
テイラー・スウィフト(アクワイアド・バージョン)
- テイラー・スウィフト:音楽業界を再定義するビジネス帝国 テイラー・スウィフトは単なるポップスターではない。彼女は32歳という若さで、音楽業界の権力構造そのものを再編成して...
- [0:00] テイラー・スウィフトの誕生と幼少期 1989年12月13日、ペンシルベニア州レディング病院でテイラー・アリソン・スウィフトが誕生する。父スコット・スウィフト...
- アンドレアの母マージョリーはオペラ歌手であり、キューバやプエルトリコでテレビ番組を持ち、クラブで公演を行うプロの歌手だった。この祖母からテイラーは音楽の遺伝子を受け継いだ...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Acquired / Ben Gilbert and David Rosenthal
テイラー・スウィフト:音楽業界を再定義するビジネス帝国
テイラー・スウィフトは単なるポップスターではない。彼女は32歳という若さで、音楽業界の権力構造そのものを再編成している。このエピソードでは、Acquiredのホストであるベン・ギルバートとデヴィッド・ローゼンタールが、テイラー・スウィフトのビジネス戦略を深掘りし、彼女がどのようにして自身のキャリアを築き、業界のルールを書き換えてきたかを分析する。語り口は軽妙でありながら、音楽業界の複雑な権利構造や経済的実態を丁寧に解説しており、リスナーは「テイラー・スウィフトという企業」の成長物語を追体験することになる。
テイラー・スウィフトの誕生と幼少期
1989年12月13日、ペンシルベニア州レディング病院でテイラー・アリソン・スウィフトが誕生する。父スコット・スウィフトはメリルリンチの株式ブローカーで、フィラデルフィアの名門家系の出身。彼の曽祖父チャールズ・バルディは1877年にイタリアから移民として渡米し、石炭事業で財を成し、新聞、銀行、不動産に投資した。母アンドレアはマーケティング職を経て専業主婦となり、テイラーと弟オースティンを育てた。
アンドレアの母マージョリーはオペラ歌手であり、キューバやプエルトリコでテレビ番組を持ち、クラブで公演を行うプロの歌手だった。この祖母からテイラーは音楽の遺伝子を受け継いだ。3歳の時にはすでに歌うことに夢中で、家族の別荘があるニュージャージーのストーンハーバーのビーチで、見知らぬ人々に「ライオン・キング」の歌を披露していたという。
6歳の時、両親から初めてのアルバムとしてリアン・ライムスを買ってもらったことでカントリーミュージックに目覚める。カントリーの本質は「ストーリーテリング」であり、これは後のテイラーの最大の武器となる。さらにシャナイア・トゥエインが自身の曲をすべて自作曲であることを知り、「なぜ自分にもできないのか」と考えるようになる。
ナッシュビルへの道と最初の契約
10歳のテイラーは地元の会場でオープンマイクやカラオケに参加し始める。常連だったカラオケ会場は、元カントリースターのパット・ギャレットが経営するロードハウスで、カラオケ優勝者は本物のカントリーアーティストの前座を務めることができた。テイラーは「あの場所にまとわりつく迷惑なハエみたいだった」と後に語っている。
VH1の「ビハインド・ザ・ミュージック」でフェイス・ヒルの特集を見たテイラーは、ナッシュビルこそがカントリーミュージックの聖地だと確信する。ここで興味深いのは、ナッシュビルがなぜ音楽の中心地になったかという歴史だ。1920年代、ナッシュビルに本社を置く保険会社「ナショナル・ライフ・アンド・アクシデント・インシュアランス」がマーケティング施策として地元のラジオ局を買収し、コールサインをWSM(We Shield Millionsの頭文字)に変更。土曜夜のライブ・バーン・ダンス番組が大人気となり、そのための会場としてグランド・オール・オプリが建設された。これがジョニー・キャッシュ、ドリー・パートン、ハンク・ウィリアムズらを輩出する「ミュージックシティ」の起源である。
2001年3月、アンドレアはテイラーを連れてナッシュビルへ行くが、レコード契約は得られなかった。しかし2002年、全米オープンで「アメリカ・ザ・ビューティフル」を歌う機会を得て、観客の中にいたブリトニー・スピアーズのマネジメントチーム所属のタレントエージェント、ダン・デメトロの目に留まる。彼はテイラーをクライアントとして契約し、再びナッシュビルのレコード会社を回るが、契約には至らなかった。ただしRCAは「開発契約」を提案する。これは本格的なレコード契約ではなく、潜在能力に投資する小規模な契約だ。
ソングライターとしての開花とRCAとの決別
テイラーは自身の武器が歌唱力ではなくソングライティングにあると認識する。彼女は「12歳の頃、学校で人気がなく、ランチでどこに座ればいいかもわからなかった。でもソングライティングが解放の手段になった」と語る。孤独な観察者としての経験が、人間関係を描く驚異的な能力を育んだ。
2004年5月、14歳のテイラーはソニーATVとソングライター契約を結び、同社史上最年少のソングライターとなる。ソニーは彼女に経験豊富なソングライター、リズ・ローズをペアリングする。2人のコラボレーションから生まれた曲には「Tim McGraw」「Teardrops on My Guitar」「Picture to Burn」「Fearless」「White Horse」「You Belong With Me」そして最終コラボレーションとなる「All Too Well」がある。
しかしRCAはテイラーに「君のソングライティングには魅力を感じない」と言い放ち、少なくともあと1年は開発契約を続けたいと伝える。彼らはテイラーに「既製の音楽」を提供し、彼女はそれを歌うだけでいいと考えていた。テイラーはこれを拒否し、RCAとの契約を自ら打ち切る。彼女は「ナッシュビルでメジャーレーベルの契約を断るのは一般的ではないが、私はそうした」と語っている。
ビッグマシン・レコードとの出会い
フリーエージェントとなったテイラーは、伝説的な会場ブルーバード・カフェを予約し、ナッシュビルのレコード会社幹部を招いて自身のオーディションを開催する。これは彼女自身が主催する「競売」のようなものだった。
会場に現れた一人がスコット・ボルケッタ。彼はユニバーサルのサブレーベルで働いていたが、独立して自身のレーベルを立ち上げようとしていた。彼はテイラーに「君を本格的なレコード契約で迎えたい。君の自作曲を信じている。10代向けのカントリーミュージックを作ろう」と提案する。テイラーはこの提案を受け入れ、ボルケッタの新レーベル「ビッグマシン・レコード」の最初のアーティストとなる。
ここで重要な取引が行われる。スウィフト家はビッグマシンに12万ドルを投資し、約3%の株式を取得した。外部資金の大半はカントリー歌手トビー・キースが出資している。ビッグマシンはユニバーサルと流通契約を結び、事業を開始する。この投資は後に75倍のリターンをもたらすことになる。
音楽業界の権利構造:マスターとパブリッシング
ここで音楽業界の基本的な権利構造を理解する必要がある。楽曲が作成されると、2つの著作権が発生する。
第一に「サウンド・レコーディング著作権」(マスター)は、スタジオで録音された実際の音源に対する権利で、伝統的にレコードレーベルが所有する。レーベルは制作費を負担する代わりにこの権利を取得し、アーティストには通常10〜15%のロイヤルティが支払われる(大型アーティストでも20〜22%程度)。
第二に「音楽作曲著作権」(パブリッシング)は、歌詞とメロディーに対する権利で、ソングライター自身が所有する。出版会社は伝統的に50%を取っていたが、現在は大手ソングライターの場合、固定料金でバックオフィス業務を委託するだけの場合もある。
ストリーミングの場合、支払いの約80%がマスター権利者(レーベル)に、約12%がパブリッシング権利者(ソングライター)に分配される。アーティストがレーベルから10%のロイヤルティを得ている場合、実質的には1ストリームあたり約8%しか受け取れない。ソングライターも兼ねるテイラーの場合、両方で約18%となる。
ラジオの場合は逆転し、支払いの大部分がソングライターに渡る。これはラジオが「演奏」とみなされるためだ。映画やCMでの使用には「同期ライセンス」が必要で、両方の権利者の承認が必要となる。
デビューからフェアレス、そしてVMA事件
2006年6月、デビューシングル「Tim McGraw」をリリース。テイラーはMySpaceを活用してファンと直接つながり、20 millionのインタラクションを獲得する。10月にデビューアルバムをリリースすると、63週連続でトップ200に留まり、2008年1月には全米1位を達成。最終的に275週間チャートに留まった。
2008年11月、金融危機の真っ只中にセカンドアルバム『Fearless』をリリース。初登場1位を記録し、11週間トップを維持。カントリーアーティストとして史上最長のトップ10記録を樹立し、グラミー賞アルバム・オブ・ザ・イヤーを史上最年少で受賞する。
2009年9月13日、MTV VMAで「You Belong With Me」が最優秀女性ビデオ賞を受賞。授賞式でカニエ・ウェストがステージに乱入し「ビヨンセが最高のビデオを持っていた」と発言する事件が発生する。この瞬間は、テイラーのキャリア全体に影響を与える分岐点となった。カニエのマネージャーがスクーター・ブラウンであったことから、後のマスター権問題にもつながっていく。
レッド、1989、そしてストリーミングとの戦い
2012年、『Red』をリリース。テイラーはビッグマシンが完成させたアルバムを「古いものと似すぎている」と拒否し、マックス・マーティンとシェルバックを起用してポップサウンドを取り入れた22曲のアルバムに作り直す。
2014年の『1989』で完全なポップアルバムに転身。リリース前には厳選したファンを自宅に招いて秘密の試聴会を開催し、クッキーを焼いてもてなすという独創的なマーケティングを展開する。同年7月、ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し「音楽は無料であるべきではない」と主張。11月には全カタログをSpotifyから削除するという強硬手段に出る。
2015年6月、Apple Musicが3ヶ月の無料トライアル期間中はアーティストに支払いをしない方針を発表すると、テイラーは「私たちはあなたに無料のiPhoneを要求していない。私たちの音楽を無償で提供するよう要求しないでください」とツイート。24時間以内にAppleは方針を転換し、無料期間中の支払いを決定した。
レピュテーションとマスター権の喪失
2016年、カニエ・ウェストが「Famous」でテイラーを侮辱する歌詞をリリース。さらにキム・カーダシアンが電話の内容をSnapchatに公開し、世論がテイラーに敵対する。この経験から生まれたのが2017年の『Reputation』で、よりダークで攻撃的なサウンドに変化する。
テイラーの6枚目のアルバムでビッグマシンとの契約が満了。彼女はユニバーサル傘下のリパブリック・レコードに移籍する。この決断により、ビッグマシンの収益の80%を占めていたテイラーの旧作マスター権は、単なるキャッシュフロー資産と化す。ビッグマシンは売却プロセスを開始し、スクーター・ブラウンのイサカ・ホールディングスが約3億〜3.3億ドルで買収する。
テイラーは「自分のマスター権を買う機会すら与えられなかった」と主張。スクーター・ブラウンがカニエの元マネージャーであることもあり、彼女は「最悪の悪夢」と表現する。2019年8月、彼女は全旧作の再録音を発表する。
テイラーズ・バージョン:業界を変える再録音戦略
ケリー・クラークソンがツイートで「全曲を再録音してはどうか」と提案したことがきっかけの一つ。実際、クラークソンの義母であるレバ・マッケンタイアが過去に同様のことを行っていた。
2020年、パンデミックにより『Lover』ツアーが中止になるが、テイラーはこの期間を最大限に活用。新作『Folklore』と『Evermore』をリリースし、同時に『Fearless (Taylor's Version)』と『Red (Taylor's Version)』の再録音も完了させる。2020年には25曲、2021年には46曲をリリースし、従来の年間10曲ペースを大幅に上回る生産性を達成した。
「Taylor's Version」という命名は極めて戦略的。ストリーミング時代において、ファンがプレイリストで簡単に差し替えられるように設計されている。音声アシスタントに「Redを再生して」と指示すれば、最新版であるTaylor's Versionが再生される仕組みだ。
2020年11月、イサカはテイラーの旧作マスター権のみをシャムロック・キャピタルに約3億ドルで売却。シャムロックはディズニー家のファミリーオフィスを起源とするPEファームだが、テイラーと事前に協議することなく買収を実行した。テイラーが積極的に旧作の価値を毀損している現在、この投資は「音楽業界で最も過大評価された資産」と評される。
テイラー・スウィフトのビジネス分析
テイラーはUMGとの契約で、おそらく史上最もアーティストに有利な条件を勝ち取った。彼女は将来のマスター権を自ら所有し、レーベルにライセンスする形式を採用。ライセンス期間は10年で、その後は完全なコントロールを取り戻す。
さらに重要なのは、彼女がUMGに対して、Spotify株式の売却益を他のアーティストにも分配するよう要求したことだ。UMGはSpotifyの約3.5%を保有し、その価値は約15億ドル。ワーナーは売却益の25%をアーティストに分配したが、それは回収可能な前払い金としてだった。ソニーは非回収型で約2.5億ドルを分配。テイラーの要求により、UMGは少なくともワーナーと同等以上の条件(非回収型)を受け入れたとされ、約7億ドルがアーティストに分配される可能性がある。
テイラーの純資産は2021年8月時点で5.5億ドル(前年から2億ドル増加)。全年代を通じた音楽販売ランキングでは31位だが、2000年以降にデビューしたアーティストでは唯一のトップ50入り。次のアーティストはアデル(66位)である。
まとめ
このエピソードが示すのは、テイラー・スウィフトが単なる音楽アーティストではなく、業界のルールを書き換える「企業」であるという事実だ。彼女は自身の創造性とファンとの直接的な関係性を武器に、レコードレーベル、ストリーミングサービス、そしてAppleさえも動かす力を手に入れた。音楽業界の年間収益(約400億ドル)がAppleの年間収益の約10分の1、ベストバイやアメリカン航空と同規模であるという事実は、彼女の影響力の大きさを際立たせる。彼女の「Taylor's Version」戦略は、アーティストが自身の作品に対するコントロールを取り戻すための新たな道筋を示しており、その影響は今後も業界全体に波及し続けるだろう。
要点
- テイラー・スウィフトは14歳でソニーATVとソングライター契約を結び、16歳でデビューアルバムをリリース。デビュー作は275週間チャートに留まった
- 2009年のVMAでのカニエ・ウェストの乱入事件は、その後のスクーター・ブラウンとのマスター権紛争の遠因となった
- 音楽には「マスター」(録音権)と「パブリッシング」(作曲権)の2つの著作権が存在し、ストリーミングでは約80%がマスター権利者に分配される
- テイラーは2014年に全カタログをSpotifyから削除し、2015年にはApple Musicの無料トライアル期間中の無報酬方針を24時間で撤回させた
- ビッグマシン・レコードはテイラーのマスター権をスクーター・ブラウンに約3億ドルで売却。テイラーは買収の機会すら与えられなかったと主張
- テイラーは全旧作を「Taylor's Version」として再録音し、ストリーミング時代に最適化された戦略で旧作の価値を積極的に毀損している
- UMGとの契約で、将来のマスター権を自ら所有し、さらにUMGのSpotify株式売却益を全アーティストに分配させる条件を勝ち取った
- 音楽業界全体の年間収益(約400億ドル)はAppleの年間収益の約10分の1であり、テイラーの影響力の大きさを際立たせている