
Cracking the code on autonomous trucking
- 自動運転トラックはなぜ「キャブなし」でなければならないのか——新興企業Humble Roboticsの挑戦 自動運転タクシーがサンフランシスコの複雑な市街地を走り回る時代...
- [4:23] なぜ自動運転タクシーは成功したのに、トラックは遅れているのか?
- Shayle Kannの最初の質問は核心をつく。「Waymoはすでに2億マイルを公道で走行し、サンフランシスコの複雑な街路を走り回っている。それなのに、なぜトラックの自動...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Catalyst with Shayle Kann / Latitude Media
自動運転トラックはなぜ「キャブなし」でなければならないのか——新興企業Humble Roboticsの挑戦
自動運転タクシーがサンフランシスコの複雑な市街地を走り回る時代になっても、高速道路を80,000ポンドのトラックが無人で走る日常はまだ訪れていない。直線主体の高速道路は市街地より「簡単」に見えるが、実は停止距離の長さや停止自体の危険性など、まったく異なる難しさが潜んでいる。本エピソードでは、投資家Shayle KannがHumble Roboticsの創業者兼CEOであるEyal Cohenを迎え、キャブ(運転席)を完全に排除した全く新しいクラス8電気自動運転トラックの設計思想、そして2016年から続く自動運転トラック業界の誤解と進化について深く掘り下げている。
なぜ自動運転タクシーは成功したのに、トラックは遅れているのか?
Shayle Kannの最初の質問は核心をつく。「Waymoはすでに2億マイルを公道で走行し、サンフランシスコの複雑な街路を走り回っている。それなのに、なぜトラックの自動運転は実現していないのか?」
Eyal Cohenは2016年に遡って説明する。自動運転トラックの歴史は、Starsky RoboticsとOttoという2社から始まった。Cohen自身はOttoに初期メンバーとして参加し、その後AppleやUber、Spark AI、Wabiで経験を積んできた。当時の業界には「高速道路は簡単だ」という根本的な誤解があったという。「高速道路では基本的に直進するだけだから」という単純な考え方だ。
しかし実際には、高速道路には独自の難しさがある。Cohenは「高速道路では何も起こらない時間が長い。しかし、たまに発生する事象への対応が極めて難しい」と指摘する。時速55マイルで走る80,000ポンドの車両の停止距離は長く、しかも「Waymoが市街地で立ち往生しても『迷惑』で済むが、高速道路でトラックが停止するのは極めて危険だ」という。カーブや丘の陰から後続車が迫ってくる状況では、停止そのものが事故を引き起こしかねない。
つまり、市街地と高速道路では「エッジケースの種類が異なる」のだ。発生頻度は低いが、発生した時のリスクが格段に高い。この認識の甘さが、10年にわたる自動運転トラック開発の遅れを生んだとCohenは語る。
VLM革命——LiDAR第一世代からカメラ中心の新時代へ
自動運転の技術スタックは、2016年から現在までに劇的に変化した。Cohenは「2016年当時は、レーンの白線を検出するのに、ピクセルの色を手作業でコード化していた」と振り返る。機械学習すら本格的には使われていなかった時代だ。
しかし現在、Humble Roboticsが採用するのは「VLM(Visual Language Model)」と呼ばれる技術である。これはLLM(大規模言語モデル)の画像版とも言えるもので、画像を入力として「その画像で何が起きているか」を解釈する。Cohenは具体例を挙げる。「高速道路の上に工事用コーンが写っているとして、それが道路上に置かれているのか、ピックアップトラックの荷台に載せられているのかをVLMは理解できる。後者なら『重要ではない』と判断できる」。これは従来の物体検出では不可能だった高度な状況理解だ。
注目すべきは、Humbleが「カメラファースト」のアプローチを採用している点だ。従来の自動運転業界ではLiDAR(レーザー測距)が主役だったが、VLMの登場によりカメラの情報処理能力が飛躍的に向上した。ただしCohenは「カメラかLiDARか」という二項対立には否定的だ。「80,000ポンドの車両を道路に走らせる以上、可能な限り安全でなければならない。レベル4(完全無人運転)を実現するには、カメラ、LiDAR、レーダーのすべてが必要だ」と断言する。各センサーには得意分野がある——LiDARは夜間に強く、レーダーは悪天候を透過し、カメラは信号機の色を認識する——これらを組み合わせることで初めて、安全なシステムが構築できるという。
キャブレストラックという発想——「箱に車輪をつけた」究極のシンプルさ
Humble Roboticsの最大の特徴は、その車両デザインにある。同社が開発するのは「キャブレスの自動運転電気クラス8トラック」だ。つまり、運転席が存在しない。Cohenは「貨物を移動するための最もシンプルな車両とは何かと考えた時、それは『車輪のついた箱』だった」と語る。
この発想は、単なる「未来のビジョン」ではない。現在の技術で実現可能だと判断したからこそ、Humbleは創業された。そして「クリーンシート(白紙)デザイン」だからこそ、従来の自動運転トラックが抱える構造的問題を解決できるとCohenは主張する。
従来のアプローチでは、既存のトラクター(牽引車)にセンサーを後付けするだけだった。しかし、トレーラーは「ダム(非スマート)」なまま残される。この結果、トレーラーの後方にセンサーを設置できず、後方からの追突を検知できない。バックでドックに接続することも困難だ。さらに、法律で義務付けられている「故障時の警告三角板」の設置も、運転手がいなければ不可能になる。Auroraなどの競合は、高輝度ライトで代用する方法を提案しているが、完璧な解決策ではない。
Humbleの車両はトラクターとトレーラーを一体化した単一プラットフォームであり、車両全体が「スマート」になる。これにより、全方向のセンシングが可能になり、完全無人での貨物ハンドリング——倉庫から倉庫まで、人間が一切触れない物流——への道が開けるとCohenは展望する。
電動化と自動運転の相乗効果——そして充電インフラの卵と鶏
Humbleの車両は電気駆動である。Cohenは「完全無人貨物を目指すなら、電動化は必須だ」と語る。ディーゼル車で自動給油を実現するのは極めて困難だが、電気自動車なら充電を自動化できるからだ。
しかし、電気トラックの普及には課題も多い。米国では電気トラックの価格が1台40万〜50万ドルに達するケースもあり、従来のディーゼルトラクター(15万〜25万ドル)と比べて大幅に高額だ。充電インフラも未整備で、長距離輸送には大容量バッテリーが必要になり、重量増加と充電時間の長期化という問題が生じる。
Cohenは「中国では電気トラックが急速に普及している。インフラが整備され、コストが適正化されれば、理にかなった選択肢になる」と指摘する。Humbleがターゲットとするのは、長距離ではなく「短距離・ドレージ(港湾内輸送)」だ。このセグメントでは、バッテリー重量や充電インフラの課題が相対的に小さく、電動化のメリットを享受しやすい。
「充電インフラは誰が整備するのか」という質問に対し、Cohenは「Humble自身が充電技術を開発するわけではない。しかし、業界のネットワークを活用して顧客の課題解決を支援する」と答える。テスラ・セミの生産開始や、港湾周辺での充電インフラ整備の動きを追い風に、エコシステム全体が徐々に形成されつつあるという。
ユニットエコノミクスの壁——B2B市場では「カッコよさ」は通用しない
自動運転タクシー(ロボタクシー)の普及パターンは、すでに確立されつつある。特定の都市でサービスを開始し、エリアを徐々に拡大する。しかし、トラック運送はB2B市場であり、全く異なる力学が働く。
Shayle Kannは自身の体験を交えて指摘する。「WaymoはUberより高くても、私は乗る。新しい体験だからだ。でも、貨物運送に同じことは期待できない」。Cohenも完全に同意する。「B2Bでは、安全と信頼性は前提条件だが、最終的には貨物輸送コストが全てだ。自動運転によってコストを削減できなければ、大規模な採用はありえない」。
ここで重要なのは、運転手コストの削減幅だ。業界団体ATRIのデータによれば、長距離トラック輸送のマイルあたりコストは約2.30〜2.40ドルで、うち運転手の人件費は約1.10ドル(全体の30〜40%)を占める。自動運転化によって人件費を削減できるが、その分、センサー類の追加コストを吸収しなければならない。さらに、長距離の「ハブ・トゥ・ハブ」モデルでは、高速道路の出入口に貨物を集約する中継拠点(デポ)の建設が必要になり、これが追加の摩擦コストを生む。
Humbleの「キャブレスデザイン」は、このユニットエコノミクスの課題に対する一つの解答だ。キャブ(運転席)をなくすことで、車両の製造コストと重量を削減できる。軽量化は航続距離の延長にも寄与し、電動トラックの弱点を補う効果も期待できる。
規制のフロンティア——キャブレストラックは「スマートトレーラー」か「トラック」か?
自動運転トラックの規制環境は、連邦と州で異なり、刻々と変化している。テキサス州は自動運転トラックに好意的な規制を整備してきた。カリフォルニア州でも、つい1週間前に無人トラックの運行を許可する新たなルールが施行されたばかりだ。
しかし、Humbleのキャブレストラックは、さらに特殊な規制上の課題に直面する。法律上、公道を走る車両には「フロントガラス」と「ステアリングホイール」の装着が義務付けられている。Humbleの車両にはどちらも存在しない。Cohenは「規制当局と対話しながら、安全なテスト方法を一緒に考えている」と語る。
興味深いのは、Humbleの車両が「トラクターとトレーラーの両方の性質を持つ」点だ。Cohenは「我々の車両は、自分で走り回る『スマートトレーラー』とも言える」と表現する。では、これは「スマートトレーラー」として規制されるべきなのか、それとも「トラック」として規制されるべきなのか。この問いに対する答えはまだ確立されていない。
Cohenは規制対応を「実はとても楽しい」と語る。「規制当局も業界も、新しい領域を切り開いている。手を取り合って進めるのは良いことだ」。国際競争の観点からも、中国などですでに無人配送が展開されている現状を踏まえ、安全性を確保しつつ競争力を維持するバランスが求められている。
まとめ
このエピソードが聴き手に残すのは、「自動運転トラックの難しさは、技術そのものよりも、業界全体の前提条件の誤りにあった」という洞察だ。2016年に業界が「高速道路は簡単」と楽観視した誤算、既存のトラクターにセンサーを後付けするという「妥協の設計」、そしてB2B市場で「カッコよさ」が通用しないという厳しい現実——これらすべてを正面から見据えた上で、Humble Roboticsは「キャブレス」というラディカルな解を提示している。
Cohenの語り口は冷静で分析的だが、同時に「規制当局との対話を楽しむ」という言葉に表れるように、業界の未来に対する確かな手応えを感じさせる。自動運転タクシーが切り開いた道は、トラック業界にとっては「模倣すべき青写真」ではなく「異なる困難を教えてくれた教訓」として機能している。VLMの活用、クリーンシートデザイン、短距離電動化へのフォーカス——これらの要素が組み合わさった時、10年遅れていた自動運転トラック業界に、ようやく本格的な転換点が訪れるかもしれない。