
AIの第三の時代:永続的なAI同僚の台頭 | タラ・セシャン(OpenAIプロダクトリード)
- OpenAIのプロダクトリードであるTara Seshan(タラ・セシャン)氏が、Lenny's Podcastに登場し、AI製品の第三の時代、永続的なAI同僚(pe...
- セシャン氏は、OpenAIの文化について、創業者主導でありながらトップダウンの指示が極めて少ないことを驚きとして挙げた。全員が自分のプロダクト領域の創業者のように振る...
- [06:42] AIプロダクト戦略の核心:高速実験と「固有の問い」 セシャン氏は、静的で予測可能な市場(例:決済)では、競合の動きを先読みした壮大な戦略が有効だが、A...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Lenny's Podcast: プロダクト | キャリア | 成長 / Lenny Rachitsky
- AIの進化は、人間の仕事を「実行(rowing)」から「方向性の決定(steering)」へとシフトさせており、この「steering」はより高い抽象度へと上昇し続ける。
- プロダクトマネージャーの本質的な役割は「固有の問い」を定義し、最速でテストするループを回すことであり、これはAI時代においても、むしろ重要性を増している。
- AIツールの普及により、個人の能力の差は縮まり、代わりに「野心(ambition)」の高さが人や企業を分ける最大の要因になる。PMの仕事は他者の野心を高めることだ。
- OpenAIのプロダクト開発は、現在ではなく「2〜3ヶ月先のモデル能力」を見据えて行う。現在に合わせれば時代遅れになり、1年先を予測すれば的外れになる。
- ChatGPTのChat、Work、Codexの3モードは、ユーザーが選択する必要がない「スーパーアプリ」への過渡期の姿であり、究極的にはタスクを入力すればシステムが最適なツールを選ぶ。
- 「思考としての執筆」はAIに委ねるべきではなく、自分自身で行うことで思考力を維持できる。「報告としての執筆」は積極的にAIを活用すべきだ。
- 知識労働のプロダクトは、コーディングと異なり、最終的なアウトプットだけでなく、その「プロセス」と「入力」を可視化することでユーザーの信頼を得る必要がある。
OpenAIのプロダクトリードであるTara Seshan(タラ・セシャン)氏が、Lenny's Podcastに登場し、AI製品の第三の時代、永続的なAI同僚(persistent AI coworker)の台頭について語った。セシャン氏は、OpenAIでCodexとChatGPT Workのプロダクトを統括しており、以前はStripeで最初の5人のプロダクトマネージャーの一人として6年以上勤務し、WatershedでのプロダクトリードやThiel Fellowとしての経験も持つ。このエピソードでは、AIが実行(rowing)を担い、人間が方向性を決める(steering)というパラダイムシフト、プロダクトマネージャー(PM)の役割の変化、野心(ambition)の重要性、そして「書くこと」の本質的な価値について深く掘り下げられた。
セシャン氏は、OpenAIの文化について、創業者主導でありながらトップダウンの指示が極めて少ないことを驚きとして挙げた。全員が自分のプロダクト領域の創業者のように振る舞い、市場との距離が非常に近いという。また、OpenAIには秘密の戦略書のようなものは存在せず、考えはすぐに公開プロダクトやメッセージに反映されるという「OpenAI is open」というカルチャーを強調した。この環境下で、PMに求められるのは理論的な思考よりも、実証的で多作なアプローチであり、長い推論ドキュメントを書くよりも、いかに早くユーザーに試せるものを作るかが重要になっていると語る。
AIプロダクト戦略の核心:高速実験と「固有の問い」
セシャン氏は、静的で予測可能な市場(例:決済)では、競合の動きを先読みした壮大な戦略が有効だが、AI市場ではそれが通用しないと説明する。市場が創発的で急速に変化するため、重要なのは「固有の問い(Eigen question)」を特定し、それを最速でテストすることだという。これはShishir Mehrotra(シシール・メロトラ)のフレーズを引用したもので、プロダクトの成否を決める最も本質的な問いを定義し、その仮説を検証するループを回すことが、PMの仕事の核心であり続けていると述べた。
この考え方は、PMの役割の本質が変わっていないことを示す一方で、その実行方法が大きく変化していることを示唆する。長いドキュメントやプレゼンテーションといった「仕事の付随物」は削ぎ落とされ、仮説の定義と検証という中核だけが残った。エンジニアもデザイナーもデータサイエンティストも、全員がこの「問題定義とテストのループ」に集中するようになっており、PMはそのプロセスを牽引する存在として、これまで以上に重要性を増しているとセシャン氏は強調する。
「漕ぐ」から「舵を取る」へ:エージェントが同僚になる未来
セシャン氏は、知識労働の未来は「rowing(漕ぐ)」から「steering(舵を取る)」への移行だと予測する。エージェントが実行作業の大半を担い、人間の役割は方向性を決め、フィードバックを与えることに特化する。この「steering」は、コードの行レベルから、ゴールレベル、さらに高い抽象度へと上昇していくという。しかし、最終的に「どの方向に進むか」を決めるのは人間であり、データだけでなく、直感や「世界をこうしたい」という意見に基づく判断が必要だと述べた。
この移行は、ソフトウェア開発の領域を超えて、すべての知識労働に広がるとセシャン氏は見る。エージェントは単なるツールではなく、チームメイトや同僚のような存在になり、人間は複数のエージェントを束ねて指揮するようになる。また、個々のエージェントとの1対1の作業から、チーム全体で共有するエージェントとの協働へと進化する可能性を示唆した。この未来において、人間の差別化要因は、同じツールを使っても独自の視点や意見を持ち込めるかどうかであり、それはファッションや映画制作における「作者性(auteur statement)」に似ていると語る。
野心が新たなボトルネックになる
AIツールの普及により、「簡単なことは簡単に、難しいことも簡単に」できるようになった。セシャン氏は、この新しい環境で人や企業を分けるのは、もはや実行力ではなく「野心」だと主張する。最も効果的にAIを使う人々は、単純なタスクの自動化ではなく、自分ができることの範囲を拡大するためにツールを使っている。かつて「ユニコーン人材」と呼ばれた、プロダクト感覚とエンジニアリング能力、デザイン能力を兼ね備えた人物のような力を、誰もが手に入れつつあるという。
この文脈で、PMの役割は「他者の野心を高めること」にシフトしているとセシャン氏は言う。チームメイトが「これが限界だ」と考えているところに、「いや、もっと大きな可能性があるはずだ」と問いかけ、より高い目標を設定するよう促すことが、これまで以上に重要な仕事になっている。Tyler Cowen(タイラー・コーエン)の「より野心的なバージョンはできないか?」と問いかけることの影響力を引用し、この「野心のエレベーション」こそが、これからのPMの核となる価値だと強調した。
存在しないモデルのためのプロダクト開発:2〜3ヶ月先を見据える
OpenAIのプロダクト開発における重要な原則は、現在のモデル能力ではなく、2〜3ヶ月先のモデル能力を見据えて構築することだとセシャン氏は説明する。現在のモデルに合わせて作れば時代遅れになり、1年先を予測して作れば的外れになる。この「2〜3ヶ月先」というタイムスパンは、研究チームとの緊密なコミュニケーションによって把握される。研究チームがどの能力の向上に注力しているかを理解し、プロダクト開発をそのロードマップに密接に結びつけることが不可欠だという。
この考え方を象徴するのが、元CPOのKevin Weil(ケビン・ワイル)の「これがモデルの最悪の状態だ」という言葉だ。セシャン氏は、この言葉が「モデルは常に改善し続ける」という前提を鮮明にし、プロダクトの構造をモデルの進化を妨げないように設計する必要性を認識させたと語る。プロダクトのコンセプトやUIがモデルの能力向上の妨げにならないよう、常に「2〜3ヶ月後のモデルにとって正しいか」を問い続けることが、OpenAIのプロダクト開発の根幹をなしている。
ChatGPTとCodexの現在地:3つのモードと「スーパーアプリ」への道
セシャン氏は、ChatGPTアプリ内のChat、Work、Codexという3つのモードの違いを明確に説明した。Chatは従来の会話と検索のためのモード、Codexは開発者向けのコーディング特化型UI、そしてWorkはCodexのパワーを知識労働向けに再パッケージしたモードだ。Workモードでは、コーディングのUIを排除し、複雑な財務モデルの生成など、知識労働者が日常的に行うタスクをエージェントに任せられるように設計されている。究極的には、ユーザーがモードを選択する必要がない「スーパーアプリ」を目指しており、ユーザーがタスクを入力すれば、システムが最適なツールを自動選択する未来を構想している。
このプロダクト戦略の背景には、「完璧よりも、まず届けること」という哲学がある。セシャン氏は、過去の職場では「磨き上げ」が王様だったが、AIの時代は変革的なプロダクトをいかに早くユーザーの手に渡すかが重要だと語る。ChatGPTという10億人規模のユーザーを持つ巨大プロダクトと、Codexのような新興プロダクトを同時に運営する難しさは、既存ユーザーへの影響を最小限にしつつ、新機能を自然に導入する方法を見つけることにある。この「done is better than perfect」というアプローチが、急速なイテレーションとユーザーフィードバックの活用を可能にしている。
役割の境界が消える:エンジニアもPMも、全員が創業者
OpenAIでは、エンジニア、デザイナー、PMといった伝統的な役割の境界が急速に曖昧になっているとセシャン氏は指摘する。エンジニアがPMの仕事をし、PMがプロトタイプを実装するなど、誰もが自分の担当範囲を超えて仕事をするのが当たり前の文化だ。彼女は、この流動性をStripeでの経験と重ね合わせ、「誰が何をするか」ではなく「どうやって成果を出すか」に焦点を当てるチームが最もうまく機能すると語る。重要なのは、特定の役割ではなく、プロダクトがユーザーに使われ、価値を提供しているかという最終的なアカウンタビリティを持つことだ。
一方で、この変化は「クラフト(職人技)」の喪失に対する懸念も生む。セシャン氏自身、PMとしての特定のスキル(例:ドキュメント作成)がモデルによって抽象化されていく感覚を認めつつ、それは「クラフトが消える」のではなく、「クラフトの適用先が変わる」ことだと捉えている。エンジニアが手書きのコードを書かなくなったように、PMも従来の作業から解放され、より創造的で戦略的な仕事に注力できるようになる。この移行は痛みを伴うが、チーム全体が同じ目標に向かって柔軟に動くことの価値が、個々のクラフトへの愛着を上回ると彼女は考えている。
人間の脳が価値を発揮し続ける領域
AIが急速に進化する中で、人間の脳はどこで価値を発揮し続けるのか。セシャン氏は、まず「説明責任(accountability)」の主体としての人間を挙げる。エージェントがどんなに優れた仕事をしても、最終的な成果物の品質と責任を負うのは人間であり、特に規制の厳しい業界や、直接的な人間のインターフェースが求められる場面では、この役割は不可欠だという。次に、「表現(expression)」の重要性を強調する。ソフトウェアは不動産ではなく映画制作に似ており、予算が大きいほど良い作品になるわけではない。何を選び、どう感じさせるかという「作者性」は、人間にしか出せないものだと語る。
そして最も重要なのは、「互いを思いやり、関係を築くこと」だとセシャン氏は言う。チームメイトと話し合い、共に熱意を持ち、互いの野心を高め合うというプロセスは、本質的に人間的な行為であり、AI時代においてその価値はむしろ高まっている。彼女は、AIがもたらす「能力のオーバーハング(capability overhang)」、つまりAIができることと実際にやっていることのギャップを埋めるのは、人間の想像力と関係性だと示唆した。この人間的な要素こそが、今後の仕事の中心になると彼女は確信している。
セシャン氏のAI活用法:サイト構築と「書くこと」の哲学
セシャン氏は、自身のAI活用の具体例として、日常的に「サイト(Sites)」を構築することを挙げた。これは、プロンプト一つでデータベースを持つ動的なウェブサイトを生成できる機能で、彼女はチーム内のゲーム用サイトから、バックパッキング旅行のルートと食料を管理するサイトまで、あらゆるものをこれで作っているという。これはAlan Kay(アラン・ケイ)が1960年代に提唱した「パーソナルソフトウェア」の夢の実現であり、プレゼンテーション用のスライドの代わりに、より動的で共有可能なサイトを同僚に見せることも増えたと語る。
さらに、彼女の仕事術の核心にあるのが「書くこと」に対する明確な区別だ。彼女は「思考としての執筆(writing as thinking)」と「報告としての執筆(writing as reporting)」を分け、後者はAIに積極的に任せる一方で、前者は決して自動化しないと断言する。思考を整理し、アイデアを磨くための執筆は、自分自身の頭で行う必要があり、そのプロセスをAIに委ねることは思考力の低下につながると警鐘を鳴らす。彼女は、ドキュメントを書く際は自分で書き始め、自分で書き終えることを徹底しており、AIはその中間のリサーチやデータ収集にのみ活用しているという。
知識労働はコーディングに近づく:プロセスと入力の検証
ChatGPT Workの開発を通じて、セシャン氏は知識労働とコーディングの本質的な違いに気づいたと語る。コーディングは出力指向であり、テストを実行すれば正しく動くかどうかを検証できる。しかし知識労働は、最終的なデッキやレポートの数字を見ただけでは、その正確性を信頼することが難しい。そのため、プロダクトは「プロセス」と「入力」を可視化することに重点を置く必要がある。ユーザーがモデルの途中経過や引用元、思考の連鎖(chain of thought)を確認できるようにすることで、最終的なアウトプットへの信頼を構築するのだ。
この違いは、プロダクトのUXに大きな影響を与える。コーディングでは、最終的なコードがテストをパスすれば十分だが、知識労働では、その結論に至るまでの道のりをユーザーが追体験できることが重要になる。セシャン氏は、ChatGPTを単なるツールではなく「共同作業者(collaborator)」として位置づけ、ユーザーがモデルと一緒に作業を進め、その過程を共有できるようにすることが、今後の開発における大きな課題だと述べた。これは、エージェントが「何をしたか」ではなく「どうやってそれをしたか」を示すことが、知識労働者の信頼を得る鍵となることを示唆している。
結びに
このエピソードは、AIの最前線で働くプロダクトリーダーが、その内側から見た現実と未来像を、非常に具体的かつ実践的に語った点で貴重だ。セシャン氏の「rowingからsteeringへ」という比喩は、AI時代の人間の役割を明確にし、「野心」が新たな競争軸になるという洞察は、多くの知識労働者にとって示唆に富む。また、「思考としての執筆」を守ることの重要性や、知識労働におけるプロセス検証の必要性など、AIツールを活用しながらも人間の思考力を失わないための具体的な処方箋は、すぐに実践できる価値がある。OpenAIの内部文化やプロダクト戦略の一端が明かされたことも、このエピソードの大きな魅力だ。
あわせて読む
同じ番組の別エピソードや、近いテーマの記事から続けて読めます。





