
兆ドル企業を追いかける、創業者の野心、トークンバジェット、規制の虜—Sarah & Eladとともに
- ここ数年で、OpenAI、Anthropic、SpaceXといった企業がほぼゼロから時価総額1兆ドル規模へと急成長した。これは人類史上類を見ない出来事であり、多くの投...
- このエピソードは、単なる市場予測の議論に留まらない。創業者の野心の縮小、研究人材のバーンアウト、計算資源(compute)を巡る寡占化、規制の現実、そしてカリフォルニ...
- [1:44] 次の1兆ドル企業は本当に生まれるのか Eladは、過去5年間に3社(OpenAI、Anthropic、SpaceX)がほぼゼロから時価総額1兆ドルに到達...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
No Priors: 人工知能 | テクノロジー | スタートアップ / Conviction
- Eladは、過去5年間のOpenAI、Anthropic、SpaceXの急成長は「断続平衡」による特殊な現象であり、次の3〜5年で複数の1兆ドル企業が誕生する可能性は低いと主張する。
- Sarahは、投資家が「成果ベース」の市場規模を理解せず、従来の直線的な評価方法に固執していると批判し、コーディング市場は従来の想定より100倍大きい可能性があると指摘する。
- Eladは、企業の価値が最大化する「12〜18ヶ月の窓」が存在し、創業者は年に一度、感情を交えずに売却を検討する取締役会を設けるべきだと提案する。
- Sarahは、創業者の「時間の機会費用」を強調し、うまくいかない会社に固執することは、次の大きな挑戦の機会を失うことだと警告する。
- AIラボでは「RSIが18ヶ月後に来る」という予測が広がり、研究者たちは「生産的な仕事ができる期間はあと1年半」と感じ、1日16時間働くなどの過酷な労働を選択している。
- 計算資源の制約はAI業界を寡占市場にし、結果の80%は数十人の主要な研究者によって生み出される「人間のパワーロー」が存在する。
- カリフォルニア州の「ビリオネア税」は、創業者に資産売却を強いる可能性があり、エコシステム全体をテキサスなど他の州に流出させる「最も速い方法」だと両者は分析する。
- Eladは、過度な安全規制がイノベーションを阻害してきた歴史(原子力発電、製薬業界)を挙げ、AIにおいても「安全性」と「進歩」のバランスを社会として慎重に選択する必要があると訴える。
ここ数年で、OpenAI、Anthropic、SpaceXといった企業がほぼゼロから時価総額1兆ドル規模へと急成長した。これは人類史上類を見ない出来事であり、多くの投資家や創業者が「次の1兆ドル企業」を追い求める熱狂の時代が到来している。しかし、ホストのElad Gil(エラッド・ギル)は、この速度に対する過度な楽観論に警鐘を鳴らす。歴史的に見れば、GoogleやSpaceXでさえ、その規模に達するまでに15年から20年を要した。今回の5年という期間は「断続平衡」のような特殊な現象であり、次の3〜5年で同様の企業が複数出現する可能性は低いと彼は主張する。一方、Sarah Guo(サラ・グオ)は、投資家の「想像力の欠如」を問題視する。前例のない市場規模を過小評価し、従来の直線的な評価方法に固執する投資家が多いと指摘し、AI時代における市場規模の再定義こそが、投資家に求められる重要なスキルであると語る。
このエピソードは、単なる市場予測の議論に留まらない。創業者の野心の縮小、研究人材のバーンアウト、計算資源(compute)を巡る寡占化、規制の現実、そしてカリフォルニアからテキサスへのエコシステム移転まで、AI時代のリスク管理と戦略的思考の全体像を描き出す。両ホストは、AIラボの台頭を恐れてニッチな市場に逃げ込む創業者たちの傾向を憂い、真の野心を持つことの重要性を強調する。また、研究開発の最前線で語られる「再帰的自己改善(RSI)」や「ASI(人工超知能)」の到来予測が、研究者たちの心理や働き方に与える影響についても深く掘り下げる。技術の進歩と社会のリスク受容のバランス、規制がイノベーションを阻害する危険性について、具体的な事例を交えながら議論を展開する。
次の1兆ドル企業は本当に生まれるのか
Eladは、過去5年間に3社(OpenAI、Anthropic、SpaceX)がほぼゼロから時価総額1兆ドルに到達したことを「異常なインフレーション」と表現する。通常、この規模に達するには20年近くかかるが、今回はその期間が大幅に短縮された。この現象を彼は進化論の「断続平衡」に例え、技術の波は「爆発的な進化の後、長い安定期が続く」というサイクルを繰り返すと説明する。インターネットの歴史も、90年代のウェブ、2000年代のSaaS、クラウド、ソーシャル、そして暗号資産と、複数の波に分かれていた。AIもまた、その大きな波の一つであり、現在はその波が収束しつつある段階だと彼は見る。次の3〜5年で複数の1兆ドル企業が誕生するという見方には懐疑的で、仮に1社あるとすれば、それは特定の分野に限られるだろうと語る。
Sarahは、この議論に対し、投資家の「想像力の欠如」を問題提起する。多くの投資家は、AI企業が提供する価値を従来の「シート単価」や「ユーザー単価」で測ろうとするが、本当に重要なのは「成果(outcome)ベース」での価値創造であると指摘する。例えば、コーディング領域では、AIがコードを自動生成することで、市場規模が従来の想定をはるかに超えて拡大している。Harvey(法律AI)やAbridge(医療AI)のような企業は、弁護士や医師の生産性を劇的に向上させることで、既存の市場を再定義しつつある。Sarahは、このような「成果ベース」の市場規模を理解できるかどうかが、今後の投資判断の分かれ目になると主張する。しかし、Eladは、市場規模(TAM)が大きいことと、実際にその市場で1社が100億ドルの収益を上げられるかは別問題だと指摘する。1兆ドル企業になるためには、50億から100億ドルの収益基盤が必要であり、そのような収益を生み出せる市場は世界にそう多くないと冷静に分析する。
TAMと現実の収益、そして速度の誤解
SarahとEladの議論は、市場規模の評価方法の違いに集約される。Sarahは、投資家が「前例のない市場」を過小評価する傾向を批判し、AI企業がサービス価値を提供するという新しいビジネスモデルを理解していないと指摘する。彼女は、コーディング市場が「消費と価値」の観点から、従来の想定より100倍も大きい可能性があると主張する。一方、Eladは、市場規模(TAM)と、その市場で現実的に達成可能な収益額は異なる次元の問題だと強調する。彼は、2010年に「時価総額100億ドルに達するのは難しい」というブログ記事を書いたことを振り返り、当時はそれが大きな目標だったのに、今では新興AIラボのシードラウンドの評価額に相当すると皮肉を込めて語る。100億ドル企業は数多く生まれるだろうが、1兆ドル企業は別格であり、その差は「桁違い」だと彼は言う。
さらに、Eladは「速度」の問題を提起する。物理的な製品を扱う企業(エネルギー、ロボティクスなど)は、市場規模が大きくても、その規模に到達するまでに時間がかかる。投資家は市場規模と速度を混同しており、その結果、過大評価が生まれていると彼は指摘する。Sarahもこの意見に同意し、多くの投資家が「速度がある」と信じて投資しているが、それは市場規模とは別の話だと述べる。両者は、今後3〜5年で100億ドルの収益を達成できる市場は、推論(inference)以外にはそれほど多くないという点で一致する。エネルギーやサプライチェーン関連の技術は可能性があるが、物理的な制約から速度は限定的だと見る。
創業者はいつ会社を売るべきか
議論は、創業者が会社を売却するタイミングについてのフレームワークに移る。Eladは、AnthropicやOpenAIのような企業は「絶対に売却すべきではない」と断言する一方で、ほとんどの企業は売却を真剣に検討すべきだと語る。彼は、企業の価値が最大化する「12〜18ヶ月の窓」が存在すると主張し、その期間を逃すと、会社の価値が下落する可能性があると警告する。彼は、Ben Horowitz(ベン・ホロウィッツ、a16z共同創業者)が提唱した「年に一度の事前予定された取締役会で、感情を交えずに売却の是非を議論する」という手法を紹介する。この手法は、創業者や投資家の感情的な圧力から解放され、合理的な判断を下すための仕組みだと説明する。
Sarahは、この議論に「価値の捕捉」という新しい視点を加える。彼女は、コストが下がり、能力が向上する中で、自社がその変化の「正しい側」にいるかどうかを定期的に問いかけるべきだと主張する。もし自社がこの構造変化の負の側面にいるのであれば、売却は合理的な選択肢となる。彼女は、Cursor(AIコードエディタ)のような企業が、資本、計算資源、アクセスといった面で競争する方法を考えたとき、売却が「最大の価値を生むポイント」である可能性もあると示唆する。また、彼女は「時間の機会費用」を強調する。創業者の人生で最も生産性の高い年月は限られており、うまくいかない会社に固執することは、次の大きな挑戦の機会を失うことになると警告する。2020年から2021年にかけて資金調達した企業の多くが、5年経った今も失敗した状態で存続しているのは、この機会費用の大きな損失だと彼女は指摘する。
RSIとASIの到来予測、そして研究者の心理
話題は、AIラボ内部の「熱狂的なエネルギー」に移る。Eladは、ラボの研究者たちの間では、「年内にコーディングは解決される」「来年末までに何らかの形のRSI(再帰的自己改善)が実現する」という予測が広がっていると語る。RSIとは、AIモデルが自身のトレーニングプロセスを改善できるようになる現象であり、これが実現すれば、AIの進化は指数関数的に加速すると考えられている。この予測を信じる研究者たちは、「自分が生産的な仕事ができる期間はあと1年半しかない」と感じ、1週間が残り時間の2%に相当するという切迫感から、1日16時間働くことを選択しているという。Sarahは、このような「終末論的な」心理状態を「悲劇的」だと表現する。彼女は、これは「自分が死ぬと信じている人」の心理に似ていると指摘し、残り2年の人生をどう過ごすかという哲学的な問いを投げかける。
Sarahは、この予測の信頼性についても疑問を呈する。過去5年間、優秀な研究者たちは「18ヶ月後にASIが来る」と繰り返し予測してきたが、それは一度も実現していない。彼女は、コード生成からデータパイプラインの改善への応用は信じられるが、より複雑で検証が難しい領域でのデータ収集や、物理的な計算資源の制約が、実際のボトルネックになるだろうと指摘する。Eladは、この計算資源の制約が、AI業界を「寡占市場」にしていると分析する。計算資源が限られているため、各ラボの進歩速度は実質的に制限され、結果として競争が激化する。また、彼は「人間のパワーロー」という興味深い現象を紹介する。どの分野でも、結果の80%は数十人の主要な研究者によって生み出されており、AI研究も例外ではない。計算資源が希少になるにつれ、ラボはこの「主要な数十人」に資源を集中投下するようになっている。その結果、優秀な研究者の採用は、計算資源の割り当てとセットで考える必要が出てきていると彼は説明する。
トークンバジェットとROIT(投資トークン利益率)
Sarahは、この議論を発展させ、「ROIT(Return On Invested Tokens、投資トークン利益率)」という新しい概念を提唱する。これは、限られたトークン(計算資源)の予算を、誰に、どのプロジェクトに配分するかという考え方だ。彼女は、これは昔の企業における「内部ツールチーム」の扱いに似ていると指摘する。テック企業は、製品開発にエンジニアを優先的に配置するため、内部ツールチームは常にリソース不足に悩まされていた。同様に、AI時代においても、トークンを「SaaSツールの利用」に使うよりも、コア製品や大きな利益向上につながるプロジェクトに投資する方が合理的だと彼女は主張する。この考え方は、従来の「全員がAIを使う」という段階から、「誰に、どのプロジェクトに、どれだけのトークンを配分するか」を戦略的に決定する段階への移行を示している。
Eladは、この「トークンバジェット」の考え方について、個人や企業が3〜5年後にどれだけのトークンを消費するようになるかという質問を投げかける。Sarahは、これは「家賃のようなもの」ではなく、目的によって異なると答え、Minecraftがわずか5〜10人のチームでマイクロソフトに買収された例を挙げる。AIは、このような「少数精鋭」の企業をさらに加速させる可能性があると彼女は言う。一方、Eladは、エンジニアの雇用に関する将来予測を語る。AIによって一部のエンジニアが職を失う可能性はあるが、その場合、彼らはGoogleやMetaのようなトップ企業ではなく、GEやP&G、Hershey'sのような従来型の大企業に流れるだろうと予測する。これらの企業は、これまで優秀なエンジニアを採用する能力がなかったが、彼らが持つ能力を切望しているからだ。この「エンジニアリング人材の企業間浸透」は、数年先の話だが、起こり得るシナリオだと彼は言う。
規制、カリフォルニア脱出、そしてテキサスの台頭
議論は、AI業界を揺るがす可能性のある「破壊的要因」に移る。Eladは、投資家の資本コミットメントの崩壊、技術的な破壊(Transformerに代わる新しいアーキテクチャ)、そして規制の3つを挙げる。特に、彼は規制の影響を強く懸念しており、カリフォルニア州で可決された「ビリオネア税」に言及する。この税制は、時価総額10億ドル以上の企業の創業者に、含み益に対して課税するもので、創業者が会社を売却せざるを得なくなる可能性がある。Sarahは、この法律の影響について、即座にカリフォルニアから人材が流出するだろうと予測する。彼女は、2028年には「退出税」も検討されていると指摘し、州を離れること自体に罰則が課される可能性があると警告する。両者は、この法律が「エコシステム全体を追い出す最も速い方法」だと同意する。
Sarahは、第二のエコシステムとしてテキサスを挙げる。特に、エネルギー分野における技術移転とイノベーションが活発で、規制環境が実験を可能にしていると評価する。Eladも、テキサスにはSpaceXやAnduril、Teslaの一部が移転し、新しいハードウェアのエコシステムが形成されつつあると指摘する。彼は、この移転は「テキサスが住みやすいから」ではなく、「規制が移転を促しているから」だと分析する。また、彼は歴史的な例として、ボストンが1980年代にはシリコンバレーに対抗するスタートアップの中心地だったが、競争に敗れたことを挙げる。重要なのは、天候や生活の質ではなく、優秀な人材が集まり、共通の課題に取り組む「臨界質量」が形成されるかどうかだと彼は言う。
アーキテクチャの未来と安全性と進歩のトレードオフ
技術的な破壊の可能性について、Eladは、新しいアーキテクチャが登場しても、既存の大手ラボがそれをコピーし、計算資源の優位性を活かして追い越すだろうと予測する。彼は、仮に新興ラボが革新的なアーキテクチャを開発しても、その知識はすぐに業界全体に広がり、競争は維持されると見る。ただし、極めて低い確率で、新興ラボが秘密裏に画期的な技術を開発し、他社を圧倒するシナリオも存在すると彼は認める。Sarahは、この「計算資源の寡占」が、ラボに他の垂直分野への支配力を与える可能性を指摘する。
議論は、安全性と進歩のトレードオフに及ぶ。Eladは、製薬業界の例を挙げ、規制が過度に安全を重視することで、イノベーションが阻害されてきた歴史を振り返る。彼は、Janssen Pharmaceuticalsの創業者であるPaul Janssen(ポール・ヤンセン)のインタビューを引用し、FDAが「リスクとベネフィット」のバランスを取らず、リスクのみに焦点を当てていると批判したことを紹介する。同様のことがAI業界でも起こり得るとEladは警告する。安全性への過度な要求が、進歩の速度を鈍らせ、結果として社会全体の利益を損なう可能性があると彼は言う。彼は、フランスの原子力発電の例を挙げ、フランスは電力の70%を原子力で賄っているが、事故はほとんど発生していない。一方、米国は18%で、40年間新しい原子炉を建設していない。これは、1970年代の「安全性ロビー」が、豊かでクリーンなエネルギーを事実上殺してしまった結果だと彼は主張する。AIにおいても、社会は「安全性」と「進歩」のバランスをどこに置くのか、慎重に選択する必要があると訴える。Sarahは、この議論に対し、技術のポジティブな応用(医療、教育、自動運転など)に希望を見出しつつも、社会として適切なガードレールを設けることの重要性を認める。しかし、彼女もまた、歴史的に見て、大規模な産業においては規制が過剰になる傾向があり、テック業界が急速に発展してきたのは「軽い規制」のおかげだと同意する。
結びに
このエピソードは、AI時代における「野心」と「リスク管理」の本質を問いかける内容だ。1兆ドル企業の可能性を巡る冷静な市場分析から、創業者の野心の縮小、研究人材の心理的プレッシャー、計算資源の寡占化、そして規制がもたらす現実的な影響まで、多岐にわたるテーマが議論された。特に印象的なのは、AIラボの内部で広がる「RSIが18ヶ月後に来る」という予測が、研究者たちの人生設計にまで影響を与えているという指摘だ。技術の進歩がもたらす希望と、それが生み出す不安と焦燥感。このエピソードは、AIの進化が単なる技術的な問題ではなく、人間の心理、社会の構造、そして規制のあり方にまで深く関わる複雑な問題であることを浮き彫りにする。SarahとEladの対話は、投資家としての戦略的視点と、技術の進歩に対する深い理解が融合した、示唆に富む内容となっている。彼らの議論は、AI時代を生きるすべての関係者にとって、自らの立ち位置と戦略を再考するための貴重な機会を提供するだろう。
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