
#38: Tim Alongi - バックフライ・モア
- パラグライダーの達人ティム・アロンジ:遊び心と技術の融合 このエピソードでは、ホストのパウル・グシュルバウアーが、FAIワールドエアゲームズ・アクロチャンピオンであり、複...
- [0:00] 幼少期から始まった飛行との関わり ティム・アロンジは、わずか2歳の時に父親と共にタンデムフライトを経験し、9歳で単独飛行を始めた。彼の両親はインストラクター...
- 特筆すべきは、初飛行の前夜のエピソードだ。ティムは眠りながらもベッドの端に座り、飛行の動作をしていたという。姉がその様子を見て「ティム、飛んでないよ!」と起こしたという微...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
WANDERBIRD | ファインド・ユア・パス・ポッドキャスト / Paul Guschlbauer
パラグライダーの達人ティム・アロンジ:遊び心と技術の融合
このエピソードでは、ホストのパウル・グシュルバウアーが、FAIワールドエアゲームズ・アクロチャンピオンであり、複数回のフランスチャンピオン、そしてレッドブルX-アルプスのアスリートでもあるティム・アロンジを迎え、幼少期からパラグライダーに親しんできた彼のユニークなキャリアと哲学に迫る。中心となるテーゼは、パラグライディングにおける真の上達とは、単に飛行時間を積むことではなく、遊び心を失わずに技術を徹底的に磨き、異なる分野(アクロ、クロスカントリー、ハイク&フライ)を横断することで得られる多様性と深い理解にあるというものだ。会話全体を通じて、ティムの「空は遊び場であり、翼は鏡である」という信念が感じられる、リラックスしながらも示唆に富んだ内容となっている。
幼少期から始まった飛行との関わり
ティム・アロンジは、わずか2歳の時に父親と共にタンデムフライトを経験し、9歳で単独飛行を始めた。彼の両親はインストラクターではなく、父親は趣味でパラグライダーを楽しむ程度だった。毎年夏休みや休暇のたびに、家族はアルプスのパラグライダースクールの近くにある祖父の別荘に滞在し、ティムはそこで一日中グラウンドハンドリングに没頭した。彼は「子供たちが自ら飛びたいと言い出すことが重要で、親が無理にやらせるものではない」と強調する。彼の姉や弟はパラグライダーを始めず、父親とティムだけがこのスポーツを続けたという。
特筆すべきは、初飛行の前夜のエピソードだ。ティムは眠りながらもベッドの端に座り、飛行の動作をしていたという。姉がその様子を見て「ティム、飛んでないよ!」と起こしたという微笑ましい話は、彼がどれほど幼い頃から飛行に夢中だったかを物語っている。
完璧主義の基礎:両親の厳格な指導法
ティムの両親は、アクロバティックな技を学ぶ際に非常に厳格なルールを設けた。当時、アクロバット飛行では多くの事故が発生していたため、両親は「一つの技を100%完璧にマスターするまでは、次の技に進んではいけない」と命じた。これは一見すると進歩を遅らせるように思えるが、ティムはこのアプローチが後に大きな強みになったと語る。「もし複数の技を同時に学ぼうとすると、それぞれの技術的な細部を見落とし、後でレベルを後退させなければならなくなる」と彼は説明する。
具体的には、最初に学んだのは「360度旋回」「非対称 collapse」「スパイラル」「ウィングオーバー」「ピッチ・ペンデュラム」といった基本技で、左右両方で完璧にできるようになるまで練習した。そして最も重要な「バックフライ(後方飛行)」は、父親から「リセットボタン」と呼ばれ、最初のソロフライト直後から完璧に習得するよう指導された。バックフライをマスターすれば、ほとんどの技を試す際に「緊急停止ボタン」として機能し、いつでも安全に技を中断できるという。
SIV訓練の本質:技術的基盤と反射神経
SIV(Simulation d'Incident en Vol:飛行中の異常事態シミュレーション)訓練について、ティムは一般的な考え方とは異なる視点を提供する。多くのパイロットは「新しい機体を買ったらSIVに行くべき」と言うが、ティムは「適切な技術を正しい機材で学べば、毎回SIVに行く必要はない」と主張する。重要なのは「飛行時間の量」であり、家族や仕事で忙しいパイロットほど、SIVと同じくらい実際の飛行時間を増やすことが重要だという。
彼が強調するのは、SIVで学ぶべき本質は「特定の状況からバックフライに入り、そこから脱出する能力」だということだ。クロスカントリーパイロットにとって、翼を開いた状態で飛び続けることが第一の目標だが、万が一の状況では「技術が反射神経として体内に組み込まれている」ことが生死を分ける。緊急時には感情的な要素が入り込み、考える時間はほとんどないため、技術は無意識のうちに発動される必要がある。「技術的な基本は、適切な指導と良いアドバイスがあれば、決して難しいものではない」とティムは語る。
アクロからクロスカントリーへの転換:再び学び直す勇気
ティムのキャリアにおいて最も印象的な転機は、アクロバットの世界チャンピオンからクロスカントリー競技へと軸足を移した時だ。彼は「完全に再び飛び方を学び直さなければならなかった」と率直に認める。最初のクロスカントリーフライトは「人生最悪のフライト」で、恐怖で手がブレーキに張り付き、早く着陸したくて仕方なかったという。
アクロパイロットとしての技術的基盤は安全性には役立ったが、クロスカントリーに必要なスキルは全く別物だった。具体的には、「集団での飛行」「正しいラインの選択」「地形に応じた適切な場所でのサーマル(上昇気流)の形成」「他のパイロットの動きに惑わされないメンタル」など、全く新しい能力が要求された。彼は「アクロの技術だけでは、クロスカントリーの理解にはほとんど役立たなかった」と振り返る。
特筆すべきは、彼が「ポリバレンス(多様性)」を重視している点だ。単一の競技で頂点を極めるのではなく、パラグライディングのあらゆる側面で上達することを目指している。この姿勢は、クライミング、カイトサーフィン、フリースタイルスキーなど他のスポーツにも表れており、それぞれの経験が飛行に新しい視点をもたらしている。
飛行の本質:リラックスとヒップの重要性
クロスカントリー飛行の上達について、ティムは「サーマルでの上昇能力が、速く飛ぶことよりもはるかに重要」だと指摘する。そして最も重要なのは「空でリラックスすること」だという。「翼は鏡のようなもので、あなたが与えたものをそのまま返してくる。力を入れすぎれば翼も硬くなり、リラックスして正確に操作すれば翼も優しくなる」と説明する。
特に強調されたのが「ヒップ(腰)」の重要性だ。パラグライダーでは腰がハーネスとライザー(吊り紐)を介して翼と直接つながっており、腰の動きが飛行全体をコントロールする。現代の機体は非常に扱いやすくなっているが、それでも「ブレーキ操作よりも腰からのインパルス」が基本だとティムは言う。彼は「腰が硬いと決してうまく飛べない。腰を柔軟に使うことが、翼にストレスを与えずに飛ぶ秘訣だ」と語る。
また、彼は「翼はあなたよりもどこに行くべきかを知っている」というユニークな表現を使う。上昇しようと力んでも逆効果で、リラックスして翼に任せると、自然とサーマルを見つけるという。パウルもこの考えに共感し、「上昇しようと意識しなくなった瞬間にバリオ(上昇計)が鳴り始める」という自身の経験を共有した。
レッドブルX-アルプスへの挑戦とリスク管理
ティムがレッドブルX-アルプスに挑戦しようと思ったきっかけは、友人との何気ない会話だった。当初は「自分には無理だ」と思いながらも、目標として登録した。選考から漏れた後、「次のエディションでは選ばれるように」と本格的にトレーニングを開始。クロスカントリー飛行の練習、ソロでのビバーク旅行、ボルンツフライやX-Pyrなどの競技参加、トレイルランニングなど、総合的な準備を進めた。
彼は自身の持久力について「アクロで鍛えたフィットネスはあったが、持久力は最悪だった」と正直に認める。しかし「地上での速さよりも、いかに上手く飛ぶかが重要」という信念を持っている。
リスク管理については、彼独自の体系的なアプローチがある。新しい技を学ぶ際、まず「自分のスキルで目標を達成できるか」を評価し、不足があれば一歩下がって必要なツールを習得する。そして「恐怖」「ダンプ(危険因子)」「未知の要素」を明確にし、技の各部分で起こりうる問題と、その回復手段を頭の中で可視化する。このプロセスはクロスカントリー飛行でも毎日適用されており、「サーマルが見つからない場合のプランB、プランC、着陸地点、次のサーマルの可能性、出口戦略」を常に考えているという。
重大インシデントとそこからの教訓
ティムは幸いにも大きな怪我はないが、重大な瞬間を経験している。特に印象的なのは、友人マーヴィンとエル・イエロ(カナリア諸島)で飛行中に起きた出来事だ。一週間近く接近飛行を続け、お互いに「限界に近づいている」と認識し、対策を話し合っていた。その2〜3日後、実際に空中で接触し、両者ともレスキュー(予備パラシュート)を開くしかなかったという。「すべてが1秒以内に起こった」と彼は振り返る。
この経験から彼が学んだのは、事前のコミュニケーションと可視化の重要性だ。限界に近づいていることを認識し、万が一の時の行動を事前に決めておくことで、緊急時にも反射的に対応できる。彼は「多くのパイロットが恐怖を感じるのは、脱出のシナリオを可視化していないか、適切な技術的ツールを持っていないからだ」と分析する。
まとめ
このエピソードが特に印象的なのは、世界トップレベルのアクロパイロットでありながら、ティムが「遊び心」と「学び続ける姿勢」を何よりも大切にしている点だ。彼のキャリアは、一つの分野で頂点を極めた後、全く異なる分野で再び初心者に戻る勇気と謙虚さの重要性を示している。また、「技術は反射神経になるまで体に染み込ませる」という彼の哲学は、パラグライダーに限らず、あらゆるスキル習得に通じる普遍的な教訓を含んでいる。パウルとの自然な対話からは、二人の長年の友情と相互リスペクトが感じられ、技術談義でありながら温かみのある雰囲気が印象的だった。
要点
- ティム・アロンジは2歳でタンデムフライト、9歳で単独飛行を開始し、幼少期からパラグライダーに没頭してきた。
- 両親の「一つの技を100%完璧にしてから次に進む」という厳格な指導が、彼の強固な技術基盤を築いた。
- バックフライ(後方飛行)は「リセットボタン」であり、ほとんどの緊急事態からの脱出手段として最も重要。
- SIV訓練の本質は、技術を反射神経として体内に組み込むことであり、毎回参加する必要はない。
- アクロからクロスカントリーへの転換は「完全に再学習」を意味し、異なるスキルセットが要求される。
- 飛行の鍵は「リラックス」と「腰の柔軟な使用」にあり、翼はパイロットの状態を鏡のように反映する。
- リスク管理では、事前の可視化と脱出シナリオの準備が最も重要であり、恐怖は未知の要素から生まれる。
- ティムは「ポリバレンス(多様性)」を重視し、一つの分野に特化するよりも、パラグライディングのあらゆる側面で上達することを目指している。