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Latent Space: AIエンジニアポッドキャスト · 2026年7月1日

🔬 LLMじゃない、最もクールな拡散研究 — Evan Feinberg & Sergey Edunov、Genesis Molecular AI

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この記事でわかること
  • 創薬におけるAI活用の最前線を、Genesis Molecular AIの共同創業者Evan FeinbergとCTO Sergey Edunovが語る。本エピソード...
  • [0:00] 創薬AIの歴史的転換点:GANから拡散モデルへ Evan Feinbergは、2017〜2018年頃、GAN(Generative Adversaria...
  • Sergey Edunovは、MetaでLlama 2およびLlama 3の事前トレーニングを主導した後、GenesisにCTOとして参画した異色の経歴を持つ。彼は物...
こんな人向け

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Latent Space: AIエンジニアポッドキャスト / Latent.Space

要点
  1. 創薬AIの分野では、GANから拡散モデルへの移行が決定的なブレイクスルーとなった。現在、最も革新的な拡散モデル研究の一部は3D構造予測で行われている。
  2. 低分子創薬の探索空間は10^60もの分子からなり、多目的最適化(結合親和性、溶解性、毒性など約30項目)は極めて困難。特性間のトレードオフが常に存在する。
  3. PEARLモデルは、拡散モデルと物理シミュレーションによる合成データ生成、推論時スケーリングを組み合わせ、1Å RMSD未満の精度を実現。これは従来の2Å基準を「スロップ」と断じる革新的な主張である。
  4. エージェント創薬プラットフォーム「SAPPHIRE」は、LLMエージェントと同様の進化を遂げ、メディシナルケミストの代わりに24時間稼働で分子設計・評価を行う。
  5. Incyteとの連携により、AI予測から実験的検証までのDMTAサイクルを高速化。ただし、完全自動化されたロボットラボはまだ限定的であり、人間の化学者の柔軟性が不可欠。
  6. Genesisは「Genesis Therapeutics」から「Genesis Molecular AI」へ社名変更。純粋なAIモデル企業として、製薬企業へのツール提供と自社創薬パイプラインの両立を目指す。
  7. GPU不足が現在の最大のボトルネック。LLM企業によるGPU寡占が創薬のような社会的に重要な分野の研究を抑制している。
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他のエピソード

創薬におけるAI活用の最前線を、Genesis Molecular AIの共同創業者Evan FeinbergとCTO Sergey Edunovが語る。本エピソードでは、低分子創薬の難しさ、AIモデル「PEARL」の技術的ブレイクスルー、そして業界のベンチマークに対する痛烈な批判が展開される。特に、タンパク質と低分子の結合構造予測において、従来の基準である2Å RMSDでは不十分であり、真に実用的な精度として1Å RMSDが必要であるという主張は、業界に一石を投じる内容だ。また、Sergey EdunovがMetaでLlama 2/3のトレーニングを主導した経験を活かし、LLMのスケーリング戦略を創薬分野に応用する視点も提供される。彼らは、拡散モデルを基盤とした独自のアーキテクチャと、物理シミュレーションによる合成データ生成、そして推論時スケーリングを組み合わせることで、従来の手法では不可能だった精度を実現した。さらに、これらの高精度モデルを基盤としたエージェントシステム「SAPPHIRE」の開発状況や、Incyteとの連携による実験データの高速フィードバックループ構築など、実用化に向けた具体的な取り組みも明らかにされる。創薬AIの「iPhoneモーメント」はまだ来ていないが、着実に実用域に達しつつあるというのが、彼らの確信である。

0:00創薬AIの歴史的転換点:GANから拡散モデルへ

Evan Feinbergは、2017〜2018年頃、GAN(Generative Adversarial Network)が画像生成の未来であると語られていたことを鮮明に覚えている。しかし、GANはタンパク質やタンパク質-リガンド系にはうまく機能しなかった。創薬分野が真に必要としていたのは、拡散モデル(diffusion model)という全く異なるプリミティブだった。この点は、AI研究の歴史における重要な転換点を示している。画像や動画の分野では一部のモデルが自己回帰型(autoregressive)へと移行しているが、3D構造予測の分野では、現在も拡散モデルに関する最も革新的な研究が行われている。Feinbergは「現在、最も革新的な拡散研究の一部は、我々の分野、つまり3D構造予測で起きている」と述べ、この分野の研究が持つフロンティアとしての魅力を強調する。

Sergey Edunovは、MetaでLlama 2およびLlama 3の事前トレーニングを主導した後、GenesisにCTOとして参画した異色の経歴を持つ。彼は物理学を専攻した後、ソフトウェアエンジニアリングを経てMLの世界に入り、FAIRチームで大規模グラフ処理に従事した。その後、LLMのトレーニングに長年携わったが、創薬分野のアーキテクチャ研究の斬新さに衝撃を受け、キャリアの転換を決意した。彼は「LLM企業では、研究科学者がアーキテクチャに興奮しても、結局は退屈な仕事を強いられる。正直なところ、LLMのアーキテクチャは比較的退屈だ」と率直に語る。Transformerの論文が2017年に発表されて以来、基本的な構造はほとんど変わっておらず、MoE(Mixture of Experts)程度のバリエーションしかない。一方、Genesisのモデルは全く異なり、非常に興味深いアーキテクチャ研究の場を提供している。

4:04低分子創薬の本質的困難:鍵と鍵穴のメタファーを超えて

創薬のプロセスは、鍵(低分子)と鍵穴(タンパク質)の関係に例えられる。しかし、この単純なメタファーの背後には、極めて複雑な現実が存在する。Evan Feinbergは、創薬に必要な条件として、まず標的タンパク質に強く結合すること(binding affinity)が必要だが、それだけでは全く不十分だと指摘する。薬物は、特定の「アンチターゲット」に結合して毒性を引き起こしてはならず、適切な組織に到達し、体内で適切に吸収・分布・代謝・排泄される必要がある(ADMET特性)。これらの要件は約30項目にも及び、すべてを満たすことは極めて困難な多目的最適化問題となる。

さらに深刻なのは、これらの特性がしばしばトレードオフの関係にあることだ。Feinbergは具体例として、結合親和性と溶解性の相反関係を挙げる。タンパク質の結合ポケットは疎水的(greasy)であるため、強い結合を得るには分子も疎水的である必要がある。しかし、疎水的な分子は水に溶けにくく、経口投与が困難になる。溶解性を改善しようと極性基を追加すると、今度は細胞膜(脂質二重層)を通過できなくなる。このように、創薬は「モグラ叩き」のような多パラメータ最適化の連続であり、真に優れた分子を見つけるには、極めて広大な化学空間を探索する必要がある。

Sergey Edunovは、この探索空間の広大さを数字で示す。薬理活性を持ちうる低分子の数は10の60乗(10^60)にも及ぶ。これは「針山から干し草を探す」ようなものだと彼は表現する。ほとんどの分子は結合しないか、結合しても危険であり、真に有効な分子を見つけることは天文学的な困難を伴う。このような状況下で、AIモデルは単なるパターン認識を超え、未知の化学空間を探索し、真に新規な分子を提案する能力が求められる。

12:50PEARLモデルの革新:拡散モデルと物理シミュレーションの融合

Genesisの主力モデル「PEARL(Place Every Atom at the Right Location)」は、タンパク質の配列とリガンド(低分子)の情報を入力として、両者が結合した3D構造を予測する。このタスクは「共フォールディング(co-folding)」と呼ばれ、AlphaFold 3やBoltz、OpenFold 3なども同様の方向性を追求している。しかし、PEARLの決定的な違いは、低分子に特化している点にある。一見すると低分子の方がタンパク質間相互作用より簡単に思えるが、実際には探索空間が圧倒的に広いため、極めて困難な課題となる。

PEARLのトレーニングには、公開データベースPDB(Protein Data Bank)の約20万件の結晶構造が使用される。しかし、このデータ量はLLMがインターネット全体から学習するのに比べれば微々たるものだ。そこでGenesisは、物理シミュレーション(分子動力学計算など)を用いて合成データを生成し、事前学習のスケーリングを実現した。このアプローチは、LLMの事前学習スケーリングと本質的に同じ戦略である。さらに、PEARLは推論時スケーリング(inference time scaling)も導入している。これは、LLMが「思考トークン」を使って推論するのと類似しており、モデルが結晶構造の内部表現を反復的に洗練させながら、物理ベースの検証器(verifier)を使って出力を適切な方向に導く。

モデルアーキテクチャの核心は拡散モデル(diffusion head)にある。画像や動画生成で使われる拡散モデルと同様、複数のステップを経て徐々に構造を精緻化する。この過程で、拡散モデルが学習した「力場(force field)」と、物理学に基づく力場のバランスを取りながら、最終的な構造を決定する。Evan Feinbergは、このアプローチを「人間の先入観(human prior)を適切に組み込むこと」と説明する。CNNが画像をピクセルグリッドとして捉え、Transformerが言語をトークン列として捉えるのと同様、分子を原子と結合のネットワークとして捉えるグラフニューラルネットワークの先見性が、ここで生きている。

41:51ベンチマークの危機:2Å RMSDは「スロップ」である

本エピソードで最も衝撃的な主張の一つが、業界標準のベンチマークに対する痛烈な批判だ。タンパク質-リガンド結合構造予測の分野では、長年にわたり「RMSD(Root Mean Square Deviation)2Å未満」を「良い予測」とする閾値が使われてきた。しかし、Evan Feinbergはこれを「スロップ(slop)」と断じる。RMSD 2Åでは、芳香環が完全に反転しても許容範囲内となり、一見もっともらしいが実際には誤った相互作用をモデリングしてしまう。これは、画像生成モデルがぼやけた画像を生成しても、それがぼやけていることに気づかないのと同様の危険性を持つ。

Feinbergは、水素結合(hydrogen bond)を具体例として挙げる。水素結合はタンパク質-リガンド相互作用において最も重要な非共有結合の一つであり、その距離はドナーとアクセプターの重原子間で2.7Åから3.3Å、つまりわずか0.6Åの範囲内でしか成立しない。RMSD 2Åの精度では、このような重要な相互作用を正確にモデリングすることは不可能だ。真に実用的な予測には、1Å RMSD以下の精度が必要であり、これにより分子のコア部分が正しい位置に配置され、すべての相互作用が正確に再現される。

このベンチマーク問題の根源について、Feinbergは歴史的な経緯を説明する。RMSD 2Åという閾値は、もともとAIモデルではなく、物理ベースのドッキング研究(docking studies)から生まれた。アカデミアの研究者がプロプライエタリなソフトウェアのライセンスを取得してベンチマークを行う際に導入された基準であり、実際に創薬を行う現場のニーズから生まれたものではない。しかし、この基準がAIコミュニティにそのまま受け継がれ、長年にわたって業界標準として機能してきた。Sergey Edunovは、この問題の解決策として「適切な評価指標を設定し、それを hill climb すること」を挙げる。Genesisは当初から1Å未満の精度を目標に設定し、データのフィルタリング、モデルアーキテクチャ、損失関数に至るまで、この目標に向けてすべての小さな決定を積み重ねてきた。

46:41エージェント創薬:SAPPHIREと24時間稼働の仮想化学者

Genesisは、高精度な構造予測モデルを基盤として、エージェント型創薬プラットフォーム「SAPPHIRE」を開発している。Evan Feinbergは、このコンセプトをLLMエージェントの進化と比較する。2024年半ばのLLMエージェントは、基礎モデルの精度が不十分だったため、小さなエラーが増幅されて実用に耐えなかった。しかし、モデルが一定の閾値を超えると、エージェントの有用性は劇的に向上した。創薬においても同様の転換点が訪れたと彼らは主張する。PEARLが1Å RMSDの精度を達成したことで、エージェントが生成する分子が、もはやメディシナルケミストに嘲笑されるものではなくなった。

SAPPHIREの具体的な動作は、人間の化学者が行うプロセスを模倣する。エージェントは、予測された結合構造(pose)を「見て」解釈し、仮説を立て、文献を読み、内部ツールを使用して、次のイテレーションの候補分子を生成する。Sergey Edunovは、このエージェントが単なる自動化システムではなく、LLMがツールをオーケストレーションする真のAIエージェントであることを強調する。メディシナルケミストやCADD(Computer-Aided Drug Design)科学者は、複雑なツールのハイパーパラメータを深く理解する必要なく、エージェントに戦略的な指示を与えるだけで、高度な創薬タスクを実行できる。

このエージェントシステムの実現には、Incyteとの連携が重要な役割を果たしている。GenesisはAIモデルで予測した分子をIncyteに送り、Incyteは迅速に合成・評価して結果をフィードバックする。この「デザイン・メイク・テスト・アナライズ(DMTA)」サイクルを高速に回すことで、モデルは継続的に学習し改善される。ただし、Evan Feinbergは、完全自動化されたロボットラボの現実には慎重な姿勢を示す。自動合成が可能な化学反応は限られており、真に新規な分子を合成するには、人間の化学者による柔軟な対応が不可欠だ。彼は「退屈なことは高速にできるが、革新的な分子を作るにはロボットシステムはまだ不十分」と指摘する。

1:22:49ビジネスモデルの進化:Genesis TherapeuticsからGenesis Molecular AIへ

Genesisは、2019年の創業時からAI研究に特化した企業だったが、当時は「純粋なAIモデル企業」が創薬分野で成功する前例がなかった。そのため、社名を「Genesis Therapeutics」とし、バイオテック企業としての真剣味を示す必要があった。しかし、2024年頃から状況は一変する。製薬業界がAIツールを「棚から買う」姿勢に転換し、創薬AI企業の買収が相次ぐようになった。この流れを受けて、Genesisは社名を「Genesis Molecular AI」に変更し、自社の本質がAI企業であることを明確にした。

Evan Feinbergは、このビジネスモデルの進化を「ダブルヘリックス構造」と表現する。一方の軸は強力なAI研究であり、もう一方の軸は経験豊富な創薬専門家チームだ。同社の経営陣や取締役会には、複数のFDA承認薬を発明・開発した実績を持つメディシナルケミストが名を連ねる。彼らは、AIモデルが実際の創薬現場で使われるための要件を理解し、モデルの開発に直接フィードバックを提供する。この「自社で創薬も行う」という姿勢は、製薬企業とのパートナーシップにおいても強みとなる。「単なるキーボードジャッキーではない」という信頼を得られるからだ。

Sergey Edunovは、GPU不足が現在の最大のボトルネックであると明かす。LLM企業がGPU容量を大量に消費する中、創薬のような社会的に重要な分野へのGPU割り当てが不足している。彼は「AnthropicがGPU購入によって科学を抑制している」とやや挑発的な表現も用いる。NvidiaはGenesisに2度の投資を行い、カーネル最適化やPEARLの共同開発など緊密な協力関係にあるが、GenesisのスケールはMetaのような巨大顧客には及ばない。Feinbergは、LLM分野への過剰投資がいつか調整され、ライフサイエンスへの投資が増えると予測する。「薬は常に高い需要がある」というのが彼の確信だ。

1:37:37オープンベンチマークの衝撃:EVA721プロテアーゼでの実証

Genesisの技術力の真価が最も明確に示されたのが、オープンベンチマーク「OpenBind」におけるEVA721プロテアーゼの結果だ。この標的タンパク質は、リガンドが結合する際に柔軟なループ構造を大きく動かす必要がある、極めて困難なケースだった。多くの既存の共フォールディング手法はこの動きを適切にモデリングできず、低い精度に留まった。しかし、PEARLはこのループの動きを正確に予測し、すべてのポーズ(結合構造)において正しい予測を達成した。

Sergey Edunovは、この結果の重要性を強調する。公開ベンチマークでは、多くのオープンソースモデルが似たような性能を示すことが多い。しかし、OpenBindのようにモデルが訓練中に見たことのない新しい標的でテストすると、性能に大きな差が現れる。PEARLの結果は、他の公開モデルよりも「はるかに高い」数値を示した。これは、Genesisが社内プログラムやパートナーシッププログラムで以前から見ていた性能差が、外部のベンチマークでも確認されたことを意味する。つまり、PEARLの優位性は、特定のベンチマークに過学習した結果ではなく、真の汎化能力に基づいている。

この成功の背景には、PEARLの訓練方法がある。PEARLは、タンパク質単独の構造ではなく、リガンドと結合した状態の構造を予測するように訓練されている。そのため、結合イベントに伴う「誘導適合(induced fit)」、つまりタンパク質の構造変化を自然に学習する。さらに、物理シミュレーションから生成された合成データが、この動的な挙動を学習する上で重要な役割を果たしている。Evan Feinbergは「我々の目標はベンチマークを最大化することではなく、製薬企業が取り組む困難な創薬ターゲットに価値を生み出すことだ」と述べ、実務志向のアプローチが結果的に優れた汎化性能をもたらしたと説明する。

結びに

本エピソードがリスナーに残す最も強烈な印象は、創薬AIが「おもちゃ」から「実用的ツール」へと変貌しつつあるという確信である。Evan FeinbergとSergey Edunovは、単なる技術的な進歩を語るだけでなく、業界の慣習やベンチマークに対する根本的な疑問を提示する。特に、2Å RMSDという長年の基準を「スロップ」と断じ、1Å RMSDの必要性を主張する姿勢は、学界や業界に一石を投じるだろう。また、LLM分野から創薬分野へのキャリアチェンジを果たしたSergey Edunovの視点は、AIエンジニアにとって新鮮なインスピレーションとなる。彼が「LLMのアーキテクチャ研究は退屈だが、創薬AIのアーキテクチャ研究は非常に興味深い」と語る言葉には、真実味と情熱が込められている。創薬AIの「iPhoneモーメント」はまだ来ていないが、その準備は整いつつある。GPU不足という現実的な課題を抱えながらも、Genesisはエージェント創薬という次のフロンティアに向けて、確実に歩みを進めている。

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