
このCPOはプロダクトマネジメントの存在を後悔している | トム・ヴェリリ(Whatnot CPO)
- Whatnot(ホワットノット)のチーフ・プロダクト・オフィサー(CPO)であるTom Verrilli(トム・ヴェリリ)は、同社のプロダクトチームが「プロダクトマネ...
- 本エピソードでは、AI時代におけるPMの役割の進化、シニアIC(個人貢献者)へのシフト、データサイエンスの変革、CPOと創業者の関係構築、そして「アコーディオンを演奏...
- [2:40] 「プロダクトマネジメントが存在することを後悔している」という哲学 Verrilliは、プロダクトマネジメントという職種が歴史的に見て比較的新しいものであ...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Lenny's Podcast: プロダクト | キャリア | 成長 / Lenny Rachitsky
- Whatnotのプロダクトチームは「プロダクトマネジメントが存在することを後悔している」という前提で設立され、PMを全てのチームに配置するのではなく、特定の問題やプロジェクトにのみ配置している。
- 過去2年間で31,832件のPM応募があったが、採用は僅か1名。面接で「アラインメント推進」や「ステークホルダーマネジメント」を強調する候補者は明確に不利。
- シニアPMはディレクターやVPに昇進するのではなく、90%以上の時間をIC(個人貢献者)業務に費やすべきであり、Whatnotでは全マネージャーがこの原則を実践している。
- AIツール(例:Hex Threads)により、PMが自ら高度なデータ分析を行えるようになり、データサイエンティストの役割は「分析の実行」から「分析の検証」へとシフトしている。
- 「優れた人材を雇って、邪魔をしない」という原則は誤りであり、リーダーはチームと共に現場で作業し、意思決定を検証する「検証してから信頼する」アプローチが効果的。
- 「アコーディオンを演奏する」というメンタルモデルは、戦略的ビジョン(ズームアウト)と迅速な反復(ズームイン)を常に行き来することの重要性を示している。
- Twitterでの経験から、真のプロダクトマーケットフィットを達成すれば組織の混乱は乗り越えられるが、「複雑すぎる」という言い訳は多くの場合、リーダーシップの弱さに過ぎないことを学んだ。
- 平均値に頼った意思決定は危険であり、データと逸話がある場合は逸話を信じるべき。個別のユースケースを無視した機能廃止は、ユーザーのビジネス全体を破壊する可能性がある。
Whatnot(ホワットノット)のチーフ・プロダクト・オフィサー(CPO)であるTom Verrilli(トム・ヴェリリ)は、同社のプロダクトチームが「プロダクトマネジメントが存在することを後悔している」という前提で設立されたと明かす。この一見過激な主張は、PMという職種そのものを否定するものではなく、エンジニアやデザイナーが自ら意思決定する能力を奪い、組織全体の「筋肉」を萎えさせている現状への警鐘である。Verrilliは、PMは「資格」ではなく「トレード(技術)」であり、反復練習によって磨かれる筋肉だと考え、PMを全てのチームに配置するのではなく、特定の問題やプロジェクトにのみ配置する「問題駆動型」の組織設計を提唱する。この哲学は、Whatnotが過去2年間に受け付けた31,832件のPM応募者のうち、実際に採用したのが僅か1名であるという驚異的な数字にも表れている。
本エピソードでは、AI時代におけるPMの役割の進化、シニアIC(個人貢献者)へのシフト、データサイエンスの変革、CPOと創業者の関係構築、そして「アコーディオンを演奏する」という独自のメンタルモデルまで、Verrilliの豊富な実務経験に基づく具体的な戦術と洞察が語られる。彼は、Twitter(現X)での混乱期やTwitchでのCPO経験から得た教訓を率直に共有し、プロダクトマネジメントの本質は「劇場(シアター)」ではなく、顧客とビジネスとテクノロジーを深く理解し、それらを統合して最適な意思決定を行うことにあると強調する。この対談は、プロダクトリーダーやPMを目指す人々にとって、従来の常識を覆す示唆に富んだ内容となっている。
「プロダクトマネジメントが存在することを後悔している」という哲学
Verrilliは、プロダクトマネジメントという職種が歴史的に見て比較的新しいものであり、インターネット企業が急速にスケールする過程で、創業者やCEOがエンジニアやデザイナーと直接対話して製品を作るという初期の形態から、専門化が進んだ結果生まれたと説明する。彼は、PMが意思決定の専門家として存在する唯一の正当な理由は、それが「トレード」であり、実践によって磨かれる筋肉であるからだと主張する。しかし、その一方で、エンジニアやデザイナーから同じ意思決定の機会を奪うことで、彼らの筋肉もまた未発達になるというジレンマを指摘する。
この哲学は、Whatnotの組織文化に深く根付いている。同社では、製品開発のドキュメントに「誰でも変更を提案できる」と明記し、新製品開発のDRI(Directly Responsible Individual)がエンジニアやデザイナーであることも珍しくない。重要なのは、PMを特定のチームに固定的にマッピングするのではなく、問題や中核プロジェクトにマッピングすることだ。これにより、PMが存在しないエンジニアリングチームが生まれることもあり、その分、エンジニアやデザイナーが自ら考え、意思決定する機会が増える。Verrilliは、このアプローチが「エンジニアとデザイナーを幼児化させる」ことを防ぎ、彼らがより良い製品を作るための主体性を育むと確信している。
専門化の是非と組織文化の重要性
エンジニアやデザイナーがPMの仕事を必ずしも望んでいないという指摘に対し、Verrilliは専門化が両方向に機能すると応じる。インフラストラクチャのリードのように、スケールについて深く考えることに集中したいエンジニアにとって、アラインメントの調整や細部の詰めは負担でしかない。また、顧客の声を聞いて本質的な問題を理解するスキルは、必ずしも全てのエンジニアが持っているわけではない。しかし、だからといって全てのチームにPMが必要なわけではない。Verrilliは、PMを「特定のニーズがある場所」にのみ配置し、それ以外の場所ではエンジニアやデザイナーがPM的な仕事を担うことを推奨する。
この考え方の背景には、テック業界における文化的変化がある。かつては「優れた人材を雇って、彼らの邪魔をしない」というボトムアップのアプローチが主流だったが、Verrilliはトップダウンの意思決定が持つ効率性を再評価している。上層部が真実に基づいた判断を下せるのであれば、アラインメントのための会議や議論を大幅に削減できる。AIツールの登場により、シニアリーダーが自らデータを分析し、コードベースを理解することが容易になったことも、この変化を後押ししている。Whatnotでは、CEOのGrant LaFontaine(グラント・ラフォンテーヌ)がレビューで「これは正しくない」と判断した際、一日の予定を全てキャンセルしてチームと共に問題を深掘りする姿勢を見せるという。この「真実を追求する」文化が、トップダウン型の意思決定を支えている。
31,832件の応募から1名だけを採用する理由
Verrilliは、WhatnotのPM採用において、面接で「アラインメントの推進」や「ステークホルダーマネジメント」について話す候補者は明確に不利になると語る。彼は、自身もかつてそうだったように、技術や顧客志向ではなく「政治」を専門とするPMが存在することを認めつつ、そのようなスキルセットはもはや価値が低下していると指摘する。Whatnotが求めるのは、マクロな思考とミクロな思考の両方を兼ね備えた人材だ。つまり、システム全体を俯瞰して戦略を描ける一方で、その戦略を検証するための具体的なアクションを迅速に実行できる人物である。
採用プロセスでは、全候補者が実際のケーススタディに取り組むことが義務付けられている。プレゼンテーションは素晴らしいが、具体的なデータを与えられ、自分の見解を口頭で弁護する段階になると思考が急速に劣化する候補者は少なくないという。Verrilliは、この「プロダクトシアター(製品劇場)」、つまり実際の製品構築ではなく、リーダーシップへのコミュニケーションやフレームワークの提示に長けたPMの存在を批判する。彼は、Marty Cagan(マーティ・ケーガン)が「プロダクトマネジメントシアター」と呼ぶこの現象について、業界が長年にわたってこのような行動を評価してきた結果だと認めつつ、AI時代においては「隠れる場所」がなくなったと警告する。
シニアICへのシフトと「メッシをピッチに立たせる」原則
Verrilliは、PMがキャリアを積むとディレクターやVPに昇進し、実際の製品作業から遠ざかってしまう従来のキャリアパスを痛烈に批判する。彼は、優秀な人材を「アラインメント会議」に閉じ込めるのではなく、彼らが最も価値を発揮できる現場、つまりIC(個人貢献者)としての仕事に留めるべきだと主張する。Whatnotでは、PMチームのマネージャーは全員が90%以上の時間をIC業務に費やしており、Verrilli自身も約50%の時間をIC業務に充てている。このアプローチにより、経験豊富なシニアPMが迅速に意思決定し、組織に大きな影響を与えることができる。
このシフトは、単に製品の質を向上させるだけでなく、組織の効率性も高める。例えば、Twitchで長年問題となっていた「ディスカバリーチームと広告チームのインプレッション争い」は、両方の責任を1人のPMに任せることで解決した。同じ人物がオーガニックと広告の両方の目標を管理することで、自然と最適なトレードオフが生まれ、数ヶ月に及ぶ政治的駆け引きが不要になった。Verrilliは、この考え方を「なぜメッシをチームでプレーさせずに、アカデミーの育成に時間を費やすのか」というサッカーの比喩で表現する。彼は、AIの登場により、シニアPMがデータ分析やコード理解を迅速に行えるようになり、このIC中心のモデルがさらに強化されると予測する。
AIが変革するデータサイエンスと製品開発プロセス
Whatnotでは、AIの活用によりデータサイエンスの仕事が劇的に変化している。Verrilliは、Hex Threadsのようなツールを使えば、かつてAmazonのL7データサイエンティストが1〜2週間かけて行っていた分析を、今では数時間で実行できると語る。PMは自らデータを取得し、コホート分析や感応度モデルを構築できるようになり、データサイエンティストに依頼する頻度が大幅に減少した。この変化は、データサイエンティストの役割を「分析の実行」から「分析の検証」へとシフトさせた。非データサイエンティストが作成した分析の正確性を確認する仕事が増え、その半数以上が誤っていることもあるという。
さらに、AIはコードベースの理解を容易にし、PMがエンジニアの作業を妨げることなく、システムの仕組みを深く把握することを可能にした。Verrilliは、Claudeを使ってアプリのフィードのロジックを直接問い合わせ、問題を特定した経験を語る。これにより、キックオフミーティングやアラインメント会議、PRD作成にかかる時間を大幅に削減できる。また、ライブコマースというWhatnotの特性上、ユーザーが製品を使用する様子をリアルタイムで観察しながら、コードベースを同時に分析し、バグなのか理解不足なのかを即座に判断できる「強化されたフィードバックループ」が実現している。Verrilliは、データサイエンティストの役割が減少するとは考えておらず、むしろトラッキングやアトリビューションの正確性を確保するという、より戦略的な仕事にシフトすると予測する。
「優れた人材を雇って、邪魔をしない」という原則の誤り
Verrilliは、「優れた人材を雇って、彼らの邪魔をしない」という一般的な経営原則に対して、明確に異議を唱える。彼は、この原則が「ロードマップや問題定義を全てチームに委ねる」という誤った解釈を生んだと指摘する。実際には、リーダーはチームと共に現場で作業し、彼らの意思決定を検証し、必要なコンテキストを提供することが重要だ。Whatnotでは、CEOのGrantがレビューで問題を発見した際、一日を空けてチームと共にデータやコードを詳細に分析する文化がある。この「検証してから信頼する」アプローチにより、リーダーは常に最新の情報を把握し、より正確なマクロな意思決定を行うことができる。
CPOと創業者の関係構築について、Verrilliは「それがあなたの会社ではなく、彼らの会社である」という現実を認識することが重要だと語る。彼は、Whatnotの創業者であるGrantとLoganが関与しているプロジェクトには基本的に介入せず、彼らが責任を持って進められるようにしている。この「二人の父親問題」を避けるため、彼は創業者が関与する領域からは意図的に距離を置く。また、創業者に意見を求める際には、「この件についてフィードバックを受け付けていますか、それとももう決めていますか」と率直に尋ねることで、無駄な衝突を避ける。Verrilliは、CPOの役割は創業者のビジョンを現実に変換する翻訳者であり、ビジョンを巡って競争することではないと強調する。
「アコーディオンを演奏する」:戦略的ビジョンと迅速な反復のバランス
Verrilliは、フレームワークを好まないとしつつも、「アコーディオンを演奏する」というメンタルモデルを紹介する。ピアノアコーディオンは、音を奏でる前に蛇腹を完全に引き伸ばして空気を取り込む必要があるが、音楽が生まれるのは鍵盤を押して蛇腹を閉じる時だ。同様に、PMは常に「ズームアウト」して全体像を再評価し、「ズームイン」して具体的なアクションを実行するという往復運動を繰り返す必要がある。このモデルは、長期的なロードマップに固執するあまり学習を怠る失敗と、目先の反復に終始して戦略を見失う失敗の両方を防ぐためのものだ。
具体的な例として、Verrilliはマーケットプレイスにおける「リスティング」の重要性を挙げる。ライブコマースでは、セラーが商品を画面に掲げて説明するだけで販売が成立するため、リスティングは必ずしも必要ではない。しかし、ズームアウトして考えると、新規バイヤーが検索機能を期待する場合、リスティングが存在しないと適切なストリームに誘導できないという問題が浮上する。一方、全てのセラーにリスティング作成を強制すると、1商品あたりの販売時間が増加し、セラーの効率が低下する。このように、アコーディオンを演奏するように、常に全体像と詳細を行き来しながら、最適な意思決定を下すことが重要だとVerrilliは説く。
Twitterでの教訓と「バッティング.500」の現実
Twitterでの経験について、Verrilliは「セラピストに子供時代を尋ねられるようなものだ」と冗談めかして語る。在籍2年間で9人のプロダクト責任者が入れ替わるという混乱の中で、彼は2つの大きな教訓を得た。1つ目は、真のプロダクトマーケットフィット(PMF)を達成すれば、組織の混乱にもかかわらず製品は成長するということだ。Twitterはまさにその好例であり、ユーザーの熱狂的な愛着を感じることができた。2つ目は、「複雑すぎる」という言い訳の多くは、実際にはリーダーシップの弱さに過ぎないということだ。140文字制限の引き上げは、誰もが避けて通れない課題だと認識していたにもかかわらず、意思決定を下す者がいなかった。Verrilliは、この経験から、リーダーは勇気を持って決断し、実行に移すことの重要性を学んだ。
失敗について、Verrilliは「キャリアを通じて成功よりも失敗の方が多い」と率直に認める。彼が最も後悔している失敗のパターンは、「平均値」に頼りすぎたことだ。ある機能の利用率が3%しかないからといって廃止を決定した場合、その3%のユーザーにとっては100%の利用価値がある可能性がある。このような個別のユースケースを無視した決定は、特にEコマースにおいては、セラーのビジネス全体を破壊する可能性がある。彼は、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)の「データと逸話があるなら、逸話を信じよ」という言葉を引用し、平均値の裏に隠れた個々のユーザー体験を重視することの重要性を強調する。
結びに
今回のエピソードは、プロダクトマネジメントという職種の存在意義を根本から問い直す、示唆に富んだ内容だった。Tom Verrilliの「プロダクトマネジメントが存在することを後悔している」という過激な主張は、単なる挑発ではなく、組織がスケールする過程で失われがちな「現場感覚」と「意思決定の主体性」を取り戻すための真摯な提案である。彼の哲学は、AIがもたらす効率化の波に乗り、より少ない人数でより大きなインパクトを生み出すための具体的なロードマップを示している。特に、「メッシをピッチに立たせる」というシニアIC重視の考え方と、「アコーディオンを演奏する」という戦略と実行のバランスを取るメンタルモデルは、多くのプロダクトリーダーにとって即座に応用可能な実践的知恵だ。
この対談が特に重要なのは、Verrilliが自身の失敗談を隠さず、平均値に頼ることの危険性や、Twitterでの混乱期から学んだ教訓を率直に語った点にある。彼は、プロダクトマネジメントの本質は「劇場」ではなく、顧客、ビジネス、テクノロジーの三者を深く理解し、それらを統合して最適な意思決定を行うことだと強調する。AI時代において、このコアスキルはますます重要性を増す一方で、単なるアラインメントやステークホルダーマネジメントといった「政治」のスキルは急速に価値を失いつつある。リスナーは、このエピソードを通じて、自身のキャリアや組織の在り方を見つめ直すきっかけを得られるだろう。
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