
マーク・ザッカーバーグ インタビュー
- マーク・ザッカーバーグとの対話:Metaの過去、現在、そして未来 2024年9月10日、サンフランシスコのチェイス・センターで6,000人の観客を前に、Acquiredの...
- [6:04] 「もし知っていたら、Facebookを始めていたか?」 インタビューは、ジェンセン・フアン(NVIDIA CEO)が以前語った「起業の苦しみ」に関する発言へ...
- この話題から、彼のシャツに刺繍されたギリシャ悲劇詩人アイスキュロスの言葉「πάθει μάθος(パテイ・マトス)」—「苦難を通じて学ぶ」— の話へと移った。ザッカーバー...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Acquired / Ben Gilbert and David Rosenthal
マーク・ザッカーバーグとの対話:Metaの過去、現在、そして未来
2024年9月10日、サンフランシスコのチェイス・センターで6,000人の観客を前に、Acquiredのホストであるベン・ギルバートとデイヴィッド・ローゼンタールがマーク・ザッカーバーグと行った異例のライブインタビュー。ザッカーバーグは、Facebook創業から20年、Metaへの社名変更から約3年を経た今、同社が直面してきた数々の存亡の危機、政治的な誤算、そしてAIとARが融合する次世代プラットフォームへの壮大なビジョンを、驚くほど率直に語った。この対話は、単なるCEOインタビューではなく、自らの「学習と反復」の哲学を体現し、会社を自己の拡張として操る創業者の生の思考と人格に迫るものとなった。
「もし知っていたら、Facebookを始めていたか?」
インタビューは、ジェンセン・フアン(NVIDIA CEO)が以前語った「起業の苦しみ」に関する発言への言及から始まった。フアンは「起業の道のりがどれほど苦しいかを知っていたら、誰も始めないだろう」と述べていたが、ザッカーバーグはこれに深く同意した。「振り返れば素晴らしい思い出だが、初期のスタートアップの時期は人生で最も楽しい部分ではなかった」。彼は、人間の性質として「どれほど苦しいかを過小評価する能力」があるからこそ、人は偉大なことを成し遂げられると語った。
この話題から、彼のシャツに刺繍されたギリシャ悲劇詩人アイスキュロスの言葉「πάθει μάθος(パテイ・マトス)」—「苦難を通じて学ぶ」— の話へと移った。ザッカーバーグにとってこれは単なる装飾ではなく、彼の人生観そのものだ。「価値観とは壁に書かれた言葉ではなく、実際の行動だ。本当に何を大切にしているかは、困難なトレードオフに直面した時に初めてわかる」。このフレーズは、彼がファッションデザイナーのマイク・アミリと協力して制作したシャツのシリーズの一部であり、彼の新しい「awesome(素晴らしい)」なものづくりへの姿勢を象徴している。
メガネが拓く未来:Metaの真のビジョン
ザッカーバーグは、Metaを「ソーシャルメディア企業」ではなく「ソーシャルコネクション企業」と定義する。彼のビジョンは、スマートフォンの小さな画面に制約されない、真の社会的体験を創造することだ。その鍵となるのが、AR(拡張現実)グラスである。
「理想的なソーシャル体験は、スマートフォンを見下ろして周囲の人々から注意をそらすものではない。グラスを通じて、あなたが見ているもの、聞いているものを理解し、完璧なAIアシスタントとして機能する。そして同時に、ホログラムを現実世界に投影することで、遠くにいる人とも同じ空間にいるような『プレゼンス(存在感)』を実現する」。
彼はこれを「究極のデジタルソーシャル体験」と呼び、物理的な存在感が人間の体験の本質であると強調した。このビジョンを実現するために、Metaは10年にわたって研究開発を続けてきた。新しいディスプレイスタック、チップ、カメラ、アイトラッキング、バッテリー、無線プロトコル—これらすべてをスタイリッシュなグラスのフォームファクターに収める必要がある。
一方で、この「本命」への道筋として、Metaはエシロール・ルクソティカ(レイバンなどのブランドを所有)と提携し、現在の技術で実現可能なスマートグラス「Ray-Ban Meta」を先に投入した。ザッカーバーグは当初、これを「本番のための練習プロジェクト」と見なしていたが、AIの急速な進化によって状況が変わった。「数年前は、ARホログラムが本格的なAIよりも先に来ると予測していた。今は順番が逆になった」。彼はプロダクトグループ責任者のアレックス・ヒメルに電話し、「Meta AIをこのグラスの主要機能にしよう」と指示。翌週にはプロトタイプが完成していたという逸話は、Metaの「スピードと反復」の文化を象徴している。
なぜMetaは勝ち続けてきたのか:テクノロジー企業としての本質
ベン・ギルバートは、Metaがこれまでに直面した「存亡の危機」を列挙した。MySpace、Twitter、Instagram、Snapchat、WhatsApp、TikTok、AppleのApp Tracking Transparency、そしてChatGPT—「毎回、『Facebookは終わった』と言われてきたが、あなたは消えていない。そのDNAは何か?」
ザッカーバーグの答えは明確だった。「私たちは特定のアプリではなく、人間の繋がりに焦点を当てたテクノロジー企業だからだ」。彼は、多くの企業が自分たちを狭く定義しすぎていると指摘する。真のテクノロジー企業であるためには、経営陣の多くが技術的なバックグラウンドを持ち、エンジニアが会社のかなりの割合を占めていなければならない。
「シリコンバレーに来て驚いたのは、自分たちを『テクノロジー企業』と呼びながら、CEOが技術者ではなく、取締役会に技術者が一人もおらず、経営陣で技術的なのはエンジニアリング責任者だけという会社が多かったことだ」。
彼の戦略の核心は「学習速度」にある。「私たちの戦略は、他のどの会社よりも速く学習することだ。製品を早く出し、良いフィードバックループを回し、バージョン3、4、5になる頃には、競合他社よりはるかに優れたものになっている」。これは、ある人物が彼を評した「ターン制ストラテジーゲームのように、他の誰よりも多くのターンを得て、各ターンからより多くを学ぶ」という表現に集約される。
彼はAppleとの対比も鮮やかに描いた。「Appleは長い時間をかけて磨き上げてから出す。私たちはその逆だ。恥ずかしさのギリギリのラインで製品を出す。本当に悪いものは出さないが、早期にフィードバックを得ることを重視する」。製品創造は「発明」か「発見」かという問いに対しては、「その両方」と答えた。「価値観に基づいて世界に存在すべきものを信じて作りつつ、人々に響くものとマッチさせる。後者だけでは困難を乗り越える確信が持てず、前者だけではプロダクトマーケットフィットに到達できない」。
オープンソース戦略とモバイル転換の教訓
Metaはオープンソースの最大の受益者であると同時に、最大の貢献者でもある。ザッカーバーグは、Googleが先に分散コンピューティング基盤を構築したため、Metaにとってはそれを独自技術として保持しても競争優位にならないと判断し、オープンソース化する道を選んだと説明する。「Open Computeを業界標準にすることで、サプライチェン全体が標準化され、供給が増え、コストが下がり、数十億ドルを節約できた」。
AIにおいても同様の戦略を取る。「私たちは他のプラットフォームで十分に痛い目を見てきた。もう誰にも依存しない。自社でコア技術を構築する」。Llamaモデルのオープンソース化は、エコシステムを成長させ、Meta自身にも利益をもたらすという計算だ。
ここでデイヴィッド・ローゼンタールは、2012年のIPO前夜にFacebookがモバイル戦略としてHTML5を採用した「失敗」を持ち出した。ザッカーバーグは当時を振り返る。「ウェブは継続的にデプロイできたが、アプリモデルでは承認待ちに数週間かかる。だから『ネイティブシェル+ウェブプラットフォーム』で毎日アップデートできる仕組みを考えた。しかし、ネイティブ統合の重要性を過小評価していた」。
この結果、Facebookはアプリをゼロから書き直す必要に迫られ、1年半もの間、新機能の開発を完全に停止した。同時にモバイル広告という新しい収益モデルも構築しなければならなかった。「負けている時は何をすべきか明確だ。問題は、それに耐える痛みの許容度があるかどうかだ」。この経験は、現在のAIやARへの巨額投資に対する彼の姿勢にも通じている。
最大の過ち:政治的な誤算
「自分たちの会社に対して、これまでの批判の中で最も正当だと思うものは何か?」という質問に、ザッカーバーグは予想外の深い反省を語った。
「2016年以前は、会社に対する世論は常にポジティブだった。しかし選挙後、状況は一変した」。彼は、自分が「政治環境に対する洗練さを欠いていた」と認め、根本的に問題を誤診したと述べた。
「私たちは、他人が『あなたたちは悪いことをしている』と主張する見解を、実際にはそうでないものも含めて受け入れてしまった。企業として問題が指摘された時は『所有権を取り、責任を負い、修正する』というのが正しい本能だ。しかし、それが政治的な問題だった場合、誠実に問題を指摘する人もいれば、単に誰かを非難したいだけの人もいる」。
彼は、自社が実際には関与していない社会的害悪について責任を認めたことで、さらに攻撃の標的になったと振り返る。「もっと毅然と、何が自分たちの責任で、何がそうでないかを明確にすべきだった」。この「政治的誤算」を彼は「20年続く過ち」と呼び、その影響から完全に回復するにはさらに10年かかるかもしれないと予測した。しかし「20年も大した長さではない。乗り越えて、より強くなる」と語る姿勢には、彼の長期的な視座が表れている。
支配権の構造と「スタートアップ」への嫌悪
ザッカーバーグが会社の支配権を維持することにこだわった理由は、2006年のYahooによる10億ドルの買収提案に遡る。当時、経営陣の全員が売却を望み、取締役会は彼を解任しようとした。「私は長期的なビジョンをうまく伝えられていなかった。自分自身も会社として考えていなかった。素晴らしいプロジェクトだと思っていただけだ」。この経験から、彼は「自分の会社から解雇されて、作りたいものを作れなくなる」ことを防ぐためのガバナンス構造を構築した。
彼は「スタートアップであること」をロマン化する風潮に異議を唱える。「私たちは今の方がずっと楽しい。スタートアップであることは嫌だった。できるだけ早く、安定した事業体になりたかった」。彼のアドバイスは「自分が本当に気にかけるものを作れ。そして、できるだけ早く学習できる体制を維持しろ」というものだ。
しかし、この「リーンであるべき」という原則と、Reality Labsへの巨額投資は矛盾しないのか?ザッカーバーグは明確に答える。「グラスとホログラフィックプレゼンスは、誰もが持つようになるユビキタスな製品になる。世界中のメガネユーザーがAI搭載グラスにアップグレードするだけで、歴史上最も成功した製品の一つになる」。さらに、Appleなどのプラットフォームに課せられる「税」(制限や手数料)を考慮すれば、自社でプラットフォームを所有することで収益性は2倍になると試算している。
「Good」から「Awesome」へ:価値観の転換
インタビューの後半で、ザッカーバーグは自身の価値観の大きな変化を明かした。初期のOculusのメンバーから学んだという「good」と「awesome」の区別だ。「Goodは役に立つ。人々が日常的に使うものだ。しかしAwesomeは違う。それは人を高め、インスピレーションを与え、未来に対する楽観をもたらす」。
彼は、現在のソーシャルメディアは「good」だと評価する。「30億人以上が毎日のように使っている。人々の繋がりを維持し、ビジネスを創出し、コミュニティを形成する。それは良いことだ。しかし、朝起きて『よっしゃ、ソーシャルメディアだ!』と思う人はほとんどいない」。次の15年で彼が目指すのは、これに加えて「awesome」なものを創り出すことだ。
この価値観の転換は、彼の私生活にも及んでいる。妻のプリシラと取り組む科学プロジェクト、ダニエル・アーシャムとの彫刻制作、カウアイ島での高級牛肉生産—「最高の品質の牛肉を世界に提供しようとしている。『チャンク』という名の雄牛がいてね、彼は鋼鉄の囲いを突き破ってしまう。でも、そういう牡牛こそが最高の牛肉を作るんだ」。
この変化のきっかけは何か?彼はCOVID-19によるリモート期間を挙げる。「内向的な私にとって、自分と向き合う時間ができた。政治的にも困難な時期で、多くの内省があった」。そして、2012〜13年から始めていたAI研究や2014年からのReality Labsが、趣味から本格的な投資へと舵を切るタイミングに達した。「投資家は短期的には嫌がるだろうが、私はこれが重要だと信じていた。同時に不況が来るとは思っていなかったが」。
Metaという名前、Appleとの競争、そして次世代へのメッセージ
「もし今日、社名を変えるとしたら、またMetaを選ぶか?」という質問に、ザッカーバーグは即答した。「Metaは良い名前だ」。彼は、社名変更の決定は「Facebookブランドから逃げるため」ではなく、「未来に向かって走るため」だったと強調する。「4つの10億ユーザーアプリを抱える会社の名前が、そのうちの一つのアプリと同じであるのは適切ではない。Metaという名前は、私たちが構築しようとしている未来を象徴している」。
彼はAppleを「人々が考えている以上に大きな競合」と位置づけ、次世代プラットフォームを巡る「イデオロギー的な戦い」を予告する。「PC時代はオープンなWindowsが勝ち、モバイル時代はクローズドなiPhoneが勝った。しかし、それが唯一の正解ではない。次の10〜15年で、私はオープンプラットフォームを勝利させたい」。これは単なる製品競争ではなく、「テクノロジー業界の未来のあるべき姿」を巡る価値観の対立だと彼は言う。
最後に、創業者へのアドバイスとして彼が語ったのは「自分自身の道を行け」というシンプルなメッセージだった。娘が「テイラー・スウィフトみたいになりたい」と言った時、彼は「それは無理だ」と答え、娘は考えた末に「じゃあ、みんなが『オーガスト・チャン・ザッカーバーグみたいになりたい』と思うような人になる」と言ったというエピソードは、彼自身の哲学を象徴している。
まとめ
このインタビューで最も印象的なのは、ザッカーバーグが自らの「20年にわたる過ち」を認めつつ、それを「20年は大した長さではない」と語るスケール感だ。彼はMetaを単なる企業ではなく、自己のビジョンを実現するための「乗り物」として捉え、法的構造から組織文化に至るまで、すべてを自身の強みを最大化するように設計している。AIとARの融合という次なるフロンティアにおいて、彼は「学習速度」という自身の哲学を最大限に活用しようとしている。このエピソードが重要なのは、単にMetaの戦略を理解するだけでなく、20年にわたって進化し続ける創業者CEOの生の思考と、彼が「awesome」と呼ぶものへの飽くなき追求に触れられるからだ。
要点
- ザッカーバーグはMetaを「ソーシャルメディア企業」ではなく「人間の繋がりを創るテクノロジー企業」と定義し、その本質はスマートフォンからARグラスへと進化する
- 同社の競争優位の核心は「学習速度」—他のどの企業よりも速く反復し、各ターンから多くを学ぶことにある
- 2012年のモバイル転換(HTML5の失敗とネイティブアプリへの全面書き換え)は、現在のAI/AR投資の「痛みの許容度」の原型となった
- 最大の後悔は2016年以降の政治的環境への対応の誤りで、自社の責任ではない批判まで受け入れたことを「20年続く過ち」と認めた
- 2006年のYahoo買収提案を機に、創業者が解雇されないための支配権構造を構築し、長期的な意思決定を可能にした
- 「Good(役立つ)」から「Awesome(高揚させる)」への価値観シフトが、Reality LabsやAIへの巨額投資の原動力となっている
- 次世代プラットフォームではAppleとの「オープンvsクローズド」のイデオロギー対決を予見し、Metaはオープンエコシステムの勝利を目指す