
Netic創業者メリサ・トクマクと語る、実世界サービス向け自律型エンタープライズ構築
- Melisa Tokmak(メリサ・トクマク)が率いるNeticは、HVAC、配管、電気工事、ペットケア、ホスピタリティなど現実世界の必須サービスを提供する大規模企業...
- Tokmakはスケールバイクロー元のディレクターで、Meta買収に至るまでの間に政府、物流、製造、金融、ヘルスケアなど多様な実世界ビジネスユニットを構築した経験を持つ...
- [0:50] 必須サービス産業におけるAI自動化の複雑性 Neticが解決する問題は、見た目以上に複雑である。顧客がHVACプロバイダーに連絡する場合、事業者は単に技...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
No Priors: 人工知能 | テクノロジー | スタートアップ / Conviction
- Neticは大規模ホームサービス・必須サービス企業にAIエージェントを展開し、顧客対応から労働配置まで自動化。顧客の70%以上がAIと最初に対話し、6億ドル以上の顧客創出価値を生み出している。
- Tokmakはロボティクス・自動運転とエージェント型AIを「同じ本の異なる章」と捉え、現在対象とする産業ではロボティクスの実装は数十年先だと主張。建物多様性、人間的要素、未解決の器用さの問題が障壁である。
- OpenAIやAnthropicといったフロンティアラボは直接的な競争相手ではなく、むしろNeticは焦点の一貫性、エンタープライズニーズの理解、ハーネス・ソフトウェア・プロダクトの統合的構築で優位。
- 現代の創業者精神の危機:多くの起業家が「18ヶ月エグジット」を追求するあまり、創業の本質である長期的献身と工芸的プロダクト開発を失っている。Tokmakはこれを「永遠的下層民メンタリティ」と診断する。
- 採用における「エージェンシー」評価は職務経歴書ではなく、人生全体における継続的な主体的行動の実績を追跡することで判定。15年以上継続した規律や小さなコミットメントが高く評価される。
- プライベート・エクイティの戦略は「低評価優良企業の買収と転売」から「既存ビジネスとの協働による価値創造」へ転換。しかし初期会話は依然としてコスト削減に焦点化される傾向があり、新規収益創出への心理転換が必要。
- Tokmakが最も興奮するAI応用は教育。資源アクセスの障壁を除去し、すべての学習機会をポケットに入れることで、現在の可能性認知の制約を打破できる。
- AIの社会的ナラティブの転換が急務。失業・取代替恐怖ではなく、最悪の日(家の浸水、医療危機)に人々を支援し、人生改善をもたらすポジティブなユースケースがAIの真の価値である。
Melisa Tokmak(メリサ・トクマク)が率いるNeticは、HVAC、配管、電気工事、ペットケア、ホスピタリティなど現実世界の必須サービスを提供する大規模企業向けにAIエージェントを展開する企業である。顧客がサービスプロバイダーに連絡する際、Neticのエージェントがすべての顧客対応、需要分析、スタッフの配置を処理し、企業は労働力の質と顧客体験の向上に集中できるようになる。2年足らずの間に、同社の顧客の70%以上がNeticエージェントと最初に対話するようになり、6億ドルを超える顧客創出価値を生み出している。
Tokmakはスケールバイクロー元のディレクターで、Meta買収に至るまでの間に政府、物流、製造、金融、ヘルスケアなど多様な実世界ビジネスユニットを構築した経験を持つ。彼女がNeticを起業したのは、単なるビジネス機会ではなく、トルコの小さな町で貧困から這い上がり、スタンフォード大学に奨学金で進学した個人的な背景によるものである。AIロールアップ戦略ではなく単一製品企業としてNeticを構築することを選んだのは、M&Aよりもプロダクト志向、スケーラブルなソフトウェアプラットフォーム、および彼女の本質的なエンジニア兼プロダクト人材が生かせる戦略を重視するためである。
必須サービス産業におけるAI自動化の複雑性
Neticが解決する問題は、見た目以上に複雑である。顧客がHVACプロバイダーに連絡する場合、事業者は単に技術者を派遣することはできない。むしろ顧客の住宅タイプ、既存の記録、緊急性、顧客の生涯価値、利用可能な技術者のスキルセット、天候条件などを総合判断する必要がある。顧客が極寒地で暖房が故障した場合、高齢者や子どもがいるかもしれず、事業者は今日か明日か、どの技術者を派遣するかを最適化しながら、顧客満足度と利益を両立させなければならない。
従来、このオペレーション業務は数百人の人間スタッフで処理されていた。業界の従事者によると、多くの大規模ホームサービス企業は朝4~5時に営業を開始するが、その時間帯は事務スタッフがおらず、技術者も6時頃からの勤務である。さらに、毎日複数のスタッフが欠勤または離職し、暑波が襲来する時期には顧客からの電話が大量に殺到する。これらの産業は季節的変動が大きく、冬と夏、および休暇シーズンが売上の大部分を占めるため、ピーク時の対応能力が事業存続を左右する。Neticは70%の顧客においてAI優先の対応モデルへの転換を実現し、24時間対応と需要予測を通じて人的資源の効率化を可能にしている。
スケーラブルなプロダクト企業 vs. AI買収ロールアップ
Tokmakは起業前にスケールバイで約4年間勤務し、複数の実世界ビジネスユニットを構築した。その経験から、AIロールアップ戦略(Longleaf Capital等のように複数の企業を買収しAIで最適化する手法)ではなく、スケーラブルなプロダクト企業を選択した。この選択の背景には三つの重要な理由がある。
第一に、スケールでの経験を通じてTokmakは現実世界のビジネスの奥深さを理解し、テック企業のみを顧客とするビジネスではなく、真の世界に貢献する仕事の充足感を求めていた。トルコの貧困地域出身という自身の背景から、自分の町にいる人々が働く産業に直接的な影響を与えたいという動機が強かった。第二に、彼女はエンジニア・プロダクト志向であり、M&Aが中心的な価値創造活動であるロールアップ戦略には向いていないと判断した。彼女の強みはプロダクト構築と技術的問題解決にあり、買収企業の統合・運営では自分の能力を最も活かせないと認識していた。
第三に、買収モデルではスケーラビリティが制限される。ロールアップが購入した個別企業向けのプロダクトは、他の企業への応用が難しい。対照的に、Neticのビジョンはすべての実世界ビジネスがNeticプラットフォーム上で運営される世界である。顧客企業はサービス提供と労働力の差別化に資源を集中でき、その他のオペレーションはNeticが自動化する構想である。
ロボティクス・自動運転との関係性と時間的視点
「AI for the real world」という用語は複数の異なる産業・技術領域を包含する。ロボティクス、自動運転、そしてNeticが展開するエージェントベースの自動化である。Tokmakはこれらを「同じ本の異なる章」として捉え、ロボティクスは重要な未来の章だが、現在Neticが対象とする産業においては数十年先の話だと主張する。
この見方の根拠は、現在の建築物と住宅環境の多様性にある。ロボティクスが現在Neticが実行する作業と同等の役割を果たすには、すべての建物が3Dプリンティングされるか完全に標準化される必要がある。その可能性は現実的ではない。さらに、現在のロボティクス技術は異なるタイプのねじへの器用さ、複雑な家屋構造への対応、目視では判断できない壁内の配管や配線への対応が不十分である。住宅のトラブル時には壁全体を解体しなければ問題が特定できないケースもあり、ロボティクスの能力ではこれに対応できない。加えて、多くの顧客は自宅の浸水や緊急時の対応など人生で最も悪い日を過ごしており、プロフェッショナルな人間との対話による安心感や共感が重要である。この人間的要素がロボティクスに完全に置き換わるまでには相当な時間を要する。
フロンティアAIラボとの競争関係
大規模AI研究所(OpenAI、Anthropic、Google、Meta)がNeticの競争相手であるかという問いに対し、Tokmakは複数の層別的な考察を示した。確かに、「10年前に同じ質問がGoogleについて問われ、今ではラボについて問われている」という歴史的パターンは存在する。しかし、Neticが直面する実務的課題はフロンティアモデルが主要な関心を持たない領域にある。
第一に、焦点と継続性の問題である。OpenAIは素晴らしいプロダクトを迅速に構築する一方で、同じ速さで提供を中止する。大規模企業は急速に変化する支援や回転ドア状態のプロダクトを求めていない。継続的なサポート、安定性、カスタマイズ可能性が必要である。Claudeが コーディング能力で優位に立ったのも、Anthropicが焦点を保ったからであり、OpenAIの20近いプロダクト群では同じ集中力が見られない。第二に、研究所は「AGI到達時に必須サービス産業向けに最適化する」という一般化的問題解決を目指す傾向がある。Tokmakはこれを「操作的・知的に怠惰な思考」と評価する。第三に、現実の顧客基盤は数百万の企業で構成され、異なる懸念事項、口語、エンゲージメント方法、地域的文脈を持つ。この「ラストマイル」の複雑さはモデルだけからは生まれず、ハーネス、オーケストレーション、ソフトウェア、プロダクトレイヤーを統合的に構築する必要がある。つまり、Neticのような企業はモデル、ソフトウェア統合、プロダクト開発の三層すべてに優れていなければならない。
現代の創業者マインドセットと長期的視点
Tokmakは創業者精神の衰退傾向に対して警告を発している。現在の多くの起業家は、「できるだけ早期に資金調達し、迅速にエグジットする」という思考に縛られている。彼女の問題提起によれば、これは創業が本来的に持つべき献身的・長期的な性質を失わせている。創業者とは、人生を数十年かけて一つのミッションに捧げる覚悟を持つべき人物であり、軽々しく扱うべきでない。
特に若い世代との採用面接で感じるのは「永遠的下層民メンタリティ」である。18ヶ月以内に金銭的成功を収めなければ永遠に貧困であり、6ヶ月以内にすべての知識を獲得しなければ知的価値が永遠に失われるという強迫的思考である。これはAGI到来予測(18ヶ月以内にAIが多くの職を奪う)と相まって、極めて危険なマインドセットとなっている。実際には、優れた事業構築には長期間を要する。Tokmakがスケールで学んだ最重要な教訓は、初版だけでなく、それがどのような世界的影響を持ち、何を改善し、研究進化や人材変化とどう向き合うかという長期的視点である。
採用時にTokmakが回避するのは「光るものを追いかけるシャイニーオブジェクト狙い」の人材である。彼女が引用するMartin Lutherの言葉「キリスト教の靴職人は、靴に小さな十字を描くことで神を敬うのではなく、最高の靴を製造することで敬う」は、彼女の哲学を象徴している。プロダクト開発は工芸品と同じであり、ものづくりの質こそが神聖である。焦点を絞った小さなチームが世界を変えるほうが、焦点を欠いた大きな組織よりもはるかに多くを成し遂げる。
採用における「エージェンシー」の評価方法
Tokmakが採用プロセスで重視する「エージェンシー」(主体性・行動力)とは何か。彼女のアプローチは、職務経歴書の表面的な評価ではなく、人物の人生全体における継続的な主体的行動の実績を追跡することである。新卒であれば、大学時代に自身で何かを為したか、入学のために何をしたか、個人プロジェクトはあるか、そしてそれを継続したかを掘り下げる。単に「週末にやった」という表面的な関与ではなく、途中で諦めずに続けたかどうかが重要である。
Tokmakがよく問いかけるのは「人生で最も難しかったことは何か」という質問である。Elad Gilは同じ質問をしていた時期があるが、低品質な回答が返ってくるため止めたと述べている。一方Tokmakは、その質問への回答は採用プール次第で大きく異なると指摘し、最近採用した候補者の例を示している。その人物は「極めてシンプルな生活を送り、仕事を深く愛し、健康管理について厳格なレジメンを持っている」と述べ、「15年以上毎日、決まった時間に起床し、その後のスケジュールをこなし、退職することなく同僚に向き合ってきた。つまり退屈さや他の関心に陥ることなく、自分が大切にすることに献身してきた。これが最も難しかった」と答えたという。Tokmakはこれを「創造的で洞察的な回答」と評価し、採用を決定した。エージェンシーの本質は、個人的な成功物語の大きさではなく、自分の人生物語を自ら作り、継続的に行動してきた履歴にあると彼女は考えている。
低成長産業への販売と私募ファンドのAI戦略の転換
Neticが対象とする産業(HVAC、配管、ルーフィング、ペットケア)は技術革新が遅い古い産業だという一般的認識は誤解だとTokmakは主張する。実際には、彼女が接触した事業者は非常に価値志向的で、テック・フォワードな思考を持つ創業者・オーナーが多い。例えば、ある契約成立までの期間は50万ドルの契約でも14日間であり、これは事業者が慎重に価値検証を行うプロセスの表現である。
また、これらの産業は「根源的でありながら同時にテック・フォワード」である。例えば、大規模ルーフィング企業の営業戦略を考えると、ドアツードアの営業員が近所を回り顧客に屋根修理について説明する。しかし今日、Neticを導入した企業は衛星データを活用して、ハリケーンが異なる地域の屋根に与える影響や必要な材料を分析し、この情報をエージェントの文脈に自動統合することで、営業会話の質を向上させ、営業ターゲットを特定する能力を得ている。
私募ファンド(プライベート・エクイティ)の戦略も進化している。かつてのPEの標準的なプレイブックは「低評価の優良企業を発見し、経営チームを交代させ、価値を創出して売却する」というものであった。しかし今日、「発見できていない優良企業」はほぼ存在しなくなり、PEのプレイブックは「既存ビジネスと共同して接触可能な価値を創造する」へ転換した。Tokmakが観察する一つの課題は、最初の対話が依然として「コスト削減」に焦点化されやすいことである。PE企業内にAI専門のオペレーティングパートナーやAI志向のエンジニアが配置され、教育が進みつつあるが、Neticは「コスト削減」ではなく「新規収益創出」を重視するため、この心理的な転換が必要である。Tokmakは実際の顧客データ(既に6億ドル以上の顧客創出価値)を示すことで、PE企業が視点を拡大し、単なるコスト効率化ではなく収益最大化の観点からAIを評価するよう促している。
AI時代の教育とポジティブな未来への楽観
Tokmakの個人的背景(トルコの貧困地域出身で、高校の同窓生からフィードバックをもらうためにMessengerで連絡を取っていた経験)が彼女のAI展望を形作っている。彼女が最も興奮する領域は教育である。現在、多くの人々は自分がどのような可能性を持つかさえ知らない。AIが教育へのアクセス障壁をなくし、すべての学習を個人のポケットに入れるようにすれば、それはAGI論争よりも格段に多くの生命を変える。
さらに、TokmakはメディアにおけるAI議論の傾向について警告を発している。現在のメインストリーム会話は「失業」「取って代わられる」といったネガティブな叙述に支配されている。しかし、Neticのようなユースケースは異なる視点を提供する。顧客からのHVAC修理の電話は、多くの場合その人の人生で最悪の日である。自宅の浸水や緊急事態に直面している顧客は、迅速かつ適切なサポートが必要である。健康記録の分析、睡眠改善のアドバイス、医療アクセス向上といった医療領域のポジティブなユースケースも存在する。AIの最初の相互作用が「あなたの仕事は消える」というネガティブなメッセージではなく、「あなたの人生が改善される」というポジティブなメッセージになることが重要だとTokmakは考えている。
一方で、彼女は技術楽観主義の落とし穴も認識している。Elad Gilが述べた「あなたはただ物事をやることができる、許可は不要である」という原則は真実だが、同時に危険性も孕んでいる。どの時代の技術であれ、人間は選択の自由を持つ。しかし、技術が進化するにつれてその選択肢は増えるが、「大多数の世界は依然としてその選択をしないだろう」とTokmakは予測している。重要なのは、少なくとも資源アクセスが成功の阻害要因ではなくなることである。
結びに
Tokmakとの対話が浮き彫りにするのは、現在のAI産業における根本的な認識転換である。スタートアップエコシステムは長年、フロンティアモデルや大規模ラボの動向に目を光らせてきた。しかし、Neticの事例は、最も変革的なAI応用は、意外にも古い産業、低成長セクター、技術的に見落とされてきた領域に存在することを示唆している。さらに、Tokmakが繰り返し強調するのは、単なる技術的優位ではなく、創業者としての「精神」「献身」「長期的視点」の重要性である。
彼女がインタビューで示した思考枠組みは、現代的な功利主義的起業観への直接的な異議である。18ヶ月のエグジットを目指す起業家、短期的なAI活用に固執するPE企業、数週間の試験で判断を下そうとする経営者——これらすべてに対して、Tokmakは「工芸品としてのプロダクト開発」という古い価値観を対置する。その価値観は、新興のAI時代に余計に重要になるという彼女の主張は説得力を持つ。
さらに、教育と社会的影響に対する彼女の楽観的な見方は、現在のAI議論が失業恐怖とAGI脅威論に偏っていることへの有意義な対抗勢力である。Tokmakは、テクノロジー産業がしばしば自己参照的で、他のテック企業のためのツールばかりを構築してきたことを認識している。その陥穽から逃れ、実在する人間の実在する問題に向き合うことが、AIの真の価値を引き出す道だという彼女の主張は、投資家・創業者双方にとって重要な示唆を含んでいる。
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