
マイケル・モーボッシン マスタークラス — モート、スキル、運、意思決定、そしてもっと
- Michael Mauboussin マスタークラス — 堀、スキルと運、意思決定、そしてそれ以上 本エピソードは、AcquiredのホストであるBen Gilbertと...
- [4:44] 期待値投資の核心 — 価格から逆算する思考法 Mauboussinは、彼のキャリアの原点となったAl Rappaportの1986年の著書『Creating...
- この第三の洞察から生まれたのが、MauboussinとRappaportが共著した『Expectations Investing』(2001年出版)である。その核心はシン...
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Acquired / Ben Gilbert and David Rosenthal
Michael Mauboussin マスタークラス — 堀、スキルと運、意思決定、そしてそれ以上
本エピソードは、AcquiredのホストであるBen GilbertとDavid Rosenthalが、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのコンシリエント・リサーチ責任者であり、ウォール街で最も影響力のある思想家の一人であるMichael Mauboussinを迎えた特別対談である。投資の世界における「期待値投資」のフレームワークから、スキルと運の切り分け、競争優位(堀)の測定、複雑適応系としての市場理解、そして意思決定の質を高める実践的手法まで、Mauboussinの40年にわたる研究のエッセンスが凝縮されている。2021年という「前例のない」マクロ経済環境を背景に、投資家としての思考の枠組みを根本から見直すきっかけを与える、知的刺激に満ちた会話である。
期待値投資の核心 — 価格から逆算する思考法
Mauboussinは、彼のキャリアの原点となったAl Rappaportの1986年の著書『Creating Shareholder Value』との出会いを語る。この本が示した三つの基盤が、その後の彼の全仕事の土台となっている。第一に、重要なのは会計上の利益ではなくキャッシュフローであること。第二に、戦略と評価は切り離せず、戦略のリトマス試験紙はそれが価値を創造するかどうかであること。第三に、株価は将来の財務パフォーマンスに対する期待を反映しており、経営者は自社に何が織り込まれているかを理解すべきであること。
この第三の洞察から生まれたのが、MauboussinとRappaportが共著した『Expectations Investing』(2001年出版)である。その核心はシンプルだ。「この株価が合理的であるためには、私は何を信じなければならないか?」と自問することから始める。第一ステップは、現在の株価に織り込まれている将来の業績期待を逆算する。第二ステップは、戦略分析と財務分析を用いて、その期待が楽観的すぎるか、悲観的すぎるか、適正かを判断する。第三ステップは、その判断に基づいて行動する(買う、売る、何もしない)。
Benが指摘したように、多くの投資家は自らのボトムアップモデルで「価値」を計算し、それを市場価格と比較する。しかしMauboussinは、市場がすでに価格を設定している以上、そこから逆算して「何を信じる必要があるか」を考える方が合理的だと主張する。このアプローチは、チャーリー・マンガーの「常に逆転せよ」という格言を体現している。また、これは確率的な思考を促す。現在の価格は無数の潜在的結果のうちの一つに過ぎず、より豊かな分布を理解することが重要だとMauboussinは強調する。
無形資産の時代 — 会計の限界とキャッシュフローの真実
2001年から2021年にかけて、米国公開企業の設備投資と無形資産投資は同じ水準から出発し、無形資産投資が2兆ドル、設備投資が1兆ドルと、無形資産が2倍に拡大した。無形資産とは、ソフトウェアコード、ブランディング、マーケティング、従業員トレーニングなど、物理的でない投資を指す。問題は、これらの投資の多くが伝統的な会計では「費用」として扱われ、貸借対照表に資産として計上されないことだ。
StripeのJohn CollisonがPatrick O'Shaughnessyのポッドキャストで述べたように、Stripeは巨額の無形投資を行っているが、それがすべて損益計算書で費用化されるため、収益性が低く見える。しかし実際には、巨額の価値を構築している。ここでRappaportの原点「キャッシュフローこそが重要」が再び輝く。Mauboussinは、企業を理解するには「この会社はどのようにお金を稼ぐのか」という基本単位の分析に立ち返るべきだと説く。
さらに、ソフトウェアベースの企業はよりグローバルで、より速く成長できるが、無形資産に依存する脆弱性もある。製品やサービスが失敗した場合、売却できる有形資産はほとんど残らない。Benは、ベンチャーキャピタリストが直感的に理解してきた「無形資産は投資である」という考え方が、ソフトウェアが世界を飲み込むにつれて、より広い投資コミュニティに強制されていると指摘する。Mauboussinは、ウォルマートが公開後15年間、毎年フリーキャッシュフローがマイナスだった例を挙げる。利益は出ていたが、高いリターンが見込める店舗に積極的に投資していたからだ。重要なのはフリーキャッシュフローの符号ではなく、投資のリターンである。
堀の測定 — 競争優位を定量化するフレームワーク
Mauboussinは、コロンビア・ビジネススクールでベンジャミン・グレアム以来の伝統を持つ「証券分析」コースを30年にわたって教えている。このコースは四つのパートで構成される。市場の効率性、競争戦略、バリュエーション、そして意思決定である。彼が気づいたのは、優れた投資家と平均的な投資家を分けるのは、スプレッドシートのスキルではなく、ストレス下での意思決定の質と気質であるということだ。
「Measuring the Moat」論文の初版は2002年に発表され、Mauboussinにとって最も困難なプロジェクトの一つだった。マイケル・ポーター、クレイトン・クリステンセン、ブライアン・アーサーらの理論を統合し、投資家が実践的に使える形にすることが課題だった。競争優位(堀)の定義として、彼は二つの条件を提示する。絶対的条件として、投下資本コストを上回るリターンを現在生み出していること。相対的条件として、競合他社よりも優れていること。これを投下資本利益率(ROIC)で測定する。
戦略分析は三つの部分からなる。第一に「地形の把握」— 参入・退出の状況、市場シェアの変動、価格決定の柔軟性などを分析する。市場シェアが激しく変動する業界では長期にわたって王座を維持するのは難しいが、清涼飲料のように1ポイントのシェアを巡って激しく争う業界は安定している。第二に「業界のダイナミクス」— ポーターのファイブフォースやクリステンセンの破壊的イノベーション理論を適用する。第三に「競争優位の源泉」— 通常は「低コスト生産者」か「差別化」のいずれかである。低コスト生産者は低マージン・高資本回転率、差別化戦略は高マージン・低資本回転率という特徴を持つ。スーパーマーケットとティファニーの対比が典型的な例だ。
複雑適応系としての市場 — オプション思考とベンチャー投資
Mauboussinは、複雑適応系を「多数のエージェントの相互作用(複雑性)、エージェントが学習し環境に適応する(適応性)、全体は部分の総和以上である(システム性)」と定義する。この世界では未来を予測することは本質的に困難だが、若い企業を「オプション」として捉えることで、より適切な分析が可能になる。
リアル・オプションが価値を持つ条件は三つある。第一に市場のボラティリティが高いこと。通常の資産では低い割引率が高い価値を生むが、オプションではボラティリティが高いほど価値が上がる。第二に経営陣の質が重要であること。ジェフ・ベゾスのように、オプションを識別し賢明に行使できる経営陣は計り知れない価値を持つ。第三に資本へのアクセス。2000年代初頭のベアマーケットでは、ウェブバンやペッツドットコムのアイデア自体は悪くなかったが、資本へのアクセスが途絶えた。今日のインスタカートやチューイーを見れば、アイデアの時期尚早さが問題だったことがわかる。
Mauboussinは、カーネギーメロン大学のSteven Klepperの研究を引用し、ほとんどの産業が「参入急増→淘汰・統合」というパターンをたどることを指摘する。淘汰期は産業自体は成長を続けながら、少数の企業が果実を享受するため、投資にとって興味深いタイミングとなる。自動車、ラジオ、インターネット、ディスクドライブなど、多くの産業でこのパターンが確認できる。
スキルと運の切り分け — パラドックス・オブ・スキル
Mauboussinの著書『The Success Equation』の中核テーマであるスキルと運の切り分けは、彼が『Moneyball』に触発されて発展させた概念である。スキルとは「知識を即座に実行・パフォーマンスに適用する能力」であり、運は「個人や組織に生じる良い/悪い出来事で、時間を巻き戻せば異なる結果が生じた可能性が合理的に期待できるもの」と定義される。
活動は「スキル100%・運0%」(チェス、陸上競技)から「スキル0%・運100%」(ルーレット、宝くじ)までの連続線上に位置づけられる。そして、進化生物学者スティーブン・ジェイ・グールドから着想を得た「パラドックス・オブ・スキル」が重要である。絶対的なスキル水準は史上最高に達しているが、相対的なスキル格差は縮小している。NBAが国内リーグからグローバルリーグに変わったように、競争の場が広がり、最高の選手と平均的な選手の差は縮まっている。その結果、スキルが高いほど運の重要性が相対的に増す。二人の超一流プレイヤーがほぼ互角なら、結果はコイン投げのように見える。
このパラドックスは投資の世界にも当てはまる。アクティブ・マネージャーの超過リターン(アルファ)の標準偏差は時間とともに減少しており、これはまさにパラドックス・オブ・スキルが予測する現象である。一方、ベンチャーキャピタルにはパフォーマンスの持続性(persistence)が見られる。トップ10〜20%のファンドは長期にわたって好成績を維持する。Mauboussinの仮説は「優先的アタッチメント(preferential attachment)」である。トップファンドは最高のディールフローを引き寄せ、そのブランドがさらなる好機を生むという好循環が働く。ただし、これはランダムな幸運から始まる可能性もある。パートナーが独立した場合、そのパフォーマンスが持続するかどうかがスキル説と優先的アタッチメント説を検証するテストになる。
意思決定の質を高める四つのツール
Mauboussinが最も強調するのは、優れた投資家と平均的な投資家を分けるのは意思決定の質と気質であるという点だ。彼は四つの実践的ツールを推奨する。
第一に「ベースレート」。問題に直面したとき、私たちは情報を集め自分の分析で未来を予測する「インサイド・ビュー」を取りがちだが、ベースレートは「この問題をより大きな参照クラスの一例として考え、他の人が同様の状況でどうなったかを見る」というアウトサイド・ビューを強制する。カーネマンとトベルスキーの有名な実験では、「シャイで内向的、几帳面で細部にこだわる」という人物描写から、人々は「図書館司書」を選ぶが、実際には農家の数が10〜20倍多いため、ベースレートに従えば「農家」が正解である。
第二に「プレモーテム」。投資を行ったと仮定し、未来に飛んでその投資が失敗した理由を、各自が独立して200字の新聞記事として書く。投資の重荷がない状態で考えることで、見落としていたリスクを発見できる。
第三に「レッドチーミング」。サイバーセキュリティの「レッドチーム(攻撃側)」のように、組織的に prevailing view に挑戦するチームを設ける。組織は同質的思考に陥りやすいため、外部からの挑戦が不可欠である。
第四に「ジャーナリング」。意思決定の記録を残し、定期的にレビューする。結果が良くても、それが正しい理由によるものか、単なる幸運かを検証する。確率的に「X%の確率でY日までに起こる」と記録すれば、後でスコアリングシステムとして活用できる。
ウォーレン・バフェットの再現可能性と未来の10兆ドル企業
BenとDavidの間で交わされた「次のウォーレン・バフェットは現れるか」という議論に対し、Mauboussinはパラドックス・オブ・スキルの観点から答える。グールドが示したように、テッド・ウィリアムズの.406打率やジョー・ディマジオの56試合連続ヒットのような記録は、スキルと運の両方が必要であり、スキルの均質化が進む現代では再現が極めて困難になっている。ビル・ミラーのS&P500連続15年超過達成も同様だ。バフェットの1950〜60年代のパートナーシップ時代の驚異的なリターンは、はるかに小さなファンドで、競争も少なかった時代のものだ。
10兆ドル企業の可能性については、Mauboussinは「いずれはあり得る」としながらも、現在の低金利環境がバリュエーションに与える影響を考慮する必要があると指摘する。10年国債利回りが1.3%という水準は、20年前には誰も予想しなかった。低割引率と高成長・高リターンの組み合わせは、理論上、価値を劇的に押し上げる。しかし、すべての資産クラスで期待リターンは抑制されるべきだと警告する。
興味深いデータとして、2001年の時価総額トップ10企業と2021年のトップ10を比較すると、両方に名を連ねているのはマイクロソフトのみである。マイクロソフトを除く9社に投資した場合、20年間で4,600億ドルの価値が減少したことになる。一方、アップルは100億ドル未満から2.4兆ドルへ、アマゾンは60〜70億ドルから1.6兆ドルへと成長した。現在のトップ10のうち3社は2001年に未公開、2社は未創業だった。この事実は、20年後のトップ10が現在と全く異なる構成になる可能性を示唆している。
まとめ
このエピソードが聴き手に残す最大のものは、「価格から逆算して考える」という思考の枠組みそのものである。市場が織り込んでいる期待を理解し、自らの分析と比較するというアプローチは、どんな市場環境でも通用する普遍的なツールだ。また、スキルと運のパラドックスは、投資家に謙虚さを促す。どれほど優れたスキルを持っていても、相対的なスキル格差が縮小する世界では、運の役割は無視できない。そして、意思決定の質を高めるための具体的なツール群(ベースレート、プレモーテム、レッドチーミング、ジャーナリング)は、すぐに実践可能な価値あるアドバイスである。Mauboussinの知的誠実さと、複雑な概念を明晰に説明する能力が光る、投資家必聴の一時間半だった。
要点
- 期待値投資の核心は「現在の株価が合理的であるために何を信じる必要があるか」を逆算することであり、自らのバリュエーションモデルを市場と比較するよりも確率的思考を促進する
- 無形資産投資(R&D、ブランディング、顧客獲得費用など)は2001年から2021年にかけて設備投資の2倍に拡大したが、会計上は費用として扱われるため、キャッシュフロー分析の重要性が増している
- 競争優位(堀)の定義は「投下資本コストを上回るリターンを生み出し、かつ競合より優れていること」であり、低コスト生産者(低マージン・高回転)と差別化(高マージン・低回転)の二類型に分類できる
- パラドックス・オブ・スキル:絶対的なスキル水準は史上最高だが、相対的スキル格差は縮小しており、結果として運の重要性が相対的に増している
- ベンチャーキャピタルにはパフォーマンスの持続性が見られるが、これは「優先的アタッチメント」(トップファンドが最高のディールフローを引き寄せる好循環)による可能性が高い
- 意思決定の質を高める四つの実践的ツール:ベースレート(参照クラスからの学習)、プレモーテム(失敗の事前想定)、レッドチーミング(組織的挑戦)、ジャーナリング(確率的記録と振り返り)
- 2001年の時価総額トップ10企業のうち、2021年もトップ10に残ったのはマイクロソフトのみであり、長期の産業構造変化の大きさを示している
- 低金利環境下ではすべての資産クラスで期待リターンが抑制される可能性が高く、投資家は「イージーゲーム」(自分が最も賢いプレイヤーになれる市場)を探すべきである