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Acquired · 2026年5月21日

Formula 1

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この記事でわかること
  • F1は、世界最高峰のレーサーたちによる時速320km超の戦いであると同時に、千人規模のエンジニアチームが総額数百億円を投じて車を一から設計する「エンジニアリングのワールド...
  • F1の起源は、第二次世界大戦後の1950年に遡る。しかし、そのルーツは自動車レースそのものの誕生と不可分であり、明確な「創業の瞬間」は存在しない。戦後、イギリスには多くの...
  • [30:43] バーニー・エクレストンの登場と権力掌握 バーニー・エクレストンは、1930年生まれのハードスケールな生い立ちを持つ。戦後、ロンドンで中古車ディーラーとして...
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Acquired / Ben Gilbert and David Rosenthal

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F1は、世界最高峰のレーサーたちによる時速320km超の戦いであると同時に、千人規模のエンジニアチームが総額数百億円を投じて車を一から設計する「エンジニアリングのワールドカップ」であり、さらに、あるリスナーが完璧に表現したように「ガレージのリアル・ハウスワイブズ」、すなわち億万長者のエゴとチーム政治とパドックのドラマが織りなす、比類なきリアリティ番組でもある。この三重構造こそがF1の本質であり、その魅力の源泉である。世界的には年間8億2700万人以上のファンを擁する最も人気のある年間スポーツシリーズでありながら、アメリカではごく最近までほとんど知られていなかったこのスポーツは、ビジネス史の中でも最も劇的な変貌を遂げた事例の一つである。本エピソードは、かつてロンドンの自動車ディーラーだったバーニー・エクレストンという一人の男が、45年にわたってこのリーグを支配し、中央集権化によって巨額の富を搾取しながらも、間違いなくスポーツを成功に導いた時代から、誰も予想しなかったアメリカ企業リバティ・メディアによる2017年の買収、そして彼らがもたらしたプロフェッショナリズムへの転換までを描く。リバティは、フォックスとESPNのベテランたちを率いて、バーニーには決してできなかったことを成し遂げた。つまり、かつては赤字垂れ流しだったチームを真のビジネスに変え、現在ではチームの平均評価額がなんと36億ドルに達するという、驚異的な価値創造を実現したのである。

F1の起源は、第二次世界大戦後の1950年に遡る。しかし、そのルーツは自動車レースそのものの誕生と不可分であり、明確な「創業の瞬間」は存在しない。戦後、イギリスには多くの退役した空軍パイロットと整備士、そして無数の使われなくなった飛行場が残された。この環境が、後にシリコンバレーが発展したのと同様の正のフィードバックループを生み出し、イギリス中部の田園地帯がF1の自然な故郷となった。コーリン・チャップマンが設立したロータスは、軽量化とハンドリングを重視する革新的な設計哲学でスポーツに革命をもたらし、同時にスポンサーロゴを車体に初めて掲載するなど、ビジネス面でも先駆的な役割を果たした。一方、モナコでは、レーニエ3世とグレース・ケリーの結婚が、旧世界の貴族文化とハリウッドの華やかさを融合させ、F1にラグジュアリーとセレブリティの要素を持ち込んだ。そして、何よりも重要なのがフェラーリである。エンツォ・フェラーリは、レースで得た名声を高級ロードカー販売に結びつけるビジネスモデルを確立し、F1というシリーズそのものを「レーシングの頂点」として正当化する存在となった。このイギリスのエンジニアリング精神、モナコの華やかさ、そしてフェラーリのブランド力という三つの柱が、F1の初期の基盤を形成したのである。

30:43バーニー・エクレストンの登場と権力掌握

バーニー・エクレストンは、1930年生まれのハードスケールな生い立ちを持つ。戦後、ロンドンで中古車ディーラーとして成功し、高級車を新興富裕層に販売する一方で、顧客へのファイナンス斡旋で最初の財を築いた。彼はやがてF1の世界に足を踏み入れ、ドライバーのエージェント業を経て、1972年にブラバムチームを10万ポンド(現在の約230万ドル)で購入する。この買収により、彼はチームオーナーの緩やかな組織である「フォーミュラ・ワン・コンストラクターズ・アソシエーション(FOCA)」のメンバーとなった。バーニーはすぐに、エンツォ・フェラーリを除く他のチームオーナーにはビジネス感覚が欠如しており、チームは慢性的な資金難に陥っていることを見抜いた。彼は、各チームと各レースプロモーターが個別に交渉していた非効率な構造を中央集権化することで、価値を最大化できると考えたのである。

バーニーは他のチームオーナーに対し、彼らに代わってレースプロモーターとの交渉を一手に引き受け、最低限の収入を保証する代わりに、手数料として収入の一部を受け取ることを提案した。口頭では2%と約束したが、後に裁判で明らかになったように、実際には8%を取っていた。この提案により、チームの収入は劇的に改善され、バーニーはF1の商業面における絶対的な支配者としての地位を確立していく。1981年には、FIAとの間で最初の「コンコード協定」が結ばれ、FIAがスポーツのルールを管轄する代わりに、バーニーとFOCAがテレビ放映権を含むすべての商業権を掌握することが正式に認められた。この協定は、バーニーが後に巨万の富を築くための法的基盤となった。

50:33グローバルTVスポーツへの変貌とアメリカ市場の未開拓

バーニーは、テレビ放映権の価値が当時はほとんど認識されていなかったことを見抜き、これを手中に収めた。彼は欧州放送連合(EBU)と格安の契約を結び、すべてのレースを放送することを条件に、F1のテレビ露出を爆発的に増やした。さらに、自らが制作する統一テレビフィードを各放送局に供給する仕組みを作り上げ、F1のテレビ中継の質を飛躍的に向上させた。この戦略は、後に欧州でペイテレビが普及した際に絶大な効果を発揮する。バーニーは、FIAから将来のテレビ放映権の30%を固定の年間支払いと引き換えに買い取り、自らの会社FOPAの取り分と合わせて53%の権益を掌握した。その後、各国で放映権の競争入札を実施し、テレビ収入は一気に跳ね上がった。

しかし、アメリカ市場は長らくF1にとっての「聖杯」でありながら、最大のフラストレーションの源でもあった。バーニーはアメリカ市場の開拓にほとんど関心を示さず、その結果、F1はアメリカではニッチなスポーツのままであった。リバティ・メディアが買収した2017年当時、F1のアメリカでのテレビ放映権料は実質ゼロであり、ESPNが無料で放送するという異例の契約が結ばれた。これは、バーニーがかつてEBUと結んだ「成長のための無料戦略」を、アメリカで再現する試みであった。この戦略は、後にNetflixの『Drive to Survive』と相まって、アメリカでのF1ブームの火付け役となる。リバティは、F1を「22回のスーパーボウル」と位置づけ、各レースを単なるスポーツイベントではなく、音楽フェスやセレブリティの集う総合エンターテイメントへと昇華させる戦略を推し進めた。

01:08:08F1の驚異的なエンジニアリングの進化

F1のエンジニアリングは、絶え間ない革新と、それを巡る規制とのいたちごっこの歴史である。1968年、ロータスが初めてウイングを導入したことに始まり、1970年代後半には、車体全体を逆さの翼のように機能させる「グラウンド・エフェクト」技術が登場した。ロータス78と79は、車体下面のベンチュリトンネルによって空気を加速させ、低圧領域を生み出すことで車を路面に吸い付かせ、コーナリング性能を劇的に向上させた。この技術はあまりに強力だったため、1983年にフラットボトム規定によって一旦禁止されたが、2022年から復活し、現在のF1マシンのダウンフォースの約70%を生み出している。

エンジン技術もまた、目覚ましい進化を遂げた。1950年代の300馬力から、現在では1000馬力近くを誇る一方で、熱効率は50%に達し、市販車の70-80%を大きく上回る。ターボチャージャーやハイブリッドシステムの導入は、パワーと効率の両立を実現した。さらに、1990年代初頭には、ウィリアムズチームがトラクションコントロールやアクティブサスペンションなどの電子制御技術を導入し、圧倒的な強さを誇った。しかし、これらの技術はドライバーの技量よりもマシンの性能が勝敗を決するとして、すぐに禁止された。F1のエンジニアリングは、いかにしてレギュレーションの隙間を突き、他のチームが真似できないアドバンテージを獲得するかという、高度な知的ゲームへと変貌していったのである。

01:19:34セナの悲劇と安全性への新たな時代

1994年のサンマリノグランプリで起きたアイルトン・セナの事故死は、F1史上最も衝撃的な出来事の一つであり、スポーツの安全性に対する認識を根本から変えた。セナは、当時最も才能あるドライバーであり、彼の葬儀にはブラジルで300万人もの人々が集まった。この悲劇は、F1が依然として致命的な危険をはらむスポーツであることを世界に知らしめた。1950年代から70年代にかけては、毎年1〜2人のドライバーが命を落としており、死亡率は全ドライバーの5〜10%に達していた。セナの死後、FIAは徹底した安全対策を推進する。

具体的には、コースのバリア強化、衝撃吸収構造の導入、コクピットの側面強化、そして何よりマシンの速度を抑制するためのレギュレーション変更が行われた。ウイングの大型化やタイヤの溝入れなどがその例である。2014年には、さらに2人の死亡事故が発生したことを受け、2018年から「ハロー」と呼ばれるドライバーの頭部を保護するチタン製のフレームが義務化された。これはドライバーの視界を遮るという大きなトレードオフを伴うものだったが、その後少なくとも3人の命を救ったとされ、2014年以降、F1における死亡事故はゼロとなっている。この安全性へのシフトは、結果的にチーム間の開発競争をさらに激化させるという皮肉な側面も持っていた。なぜなら、速度を上げることが難しくなればなるほど、チームはわずかなアドバンテージを求めて、より巨額の資金と高度な技術を投入するようになるからである。

01:33:18F1の数奇な所有権変遷とバーニーの流動性ドラマ

バーニーは、F1の商業権を掌握した後、自身の資産を守りつつ流動性を得るために、数々の複雑な金融取引を仕掛けた。1990年代後半、彼はF1のIPOを計画するが、EUの独占禁止法調査を恐れて断念する。代わりに、モルガン・スタンレーを引き入れて「バーニー・ボンド」と呼ばれる14億ドルの社債を発行し、その資金を自身への特別配当として引き出した。この直後、彼は心臓の三重バイパス手術を受けており、その強引な手法は語り草となっている。その後、彼は保有するF1の株式を様々な投資家に売却し始める。2000年には、ヘルマン・フリードマン(H&F)が37%を取得するが、その1ヶ月後にはドイツのメディア企業EM.TVに転売され、H&Fは1ヶ月で2億4100万ポンドの利益を得た。

しかし、ドットコムバブルの崩壊によりEM.TVは債務不履行に陥り、F1の所有権は債権者であるバイエルンLBやJPモルガン、リーマン・ブラザーズに移る。2004年には、銀行団がバーニーを提訴し、裁判所は銀行側の主張を認めたが、バーニーはこれを無視して独自にCVCキャピタル・パートナーズとの交渉を進めた。CVCは銀行とバーニー夫妻の株式を買収し、F1を完全に掌握した。この一連の取引を通じて、バーニーは自身の信託から30億ドル以上を引き出していたとされる。CVCの下でもバーニーはCEOとして留任し、新たなレースプロモーターからの収入搾取に邁進した。アブダビやロシアなど、多額の開催料を支払う新興国レースをカレンダーに追加する一方で、チームとの関係は悪化の一途をたどった。

01:57:48FOTA:チームによる分裂の試みとレッドブルの台頭

2000年代後半、トップチームの年間支出は4〜5億ドルに達し、2008年の金融危機を機にホンダやBMW、トヨタなどの自動車メーカーがF1から撤退した。この危機的状況の中、バーニーとCVC、FIAはチームにコストキャップ(予算制限)を提案するが、フェラーリとマクラーレンが猛反対した。彼らは、たとえ巨額の赤字を出しても勝利こそが最大のブランド価値をもたらすという立場だった。2009年、8チームが結束し、F1からの離脱と新たな独自シリーズ「FOTA」の創設を宣言するという、かつてない事態に発展した。しかし、バーニーは各チームに個別に譲歩を持ちかけて結束を崩し、FOTAは結局瓦解した。この一件は、チーム間の利害が複雑に絡み合い、統一した行動が極めて困難であることを如実に示した。

この混乱期に、F1に全く新しい風を吹き込んだのがレッドブルである。エナジードリンク会社であるレッドブルは、2004年にジャガー・レーシングチームを1ポンドで買収し、独自のマーケティング戦略を展開した。彼らは、パドックに移動式ナイトクラブ「エナジーステーション」を持ち込み、従来の閉鎖的で高級感のあるF1のイメージを覆す、若者向けのパーティーカルチャーを注入した。さらに、天才エアロダイナミシストであるエイドリアン・ニューウェイをマクラーレンから引き抜き、2010年から2013年にかけて4年連続でドライバーズ&コンストラクターズタイトルを獲得する黄金時代を築いた。レッドブルの成功は、F1が単なる自動車メーカーの広告塔ではなく、エナジードリンクという全く異なるビジネスモデルとも親和性が高いことを証明した。

02:42:33リバティ・メディアによる買収と近代化

2016年9月、アメリカのメディア企業リバティ・メディアがF1を44億ドルの株式価値で買収すると発表した。総企業価値は80億ドルに上る。リバティは、ジョン・マローンのもとで数々のメディア企業を買収・再編してきた経験豊富な企業であり、F1を公開企業であるフォーミュラ・ワン・グループに再編した。彼らが最初に行ったのは、バーニー・エクレストンをCEOから解任することだった。後任には、フォックスでNFL中継を立ち上げたチェイス・キャリーが就任し、彼はフォックスとESPNのベテランたちを率いて、F1のプロフェッショナル化に着手した。

リバティの4つの優先事項は、第一にチームとの関係修復、第二にレースプロモーターとの関係改善、第三にファンとの関係構築、そして第四にアメリカ市場の開拓であった。最も重要な成果は、2018年のコンコード協定で全チームが合意したコストキャップの導入である。これにより、チームの年間支出は1億4500万ドル(後に変動)に制限され、それまで毎年巨額の赤字を計上していたチームが、一気に黒字化への道を歩み始めた。リバティはまた、デジタル戦略を積極的に推進し、ソーシャルメディアでの発信を解禁し、F1のeスポーツやビデオゲームへの投資を拡大した。そして、何よりも決定的だったのが、Netflixとの提携によるドキュメンタリーシリーズ『Drive to Survive』の制作である。

03:05:03『Drive to Survive』とアメリカでの成功

『Drive to Survive』は、F1の舞台裏に密着したリアリティドキュメンタリーであり、スポーツメディア史上最も影響力のある作品の一つとなった。リバティは、Netflixに完全な編集権を与え、F1側は一切の干渉をしないという大きな賭けに出た。このシリーズは、レースそのものよりも、チーム代表やドライバーたちの人間ドラマ、権力闘争、そして個人的な確執に焦点を当てることで、従来のモータースポーツファンだけでなく、全く新しい層、特に若い女性視聴者を獲得することに成功した。パンデミックによる外出制限も追い風となり、シーズン3はNetflixの93カ国で1位を記録する大ヒットとなった。

『Drive to Survive』の影響は計り知れない。アメリカでのF1視聴者数は、2018年の約50万人から2021年には100万人以上に倍増し、2024年のマイアミグランプリでは310万人のアメリカ人が視聴した。F1ファン全体に占める女性の割合は、わずか7%から40%近くにまで急上昇した。この成功を受けて、F1のアメリカでのメディア権利は、ESPNへの無償提供から、2025年からの5年契約でApple TVが年間1億5000万ドルを支払うという大型契約へと発展した。リバティはまた、マイアミとラスベガスに新たなグランプリを追加し、アメリカ市場への本格的な進出を果たした。特にラスベガスGPは、F1自身がプロモーターとなり、5億ドル以上を投じてパドッククラブやコースを建設するという、かつてない大規模投資であった。

03:41:52F1の現在のビジネス構造

現在のF1グループの年間収益は34億ドル(2024年)であり、その内訳はメディア権利(放送権)が33%(約11億ドル)、レースプロモーション料が29%(約10億ドル)、広告・スポンサーシップが19%(約6.3億ドル)、そしてその他(ホスピタリティ、マーチャンダイジングなど)が19%となっている。最大のコストはチームへの分配金であり、収益の約37%(12.7億ドル)がチームに支払われる。この分配は、均等参加分、コンストラクターズ選手権の順位に応じた分、そしてフェラーリへの歴史的貢献に対する特別配分という3つの要素で決まる。トップチームは約14%、最下位チームは約6%の分配を受けると推定される。

チームのビジネスも劇的に改善された。平均的なチームの年間収益は約4億3000万ドルで、その約60%をスポンサーシップが占める。コストキャップが1億7000万ドルであることを考えると、ほとんどのチームが黒字化している。メルセデスは推定2億ドルの営業利益を上げ、その評価額は60億ドルに達する。フェラーリは65億ドル、マクラーレンは44億ドル、レッドブルは43.5億ドルと評価されている。F1グループ自体の時価総額は220億ドル、企業価値は250億ドルに成長し、リバティ・メディアは2017年の44億ドルの株式投資を9年で約5倍に増やした。チームの総価値は約360億ドルに上り、F1エコシステム全体の企業価値は600億ドルを超えると推定される。

03:56:23分析:なぜF1は成功したのか?バーニーは必要だったのか?

ホストたちは、F1の成功にバーニー・エクレストンが不可欠だったかどうかという核心的な問いを議論する。ベン・ギルバートは、バーニーのような強烈な個性と「ストリートファイター」的な資質が、複雑な利害関係者(チーム、サーキット、放送局、FIAという国際的なNGO)をまとめ上げるためには必要だったと主張する。NFLのピート・ロゼールは、リーグのために働く従業員として中央集権化を成し遂げたが、F1のようなグローバルで多極的な構造では、自らが起業家としてリスクを取り、利益を追求するバーニーのような人物でなければ、同じことはできなかっただろうと論じる。デビッド・ローゼンタールもこれに同意し、バーニーの「非情さ」と「手口」が、F1を現在の地位に押し上げる原動力になったと評価する。

一方で、バーニーの手法は、チームとの関係を悪化させ、スポーツの成長を長期的に阻害した側面も否定できない。彼の下では、チームは慢性的な赤字に苦しみ、スポンサーシップ以外の収入源はほとんど開拓されなかった。リバティ・メディアがもたらしたプロフェッショナリズム、コストキャップ、そしてデジタル戦略は、バーニーには不可能だった変革である。結論として、F1の成功には、創造的破壊をもたらしたバーニーの時代と、その遺産を基盤に持続可能なビジネスモデルを構築したリバティの時代の両方が必要だったと言える。バーニーはF1を「大きく」し、リバティはそれを「強く」したのである。

04:05:407つのパワー分析

ホストたちは、ハミルトン・ヘルマーの「7つのパワー」フレームワークを用いて、現在のF1グループの競争優位性を分析する。まず、コーナード・リソースとして、FIAがF1を「モータースポーツの頂点」と公式に認定している点が挙げられる。これは、他のレースシリーズが模倣できない、規制上の独占的地位である。次に、ブランディングの力は絶大で、世界中のファンがF1というブランドに高い価値を認めている。ネットワーク経済性も重要であり、多くのチーム、サーキット、放送局が参加すればするほど、F1の価値は高まる。スイッチングコストも高く、チームやサーキットがF1から離脱して新たなシリーズを立ち上げるには、巨額の費用と時間がかかる。

さらに、スケール経済も働いており、22戦にも及ぶグローバルなシリーズを運営するための固定費を、多くのレースや視聴者で分散できる。カウンター・ポジショニングの観点では、リバティはバーニー時代の閉鎖的なビジネスモデルとは全く逆の、オープンでデジタル重視の戦略を採用し、成功を収めた。最後に、プロセス・パワーについては、F1グループ自体が持つというよりは、メルセデスやレッドブルといったトップチームが、優れたエンジニアリングと組織運営のプロセスを磨き上げている点が該当する。総じて、F1グループは複数の強力な参入障壁に守られた、非常に強固なビジネスであると結論づけられる。

04:08:23ブルケース vs. ベアケース

ブルケース:最大の成長余地はアメリカ市場にある。F1は全世界に8億3000万人のファンを抱えるが、1ファンあたりの年間収益はわずか7ドルであり、NFLの127ドルと比較すると大きな差がある。これは、アメリカでの認知度とメディア権利収入がまだ低いことに起因する。アメリカ人ドライバーやチームのチャンピオン誕生、あるいは女性チャンピオンの登場は、さらなるファン層の拡大につながる可能性がある。また、欧州のテレビ権利契約が、競争入札によってより適正な価格に是正される余地も大きい。Apple TVの参入は、革新的なカメラ技術やデータ可視化を通じて、放送の質を劇的に向上させる可能性を秘めている。

ベアケース:F1の最大の弱点は、レース自体が「パレード」になりがちな点である。コース上の追い抜きが難しく、レースの勝敗は予選や戦略、マシンの信頼性に大きく左右されるため、カジュアルなファンには退屈に映る可能性がある。これは、NASCARのような常にエキサイティングなレースと比較される際の不利な点である。また、リバティがすでに多くの「低い果実」を摘み取ってしまったため、今後の成長はより緩やかなものになるかもしれない。パンデミックと『Drive to Survive』によるブームが一時的なものである可能性も、かつては懸念されたが、現在ではその持続性が証明されつつある。さらに、放送中にドライバーの人間性や戦略の背景をもっと伝える努力を怠れば、新しいファンを惹きつけ続けることは難しいだろう。

04:16:32クインテッセンス(本質)

ベン・ギルバートは、F1の最も驚くべき点は、レースを一度も見たことがないにもかかわらず、自分はF1ファンだと公言する人々が大量に存在するという、他のスポーツには見られない現象であると指摘する。彼らはドライバーの名前を知り、チームのマーチャンダイズを購入し、スポンサー企業の製品を買うが、生中継は視聴しない。この「観戦しないファン」の存在は、F1が単なるスポーツ競技を超えた、カルチャーやライフスタイルの一部として認識されている証拠である。

デビッド・ローゼンタールは、F1がこれまで研究してきたどのスポーツリーグよりも複雑な構造を持つと述べる。10のチーム、22のサーキット、複数の自動車メーカー、国際的な規制団体(FIA)、そして放送局とスポンサー。これらすべての利害を調整しながら、70年にわたって存続してきたことは驚異的である。この複雑さこそが、新規参入を極めて困難にする参入障壁となっている。F1は、誰かが白紙の状態から設計したリーグではなく、歴史的な偶然と、バーニー・エクレストンという稀有な人物の強引なリーダーシップによって有機的に形成された、唯一無二の存在なのである。

結びに

F1の物語は、一人のカリスマ的なディーラーが、無秩序で危険なヨーロッパのレースシリーズを、世界的なビジネス帝国に変貌させた物語である。バーニー・エクレストンは、その強引な手法と権力欲によってF1を中央集権化し、巨万の富を築いたが、同時にスポーツの成長を長期的に阻害する要因も作り出した。彼の退場後、リバティ・メディアはプロフェッショナリズムとデジタル戦略を持ち込み、F1を真のビジネスへと変革した。このエピソードが最も印象的に描くのは、F1が「エンジニアリングのワールドカップ」であり、「億万長者のリアリティ番組」であり、そして何よりも、予測不可能な人間ドラマの連続であるという点だ。『Drive to Survive』が捉えたのは、まさにこの人間ドラマであり、それがF1を単なるモータースポーツから、世界的なカルチャー現象へと押し上げたのである。F1の未来は、この複雑で魅力的なストーリーを、いかにして新たなファン層に伝え続けられるかにかかっている。

要点

  • F1は、ドライバーの競技、エンジニアリングの競争、そしてチーム間の政治ドラマという三重構造を持つ、世界で最も複雑なスポーツビジネスである。
  • バーニー・エクレストンは、45年にわたりF1の商業権を中央集権化し、テレビ放映権の価値を最大化することで、スポーツをグローバルなビジネスに成長させた。
  • リバティ・メディアは2017年にF1を買収し、コストキャップの導入、デジタル戦略の推進、そしてNetflixとの提携を通じて、F1をプロフェッショナルで持続可能なビジネスへと変革した。
  • 『Drive to Survive』は、F1の舞台裏の人間ドラマに焦点を当てることで、アメリカを中心に全く新しいファン層、特に若い女性を獲得し、スポーツメディア史上最も影響力のある作品の一つとなった。
  • コストキャップの導入により、かつては赤字垂れ流しだったF1チームは、平均評価額36億ドルという驚異的な価値を持つ、真のビジネスへと生まれ変わった。
  • F1グループの年間収益は34億ドル、時価総額は220億ドルに達し、リバティ・メディアは投資額を9年で約5倍に増やした。
  • F1の最大の成長余地はアメリカ市場にあり、1ファンあたりの収益はNFLの約18分の1と、まだ大きな開拓の余地が残されている。
  • F1の成功は、バーニーによる創造的破壊と、リバティによるプロフェッショナルな経営という、異なる二つの時代の連続によってもたらされた。
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