
インタビュー:ハミルトン・ヘルマー & シー・チェンイーが語る、AWSのような第二の事業の築き方
- インタビュー:ハミルトン・ヘルマー & チェンイー・シーが語る、AWSのような第二の事業をどう築くか 既存の事業で成功を収めた企業が、どのようにして第二の成長エンジンを生...
- [0:00] 7つのパワー:なぜイノベーションだけでは不十分なのか ハミルトン・ヘルマーは、自身の戦略理論の原点を、ジョセフ・シュンペーターの「経済的活力の源泉は起業家セ...
- 彼がスタンフォードの授業で使ったという有名な例えがある。1970年代に大成功した初の携帯電卓「Bomar」と、iPod。どちらも圧倒的なプロダクト・マーケット・フィットを...
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Acquired / Ben Gilbert and David Rosenthal
インタビュー:ハミルトン・ヘルマー & チェンイー・シーが語る、AWSのような第二の事業をどう築くか
既存の事業で成功を収めた企業が、どのようにして第二の成長エンジンを生み出すのか。『7 Powers』の著者ハミルトン・ヘルマーと彼の戦略コンサルティングファームStrategy Capitalの共同研究者チェンイー・シーが、Acquiredのホストであるベン・ギルバートとデイビッド・ローゼンタールを相手に、この「変革(トランスフォーミング)」の問いに対する初の体系的フレームワークを披露した。S&P 100企業の利益の約50%が元々の事業以外から生まれているという驚くべきデータを皮切りに、なぜ多くの企業が第二の事業で失敗するのか、そして成功する企業は何が違うのかを、具体的な事例とともに深掘りする。会話はアカデミックな厳密さと実務家のリアリズムが絶妙に混ざり合い、時にホスト陣を「専門家を困らせた」と笑わせる軽妙さも見せた。
7つのパワー:なぜイノベーションだけでは不十分なのか
ハミルトン・ヘルマーは、自身の戦略理論の原点を、ジョセフ・シュンペーターの「経済的活力の源泉は起業家セクターの強さにある」という洞察に求める。シリコンバレーはその中心地だが、ビジネス戦略という学問は本当に起業家の役に立つのか——この問いが彼の出発点だった。
彼がスタンフォードの授業で使ったという有名な例えがある。1970年代に大成功した初の携帯電卓「Bomar」と、iPod。どちらも圧倒的なプロダクト・マーケット・フィットを達成し、Bomarは数年で売上を300万ドルから1億ドルにまで伸ばした。しかしBomarは今や誰も知らない。iPodはiPhoneへの布石となり、Appleのビジネスモデルの基盤となった。「イノベーションや破壊的技術だけでは不十分」だとハミルトンは言う。破壊的であることと、長期的な収益性は相関しないのだ。
では、何が違いを生むのか。鍵は「持続性(persistence)」にある。Appleの収益性は来期も、4四半期先も、高い確率で予測できる。これはランダムではない。ベゾスが「今期は3年前に決まっている」と言うのも、この持続性を指している。ハミルトンは長年の研究の末、この持続性を生み出す経済構造はたった7つしかないと結論づけた。それが『7 Powers』の核心だ。そして重要なのは、プロダクト・マーケット・フィットとパワーは直交しているという点。ベンが「パワーは城を守るためのもので、良いアイデアかどうかとは別の『第二の発明』だ」と要約すると、ハミルトンは「まさにそれだ」と応じた。
ただし、ハミルトンは近年の起業家との対話から考えをアップデートしている。かつては「プロダクト・マーケット・フィット→パワー」という順序を想定していたが、実際には両方を同時に考えるべきだという。起業家が日々の選択をする中で、プロダクト・マーケット・フィットの問いとパワーの問いは混在している。パートナーのビルが言うように、7 Powersは戦略を「記述問題から選択問題に変える」フレームワークなのだ。
コーポレート戦略とビジネス戦略の違い、そして「変革」の重要性
チェンイー・シーは、7 Powersを「認知的レバレッジ」と表現する。起業家は95%の時間をオペレーションの卓越性に費やすが、残りの5%の戦略的問いが最終的なマージン構造や競争力を決める。パワーのフレームワークは、その5%の中でも「何が本当に重要なのか」を特定するのに役立つという。
ここでハミルトンは、ビジネス戦略とコーポレート戦略の違いを明確にする。ビジネス戦略は「単一の防御可能な事業単位でいかにパワーを見つけるか」であり、コーポレート戦略は「なぜ1+1が2より大きくなるのか」という多事業体における価値創造の問いだ。かつてGEのようなコングロマリットがもてはやされたが、分散投資のメリットは幻想だったことが証明された。
そして「変革(トランスフォーミング)」とは、このコーポレート戦略の動的側面を扱う。すなわち、現在の事業が持つ何かが、別の事業を成功に導くためにどう役立つのか。ハミルトンが2007年にS&P 100企業を分析した結果、利益の約50%が元々の事業以外から生まれていた。テック業界に限れば、AWS、IntelのCPU事業への参入、AppleのiPhone、GoogleのAndroid、MicrosoftのOSからアプリへの拡張——これらはすべて「変革」の成功例だ。
しかし、変革は重要であると同時に、極めて難しい。特に初めて成功を経験した創業者は、その成功がどれだけスキルによるものか、どれだけ運によるものかを判断できない。同じプロセスを繰り返せば再び成功するという思い込みは危険だ。またVCコミュニティはトップライン成長に焦点を当てる傾向があり、パワーの理解が後回しになりがちだ。
なぜ「顧客の声を聞け」だけでは不十分なのか:パワーという欠けているピース
チェンイーは、変革に関する一般的なアドバイス——「顧客の声を聞け」「TAMを拡大せよ」「地理的拡大」「コアコンピタンスを追求せよ」——がなぜ不十分なのかを指摘する。これらのフレームワークは経済的価値の創造については語るが、価値の捕捉(キャプチャー)については語らない。つまり、プロダクト・マーケット・フィットとパワーを混同しているのだ。
ハーバード・ビジネス・レビューで最も読まれた記事の一つ「マーケティング近視眼」を例に挙げる。鉄道会社は自らを「輸送会社」と広く定義すべきだというこの主張は、一見もっともに聞こえる。しかし、この考え方に従えば成功するとは限らない。ディズニーはアニメーションからテーマパーク、エンターテインメント全般へと拡大して成功した。一方、Uberは「モビリティ」という広い定義のもと、スクーター、自転車、ヘリコプター、さらには空飛ぶ車にまで手を広げたが、結果は芳しくなかった。
問題は、これらのアドバイスが「どこに次のプロダクト・マーケット・フィットがあるか」というアイデアの生成には役立っても、その中から「どれが本当に最善の選択肢か」を評価する基準を提供しないことだ。チェンイーは言う。「パワーの理解こそが、欠けているリンクなのです。」
ビジネス定義の重要性:あなたのパワーの傘はどこまで広がっているか
ここでハミルトンが導入するのが「ビジネス定義(business definition)」という概念だ。これは「あなたの現在の事業の境界線はどこにあるのか」という問いである。
Uberの国際展開とNetflixの国際展開を比較してみよう。Netflixが韓国でストリーミングを始める場合、コンテンツ開発の固定費を複数国で分散できる。同じパワーの傘の下での拡大だ。一方、Uberが中国に進出する場合、技術プラットフォームは持ち込めるが、ドライバーとライダーの両面市場をゼロから構築しなければならない。Uberのパワーが地理的な密度に依存している以上、中国市場は別のビジネスであり、パワーの傘は及ばない。結果、Uberは中国で数十億ドルを失った。
この考え方をNintendoに適用すると面白い。一見、花札(ヤクザが主要顧客だった)からテレビゲーム機への転換は大きな飛躍に見える。しかし、Nintendoが一貫して持っていたのは「絶対的な流通網の支配力」だった。玩具問屋からゲーム小売りへ、そのチャネル支配力がパワーの源泉だったのだ。
チェンイーは、特にテック業界で重要な3つのパワータイプとして「規模の経済」「ネットワーク経済」「スイッチングコスト」を挙げる(カウンター・ポジショニングは既存企業に対するものなので、第二事業の文脈では除外)。Uberの例で言えば、もしコアのパワーが「規模の経済」(技術プラットフォームの固定費分散)なら国際展開は合理的だが、実際のコスト構造の大部分は顧客獲得にある。だとすれば、目指すべきは「ネットワーク経済」だが、そのネットワークの範囲は地理的に強く制限される。つまり、新しい都市や国はすべて「新しいビジネス」なのだ。
ここで重要なのは、パワーの理解は「粒度的に、かつ残酷なまでに正直に」行わなければならないという点だ。表面的な類似性に惑わされてはいけない。
コアクション:パワーの傘が及ばないときの最善の選択肢
では、現在のパワーの傘の下で拡大できない場合、どうすればいいのか。ハミルトンは2x2マトリクスを提示する。縦軸は「同じスキルかどうか」、横軸は「同じニーズかどうか」。
- 左上(同じニーズ、異なるスキル)=「再発明(reinvention)」:Netflixのストリーミングへの移行が典型。既存顧客の同じニーズに応えるが、全く新しいスキルが必要。カウンター・ポジショニングになりやすく、既存事業の権益を持つ社内勢力とのエージェンシー問題が発生する。創業者の強力なスポンサーシップが不可欠だ。
- 右下(異なるニーズ、同じスキル)=「コアクション(coaction)」:ここにこそ、変革の最大のチャンスがある。S&P 100企業が生み出した新たな価値の約90%はこのカテゴリーに該当する。AWSが典型だ。Amazonの顧客はAWSを求めていたわけではない(異なるニーズ)が、大規模インフラ運用のスキルはそのまま活かせた。
- 左下(異なるニーズ、異なるスキル)=「純粋な多角化」:ほとんど成功しない。新規事業をゼロから始めるのと同じで、大企業の官僚制が足かせになる。むしろ、社内の起業家精神のある人材にスピンアウトさせるか、財務的に投資する方がマシだ。
- 右上は現在の事業そのもの。
コアクションの好例がAppleだ。iPod、iPhone、iPad、AirPods——これらはすべて顧客にとっては「異なるジョブ」だが、Appleはそれらを構築するスキルを社内に持っていた。一方、Apple Carは異なる。自動車にはAppleが持っていないスキル(製造、サプライチェーン、規制対応など)が必要で、これは純粋な多角化に近い。プロジェクトは何度も戦略変更を繰り返し、いまだに商業化の目処は立っていない。
ただし、ハミルトンは強調する。「これは機械的なプロセスではない。起業家個人の創造性が不可欠だ。私たちが提供できるのはパターン認識の道具であって、それに代わるものではない。」
M&Aと変革:なぜ買収は売り手にとって有利なのか
変革の手段としてのM&Aについて、ハミルトンは核心的な問いを投げかける。「なぜこの資産は、売り手にとってよりも、買い手であるあなたにとって価値が高いのか?」情報の非対称性は常に売り手側にある。膨大な金融分析の蓄積は、平均的に見れば買収側は損をし、売り手が得をすることを示している。
コスト削減を謳う買収は往々にして失敗する。大組織には規模の経済だけでなく「規模の不経済」も存在し、両者は相殺される傾向がある。成功する買収の共通点は、コスト削減ではなく「新たな収益の創出」にある。ディズニーによるピクサー、マーベル、ルーカスフィルムの買収が好例だ。アイガーは、十分に活用されていない強力なブランド(フランチャイズ)を取得し、ディズニーの流通力で最大限に収益化した。これは「なぜ私にとって価値が高いのか」という問いに明確に答えている。
チェンイーは、エンタープライズSaaSの買収パターンについて補足する。SalesforceやMicrosoftが製品を買収して自社の販売網に乗せるケースは、成功確率が高い。なぜなら、買収対象の製品は買い手の既存のパワー構造(スイッチングコスト)に完全に適合するからだ。ただし、ここには注意点がある。スイッチングコストは非排他的であり、競合他社も同様の製品を持てば、顧客獲得競争が激化し、スイッチングコストがあっても利益が出ない状況に陥る可能性がある。
パワーの傘を理解しないことのリスク:Diners Clubの悲劇
パワーの傘を過小評価することは、競争上の致命的な隙を生む。Diners Clubの事例はその典型だ。Diners Clubは特定のレストラン向けのチャージカードとして始まり、その後「多くのレストランで使えるカード」に拡大した。しかし、彼らは自社のビジネスを「決済プラットフォーム」として定義できなかった。つまり、できるだけ多くの購買タイプをカバーすべきプラットフォームであることを理解できなかったのだ。その結果、Bank of AmericaがBankAmericard(後のVisa)を立ち上げ、ユニバーサルカードの市場を席巻した。Visaの営業利益率は現在50%に達する。
Blockbusterも同様だ。強力な流通網と顧客関係というパワーを持ちながら、それをストリーミング事業に活かせなかった。もし彼らがNetflixより1年早くレッドエンベロープ事業を始めていれば、Netflixは生き残れなかったかもしれない。
ボーナス:Nintendoのパワーは規模の経済かネットワーク経済か
AcquiredのNintendoシリーズでベンとデイビッドが議論した問い——Nintendoのパワーは「規模の経済」か「ネットワーク経済」か——に対して、チェンイーは「両方」と答える。Nintendoはプラットフォーム事業者であり、自社タイトル(マリオなど)は垂直統合による生産者としての規模の経済が働く。一方、サードパーティ(ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーなど)との関係はネットワーク経済の性質を持つ。1980年代には他に viable なプラットフォームがなかったため、両方の経済構造が観察されたのだ。
ただし、ここには因果関係の深い問いがある。Amazonのリテール事業を考えてみよう。Amazonは物流インフラで圧倒的な規模の優位性を持つ。しかし同時に「買い手が増えれば売り手が増え、さらに買い手が増える」というフライホイール(ネットワーク効果)も観察される。チェンイーは「観察されるネットワーク効果は、実はインフラの規模のパワーが生み出した効果に過ぎない可能性がある」と指摘する。原因と結果を混同してはいけない。守るべきは原因の方だ。
まとめ
このエピソードの核心は、変革(トランスフォーミング)を「運任せのギャンブル」から「構造的に理解可能な戦略的選択」に引き上げた点にある。ハミルトンとチェンイーが提示したフレームワーク——①現在のパワーを残酷なまでに正直に特定する、②そのパワーの傘がどこまで広がっているかを理解する、③傘の内側なら積極的に進出する、④傘の外ならコアクション(同じスキルで異なるニーズ)を探す——は、一見シンプルだが、その適用には深い洞察と粒度の細かい分析が必要だ。特に印象的だったのは、成功した創業者ほど「自分の成功を過大評価し、新しい事業でも同じ方法が通用する」と思い込む危険性への警告と、パワーの傘を過小評価したDiners Clubの悲劇の対比である。理論は決して完成しない——チェンイーが言うように「常に進行形」であり、それがこの分野の魅力でもある。リスナーは、自社の「第二の発明」を考える際に、このエピソードで得たパターン認識を武器にできるだろう。
要点
- S&P 100企業の利益の約50%は、元々の事業以外から生まれている。変革は重要だが、成功は難しい。
- 変革の第一歩は、現在の事業のパワーを「粒度的に、かつ残酷なまでに正直に」特定すること。表面的な類似性に惑わされてはいけない。
- パワーの傘が及ぶ範囲での拡大(同じパワー構造が通用する新セグメント)は、新規事業をゼロから始めるより「桁違いに」リスクが低い。
- パワーの傘が及ばない場合、最も成功確率が高いのは「コアクション」——同じスキルセットで異なる顧客ニーズに応えること。S&P 100の新規価値の約90%はここから生まれた。
- 「顧客の声を聞け」「TAMを拡大せよ」といった一般的なアドバイスはアイデア生成には有効だが、価値の捕捉(キャプチャー)については考慮しておらず、変革の成否を予測する理論にはならない。
- M&Aの成功条件は「なぜこの資産は売り手よりも買い手にとって価値が高いのか」に明確に答えられること。コスト削減ではなく、新たな収益創出が鍵。
- パワーの傘を過小評価し、自社のビジネス定義を狭く捉えることは、競争相手に市場を奪われる致命的な隙を生む(Diners Club vs. Visaの事例)。
- 変革は機械的なプロセスではなく、起業家個人の創造性と適応力が不可欠。理論はパターン認識の道具であり、それ自体が目的ではない。