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Acquired · 2026年5月15日

複雑性投資と半導体(NZS Capitalとの対談)

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この記事でわかること
  • 複雑性投資と半導体:NZS Capitalが語る不確実性の時代における投資哲学 本エピソードは、AcquiredのホストであるBen GilbertとDavid Rose...
  • [0:00] 複雑性理論との出会い:投資家が「未来はわからない」と認めることから始まる NZS Capitalの投資哲学の根幹は、投資家としての「痛み」から生まれたとBr...
  • サンタフェ研究所は、ロスアラモス国立研究所の科学者たちが集まり、物理学者と経済学者の対話から生まれた組織だ。物理学者たちは経済学者に対して「あなたたちの理論は機能していな...
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Acquired / Ben Gilbert and David Rosenthal

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複雑性投資と半導体:NZS Capitalが語る不確実性の時代における投資哲学

本エピソードは、AcquiredのホストであるBen GilbertとDavid Rosenthalが、ヘッジファンドNZS Capitalの共同設立者Brinton JohnsとJon Bathgateを迎え、彼らの独自の投資哲学「複雑性投資(Complexity Investing)」と半導体業界への深い洞察を探求した対話である。従来の投資理論が前提とする「予測可能性」を否定し、複雑適応系としての世界観に基づく「レジリエンス(回復力)」と「オプショナリティ(選択の余地)」という二軸のポートフォリオ戦略が、いかにして長期にわたる真の価値創造を可能にするかを、具体的な企業事例とともに明らかにしている。会話は、サンタフェ研究所での蟻の研究から、TSMCの地政学的リスク、ASMLのEUVリソグラフィ技術の驚異に至るまで、知的興奮に満ちた広がりを見せた。

0:00複雑性理論との出会い:投資家が「未来はわからない」と認めることから始まる

NZS Capitalの投資哲学の根幹は、投資家としての「痛み」から生まれたとBrintonは語る。「私たちは長年投資家をやってきて、常に間違えてきました。他の投資家と同じように、一貫して頻繁に間違えるのです」。この認識から、彼らは従来の経済学とは異なる思考の枠組みを求めて、Eric Beinhockerの『The Origin of Wealth』やMitch Waldropの『Complexity』といった書籍にたどり着いた。これらの本が導いた先にあったのが、サンタフェ研究所(Santa Fe Institute)である。

サンタフェ研究所は、ロスアラモス国立研究所の科学者たちが集まり、物理学者と経済学者の対話から生まれた組織だ。物理学者たちは経済学者に対して「あなたたちの理論は機能していない。私たちの数学は原子爆弾を実際に作り出したが、あなたたちの数学は現実を説明できていない」と問いかけたという。この出発点から、複雑適応系(complex adaptive systems)という概念が生まれた。世界は相互に作用し合うシステムによって構成され、そこから「創発的挙動(emergent behavior)」が生まれるため、正確な予測はほとんど不可能であるというのが彼らの基本的な認識である。

NZSのチームは実際にサンタフェ研究所の会員となり、非科学者向けのプログラムに参加した。Brintonと共同設立者のBradはスタンフォードで開かれた複雑性のコースを受講し、そこで蟻を研究するDeborah Gordonの講義に衝撃を受けた。この経験が、彼らの投資哲学を生物学のメタファーへと方向づける決定的な瞬間となった。

5:15蟻のコロニーから学ぶ「レジリエンス」:生産性より長寿を選ぶ組織

Deborah Gordonが30年にわたってニューメキシコで研究してきた蟻のコロニーについての洞察は、NZSの投資哲学の核心を象徴している。彼女の研究によれば、コロニー内の約半数の蟻は何もしていなかった。明確な役割を持つ働き蟻は半数だけで、残りの半数はただ「ぶらぶらしている」だけだったという。

「これは非常に直感に反します。私たちは蟻を究極の生産性マシンだと考えがちですが、実際には蟻は生産性のために最適化されているのではなく、長寿のために最適化されているのです」とBrintonは説明する。この発見から彼らが得た示唆は、企業にも同様のことが言えるのではないかというものだ。ウォール街は四半期ごとの業績に執着し、S&P 500企業のCEOの平均在任期間は5年未満である。こうした短期的な生産性の追求は、長期的な回復力を損なう可能性がある。

「Warren BuffettとCharlie Mungerの『怠惰に近い laziness』という考え方は、まさにこれです」とBenは指摘する。「目標は生産性ではなく、長期的で安定したリターンと回復力なのです」。企業が成長率を犠牲にしてでも、40年、50年にわたって持続可能な成長を実現できれば、短期的なハイパーグロースを追うよりもはるかに大きな価値を生み出せるというのが彼らの主張だ。

13:18レジリエンスとオプショナリティ:二軸のポートフォリオ戦略

NZS Capitalのポートフォリオは、「レジリエンス(回復力)」と「オプショナリティ(選択の余地)」という二つの異なる性質を持つ投資で構成される。レジリエンスの側では、成長曲線のS字カーブの後半に位置し、持続可能な成長が見込める企業を選ぶ。具体的には、MicrosoftやTSMCのような企業で、ポートフォリオの半分強を占め、年間の入れ替え率は約10%と低い。これらの企業の特徴は、顧客にとっての「ミッションクリティカル性」、高いスイッチングコスト、規模の経済、そしてネットワーク効果である。

注目すべきは、彼らが伝統的な「堀(moat)」の概念に対して批判的な立場をとっている点だ。「堀」が示唆するのは、顧客をロックインして価格を引き上げる力だが、NZSはむしろ「非ゼロ和(non-zero-sumness)」、すなわち企業と顧客、パートナー、社会全体にとってのWin-Winの関係を重視する。彼らがAppleをポートフォリオに含めていないのは、この考え方に基づく。Appleは強力な堀を持つが、アプリストアの手数料を30%に設定するなど、プラットフォーム上のパートナーから過度に価値を抽出していると彼らは見ている。

「TSMCの粗利率は50%程度で、顧客であるNvidiaやQualcommよりも低い。しかし、Morris Changは創業時から、顧客が巨大なビジネスを築くためのプラットフォームを提供するという文化を築いてきました」とJohnは語る。この「創り出す価値が自らが取る価値を上回る」という原則こそが、長期的なレジリエンスの源泉だと彼らは考えている。

一方、オプショナリティの側では、約40の銘柄に分散投資し、各ポジションの上限はポートフォリオの1.5%に設定されている。ここでの投資対象は、将来の不確実性が高く、成功確率は低いが、もし成功した場合には非対称的な大きなリターンが期待できる企業だ。TeslaやPelotonのような企業がこれに該当する。重要なのは、この部分のポートフォリオでは「打率(batting average)」ではなく「長打率(slugging percentage)」を追求している点だ。3回に1回しか成功しなくても、その成功がマルチバガー(数倍のリターン)になれば、ポートフォリオ全体に大きく貢献する。

25:15べき乗分布と非エルゴード性:平均値の罠

NZSの投資哲学を支えるもう一つの重要な概念が、べき乗分布(power law distribution)と非エルゴード性(non-ergodicity)である。従来のリスクモデルのほとんどは正規分布(ガウス分布)を前提としているが、現実の世界、特に複雑適応系ではべき乗分布が支配的だと彼らは指摘する。

Brintonは、経済学者Ole Petersの研究を引用しながら、コイン投げのゲームを例に説明する。勝ったら50%儲かり、負けたら40%失うゲームがあるとする。期待値はプラス10%であり、一見すると参加すべき魅力的なゲームに見える。しかし、100人がこのゲームを十分な回数プレイすると、大多数の参加者は破産し、ごく一部の参加者が巨大な利益を得るという結果になる。「平均的な参加者の経験はプラスですが、それは『アンサンブル平均』であって、個人の『時間平均』ではありません。私はあなたの人生を生きられないし、あなたも私の人生を生きられない。自分自身の一つの宇宙だけを生きる個人にとっての平均は、破産なのです」とBrintonは説明する。

この洞察は、投資における「確信(conviction)」の概念に対する根本的な疑問を投げかける。「確信とは、過信(overconfidence)の同義語だと思います」とBrintonは言う。「確信があるということは、『私は未来についてあなたよりも正しい見解を持っている』と言っているに等しい。しかし、本当にそうでしょうか?」。彼らは、確信を主張することは認知バイアスを強化し、間違いを認めることを難しくすると考えている。代わりに、自分たちが「運を引き寄せる確率を最大化する」こと、すなわち、多くの小さなオプショナリティ・ベットを通じて、たまたま大きな成功を掴む確率を高めることに注力している。

44:10半導体への応用:レジリエンスとオプショナリティの具体例

NZSのポートフォリオの約3分の1は半導体関連で占められている。レジリエンスの側では、Texas Instruments(TI)のような「カタログ型」半導体メーカーが主要なポジションとなっている。TIは10万種類もの部品を保有し、部品のライフサイクルは30〜40年と長い。Brintonは「Buffettがカタログ型半導体ビジネスを買収することをずっと期待してきた」と語るほど、これらのビジネスは安定性と収益性を兼ね備えている。

一方、オプショナリティの側では、Cree(現在のWolfspeed)のような企業が挙げられる。Creeはシリコンカーバイド(SiC)という、従来のシリコンに代わる基板材料の分野で先行している。SiCは電気自動車や再生可能エネルギー向けの高電圧アプリケーションで効率を大幅に向上させるが、市場規模が現在の10億ドルから300億ドルに成長するかどうかは不確実だ。「正直なところ、私たちにはわかりません。しかし、この技術が極めて模倣困難であり、Creeが世界で唯一の供給者になる可能性もある」とJohnは説明する。

TSMCはレジリエンスの代表格だが、地政学的リスクは常に付きまとう。Johnは「TSMCは世界で最も重要なテクノロジープラットフォームのトップ5に入る」と断言する。もし台湾の情勢が緊迫化しTSMCの工場が停止すれば、西側世界の技術進歩は5年から10年は後退するだろう。しかし、彼らはこのリスクを冷静に受け止めている。「そのような事態が起これば、米国市場全体が下落するでしょう。TSMCの株価パフォーマンスを心配する以前の問題です」とJohnは語る。

58:26半導体の技術的深掘り:ムーアの法則の現在地と未来

半導体の技術的な側面について、Johnはムーアの法則の「精神」は今後10〜15年は持続するとの見解を示した。ASMLのEUV(極端紫外線)リソグラフィ技術により、トランジスタの2次元的な微細化は継続可能であり、ASML自身もEUVが約15年は有効だと見積もっている。さらに、トランジスタそのものの革新に加えて、パッケージング技術の進化が重要になっている。AMDが採用する「チップレット」技術のように、複数の小さなチップを統合して高性能を実現するアプローチが広がっている。

「ムーアの法則は、もはや単なるトランジスタの微細化だけの話ではありません。パッケージ全体、そしてシステム全体の性能が焦点になっています」とJohnは指摘する。NvidiaやAMDは、自社のプロセッサを独自のインターコネクトでクラスター化することを考えており、もはや単なる「チップ企業」ではなく「コンピューティング企業」としての思考にシフトしている。

ASMLの成功は、半導体エコシステム全体の協力の賜物でもある。2012年、Intel、TSMC、Samsungの3社は、EUV開発のための資金を注入するためにASMLの株式の25%を購入した。この「エコシステムが自らの未来に投資する」というユニークな構造が、EUVの実用化を可能にした。また、ASMLのEUVマシンに搭載されるレーザーはドイツのTrumpf社が製造しているが、ASMLは2012年にCymerというレーザー企業を買収し、社内でレーザー技術の競争を行った結果、Trumpfの方式が採用されたという興味深いエピソードも明かされた。

1:32:13価値を創り出し、価値を取りすぎない:TSMCのプラットフォーム戦略

TSMCの真の偉大さは、自らが創り出した価値の大部分を顧客に残している点にある。Nvidiaの時価総額は約5000億ドルであり、Qualcomm、Broadcom、AMDを加えるとさらに5000億ドル、Appleの半導体関連の価値を加えれば、TSMCがエコシステム全体に創り出した価値は数兆ドルに上る。これはBill Gatesが定義した「プラットフォーム」の条件、すなわち「自らが獲得した価値よりも、顧客とエコシステムに創り出した価値の方がはるかに大きい」を満たしている。

「テーブルに価値を残す」という戦略は、企業の「デュレーション(存続期間)」を延ばす効果があるとBrintonは説明する。「顧客に goodwill を残すことで、企業は成長の持続期間を買っているのです。もし15%の成長を30年間維持できれば、その価値は驚異的なものになります。すべての価値はテール(後半)に現れるのです」。この非線形的な思考は人間の脳には馴染みにくいが、真の長期投資には不可欠だと彼らは強調する。

Morris Changはこの原則を創業時から理解していた。TSMCは粗利率を50%程度に抑え、顧客が自社のビジネスを構築できるようにした。この「負のフィードバックループ」が、結果としてTSMCの成長を持続可能なものにしている。「負のフィードバックループとは、成長を抑制する自然な力のことです。ASMLは需要があっても生産量を増やせない。これが結果的に長期的には良いことなのです」とBrintonは語る。

まとめ

このエピソードが聴き手に残す最大のメッセージは、「未来は予測できない」という認識を出発点とすることで、かえってより強固な投資戦略を構築できるという逆説である。NZS Capitalのアプローチは、従来の「確信」や「堀」といった概念に依存せず、複雑適応系としての世界の本質を受け入れることから始まる。レジリエンスとオプショナリティという二軸のポートフォリオは、不確実性を排除しようとするのではなく、それを活用するための枠組みである。半導体業界の深い分析は、この哲学が単なる理論ではなく、実際の投資判断にどのように適用されるかを具体的に示している。特にTSMCの事例は、「創り出す価値が取る価値を上回る」という原則が、いかにして持続可能な競争優位と驚異的な価値創造を生み出すかを体現している。

要点

  • NZS Capitalの投資哲学は、未来の予測不可能性を認めることから始まる。複雑適応系としての世界観に基づき、正確な予測ではなく適応力を重視する。
  • ポートフォリオは「レジリエンス(回復力)」と「オプショナリティ(選択の余地)」の二軸で構成される。レジリエンス銘柄は長期保有(年10%の入れ替え率)、オプショナリティ銘柄は分散投資(40銘柄、各1.5%上限)で運用する。
  • 蟻のコロニーの研究から得た洞察:約半数の蟻は「何もしていない」。これは生産性ではなく長寿(レジリエンス)のために最適化された結果であり、企業経営にも同様の視点が適用できる。
  • 伝統的な「堀(moat)」の概念に代えて「非ゼロ和(non-zero-sumness)」を重視する。顧客やパートナーから過度に価値を抽出するのではなく、創り出す価値が取る価値を上回る関係を構築することが長期的な成功の鍵となる。
  • べき乗分布と非エルゴード性の理解が重要。正規分布を前提とした従来のリスクモデルは現実を反映しておらず、大多数の参加者が破産する一方でごく一部が巨大な利益を得るという構造を認識すべきである。
  • TSMCは「創り出す価値が取る価値を上回る」プラットフォームの典型例。粗利率を50%程度に抑え、顧客に価値を残すことで、30年以上にわたる持続可能な成長を実現している。
  • 半導体業界では、ムーアの法則の「精神」は今後10〜15年持続する。トランジスタの微細化に加え、パッケージング技術やシステムレベルの最適化が成長を牽引する。ASMLのEUV技術とエコシステム全体の協力関係が鍵を握る。
  • 投資における「確信(conviction)」は過信(overconfidence)と同義であり、認知バイアスを強化する。代わりに「運を引き寄せる確率を最大化する」こと、すなわち多くの小さなベットを通じて非対称的なリターンを追求する姿勢が重要である。
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