
Anthropicのプロダクトチームが他社より速く動く理由 | Cat Wu(Claude Code プロダクト責任者)
- AnthropicのClaude CodeおよびCoworkのプロダクト責任者であるCat Wu(キャット・ウー)が、Lenny Rachitskyのポッドキャストに登場...
- [0:00] AI時代におけるPMの役割の変容 Cat Wuは、数百人ものPM候補者を面接する中で、多くの人がAI時代に求められるPM像を根本的に誤解していると指摘する。...
- 具体的には、PMはまず「明確な目標設定」を行う必要がある。LLM(大規模言語モデル)は汎用的であるがゆえに、誰のために、どの問題を解決するのかという曖昧さが生じやすい。優...
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Lenny's Podcast: プロダクト | キャリア | 成長 / Lenny Rachitsky
AnthropicのClaude CodeおよびCoworkのプロダクト責任者であるCat Wu(キャット・ウー)が、Lenny Rachitskyのポッドキャストに登場し、AIネイティブなプロダクト開発の最前線を語った。彼女は、Anthropicが驚異的なスピードでプロダクトを出荷できる理由、PM(プロダクトマネージャー)という職種がAI時代にどう変化しているか、そして個人がこの急速に変化する環境で成功するために必要なスキルについて、具体的な事例とフレームワークを交えて深く掘り下げた。Cat Wuは、エンジニアとしてのキャリアをスタートし、VCを経てAnthropicに参画。現在は、Boris Cherny(ボリス・チャーニー)と密接に連携しながら、Claude CodeとCoworkという二つの主要プロダクトの成長を牽引している。彼女の語る「Just Do Things(とにかくやれ)」という哲学と、ミッションに基づいた迅速な意思決定プロセスは、従来のプロダクト開発の常識を覆すものであり、AI時代におけるプロダクト組織のあり方を考える上で、極めて示唆に富む内容となっている。
AI時代におけるPMの役割の変容
Cat Wuは、数百人ものPM候補者を面接する中で、多くの人がAI時代に求められるPM像を根本的に誤解していると指摘する。従来のPMの役割は、6〜12ヶ月という長期のタイムラインで計画を立て、複数のチーム間の調整に多くの時間を費やすことだった。しかし、AI技術の進歩、特にモデル能力の急速な向上により、プロダクトフィーチャーの開発期間は従来の6ヶ月から1ヶ月、さらには1週間、1日にまで短縮されている。この変化に対応するため、PMは長期ロードマップの調整よりも、「いかにしてアイデアを最速でユーザーの手に届けるか」に注力すべきだと彼女は主張する。
具体的には、PMはまず「明確な目標設定」を行う必要がある。LLM(大規模言語モデル)は汎用的であるがゆえに、誰のために、どの問題を解決するのかという曖昧さが生じやすい。優れたPMは、「主要ユーザーはプロフェッショナルな開発者であり、このフィーチャーで解決すべき問題は許可プロンプトの多さによる疲労である」といった具体的な定義を下すことで、チームの方向性を明確にする。次に、フィーチャーを迅速に出荷するための「反復可能なプロセス」を構築することが重要だ。Claude Codeチームでは、ほとんどのフィーチャーを「Research Preview」として出荷する。これは、製品が初期段階であり、フィードバックを得るための実験であることを明確にラベリングすることで、完璧を求めるプレッシャーから解放され、1〜2週間での出荷を可能にしている。
さらに、PMはクロスファンクショナルなチーム(エンジニアリング、マーケティング、ドキュメントなど)がシームレスに連携するための「フレームワーク」を提供する役割を担う。Claude Codeチームでは、エンジニアが社内でドッグフーディングを終えたフィーチャーを「Evergreen launch room」というSlackチャンネルに投稿すると、マーケティングやドキュメントの担当者が即座に反応し、翌日にはアナウンスを公開できる体制が整っている。PMの役割は、このような摩擦のないプロセスを設計し、エンジニア一人ひとりが出荷に対する障壁を感じない環境を作ることにあると、Cat Wuは強調する。
驚異的な出荷速度を支える組織文化とプロセス
Anthropicの出荷ペースは業界でも突出しており、文字通り毎日のように主要なフィーチャーやプロダクトがリリースされている。この驚異的な速度は、単に最先端のモデル(Mythosなど)にアクセスできるからではない。Cat Wuは、その根底にあるのは「プロセスを極限まで削ぎ落とし、出荷に対するあらゆる障壁を取り除く」という組織文化と、チーム全体に共有された明確な期待値だと説明する。彼女は、PRD(プロダクト要件ドキュメント)の進化についても言及し、従来のような詳細なドキュメントは、特に曖昧性の高いフィーチャーや大規模なインフラプロジェクトに限定して作成されるようになったと語る。
代わりに、チームは「厳格なメトリクス」と「チームの原則」を重視している。毎週開催されるメトリクスの読み合わせ会では、チーム全員がビジネスのあらゆる側面、主要な目標、そのトレンド、そして何がそれらを動かしているのかを深く理解する。また、「主要ユーザーは誰か、なぜそのユーザーなのか」といったチームの原則を明確に文書化することで、各メンバーがPMや他のステークホルダーにブロックされることなく、自律的に意思決定できるようになる。これにより、エンジニアは「アイデアを思いついてから1週間以内、時には1日以内に世に出す」という文化が根付いている。
この迅速な出荷は、時にプロダクトの一貫性や品質を犠牲にすることを意味する。従来は、コードを書くコストが高かったため、プロダクトスイート全体を綿密に計画し、各プロダクトのユースケースを明確に定義していた。しかし、AIの進化が速く、多くのアイデアをテストする必要がある現在、機能が重複することも珍しくない。ユーザーにとっては、最適なパスを見つけるための教育コストが増加するというトレードオフが生じる。それでも、Cat Wuは「コアユースケースを妨げない限り、バグのあるフィーチャーを出荷することも受け入れなければならない」と語り、迅速なフィードバックを得て次のリリースで修正するというサイクルを重視している。
統一されたミッションがもたらすフォーカスとスピード
Anthropicが後発ながらも驚異的な成長を遂げ、OpenAIなどの巨人と渡り合えている理由について、Cat Wuは二つの重要な要素を挙げる。第一に、「安全なAGIを人類にもたらす」という統一されたミッションの存在だ。このミッションは、単なるスローガンではなく、プロダクト組織全体の意思決定において頻繁に参照される。あるプロダクトラインの目標と別のプロダクトラインの目標が衝突した場合、「どちらがAnthropicのミッションにとってより重要か」という基準で優先順位が決められ、全員がその決定を支持する。このミッションへのコミットメントが、組織全体の迅速な意思決定と統一された実行を可能にしている。
第二に、このミッションに根ざした「フォーカス」の徹底である。Cat Wuは、ミッションとは「個々のチームが自身の目標やKR(Key Results)を犠牲にしてでも、Anthropic全体の目標に貢献することを厭わない姿勢」だと説明する。例えば、もしClaude Codeが失敗してもAnthropic全体が成功するのであれば、彼女自身は非常に喜んで受け入れると語る。この考え方は、サードパーティ製品によるClaudeの利用を制限する「OpenClaw」に関する難しい決断の背景にもある。Anthropicの第一義的な目標は、より多くのユーザーにリーチすることであり、そのためには自社のファーストパーティ製品とAPIへのリソース集中が不可欠だった。この決断は一部のコミュニティから批判を浴びたが、ミッションに基づいた明確な優先順位付けの結果である。
このミッション主導の文化は、単に「やらないこと」を決めるだけでなく、チームメンバーに「責任あるトークンの使用」を促すことにもつながっている。Anthropic社内では、従業員はClaude CodeやCoworkをほぼ無制限に使用できるが、トークンを無駄にすることは強く非難される。これは、各個人がモデルを提供するコストを理解し、責任を持って判断することを信頼する文化の表れであり、この信頼関係がスピードと効率性の両立を支えている。
AIネイティブなPMに求められる新たなスキルセット
Cat Wuは、AI企業で成功するPMに最も求められるスキルは「プロダクトテイスト(製品に対する審美眼)」だと断言する。コードを書くコストが劇的に低下した現在、最も価値が高まっているのは「何を書くべきかを決める」能力である。GitHubには数万ものフィーチャーリクエストが寄せられるが、その中から「本当に価値のあるものは何か」「それをどのように構築するのが最もユーザーにとって喜ばしいか」を見極めるセンスが、PMの核心的な役割となる。このスキルはエンジニアリング、デザイン、どのバックグラウンドからでも培うことができるが、特にエンジニアリングのバックグラウンドは、実装の難易度を直感的に理解できるという点で、少なくとも現時点では有利に働くと彼女は指摘する。
さらに、AI時代のPMには「適切なAGI憑依度(AGI pilled)」を見極める能力が不可欠だ。誰もがAGIが超知能となり、ほとんどすべてを代行できる未来を想像できる。その未来のためだけにプロダクトを設計するのは簡単だが、本当に難しいのは「現在のモデル」から最大限の能力を引き出す方法を考えることだ。ユーザーをモデルの強みに導き、弱みを補うための「黄金のパス」を設計するスキルは極めて稀である。このスキルを磨くには、ひたすらモデルと対話し、その挙動を深く理解することが重要だとCat Wuは言う。
彼女が実践するユニークな方法は、モデル自身にその行動を「内省(introspect)」させることだ。モデルが予期せぬ行動をとった際に、「なぜそうしたのか」をモデル自身に説明させる。その回答から、システムプロンプトの曖昧さや、サブエージェントへのタスク委譲の失敗など、モデルを誤らせた原因が明らかになる。このフィードバックを基にハーネス(モデルを制御する仕組み)を修正することで、モデルの性能を最大限に引き出すことができる。また、信頼できる5人のユーザーを見つけ、彼らから質の高いフィードバックを得ること、そして「評価(evals)」を構築することも重要だと彼女は強調する。たった10の優れた評価指標を定義するだけで、チームの目標と進捗を定量化し、不足している点を明確にできる。
Claudeの「人格」が成功の核心である理由
Claudeの成功を語る上で、その「人格(character)」や「性格(personality)」は、しばしば軽視されがちだが、実際には極めて重要な要素である。Cat Wuは、Claudeの人格を形成しているAmandaというメンバーの仕事を称賛し、その役割の難しさを説明する。コーディングとは異なり、人格の形成は成功を検証することが難しく、Claudeがどうあるべきかという強い確信が必要とされる。Claudeの人格は、軽妙で楽しく、かつ極めて有能であるというバランスの上に成り立っている。ユーザーが「間違っている」と指摘すると、素直に謝り、修正しようとする「低いエゴ」、そして困難なタスクに対しても前向きに「一緒にやろう」と促す「ポジティブさ」が、ユーザーに「一緒に働きたい」と思わせる魅力となっている。
この人格は、単なるユーザー体験の向上以上の意味を持つ。Cat Wuは、優れた同僚の特徴として、「ポジティブさ」「行動へのバイアス」「誠実なフィードバック」を挙げ、Claudeにもこれらの特性を意図的に吹き込んでいる。これにより、Claudeは単なるツールではなく、ユーザーにとって信頼できる「コワーカー(同僚)」としての地位を確立している。この人格こそが、他のAIモデルとの差別化要因であり、多くのユーザーがClaudeに愛着を感じる理由の一つである。
モデルの能力が向上するにつれて、プロダクトはシンプルになるという逆説も興味深い。初期のClaude Codeでは、大規模なリファクタリングを行う際に、タスクを途中で止めてしまう問題があった。そこでチームは、人間がやるように「ToDoリスト」を作成する機能を追加し、モデルにそれを強制的に使わせることで問題を解決した。しかし、Opus 4以降のモデルでは、プロンプトなしで自然にToDoリストを使いこなすようになった。その結果、ToDoリストはユーザーが進捗を確認するための補助的な機能へと役割を変え、プロダクトからは「モデルの弱みを補うためのハーネス」が次々と削除されていく。モデルが「ハーネスを朝食として食べてしまう」という比喩は、この現象を的確に表している。
未来への展望:タスクからマルチエージェントへ
Claude CodeとCoworkの長期的なビジョンは、「ビルディングブロック」の考え方に基づいている。まず、最も基本的な単位は「個々のタスク」の成功である。ユーザーが明確な指示を出し、モデルが一貫して許容可能なアウトプットを生成できるかどうかが、すべての基盤となる。モデルが賢くなるにつれて、このタスクの成功率は飛躍的に向上する。次に、ユーザーは複数のタスクを同時に実行する「マルチタスク」へと移行する。2025年末にはマルチスレッド(複数のClaudeを同時に実行する機能)が大きな話題となり、その利用は増加の一途をたどっている。
Cat Wuは、この延長線上にある未来として、ユーザーが「50体、あるいは100体ものClaude」を同時に動かす世界を想定している。その場合、すべての処理をローカルマシンで実行することは不可能になるため、リモートで実行されるエージェント群を管理するための新しいインフラとインターフェースが必要になる。人間の役割は、膨大な数のエージェントが生成する結果の中から、どのタスクを自分で確認すべきかを判断することにシフトする。エージェントが「完了」と報告したタスクを、人間が迅速かつ確実に検証できる仕組み、そして人間からのフィードバックをエージェントが学習し、将来同じミスを繰り返さないようにする「自己改善」のプロセスが、今後のプロダクト開発の焦点となる。
この未来を見据え、Cat Wuはリスナーに対して「まだ完全には動かないプロダクトを構築すること」の重要性を説く。新しいモデルの登場を見越して、あらかじめプロトタイプを作成しておくことで、モデルがそのギャップを埋めた瞬間に、すぐに優れたプロダクトとしてリリースできる。また、AIツールを活用する際には、「95%の自動化」ではなく「100%の自動化」を目指すべきだと強調する。95%の精度では、結局人間が確認・修正する必要が生じ、真の自動化とは言えない。最後の5〜10%の精度を高めるための努力を惜しまず、本当に頼れる自動化を構築することが、個人の生産性を飛躍的に向上させる鍵となる。
結びに
今回のエピソードは、AIの最前線でプロダクトを率いるCat Wuの生の声を通じて、従来のPMの常識が根底から覆されつつある現実を鮮明に描き出した。彼女の語る「Just Do Things」の精神、ミッションによる迅速な意思決定、そしてモデルの内省を促すというユニークなアプローチは、単なる理論ではなく、Anthropicという企業が驚異的なスピードで成長を続ける原動力そのものである。このエピソードが重要なのは、単にAnthropicの成功事例を紹介するだけでなく、AI時代に生き残り、成功するための具体的な思考法と行動原則を、実践者の言葉で提供している点にある。プロダクトマネージャーはもちろん、エンジニア、デザイナー、そしてあらゆる知識労働者にとって、自身の役割と未来を再定義するための、示唆に富んだ一時間となった。
要点
- Cat Wuは、AI時代のPMに最も求められるスキルは「プロダクトテイスト」であり、コードが安価になった今、「何を書くか」を決める能力の価値が飛躍的に高まっていると指摘する。
- Anthropicの驚異的な出荷速度は、ミッションに基づいた統一された意思決定と、出荷に対するあらゆる障壁を取り除く「低プロセス」の文化によって支えられている。
- PMの役割は長期ロードマップの調整から、アイデアを最速でユーザーの手に届けるためのプロセス設計と、チームの自律的な意思決定を促す「チームの原則」の策定へとシフトしている。
- 優れたPMは「適切なAGI憑依度」を持ち、未来の超知能モデルだけでなく、現在のモデルの能力を最大限に引き出すためのプロダクト設計ができる。
- モデルの内省を促すことで、その誤った意思決定の原因を特定し、ハーネスを改善するというアプローチは、AIネイティブなプロダクト開発における重要なスキルである。
- Claudeの「人格」は、単なるユーザー体験の向上ではなく、ユーザーとの信頼関係を構築し、プロダクトの成功に直結する核心的な要素である。
- モデルが賢くなるにつれて、プロダクトからは「モデルの弱みを補うためのハーネス」が削除され、プロダクトはよりシンプルになるという逆説が生じる。
- 個人がAI時代に成功するためには、95%の自動化ではなく100%の自動化を目指し、本当に頼れるワークフローを構築することが重要である。