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Latent Space: The AI Engineer Podcast · 2026年8月12日

🔬The BioAI Phase Shift - Matthew McPartlon & Neil Patil, Chai Discovery

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • 2025年1月、サンフランシスコを毎年支配する巨大製薬会議JPM(JPモルガン・ヘルスケア・カンファレンス)で、AIと製薬の大型ツール取引が4件発表された。その中心に...
  • 議論の核心は、製薬業界における「ツール」の価値がなぜ今になって認められたのかという問いにある。従来、AI for Pharmaを標榜する企業は、結局自社で創薬パイプラ...
  • [0:00] 分子設計のパラダイムシフト:PhotoshopからCADへ Chaiのプロダクトは、ChatGPTのようなチャットボットではなく、AutodeskやSo...
こんな人向け

自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。

出典Podcast

Latent Space: The AI Engineer Podcast / Latent.Space

要点
  1. Chai Discoveryは、OpenAI出資のタンパク質設計スタートアップで、創業2年半で評価額40億ドルに達し、Eli Lilly、Pfizer、Novartis、argenxと提携している。
  2. 同社のプロダクトはChatGPTのようなチャットボットではなく、AutodeskやFigmaのようなCADツールに近く、Photoshop的なインターフェースで分子を設計できる。
  3. Chai 2は全原子拡散モデルであり、配列と構造を同時に生成する「共設計」を可能にし、50のターゲットのうち半数でバインダーを獲得、平均約20%のヒット率を達成した。
  4. 構造予測モデルの精度は原子レベルに達しており、Chai 2の検証では0.33オングストロームの誤差しかなかった。
  5. エピトープ予測は抗体設計よりも難しい問題であり、AlphaFold 2の抗体抗原予測の正解率は約11%にとどまる。
  6. Chaiは自社で創薬パイプラインを持たない「ニュートラルなソフトウェアファクトリー」戦略を採用し、製薬会社の成功が自社の成功につながるインセンティブ構造を構築している。
  7. 創薬の最大のボトルネックは検証の遅さであり、Chaiはウェットラボのネットワークを活用して検証時間を数年から数週間に短縮している。
  8. コンピュートの調達はスタートアップにとって深刻な課題であり、市場の95%以上をハイパースケーラーと大手AIラボが占めている。
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他のエピソード

2025年1月、サンフランシスコを毎年支配する巨大製薬会議JPM(JPモルガン・ヘルスケア・カンファレンス)で、AIと製薬の大型ツール取引が4件発表された。その中心にいたのが、創業わずか2年半、OpenAIが出資するタンパク質設計スタートアップのChai Discovery(現在の評価額40億ドル)だった。本エピソードは、同社の共同創業者であるMatt McPartlon(マット・マクパートリン)とプロダクト責任者のNeil Patil(ニール・パティル)を迎え、AI for Scienceの最前線を掘り下げた初のポッドキャストである。ホストはAtomic AIでRAセラピューティクスを開発するBrandonと、Mirror OmicsのCTOであるRJ Honackiが務め、Latent Spaceの「AI for Science」シリーズとして配信された。

議論の核心は、製薬業界における「ツール」の価値がなぜ今になって認められたのかという問いにある。従来、AI for Pharmaを標榜する企業は、結局自社で創薬パイプラインを構築する道を選ぶのが常だった。ツールを製薬会社に使ってもらうには、そのツールが機能する証明が必要であり、その証明には優れたターゲット、臨床的検証が求められるからだ。しかし、構造予測モデルが「結合モデル」へと進化し、設計が可能になったことで状況は一変した。モデルの品質が飛躍的に向上したことで、従来は不可能だったメカニズムの設計が可能になり、単なる効率化ではなく「段階的変化(step change)」がもたらされたのである。Chaiは、この新しい時代において、製薬会社のパートナーとして成功することこそが自社の成功につながるという「ニュートラルなソフトウェアファクトリー」戦略を掲げ、Eli Lilly、Pfizer、Novartis、argenxといった大手製薬会社との提携を次々と発表している。

0:00分子設計のパラダイムシフト:PhotoshopからCADへ

Chaiのプロダクトは、ChatGPTのようなチャットボットではなく、AutodeskやSolidWorks、FigmaのようなCAD(コンピュータ支援設計)ツールに近い。ユーザーは分子をロードし、Photoshopのようなデザインスイート上で、エピトープ(結合部位)をペイントするペイントツールや、コンテンツアウェアフィル(自動補完)ツールのようにしてバインダー(結合分子)を生成できる。これは単なるUIの違いではなく、創薬のプロセスそのものを変えるものだ。従来の創薬は、ターゲット発見、ヒット発見、最適化という各段階にゲートがあり、数ヶ月から数年かかる「ウォーターフォールモデル」だった。しかし、モデルが有望な候補を生み出せるようになると、このプロセスはソフトウェア開発におけるアジャイル開発のように、反復的な「ループ」へと変わりつつある。

この変革の先には、さらに困難な課題が待ち構えている。アゴニスト(受容体を活性化する分子)の設計、つまり細胞のスイッチを確実に押すような抗体の作製や、二重特異性抗体(bispecifics、2つの異なるタンパク質に結合する抗体)、ADC(抗体薬物複合体)の設計だ。Mattは、モデルが向上するにつれて、プロダクトが登っていかなければならない「抽象化のレベル」があると語る。構造予測、結合、設計という優れたプリミティブ(基本要素)が揃えば、それらを組み合わせて、科学の外側のループ(より大きな探索プロセス)へと成長していくことができる。つまり、個々の分子設計から、パスウェイ全体のキャンペーン設計へ、そして最終的には科学そのものを自動化する方向へと進化していくというビジョンだ。

0:21Chaiの軌跡:AlphaFoldから設計モデルへ

Chaiの歴史は、創業からわずか2年半で急速に進化してきた。創業当初は5人体制で、OpenAIのオフィスに間借りしていたという逸話も飛び出した。共同創業者のJoshとJackがOpenAIと関係があり、OpenAIがシードラウンドを主導したことがきっかけだ。最初のモデルであるChai 1は構造予測モデルで、アミノ酸配列からタンパク質の3D構造を予測するものだった。このモデルをリリースする際、彼らは48時間徹夜でウェブサーバーを立ち上げ、技術レポートを仕上げた。その朝、JoshはBloomberg TVのインタビューを受けることになり、徹夜明けで誰もいないオフィスに一人で臨んだという逸話は、スタートアップ初期の混沌と熱気を象徴している。

Chai 2は、最初のフラッグシップ設計モデルであり、大きな転換点となった。このモデルは、ターゲット構造を与えると、それに結合する候補分子を生成する。論文発表時には、50のターゲットに対する抗体設計という社内チャレンジを実施し、そのうちの約半数でバインダーを獲得、平均で約20%のヒット率を達成した。この結果が製薬会社の関心を呼び、Chai 2のリリース後、多くのファーマやバイオテックが接触してきたという。その後、Chai 2.5、Chai 2.7と改良を重ね、最新のChai 3へと至る。Chai 3の開発では、Chai 2で解けなかった残り半分のターゲットをどう攻略するかという内部議論があったが、彼らはターゲットの特性を研究するのではなく、モデルの性能向上に賭けるという選択をした。この「ビター・レッスン」的なアプローチが、現在の成功につながっている。

1:05モデルアーキテクチャの進化:トークンから原子へ

Chai 1のアーキテクチャは、トークナイザー、トランスフォーマー、そして画像拡散モデルに似た部分を組み合わせたものだ。タンパク質のアミノ酸配列はトークン化され、トランスフォーマーがトークン間の関係を学習し、拡散モデルがその潜在表現を3D構造に変換する。ここで重要なのは、入力がアミノ酸ではなく「原子」であるという点だ。各トークンには原子のセットがぶら下がっており、原子の電荷や元素タイプなどの特性も考慮される。この「全原子拡散モデル」というアプローチにより、Chai 2ではモデルが原子を設計し、配置し、どの原子を残すかを決定できるようになった。つまり、配列と構造を同時に生成する「共設計」が可能になったのだ。

この共設計のプロセスは、EMアルゴリズム(期待値最大化法)に似ている。モデルは、構造を少し変更したら配列をどう変えるべきか、ということを拡散プロセスの中でゆっくりと反復的に考え、最終的に自己整合的な解に収束する。しかし、生成された構造が正確かどうかを検証するのは別の問題だ。従来は、生成した配列をAlphaFoldのような独立した構造予測モデルに入力し、予測された構造が元の設計と一致するかどうかを確認する「自己整合性」という手法が使われてきた。しかし、この手法はモデルが同じような構造を出力し続けるとゲームされてしまうという問題がある。Chaiは、この問題に対して、モデルの信頼度キャリブレーションと生成の多様性を重視することで対処している。

1:30検証の課題とタンパク質トークンの価値

創薬における最大のボトルネックの一つは、検証の遅さだ。構造予測には比較できるグラウンドトゥルース(正解データ)が存在するが、設計には存在しない。新しい分子が本当に結合するかどうかを知るには、ラボに送って結果を待つしかない。このフィードバックループの遅さが、研究の反復を困難にしている。しかし、この状況は改善されつつある。現在では、ウェットラボ(実験室)のネットワークを活用することで、検証にかかる時間は数年から数週間へと短縮されている。それでも、LLMのように数時間で評価結果を得られる世界とは異なり、再帰的な自己改善にはまだ時間がかかる。

Chai 2の論文では、モデルが予測したタンパク質の構造をクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)で実際に検証したという逸話が紹介された。結果を見たとき、彼らは「間違いだ」と思ったという。予測と実測の誤差が0.33オングストローム(原子の幅の3分の1)しかなかったからだ。データリークを疑ったが、ターゲットは既知の抗体バインダーがないものを選んでいたため、それはあり得なかった。このエピソードは、構造予測モデルの精度が、もはや原子レベルの正確さに達していることを示している。Mattは、この分野の面白さについて、生物学は「暗闇の中で手探りする」ようなものだが、構造モデルによって初めて「見る」ことができるようになったと語る。そして、タンパク質のトークンは、その下流価値が最も高いトークンであると指摘する。GLP-1受容体作動薬のような薬は、1兆ドル規模の資産になり得るからだ。

1:39プロダクト戦略:製薬会社との共創とIP問題

Chai 2が有用性の閾値を超えた後、製薬会社からの問い合わせが殺到し、プロダクト開発が本格化した。Neilがジョインしたのはこのタイミングで、プロダクトの構築と、モデルを提供するためのコンピュート(計算資源)の確保、そしてセキュリティとIP(知的財産)の問題に取り組んだ。製薬業界はIPに非常に敏感な業界であり、多くの人が「データをプラットフォームに載せることはない」と語ったという。しかしNeilは、サイバーセキュリティのバックグラウンドを活かし、顧客ごとにデータを分離するシングルテナント方式を徹底することで、この課題を解決した。顧客ごとにほぼ別々のバージョンをデプロイするようなアプローチだ。

プロダクトの開発においては、製薬会社の科学者との緊密な協力が重要だった。彼らは、単にモデルを提供するだけでなく、科学者が実際にどのようにモデルを使い、どのような問題に直面するかを学ぶことで、プロダクトを改善してきた。Neilは、ある製薬会社のパートナーシップの結果を発表した際、10年間初期バインダーの取得に苦労していた科学者が涙を流したという感動的なエピソードを紹介した。また、Chaiは自社で創薬パイプラインを持たないため、社内にラボ科学者を雇い、モデルの限界をテストする「バトルテスト」を行っている。最初に雇ったラボ科学者であるNathan Rollinsは、14歳でBakerラボで働き始め、18歳でハーバードを卒業し、21歳でPhDを取得したという異色の経歴の持ち主で、当初はChaiに懐疑的だったが、Chai 2の結果を見て「これを防弾にしなければならない」と確信したという。

2:12エピトープ予測と薬剤経済学の壁

エピトープ予測(タンパク質上のどの部位に結合するかを予測すること)は、抗体設計よりもはるかに難しい問題だとRJは指摘する。エピトープ予測には、どのタンパク質が疾患に関与しているかという生物学的な理解と、そのタンパク質がどのように相互作用しているかという構造的な理解が必要だからだ。AlphaFold 2はモノマー(単一のタンパク質)の構造予測では画期的な成果を上げたが、抗体と抗原の結合予測では正解率が約11%にとどまる。これは、抗体が進化的に保存されないため、MSA(多重配列アラインメント)によるテンプレートが使えないことが一因だ。抗体は、体内で遭遇した未知の病原体に合わせて迅速に再結合できるように設計されており、その多様性が構造予測を難しくしている。

製薬業界の経済性について、RJは「抗体の開発コストは数百万ドルだが、薬を市場に出すまでの総コストは5億ドル。節約できるのは数パーセントに過ぎない」と疑問を呈した。これに対しMattは、この前提自体を疑うべきだと反論する。Chaiの価値は、単に既存のプロセスを速くすることではなく、従来は不可能だった新しい機能を実現することにある。例えば、GPCR(Gタンパク質共役受容体)のような「ドアベルタンパク質」を正確に活性化するアゴニスト抗体の設計や、免疫化では発見できないような複雑な多重特異性抗体の設計だ。二重特異性抗体では、両方のアームが異なるターゲットに結合する必要があり、結合確率は乗算的に低下する。従来の手法では、このような分子を発見することは事実上不可能だった。さらに、Chaiのプラットフォームアプローチは、単一の薬剤ではなく、製薬会社のポートフォリオ全体にスケールするという利点がある。

2:42エンジニアリングの課題:コンピュートとインフラ

科学をエンジニアリングに変えるための最大の障壁は、データの扱いとインフラにあるとMattは語る。生物学のデータは、標準化されたファイル形式がなく、構造の解釈に曖昧さが残ることが多い。このような「マイクロヘテロジニティ(微細な不均一性)」の問題は、エンジニアリングの観点からは非常に厄介だ。さらに、コンピュートの調達も大きな課題だ。Neilは、昨年9月頃からコンピュートの調達が困難になり始めたと振り返る。市場に出回るB300ユニットの95%以上をハイパースケーラーと大手AIラボが購入しており、スタートアップは残りわずかな分を奪い合わなければならない。また、現在のコンピュート市場はLLMに最適化されており、構造予測モデルのような再帰的な計算を得意とするモデルには適していない。

Chaiは、このような課題に対して、エンジニアリングを重視することで対処している。例えば、AlphaFold 2/3アーキテクチャでは、ペア表現に対するアテンションが必要であり、計算量はシーケンス長の3乗に比例する。このようなモデルでは、レイヤーノームのような単純な操作でも計算時間の大部分を占めることがある。また、分散コンピューティングの信頼性も重要な課題だ。Neilは、Temporalという企業が提供する「デュラブルエグゼキューション(永続的実行)」のフレームワークを活用することで、キューやリトライ処理の複雑さを大幅に軽減していると語る。このような基盤技術の重要性は、モデル自体の研究と同様に、生物学をエンジニアリングに変えるための鍵となっている。

3:12競争環境と今後の展望

タンパク質設計の分野は、10〜15社のスタートアップがひしめく混雑した市場だ。RJは、Chaiが「プロダクトに全力投球」し、「自社のデータモート(参入障壁)を持たない」という戦略が、競争に勝つための正しい道なのか疑問を呈した。これに対しNeilは、データモートの欠如は問題ではないと反論する。Anthropicがエンタープライズのデータでトレーニングできないからといって、エンタープライズ向けのモデルを構築できないわけではないのと同じだ。Chaiは、パートナーとの協業を通じて、研究に役立つ情報を学び、仮説的にクールなものではなく、実際に求められているものに基づいた研究を行うことができる。また、パートナーとの間では、彼らのデータを使ってモデルをファインチューニングすることも行っており、これが防御性を生み出している。

Mattは、この分野の将来について、LLM市場と同様に、オープンソースモデルとフロンティアモデルが共存するだろうと予測する。オープンソースモデルは一般的なタスクには有用だが、より困難なタスクにはフロンティアモデルが必要とされる。また、プロダクト層の重要性も強調する。モデルがどれだけ優れていても、ユーザーがそれを効果的に使うためのツールがなければ価値を生み出せない。Chaiの使命は、創薬を「科学的実験」から「工学的な訓練」へと変えることだ。そのためには、モデルとプロダクトの両方において、シンプルさを追求することが重要だとMattは語る。彼らは、複雑さと「ビター・レッスン」は根本的に対立すると考えており、SpaceXのエンジンの写真(Raptor 1とRaptor 2の比較)をオフィスの壁に貼っているという逸話も紹介された。

結びに

本エピソードは、AI for Scienceが単なる理論ではなく、商業的に実証された分野であることを示した点で重要だ。Chai Discoveryは、わずか2年半で40億ドルの評価額を獲得し、世界有数の製薬会社との提携を次々と発表している。その成功の鍵は、モデルの性能向上だけでなく、製薬会社のニーズを深く理解し、彼らと共にプロダクトを開発するという姿勢にある。特に印象的だったのは、10年間苦労してきた科学者が涙を流したエピソードだ。これは、AIが実際に人々の生活を変えつつあることを示す生々しい証拠である。また、MattとNeilの「生物学は暗闇の中での手探りだが、構造モデルによって初めて見えるようになった」という言葉は、この分野の本質を捉えている。創薬は、もはや運と経験に依存する科学ではなく、精密なエンジニアリングへと変貌しつつある。この変革の最前線に立つChaiの物語は、AIエンジニアにとって、次に取り組むべきフロンティアがどこにあるのかを示唆している。

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