同様に、独自の仮想マシンとチューリング完全なプログラミング言語を持つコンピューティング環境であり、その上でソフトウェアを実行できる。
しかし、ブロックチェーンOSには他のOSにはない決定的な特性がある。第一に「タンパー耐性(tamper-resistant)」である。一度公開されたコードは改ざんが極めて困難であり、機械的な約束事として機能する。第二に「完全監査可能性(perfectly auditable)」である。すべての入力と出力、コードの状態は公開台帳上でリアルタイムに検証可能であり、これは金融取引における信頼性の根幹をなす。第三に「トランザクションとコンピュートの完全性保証」である。機械が約束した通りに動作したという証明が、数学的・計算論的に提供される。
これらの特性は、AIエージェントが自律的に経済活動を行う未来において、決定的に重要になる。AIエージェント同士が協調し、契約を結び、価値を移転する際、そのすべてのプロセスが検証可能でなければならない。Allaireは、ブロックチェーンが提供する「信頼できる媒体(trustworthy medium)」こそが、エージェンティック経済の基盤となると確信している。これは、単なる決済手段の提供を超え、経済活動の組織化そのものをソフトウェア化するという壮大なビジョンである。
Arcブロックチェーン:現実経済のための設計
Circleが新たに開発したブロックチェーン「Arc」は、Allaireのビジョンを具現化したものであり、「経済のオペレーティングシステム」と位置づけられる。Arcは、これまでのパブリックブロックチェーン(イーサリアムやソラナなど)とは一線を画す設計思想を持つ。最大の違いは、そのバリデータ(取引を承認するノード)が、既知の大手金融インフラ企業によって構成される点である。これにより、高い情報セキュリティ、コンプライアンス、可用性が保証され、取引の「決済最終性(settlement finality)」が数百ミリ秒で確定する。これは、フォークやリオーガニゼーション(取引履歴の組み換え)が発生しないことを意味し、金融取引に絶対的に必要な特性である。
Arcのもう一つの重要な特徴は、そのネイティブトークンがUSDCであることだ。従来のブロックチェーンでは、取引手数料を支払うための独自の「ガストークン」(イーサリアムのETHなど)が存在し、その価格変動が開発者や企業にとってのリスクとなっていた。Arcでは、手数料も含めてすべてが米ドル建てのUSDCで行われるため、企業はAWSのクレジットを管理するのと同じ感覚で、予算策定やトレジャリー管理が可能となる。これは、大企業がブロックチェーンを本格導入する上で極めて実用的な設計である。
さらに、Arcは設計段階からプライバシー保護のプリミティブを組み込んでいる。公開台帳でありながら、企業の機密情報や個人のプライバシーを保護するためのゼロ知識証明(ZK-proof)などの技術が標準装備されている。Allaireは、Arcを「シャドウエコノミー(闇経済)」ではなく「リアルエコノミー(現実経済)」のためのインフラと明確に定義し、ブラックロック、Visa、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンといった既存の金融巨人たちとの協業を通じて、規制要件を満たした形で設計を進めていることを強調した。
現実資産のトークン化と予測市場
Allaireは、ブロックチェーン上での現実資産(RWA: Real World Assets)のトークン化が、すでに現実のものとなりつつあると語る。株式、債券、不動産などの伝統的資産をブロックチェーン上のトークンとして発行・取引する動きは、金融業界のあらゆる層で加速している。証券の記録を管理する「コンピューターシェア」のような機関から、決済・清算システムを担うDTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)、そしてNASDAQやニューヨーク証券取引所に至るまで、すべてのプレイヤーがトークン化に向けて動いている。米SEC(証券取引委員会)も最近、トークン化に関する明確なガイドラインを発表しており、規制の明確化も進んでいる。
興味深い事例として、現在最も活発に取引されているトークン化株式は、テスラでもS&P500インデックスでもなく、なんとCircle自身の株式であることが挙げられた(RWA.xyzというサイトで確認できる)。また、Circleは最大のトークン化米国債商品「USYC(US Yield Coin)」や、最大のトークン化ユーロ「EURC」も運営しており、この分野でのリーダーシップを示している。Allaireは、トークン化の真の価値は、既存の商品を単にデジタル化することではなく、これまで不可能だった新たなユーティリティを解放することにあると指摘する。例えば、資産の細分化(フラクショナリゼーション)、それを担保とした貸付、AIによる自動運用などが可能になる。
この流れは、予測市場とも深く結びついている。Allaireは、世界最大の予測市場は実は株式市場そのものであると指摘し、Polymarketのようなブロックチェーン上の予測市場が、現実の金融市場と密接に連動し始めていることを示唆する。USDCはPolymarketの主要な決済手段であり、トレーダーは同じ資金をシームレスに伝統的市場と予測市場の間で移動させている。これは、ブロックチェーンが金融の「バックプレーン(基盤)」として機能し始めている証左である。
AIとGDP:二桁成長の可能性と新たな社会契約
Allaireは、AIの経済への影響について、楽観的な見方を示しつつも、その分配に関する深い警鐘を鳴らす。彼は、AIの普及速度(diffusion)が加速しており、その限界要因は技術ではなく、官僚主義、法律、人間のリスク許容度といった社会的な要素にあると分析する。この急速な変化は、産業革命や啓蒙主義の時代と同様に、新たな「社会契約(social contract)」の再定義を強制するだろうとAllaireは予測する。
具体的なGDPへの影響として、Allaireは2030年代に「二桁成長(double-digit GDP growth)」が十分に達成可能だと述べる。これは、キャシー・ウッド(Ark Invest CEO)が主張する10%のGDP成長という予測とも合致する。しかし、彼は同時に、GDP成長が「資本がより多くの資本を獲得する」プロセスに過ぎず、人間が取り残されるリスクを指摘する。つまり、GDPが成長しても、その果実が一部の資本家やAIシステムに集中し、大多数の労働者に分配されなければ、社会の健全性は損なわれるという危惧である。
この文脈で、Allaireはブロックチェーン上に形成される「オンチェーン組織」の可能性に言及する。これらは、人間とAIエージェントが混在し、新しいガバナンスと契約の形態を持つ組織であり、経済史上最も生産性の高い企業形態になる可能性がある。しかし、そのような新しい組織が出現したとしても、それらを包摂する政治システムやガバナンスシステムの再構築が同時に必要となる。Allaireは、この「ラグ効果(lag effect)」、すなわち破壊と新しい制度の確立の間のタイムラグが、今後10年の最大の課題であると示唆した。
推論をProof-of-Workに:GPUの生産的活用
Allaireは、AIとブロックチェーンの交差点における新たな技術的可能性として、「推論(inference)をProof-of-Work(PoW)として利用する」というアイデアに強い関心を示した。従来のビットコインのPoWは、膨大なエネルギーを消費するものの、その計算結果自体には経済的価値がなく、「エネルギーの浪費」と批判されることが多い。これに対し、GPUを用いたAI推論をPoWの基盤とすれば、その計算作業自体が価値ある「仕事(work)」となる。
具体的には、あるAIモデルが推論を実行し、その結果を生成するという行為そのものを、ブロックチェーンのコンセンサスメカニズムにおける「仕事の証明」として利用するというアイデアである。これにより、GPUリソースを効率的に活用しながら、同時に暗号通貨のマイニングによる追加収益を生み出すことができる。Allaireは、このアプローチが、ビットコインと同様の健全な貨幣原理を持ちながら、生産的なProof-of-Workを実現する可能性を秘めていると評価した。
Allaireは、このアイデアが、エネルギーをインテリジェンスに変換するというパラダイムシフトの一部であると位置づける。15年前には存在しなかった、高性能GPUと大規模AIモデルという新たな計算基盤が、暗号通貨の設計に全く新しい可能性を開いたというのが彼の見解である。これは、ビットコインが長期にわたって支配的な地位を維持してきたとしても、将来10年後に何が使われているかは誰にも分からないという、Allaireの技術に対するオープンな姿勢を象徴する発言でもある。
結びに
このエピソードがリスナーに残す最大の印象は、Jeremy Allaireの一貫したビジョンと、それが現実のものとなりつつあるという確信である。彼は13年前に「プログラムマネー」と「機械による経済仲介」というアイデアを掲げ、それを着実に実現してきた。現在、AIエージェントの台頭という新たな波が、まさにそのビジョンを必要としている。Allaireの議論は、単なる暗号資産の投機的な熱狂を超え、金融システムの根本的な再設計と、AI時代の新たな社会契約の必要性にまで及んでいる。このエピソードは、テクノロジー、経済、そして社会の未来を考える上で、極めて示唆に富む内容であった。
要点
- CircleのCEO Jeremy Allaireは、AIエージェント経済の基盤として、ブロックチェーンを「経済のオペレーティングシステム」と定義し、その上で動作するステーブルコインUSDCと新ブロックチェーンArcを開発している。
- USDCは「完全準備銀行制度」の思想を具現化したものであり、米国債などの安全資産で100%裏付けられ、法律(GENIUS Act)によってその準備率が厳格に定められている。
- USDCのユースケースは、AIエージェント間のマイクロペイメント(20セント単位)から、機関投資家による数億ドルの決済まで、規模を問わず同一のプロトコルで処理できる点が強みである。
- 新ブロックチェーン「Arc」は、既知の大手金融機関をバリデータとし、決済最終性を数百ミリ秒で保証する。また、ネイティブトークンがUSDCであるため、企業は価格変動リスクなく利用できる。
- 現実資産(RWA)のトークン化はすでに進行中であり、Circleの株式が最も活発に取引されるトークン化株式であるなど、金融業界全体がブロックチェーンへの移行を進めている。
- Allaireは、AIの普及により2030年代には二桁のGDP成長が可能と予測する一方、その成長が資本に集中し人間が取り残されるリスクを指摘し、新たな社会契約の必要性を強調した。
- AI推論をProof-of-Workとして利用するアイデアは、エネルギーを無駄にする従来のマイニングに代わり、生産的な計算を基盤とする新たな暗号通貨の可能性を示唆している。