
ベン・トンプソン、ビッグテック、中国、そして資金不足に直面するAIブーム - [Invest Like the Best, EP.487]
- Ben Thompson(ベン・トンプソン)は、テクノロジー業界の分析で定評のあるニュースレター「Stratechery」の創業者であり、その鋭い洞察で知られる。今回...
- 対談は、AIを巡る地政学的な均衡から始まり、主要テック企業のビジネスモデル分析、そして半導体業界の構造的な問題にまで及ぶ。トンプソンは、OpenAIやAnthropi...
- [02:16] AI競争における米国の「勝利」がもたらす危険性 トンプソンは、米国がAI競争で完全な優位に立つことは、世界にとって危険ですらあるという逆説的な見解を示...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Invest Like the Best with Patrick O'Shaughnessy / Colossus | Investing & Business Podcasts
- 米国がAI競争で完全な優位に立つことは、中国によるTSMC破壊というゲーム理論上の合理的な対応を誘発する可能性があり、世界にとって危険ですらある。
- 現在のAI投資は、鉄道やコンテナ船と同様に「期間ミスマッチ」を抱えており、投資が収益を生み出す前に資本が尽きる「エアギャップ」が最大のリスクである。
- AIはコーディングや数学といった「検証可能な領域」では優れているが、法律や医療といった「検証が困難な領域」での有効性はまだ証明されておらず、その点は割り引いて考える必要がある。
- 消費者向けAIビジネスは、広告モデルが最も合理的であり、OpenAIが広告参入を怠ったことは、GoogleやMetaに対する競争上の大きな後れを取る原因となった。
- TSMCの保守的な設備投資戦略は、結果的にIntelやSamsungといった競合他社を復活させ、同社の半導体製造における独占的な地位を弱体化させる可能性がある。
- Amazonは「最初の顧客は自分自身」という戦略で、AWSやAIチップなど、自社のインフラを外部に販売する好循環を確立しており、最も興味深いビジネスモデルを持つ。
- MicrosoftのAI戦略は、1990年代のIBMの「ミドルウェア」戦略と類似しており、モデル間の競争を仲介することで安定した収益を得ることを目指しているが、長期的には自社製品の陳腐化リスクがある。
- Nvidiaの現在のビジネスモデルは、実質的な値引き(循環融資)に依存しており、AIバブル崩壊時には巨額の損失を被るリスクがある。長期的には、GoogleやAmazonの自社製チップが最大の競争相手となる。
Ben Thompson(ベン・トンプソン)は、テクノロジー業界の分析で定評のあるニュースレター「Stratechery」の創業者であり、その鋭い洞察で知られる。今回のエピソードでは、ホストのPatrick O'Shaughnessy(パトリック・オショーネシー)との対談を通じて、AIブームの現在地と未来、巨大テック企業の戦略、そしてこの未曾有の投資サイクルが直面する資本の制約について、深く掘り下げた議論が展開された。トンプソンは、AIがもたらす経済的インパクトへの強い確信を持ちつつも、現在の過熱した投資環境に対しては、歴史的な教訓を交えながら冷静な分析を提示している。特に、米国がAI競争に「勝利」することの危険性、鉄道やコンテナ船といった過去のインフラ投資との類似性、そして何よりも「計算能力(compute)」ではなく「資本(capital)」が最終的な制約条件になるという主張は、示唆に富む内容となっている。
対談は、AIを巡る地政学的な均衡から始まり、主要テック企業のビジネスモデル分析、そして半導体業界の構造的な問題にまで及ぶ。トンプソンは、OpenAIやAnthropicといったフロンティア企業の可能性を認めつつも、そのビジネスモデルの脆弱性を指摘する。また、AmazonやMeta、Microsoftといった既存の巨人たちが、AI時代においてどのような戦略を取るべきかについて、独自の理論を展開する。特に、Googleの資本政策とBerkshire Hathawayの比較、Nvidiaのビジネスモデルに内在するリスク、そしてMetaの広告事業が持つ計り知れない価値についての考察は、投資家にとって見逃せない内容だ。このエピソードは、AIブームの喧騒の中で、本質を見極めようとする投資家やビジネスリーダーにとって、貴重な視点を提供している。
AI競争における米国の「勝利」がもたらす危険性
トンプソンは、米国がAI競争で完全な優位に立つことは、世界にとって危険ですらあるという逆説的な見解を示す。もし米国がAIを完全に支配し、軍事的にも経済的にも圧倒的な優位を築いたとしたら、中国の合理的な対応は、台湾にあるTSMCを破壊することになるだろうと彼は指摘する。これはゲーム理論的に見て最も合理的な選択であり、米国がどれだけ自国での半導体製造を強化しても、中国への依存度がゼロになることは現実的には考えられないというのが彼の主張だ。サプライチェーンの多様化は、保険料が天文学的に高い保険に例えられ、実際に危機が差し迫らない限り、企業が自発的に支払うことはないと述べる。
理想的な均衡状態について、トンプソンは現在の状況が案外持続可能かもしれないと語る。OpenAIとAnthropicが明確にフロンティア(最先端)に立ち、Google、xAI、Metaが追走し、中国勢は約6〜9ヶ月遅れでモデルを蒸留(distill)して追従している。この構図は、米国にとって概ね有利な均衡であり、すぐに崩れるものではないというのが彼の見立てだ。しかし、中国勢が本当に追いつけるかどうかは未知数であり、特にAIが自己改善を始める「再帰的(recursive)」な領域に入った場合、その差は広がる可能性があると指摘する。また、オープンソースモデルが「無料」と呼ばれることに対しては、推論(inference)のコストがかかる以上、完全に無料というわけではないと疑問を呈する。
さらに、AIの進歩が鈍化する「Sカーブ」のどこにいるのか、という根本的な問いも提起される。トンプソンは、モデルの能力が頭打ちになるのか、それとも指数関数的に成長し続けるのかは、誰にも確実には予測できないとしながらも、その答えを知ることができれば、投資戦略は大きく変わるだろうと述べる。彼は、AIが本当に人間の知能を超える「シンギュラリティ」のような事態が起こるかどうかよりも、まずは現在の投資額に見合うリターンが生み出せるのかという、より現実的なタイミングの問題が重要だと強調する。
資本の制約と鉄道・コンテナ船の歴史的教訓
トンプソンは、現在のAIブームを19世紀の鉄道建設や、近年のコンテナ船業界と比較しながら、その本質的なリスクを浮き彫りにする。鉄道は、建設に数十年を要する一方で、資金調達は短期的な借金に依存していたため、資金が尽きる「期間ミスマッチ(duration mismatch)」が発生した。1870年代、世界は鉄道建設のための資金を使い果たし、バブルは崩壊したが、鉄道自体はその後も稼働し続け、西部開拓や経済発展に大きく貢献した。同様に、現在のAIブームも、もし資金が尽きてバブルが崩壊したとしても、AI技術自体は消え去ることはなく、長期的には人類の進歩に寄与するだろうと彼は予測する。
この文脈で、トンプソンはNvidiaが主導する5,000億ドル規模の資金調達計画や、Googleの株式発行に言及し、資本調達の手段が段階的にエスカレートしていることを指摘する。企業はまずフリーキャッシュフローを使い、次に社債市場を活用し、そして今度は株式発行や年金基金・保険会社の資金を活用しようとしている。この流れは、バークシャー・ハサウェイが鉄道会社BNSFを買収した故事を彷彿とさせる。シーズ・キャンディーズのような高利益率のビジネスは、絶対的な利益額が小さいが、鉄道のような低利益率でも市場規模が巨大なビジネスは、絶対的な利益額が大きくなる。トンプソンは、Googleの検索事業をシーズ・キャンディーズに、AI事業をBNSFに例え、Googleが現在の高収益事業の利益を、将来の巨大な市場を持つAI事業に投資している構図だと説明する。
しかし、この資本の流れが持続可能かどうかが最大の懸念事項だ。現在の投資額は、2025年に8,000億ドル、2026年には1.3兆ドルに達すると見込まれているが、これらの投資が実際に収益を生み出すのは2028年や2029年になってからだ。トンプソンは、この「エアギャップ(air gap)」、つまり投資とリターンの間に存在する時間的なずれが、資本市場の混乱を引き起こす可能性があると警告する。もしAIが十分な収益を生み出す前に資本が尽きてしまえば、大規模な調整が起こり得るが、それでもAIの進歩自体は止まらないだろうと彼は締めくくる。
検証可能な領域と不可能な領域:AIの能力の限界
トンプソンは、AIの能力について、コーディングや数学といった「検証可能な領域(verifiable domains)」では目覚ましい進歩を見せている一方で、法律や医療、経営判断といった「検証が困難な領域(unverifiable domains)」での有効性には依然として疑問が残ると語る。AIがチェスや囲碁で人間を打ち負かしたのは、これらの領域が明確なルールとゴールを持つ「既知の領域」だったからであり、スケール(計算量)を増やすことで解決できた。しかし、現実世界の複雑な問題は、必ずしも明確な答えがあるわけではなく、AIがそのような領域で真価を発揮できるかどうかは、まだ証明されていないというのが彼の主張だ。
この疑問に対して、AIラボの関係者からは「チェスや囲碁も不可能だと思われていたが、解決できた」という反論があるが、トンプソンはこの答えに納得していない。彼は、AIが人間の思考の「痕跡(traces)」を捉えることの重要性を指摘する。現在のAIは、インターネット上のテキストデータを学習しているが、それは人間の思考の「最終結果」であり、思考に至るまでの感情やプロセスは含まれていない。Neuralinkのようなブレイン・コンピュータ・インターフェースが発展すれば、人間の思考そのものをデータとして取得できるようになり、AIの能力は飛躍的に向上する可能性があると彼は示唆する。
しかし、その一方で、トンプソンはAIが現在の能力のままであっても、経済的な機会はすでに巨大であると強調する。多くの仕事は、必ずしも高度な創造性や複雑な判断を必要とするものではなく、与えられたタスクを正確にこなすことで成り立っている。このような「検証可能な領域」での仕事は、AIによって代替される可能性が高く、その市場規模は計り知れない。彼は自身を「消極的な加速主義者(reluctant accelerationist)」と称し、AIの進歩を止めることはできない以上、経済的な恩恵を最大化するために前進し続けるべきだと結論付ける。
集合理論の限界とAI時代の新しいビジネスモデル
トンプソンは、2015年に発表した自身の理論である「集合理論(Aggregation Theory)」が、AI時代においても有効かどうかを問いかける。集合理論とは、デジタル世界では流通コストが限りなくゼロに近づくため、需要を掌握した企業が市場を独占するという理論だ。GoogleやMetaは、この理論の完璧な実例であり、ユーザーと広告主の双方をスケールさせることで、圧倒的な利益を生み出してきた。しかし、AIの登場により、推論(inference)という新たな限界費用が発生し、この理論の前提が崩れつつあると彼は指摘する。
特に、AIの利用形態によって、そのコスト構造が大きく異なることが問題だ。無料のChatGPTでレシピを検索するようなユーザーのコストは、従来のウェブページを配信するのと大差ない。しかし、数日間かけて数学の定理を解くような高度な推論(test-time scaling)を実行するユーザーは、膨大な計算リソースを消費するため、コストが桁違いに高くなる。このコスト差は、AIビジネスの収益モデルを複雑にしている。トンプソンは、Microsoftが企業向けに導入した新しい価格体系(E7プラン)を例に挙げ、従来の定額制から従量制への移行が、企業の購買行動にどのような影響を与えるかを分析する。
さらに、トンプソンは、消費者向けAIビジネスにおいて、広告モデルが不可欠であると主張する。消費者はソフトウェアにお金を払いたがらず、生産性向上よりも娯楽を求めるものだ。Dropboxが消費者向けビジネスから企業向けビジネスにピボットせざるを得なかった歴史を引き合いに出し、OpenAIも同じ過ちを犯していると指摘する。OpenAIはChatGPTの成功後、すぐに広告ビジネスに参入すべきだったが、それを怠ったため、GoogleやMetaに比べて大きな後れを取っている。広告は、ユーザー数が増えるほど収益化の効率が上がるという好循環を生み出すため、消費者向けAIのビジネスモデルとして最も合理的な選択肢だと彼は結論付ける。
半導体業界の構造的リスクとTSMCの戦略
トンプソンは、現在のコンピュート(計算能力)不足が、半導体業界の構造的な問題に起因していると分析する。特に、TSMCが2023年から2025年にかけて設備投資の成長率を意図的に抑えたことが、現在の供給不足を深刻化させていると指摘する。TSMCは、過剰投資によるリスクを回避するために保守的な姿勢を取ってきたが、その結果、ビッグテック企業は十分なコンピュートを得られず、機会損失を強いられている。このリスクは消滅したわけではなく、TSMCからビッグテック企業へと移転したのだと彼は説明する。
この状況は、コンテナ船業界やメモリ半導体業界の歴史的なバブルとバストのサイクルと類似している。需要が高まると企業は一斉に設備投資を行うが、設備が稼働するまでに時間がかかるため、供給過剰と価格暴落を招く。メモリ半導体業界では、サムスンが不況期に積極的に投資することで市場を席巻した歴史があるが、現在の市場は寡占状態にあり、各社は慎重な姿勢を崩していない。しかし、AIによる需要の急増は、この業界構造を変えつつあり、メモリメーカーは再び大規模な投資を迫られている。
トンプソンは、TSMCの優位性が、結果的に同社自身の首を絞めることになると予測する。TSMCへの依存度が高まりすぎたことで、IntelやSamsungといった競合他社を育成する動きが加速するからだ。ビッグテック企業は、地政学的リスクを回避するために、たとえコストがかかっても、TSMC以外の選択肢を模索せざるを得なくなる。この「高価格の治療法は高価格である(the cure for high prices is high prices)」という原理が働き、Intelが再び主要な半導体受託製造企業として復活する可能性があると彼は予測する。TSMC自身が投資を怠ったことが、競争を生み出すきっかけになったというわけだ。
ビッグテック各社の戦略分析:Amazon、Apple、Microsoft
トンプソンは、主要テック企業の中で、Amazonのビジネスモデルが最も興味深いと評価する。Amazonは、自社の事業ニーズを満たすために構築したインフラを、そのまま外部顧客に販売するという独自の戦略を取っている。AWSはその代表例であり、自社の小売事業のために開発したクラウドサービスを、結果的に外部企業に提供することで巨大なビジネスに成長させた。同様に、物流ネットワークやAIチップ(Graviton、Trainium)も、自社で使用しながら改良を重ね、外部に販売するというサイクルを確立している。この「最初の顧客は自分自身」というアプローチは、新規事業を立ち上げる際のリスクを大幅に軽減する。
一方、Appleについては、AI競争に参加していないように見えて、実は有利な立場にあるとトンプソンは分析する。Appleは顧客へのアクセスを掌握しているため、必要になれば外部からAI技術を調達できる。また、ユーザーが生産性向上よりも娯楽を求めるという原則に従えば、Appleはデバイス上で動作するAIアシスタントを提供することで、推論コストをユーザーに転嫁できる可能性もある。しかし、Appleの企業文化は、確実性を重視する「決定的(deterministic)」な製品開発に適しており、確率論的な性質を持つAI開発には必ずしも適していないと彼は指摘する。AppleはAIに無理に参入するよりも、優れたデバイスを作り続けることに注力すべきだというのが彼の見解だ。
Microsoftについては、トンプソンは1990年代のIBMの戦略との類似性を指摘する。IBMは、自社の製品が業界標準ではなくなった後、企業のITシステム構築を支援する「ミドルウェア」とコンサルティングサービスを提供することで、30年にわたって生き延びた。Microsoftも同様に、AIモデルを直接開発するのではなく、企業がAIを導入するためのプラットフォームを提供することで、モデル間の競争を仲介する立場を選んでいる。この戦略は、最先端のAIを追求するよりも、既存の顧客基盤を活用して安定した収益を得ることを重視しており、短期的には合理的だが、長期的にはAIによって自社のソフトウェア製品自体が陳腐化するリスクがあるとトンプソンは警告する。
フロンティアモデル競争とMetaの広告戦略
トンプソンは、OpenAI、Anthropic、Google(Gemini)、xAI、Metaの5社が、フロンティアAIモデルの開発競争をリードしていると分析する。この中で、OpenAIとAnthropicは、ビジネスとしてのリスクが最も高い一方で、成功した場合のリターンも最も大きい。彼は、これらの企業を宗教組織に例え、OpenAIは「主流派教会」、Anthropicは「福音派」のような強い信念を持っていると表現する。この信念が、巨額の投資を持続させる原動力になっているというのが彼の見方だ。一方、GoogleやMetaは、既存の収益事業があるため、AI開発に失敗しても生き残ることができるが、その安定性が革新性を損なう可能性もある。
特に、Metaについては、マーク・ザッカーバーグのリーダーシップが、同社をフロンティアに留めている最大の要因だとトンプソンは評価する。Metaの広告事業は、AI時代においても最も強力なビジネスモデルの一つであり、AIを活用した広告の最適化は、わずかな改善でも数十億ドル規模の利益増加につながる可能性がある。しかし、Metaはこの広告事業の価値を積極的に発信しておらず、ザッカーバーグ自身も広告に対して複雑な感情を持っているように見えると彼は指摘する。Metaは、AIを活用した広告マッチングの精度向上、広告クリエイティブの自動生成など、独自の強みを活かせる分野で大きな成長余地を秘めている。
さらに、トンプソンは、AI時代における広告の重要性を強調する。AIが生成するコンテンツは、広告と組み合わせることで初めて収益化が可能になる。GoogleやMetaは、膨大なユーザーデータと広告取引市場を持つため、AIを活用した広告の効果検証(A/Bテスト)を大規模に行うことができ、これが競争優位の源泉となる。彼は、広告は単なるビジネスモデルではなく、消費者に無料のサービスを提供し、新規事業者が顧客を見つけることを可能にする「社会的な善(societal positive)」であると主張する。しかし、この価値が適切に認識されていないことが、Metaの株価評価や世論形成に悪影響を及ぼしていると彼は嘆く。
Nvidiaのジレンマと電力という最終的な制約
トンプソンは、Nvidiaの現在のビジネスモデルが、実は「不自然(unnatural)」な状態にあると指摘する。Nvidiaは、GPUの販売価格を維持しているように見えるが、実際には新興クラウド企業(Neo Cloud)への出資や、将来のコンピュート購入の保証といった形で、実質的な値引きを行っている。この「循環融資(circular financing)」は、Nvidiaがリスクを負担することで、顧客の資金調達コストを下げる仕組みであり、そのリスクに見合う対価をNvidiaが得ているとは限らない。もしAIバブルが崩壊し、コンピュートの需要が急減した場合、Nvidiaは巨額の損失を被る可能性がある。
長期的には、Nvidiaの最大の競争相手は、GoogleやAmazonといったハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)になるだろうとトンプソンは予測する。これらの企業は、自社製のAIチップ(TPU、Trainium)を開発しており、将来的には外部に販売する計画だ。彼らは、Nvidiaのように差別化された製品としてではなく、コモディティ(汎用品)としてチップを販売するため、価格競争が激化する可能性がある。NvidiaのCUDAエコシステムは、かつてほどの強力な参入障壁ではなくなっており、AIモデルが特定のハードウェアに依存しなくなれば、Nvidiaの優位性はさらに低下するだろう。
しかし、トンプソンは、AIブームが最終的に電力不足に直面する可能性が高いと指摘する。データセンターの建設が進み、AIの推論処理が増加すれば、電力消費は爆発的に増加する。この電力不足は、Nvidiaにとっては追い風となる可能性がある。電力が限られた状況では、最も電力効率の高いチップを提供するNvidiaの優位性が高まるからだ。一方で、米国では予想以上に電力供給が増加しており、天然ガス火力発電の活用や、原子力発電所の再稼働などが進んでいる。もし電力が潤沢に供給されれば、Nvidiaの優位性は薄れ、競争が激化するだろう。トンプソンは、AIブームの真の遺産は、GPUやデータセンターではなく、電力インフラの拡充かもしれないと示唆する。
結びに
今回のエピソードは、AIブームの喧騒の中で、投資家が陥りがちな「楽観的な物語」を一旦停止し、歴史的な視点と構造的な分析に基づいて、冷静に現状を評価する機会を提供してくれた。ベン・トンプソンの洞察は、単なるテクノロジー分析に留まらず、資本市場のダイナミクス、地政学的リスク、そして人間の行動原理にまで及んでおり、投資判断の羅針盤として非常に有用だ。特に、「計算能力」よりも「資本」が最終的な制約条件になるという指摘や、Nvidiaのビジネスモデルに内在するリスクの分析は、現在の市場コンセンサスに一石を投じるものだろう。
この対談が特に優れているのは、単に悲観的な見通しを述べるのではなく、AIの長期的な可能性を信じつつも、その道のりが平坦ではないことを明確に示している点だ。鉄道やコンテナ船の歴史が示すように、バブルは崩壊しても、その後に残るインフラは長期的な繁栄の基盤となる。AIも同様に、たとえ投資バブルが弾けたとしても、その技術は社会に浸透し、生産性を向上させるだろう。投資家にとって重要なのは、短期的な市場の変動に一喜一憂するのではなく、AIがもたらす長期的な構造変化を見据え、その変化に対応できる企業と、そうでない企業を見極めることだ。このエピソードは、そのための知的枠組みを提供してくれる、示唆に富んだ内容となっている。
あわせて読む
同じ番組の別エピソードや、近いテーマの記事から続けて読めます。





