
ハワード・マークス & アンドリュー・マークス: 価値あるもの
- 概要 伝説的なバリュー投資家ハワード・マークス(オークツリー・キャピタル共同創業者)とその息子アンドリュー・マークス(TQベンチャーズ共同創業者)が、投資の世界で長年対立...
- [5:57] メモ「Something of Value」誕生の背景 ハワード・マークスは1990年から投資メモを書き続けており、これまでに約160本を執筆してきた。その...
- このメモが生まれた背景には、COVID-19パンデミックがあった。2020年3月6日、ハワードと妻のナンシーはカリフォルニアに到着。オークツリーは3月11日に予定していた...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
Acquired / Ben Gilbert and David Rosenthal
概要
伝説的なバリュー投資家ハワード・マークス(オークツリー・キャピタル共同創業者)とその息子アンドリュー・マークス(TQベンチャーズ共同創業者)が、投資の世界で長年対立軸とされてきた「バリュー投資」と「グロース投資」は実は同じコインの裏表であるという、ハワードの全キャリアで最も人気となったメモ「Something of Value」の執筆に至った経緯を語る。父と息子という関係性ならではの温かみと緊張感が交錯する会話の中で、投資哲学、市場の進化、企業構築、そして「売却」という行為の本質にまで踏み込んだ、知的刺激に満ちた一時間となっている。
メモ「Something of Value」誕生の背景
ハワード・マークスは1990年から投資メモを書き続けており、これまでに約160本を執筆してきた。その中で「Something of Value」は彼のキャリア全体で最も人気のあるメモとなった。それまでの最多読者数を誇っていたのは「Luck」というメモで、自身の幸運について語った個人的な内容だった。
このメモが生まれた背景には、COVID-19パンデミックがあった。2020年3月6日、ハワードと妻のナンシーはカリフォルニアに到着。オークツリーは3月11日に予定していたクライアント向けカンファレンスを中止したが、会場でライブストリーミング用の収録は行った。3月13日、アンドリューとその家族が彼らのもとに移り住み、6月まで一緒に「監禁生活」を送ることになった。
この共同生活の中で、父と息子は自然と投資について議論を交わすようになった。ハワードは「私たちは同じ人間ではない。アンドリューのビジネスは私のものとは違い、彼の考え方も異なる。彼が学んだことは、私が40年前に学んだこととは異なる」と語る。アンドリューは幼少期から投資に熱中していたが、最初は父親の価値観をそのまま受け継ぐバリュー投資家だった。その後、バフェットの手紙を読み漁り、次第にグロース寄りの投資へと進化していった。この自身の変遷があったからこそ、父の言語で対話できたのだという。
ハワードは、アンドリューがキーボードに触れることはなかったと冗談めかして語るが、アイデアの多くはアンドリューからのカウンターポイントとして生まれた。この父と息子の対話が、投資界に衝撃を与えるメモを生み出したのである。
アマゾンに学ぶ価値と成長の融合
アマゾンは、バリュー投資とグロース投資の二分法を考える上で格好のケーススタディである。アンドリューは、典型的なバリュー投資家が重視する「馬鹿でも経営できるビジネス」というバフェットの考え方とは対照的に、アマゾンは経営陣への信頼とオプショナリティの重要性を示す例だと指摘する。書籍小売りからスタートしたアマゾンがAWSを生み出したことは、創業者の能力を信じることの価値を如実に示している。
ハワードはオークツリーの視点から、アマゾンには投資しなかったと明かす。オークツリーは信用市場に特化しており、テクノロジー企業とはほとんど接点がなかった。また、同社は「予測可能性」を非常に重視しており、アマゾンのような企業は「難しすぎる山」として扱われたのだ。
アンドリューはさらに、アマゾンの財務分析の難しさについて語る。長年にわたり、アマゾンは「利益を出せない慈善事業」と批判されてきた。しかし、実際には損益計算書よりもはるかに早い段階で、キャッシュフロー計算書上では健全なビジネスモデルを確立していた。マイケル・モーブッサンが書いた「cashflow.com」というリサーチノートが、この真実を正しく捉えていたという。
この議論から浮かび上がるのは、表面的な知識で投資判断を下す危険性である。バリュー投資家はキャッシュフローとEPSの最大化を追求し、グロース投資家は将来の成長のために損失を正当化する。しかし、どちらの立場も絶対化すべきではない。マーク・トウェインの言葉を借りれば「すべての一般論は間違っている。この一般論も含めて」なのである。
ハイイールド債とニフティ・フィフティの教訓
ハワードがハイイールド債(ジャンク債)投資の先駆者となった経緯は、投資における「柔軟性」の重要性を物語っている。1969年にシティバンクの投資調査部門に入社した彼は、当時「ニフティ・フィフティ」と呼ばれる優良成長株に投資する環境に身を置いていた。ニフティ・フィフティとは「何も悪いことは起こらない」「値段が高すぎることはない」と信じられていたアメリカ最高の成長企業群である。
しかし、ハワードが入社した日にニフティ・フィフティを買い、5年間保有し続けた場合、ほとんどすべての資金を失っていたという。IBM、ゼロックス、シンプリシティ・パターンズなど、誰もが安全だと思った企業が軒並み大打撃を受けた。当時の標準的なPERは16倍だったが、これらの銘柄は60倍から90倍で取引されていた。
一方、ハワードが債券部門に異動した1978年、彼は「誰もやらない」ハイイールド債に挑戦することになる。当時、格付けBの債券はムーディーズのマニュアルで「望ましい投資の特性を欠く」と定義され、ほとんどの投資機関はA格以下やトリプルB格以下の債券を買うことを禁じていた。しかし、ハワードはヒックマンの研究書から「低格付けの債券ほど実際のリターンが高い」という事実を発見する。
この逆説を説明するために、ハワードは生命保険会社のアナロジーを用いる。「生命保険会社は、すべての人がいつか死ぬことを知りながら、どうやって保険を販売できるのか?」その答えは、リスクを認識し、分析し、分散し、そして十分な対価を得ているからだ。ハイイールド債も全く同じロジックで運用できる。この洞察が、ハワードのその後のキャリアを形作ったのである。
変化する世界と投資の難易度
アンドリューは、技術採用のスピードが加速していることを指摘する。1950年代に「10年後も同じビジネスを続けている」と高い確信を持って言えた企業は多かったが、今日ではその数は劇的に減少している。「馬鹿でも経営できるビジネス」はほとんど存在しなくなったのだ。
ハワードは自身の若かった1950年代から70年代を振り返り、当時は世界が変化しているという感覚がほとんどなかったと語る。「舞台の背景は変わらず、役者だけが動く」ような世界観だった。コミックの値段は彼の少年時代を通じて10セントのままであった。しかし今日では、すべてが毎瞬変化している。
この変化は投資家にとって二面性を持つ。一方で、企業の堀(モート)は以前ほど永続的ではなくなり、将来の不確実性は高まった。しかし他方で、競争優位を持つ企業は、グローバル市場や戦略的に隣接する市場に進出することで、かつてないほどの価値創造が可能になっている。アマゾンが書籍からメディア、そしてクラウドコンピューティングへと事業を拡大したように。
アンドリューは、ブライアン・アーサーの論文「Increasing Returns in the New World of Business」(1990年代半ば)を引用する。この論文は、インターネットのような新しい流通モデルにより、最高の企業は拡大を続けられる一方、旧来の世界では規模の限界があったと指摘した。実際、アップル、アマゾン、グーグル、マイクロソフトはその後数十年で驚異的な成長を遂げた。ちなみに、この論文の散文は作家コーマック・マッカーシーが推敲したというトリビアも紹介された。
市場の進化と情報優位性の消失
アンドリューはポーカーのアナロジーを用いて市場の進化を説明する。2003年のクリス・マネーメーカーによるWSOP優勝をきっかけにオンラインポーカーがブームとなった当初、誰もが初心者だったため、エースとキングだけをプレイする単純な戦略で勝つことができた。しかし時間とともに、その戦略は誰にでも知られ、搾取可能なものとなった。市場も同じ進化を遂げている。
バフェットが投資を始めた時代、企業情報を入手することは極めて困難だった。図書館でムーディーズ・マニュアルを調べ、年次報告書を郵送で取り寄せ、ブローカーに電話して流動性のある株式を購入する方法を尋ねる必要があった。情報と取引にこれほど摩擦があったからこそ、「値打ちのあるものが隠れている」ことが可能だった。
しかし今日、情報は完全にユビキタス化し、誰でも株式を売買でき、無数の賢い投資家やアルゴリズム、機械学習が市場に参加している。ハワードがシカゴ大学で学んだ「効率的市場仮説」は、完全に正しいわけではないが、時間とともにより真実味を増している。
非効率性(つまり市場の誤った価格付け)は「無知と偏見」から生まれる。ムーディーズがシングルB債に対して持っていた偏見、投資家がニフティ・フィフティに対して持っていた偏愛がその例だ。しかし、人間の知識は累積的に前進しており、インターネットで誰でも入手できる情報に投資優位性はない。投資はゼロサムゲームであり、知識やスキルで優位に立つ者だけが勝者となる。
ベンチャー投資とバリュー投資の相補性
アンドリューがベンチャー投資に軸足を移した理由は、自身のスキルセットに合致していたからだ。彼は「将来に関する長期的な定性判断」を下すことに長けており、ベンチャー投資では「今日支払う価格と、成功した場合の将来価値のギャップ」を見極める能力が求められる。これは、公開市場の投資家に求められる分析とは異なる性質のものだ。
ベンチャー投資は本質的に確率的な営みである。ほとんどの投資は損失になるが、ごく一部の成功が全体のリターンを押し上げる。アンドリューは「高い期待値を持つ投資」を見つけ、成功している企業に追加資金を投入する戦略を取る。このアプローチは、ハワードが重視する「永続的な資本損失の回避」とは根本的に異なる。
ハワードは自身の性格を「楽観主義者ではない」「未来学者ではない」「経済的には小心者」と表現する。1978年に株式調査部門から債券部門に異動したのは、ニフティ・フィフティの惨状を目の当たりにしたからだ。「メルクとリリーのどちらを選ぶか」という選択に人生を費やしたくなかったという。もし当時「ベンチャーキャピタルを始めろ」と言われていたら、大失敗していただろう。
重要なのは、自分に合った投資スタイルを見つけることだ。アンドリューは楽観主義者として「うまくいったらどうなるか」を考えるのが好きであり、ハワードは悲観主義者として「この企業は思われているほど悪くない」という逆張りの視点で成功してきた。どちらが正しいかではなく、自分に適した領域で勝負することが肝要なのである。
投資ファームの構築と文化
ハワードは、優れた投資家であることと優れた投資ファームを構築することは全く異なる挑戦だと指摘する。オークツリーは1988年、ハワードとブルース・カーシュを含む5人の創業者によって設立された。彼らは平均9年間一緒に働いた後だったため、ゼロから関係性を構築する必要はなかった。
オークツリーの成功の鍵は「補完的なスキル」と「共有された価値観」にあった。ハワードは資金調達とクライアント対応を担当し、ブルースと他のメンバーは投資運用に専念した。全員が家族を大切にし、保守的で、リスク回避的という共通の価値観を持っていた。アンドリューは「もう一人くらいリスクを取れる創業者がいても良かったかもしれない」と冗談を交えて指摘するが、それでもオークツリーは十分に成功した。
対照的に、TQベンチャーズのアプローチは全く異なる。アンドリューとパートナーのシュスターは、投資プログラムとソーシング、投資判断のすべてを自ら行う。彼らのモチベーションは「長期間にわたってワールドクラスのリターンを出すこと」であり、ファームを大規模な資産運用会社に拡大する野心はない。もし仕事が投資からマネジメントに変われば、彼らは極めて不幸になるだろう。
TQの競争優位は、創業者との評判とネットワークにある。アンドリューは「創業者を助け、偉大なパートナーであり友人であること」がファーム構築の核心だと語る。ハワードが外部向けのメモや講演でブランドを築いたのに対し、アンドリューは表に出ることを避け、創業者との直接的な関係構築に集中している。どちらのアプローチが正しいかではなく、自分たちに合った方法を選ぶことが重要なのである。
判断力の源泉と第二レベルの思考
投資において最も重要なのは「判断力(ジャッジメント)」である。ハワードは2011年にチャーリー・マンガーと昼食を共にした際、マンガーから「覚えておけ、これは簡単だと思ってはいけない。簡単だと思う者は愚か者だ」と言われたという。投資の原則はシンプルだが、それを他者より優れて、一貫して、長期間実行することは決して簡単ではない。
ハワードの著書『最も重要なこと』の第1章では「第二レベルの思考」について論じられている。これは、他の人々とは異なる、より高次の、そしてより正しい思考のことだ。コンセンサスから乖離することは容易だが、正しく乖離することは難しい。この「第二レベルの思考」は教えられるものなのかという問いに対して、ハワードは「バスケットボールのコーチが選手を背の高くすることはできない」と答える。ある人は理解し、ある人は理解しない。それだけのことだ。
アンドリューは判断力の構成要素として、深い知識と理解、合理性(論理的かつ非感情的に考える能力)、そして知的謙虚さを挙げる。特に重要なのは「自分が何を知らないかを知ること」であり、意見を述べられない領域を認識し、学ぶべきことや他者に相談すべきことを理解することだ。
ハワードは人材採用においても判断力を見極める必要があった。オークツリーは1,000人以上の従業員を擁するまでに成長したが、彼らが求めたのは「スマートな目」を持つ人材だった。直感的に物事を理解できるかどうかが重要であり、「低油価の治療法は低油価である」という逆説を理解できるかどうかが一つの試金石だった。また、チームプレイヤーであること、アイデアを交換し、上下関係なく他者から学べることも重視した。オークツリーは個人の1年間の定量的パフォーマンスで報酬を決めることはせず、「一匹狼」や「獲った獲物は自分で食え」タイプの人材は求めなかった。
売却の決断と複利の力
このエピソードで最も活発な議論が交わされたのが「売却」のテーマである。ハワードは保守的な背景から「利益を確定する」「テーブルからいくらか資金を引き上げる」傾向があった。「半分売れば、完全に間違うことはない」という考え方だ。しかし、これはアンドリューの扱うような大きな可能性を持つ証券には適さない。
アンドリューは、売却の判断は「なぜその投資をしたのか」「何を狙っているのか」「機会費用は何か」という根本に立ち返るべきだと主張する。多くの投資家は、価格変動(上がったから売る、下がったから売る)に基づいて判断するが、これは本質から外れている。重要なのは、価格変動とファンダメンタルズを混同しないことだ。
具体的な例として、50セントで買える1ドルの価値がある契約を考えよう。これが1ドルに値上がりしたら、本来は売るべきだ。しかし、毎年20%で価値が複利する契約を50セントで買った場合、1ドルに値上がりしても売るべきではない。翌年には1.20ドル、その翌年には1.44ドルと価値が増加するからだ。このような「複利証明書」とも言える企業は極めて稀だが、見つけた場合には売却は大きな過ちとなる。
チャーリー・マンガーは「人生で得られる良いアイデアは4つだけだ」と言った。アンドリューは、本当に世代を超える企業はごくわずかだが、それらを早期に売却することは壊滅的な損失だと警告する。有名なベンチャー投資家のポートフォリオの大部分は、少数の投資を長期保有し続けることで生まれている。ハワードは、この議論を「売却」ではなく「アンバイ(買い戻しの反対)」と再定義することを提案する。売却の判断は、購入の判断と同じくらい慎重に行われるべきなのである。
まとめ
このエピソードが聴き手に残す最大のメッセージは、「バリュー対グロース」という二項対立を超えた、投資の本質的な知恵である。父と息子という異なる世代、異なる投資スタイルを持つ二人が、互いの違いを尊重しながら一つのメモを書き上げたプロセス自体が、投資における「オープンマインド」の重要性を体現している。ハワードの「硬直性は収益性の最大の敵」という言葉は、投資のみならず人生のあらゆる場面に適用できる普遍的な真理だ。そして、アンドリューの「自分に合ったことを見つけよ」というアドバイスは、キャリア選択に悩むすべての人への力強いメッセージとなっている。
要点
- バリュー投資とグロース投資は対立軸ではなく、すべての株式投資は将来キャッシュフローの割引現在価値という同じ公式に基づいており、違いはキャッシュフローが「今」なのか「遠い将来」なのかの違いに過ぎない
- 市場は進化し、情報のユビキタス化により「簡単に入手できる現在の定量情報」だけでは投資優位性は得られず、将来に関する質的判断が不可欠となっている
- 投資の成功には「第二レベルの思考」が必要であり、コンセンサスから正しく乖離する能力は教えられるものではなく、深い知識と合理性、知的謙虚さから生まれる
- 自分に合った投資スタイルを見つけることが最も重要であり、ハワードは「小心者」としての性格を活かしてハイイールド債とディストレスト債で成功し、アンドリューは楽観主義者としてベンチャー投資で成果を上げている
- 売却の判断は「なぜ買ったのか」という根本に立ち返り、価格変動ではなくファンダメンタルズと機会費用に基づいて行うべきであり、真の複利成長企業を早期に売却することは壊滅的な損失となる
- 投資ファームの構築においては、補完的なスキルと共有された価値観が重要であり、オークツリーとTQベンチャーズは全く異なるアプローチを取りながらも、それぞれの方法で成功を収めている
- 投資における最大の敵は硬直性であり、時代の変化に応じて考え方を進化させ続けることが長期的な成功の鍵である