
マーク・ローワン:プライベート市場、ソフトウェアの価格改定、資本配分について
- 1990年、マーク・ローワンはドレクセル・バーナム・ランバートの倒産を受け、段ボール箱に私物を詰めてオフィスを後にした。そのわずか1年後、彼と共同創業者たちはアポロ・グロ...
- 会話は、アポロの起源から現在のビジネスモデル、AIが企業ソフトウェアとクレジット市場に与える破壊的影響、そしてリーダーシップと組織文化の本質にまで及ぶ。ローワンは、アポロ...
- [0:00] プライベート市場の必然性:公開市場の集中リスクと分散投資の新たなフロンティア ローワンは、現在の公開市場が抱える構造的な脆弱性を鋭く指摘する。米国株式市場で...
自分では見つけにくい海外Podcastの話題に、日本語で気軽に触れたい人。
The a16z Show / Andreessen Horowitz
1990年、マーク・ローワンはドレクセル・バーナム・ランバートの倒産を受け、段ボール箱に私物を詰めてオフィスを後にした。そのわずか1年後、彼と共同創業者たちはアポロ・グローバル・マネジメントを設立し、フランス政府系銀行から預かった8億ドルを原資に、年末までに60億ドルの資産を運用するまでに成長させた。それから35年、アポロは時価総額1兆ドルを超える世界最大級のオルタナティブ資産運用会社へと変貌を遂げている。本エピソードでは、a16zのデイビッド・ハーバーがアポロの共同創業者兼CEOであるマーク・ローワンを迎え、プライベート市場の進化、AIとインフラが生み出す巨大な資本需要、そして金融とテクノロジーの収束について深く掘り下げた。ローワンは、アポロを単なる「プライベート・エクイティ(PE)ファーム」から、リタイアメント・サービスと投資適格級クレジットを中核とする金融機関へと変革した立役者であり、その視点はウォール街とシリコンバレーの交差点に立つ独自のものだ。
会話は、アポロの起源から現在のビジネスモデル、AIが企業ソフトウェアとクレジット市場に与える破壊的影響、そしてリーダーシップと組織文化の本質にまで及ぶ。ローワンは、アポロの成功の根底にある「ビジネス第一主義」と「クリーンシート思考」の重要性を強調する。彼は、公開市場の集中リスク(S&P500の上位10銘柄が時価総額の約50%を占める現状)を指摘し、真の分散投資を実現する場としてプライベート市場の役割が不可避的に拡大すると論じる。また、OpenAI、Anthropic、SpaceXといった巨大テクノロジー企業が非公開のまま巨額の価値を生み出している現状を捉え、個人投資家を含むより広範な市場参加者がこれらの資産にアクセスできるようにするための「民主化」の必要性と、そのための具体的な戦略(日次時価評価、標準化された情報開示)を明らかにした。さらに、AI時代における「ホワイトカラーの衰退とブルーカラーの台頭」という大胆な予測や、ペンシルベニア大学での反ユダヤ主義問題への対応など、経営者としての道義的リーダーシップについても率直に語っている。
プライベート市場の必然性:公開市場の集中リスクと分散投資の新たなフロンティア
ローワンは、現在の公開市場が抱える構造的な脆弱性を鋭く指摘する。米国株式市場では、S&P500の時価総額の約50%をわずか10銘柄が占めており、それらはすべて同じトレンド(主にAIとテクノロジー)に連動している。同様の集中はグローバルな債券市場でも進行しており、歴史的に市場を支配してきた10の大手銀行が、今後は5つの巨大銀行と5つの巨大テクノロジー企業に取って代わられようとしている。このような状況下で、真の分散投資を求める投資家にとって、プライベート市場以外に選択肢はないとローワンは断言する。
彼は、世界の経済活動の約80%がプライベート市場で行われていると推定する。Anthropic、OpenAI、SpaceX、Andurilといった時価総額が数兆ドルに上る優れた企業のほとんどが非公開であり、大多数の投資家はそれらへのエクスポージャーを全く持っていない。これは、産業用企業についても同様の傾向が強まると予測する。ローワンは、アポロのビジネスが「世界は高齢化し、人々は退職後の資金を十分に準備していない」という「退職所得ギャップ」と、「企業がインフラ、エネルギー、AI、防衛、データセンターに過去に例を見ない規模で資金を借り入れている」という「産業ルネサンス」という2つの巨大なトレンドに支えられていると説明する。アポロは、退職者(年金受給者)の所得ニーズと、企業の巨額の資金需要をマッチングさせる仲介者としての役割を果たしているのだ。
アポロのビジネスモデル:単なるPEファームから「投資適格級クレジット」の巨人へ
ローワンは、アポロが依然として「プライベート・エクイティ・ファーム」と誤って認識されていることに強い違和感を表明する。実際には、アポロの運用資産総額1兆ドル超のうち、約80%はクレジットであり、その大部分が投資適格級である。残りの20%(約2,000億ドル)のうち、半分はハイブリッド・エクイティ(株式と債券の中間的な性質を持つもの)、残り半分が伝統的なPEファンド構造のものだ。つまり、アポロの本質は「投資適格級クレジット・ファーム」なのである。
このビジネスモデルの核心は、「資産の創出能力」にある。伝統的なアセットマネージャーが与えられた資金を公開市場でただ投資するのに対し、アポロは自らがオリジネート(組成)した投資案件にしか資金を投入できない。そのため、成功の指標は運用資産額ではなく、「どれだけ魅力的な投資案件を生み出せるか」という創出能力にあるとローワンは主張する。そして、創出した資産は「希少価値」があるため、アポロはその資産から手数料収入を得るだけでなく、プリンシパル(自己資金)として投資し、その upside(値上がり益)を享受する。この「自分の料理を自分で食べる」姿勢こそが、クライアントとの強力なアラインメントを生み出す。ローワンは、変化の激しい時代においては、ブランドと評判に加え、「結果を保証する能力」が価値を持つとし、その保証を支えるために巨大な自己資本基盤を構築していると語る。
プライベート市場の民主化:日次時価評価とエコシステム構築への挑戦
ローワンは、プライベート市場とパブリック市場の二分法はもはや過去のものになりつつあると指摘する。従来、プライベート市場は「非流動的でリスクが高い」と見なされてきたが、アポロはこの認識を覆そうとしている。同社は、個人投資家、保険会社、確定拠出年金(401k)など、従来の機関投資家とは異なる5つの新たな市場セグメントをターゲットにしている。これらの市場は、私募ファンド(ドローダウン・ファンド)のような仕組みには関心がなく、公開市場と同じように日次で価格が分かり、流動性が高いことを求める。
これに応えるため、アポロは2025年6月末までに、投資適格級のプライベート・クレジット商品について「日次推定価値(daily estimated value)」の提供を開始する。さらに、標準化された情報開示(Q-SIPsやICE IDs)、標準化されたデータウェアハウス、マーケットメイキング、価格の定期的な開示、他のディーラーの参加など、エコシステム全体の整備を進める。ローワンは「透明性と価格発見機能が存在する市場で、その規模が10倍にならなかった例を私は知らない」と述べ、この流れは不可避であると確信する。これは、プライベート市場の「民主化」を推進する大胆な試みであり、アポロが単なる投資ファームから、金融インフラそのものを構築する企業へと進化していることを示している。
AIとインフラの交差点:データセンター、チップ、ロボティクスへの巨額資本配分
ローワンは、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)とアポロの間に存在する「分野間の交差点」にこそ最大の機会があると語る。a16zが支援するテクノロジー企業は、これまで資本集約的ではなかったが、AIの台頭によりデータセンター、チップ、ロボティクス、製造、防衛といった分野で想像を絶する規模の資本需要が発生している。この資金調達をすべてエクイティ(株式)で賄うのは非効率であり、規模的にも不可能である。そこで、アポロのようなプレイヤーが、リスクを適切に分解し、それぞれに適した資本構造(シニアレンダー、メザニン、エクイティなど)を提供する役割を担う。
ローワンは、2025年はデータセンター、チップ、エネルギーが必要であることの「概念実証(proof of concept)」の年だったと振り返る。そして2026年には、市場はこのトレンドが継続すれば、主要4社の設備投資だけで年間8,000億ドルに達することを認識し始めている。この結果、投資家のポートフォリオは特定の銘柄に集中し、集中制限に達するだろうと予測する。彼は、スプレッド(信用リスクプレミアム)が拡大し、優れた起業家は、クレジット資産やハイブリッド・エクイティを民主化する「金融の起業家」とのパートナーシップを模索するようになると見る。さらに、ウェイモ(Waymo)が解決した自動運転の課題は、建設機械や他のロボティクス分野にも応用可能であり、これらすべてをエクイティでファイナンスする必要はなく、アポロが提供するより低コストで大規模な資本(例:機器リース市場)が活用される時代が来ると展望する。
AIによる企業ソフトウェアの「再評価」:クレジット市場とPE市場への衝撃
ローワンは、AIが企業ソフトウェア業界に与える影響について、極めて厳しい見方を示す。彼は「SaaSの終焉(SaaS apocalypse)」という言葉を使い、過去10年間にPE業界の投資の約30%がエンタープライズ・ソフトウェアに振り向けられてきた事実を指摘する。これらの投資は、AIの存在を前提としない将来像に基づいて高値で行われた。しかし、AIの出現により、これらのソフトウェア企業は新たな競争に直面し、その収益性と成長性は根本から見直しを迫られている。ローワンは、この分野のPE投資のリターンは「悲惨なものになる」と予測する。これは企業が倒産するという意味ではなく、買収時に支払った価格が高すぎたため、公開市場や他の買い手に売却する際の見通しが大幅に悪化したという意味だ。
この再評価は、クレジット市場でも最も顕著に現れている。ローワンは、AIの影響を無視してエンタープライズ・ソフトウェア企業に融資を行ってきたレンダー(貸し手)は、大きな痛手を被るだろうと警告する。彼は、アポロ自身もこの変化を認識し、ビジネスの運営方法を根本から見直していると語る。アポロでは、すべての従業員が自分の現在の仕事がAIによってどのように変わるかを想像できるが、データとソフトウェアが無料になった世界でビジネスがどうあるべきかを想像できる人はごく一部だという。ローワンは、AIは「正解がある分野」(会計、トレードオペレーションなど)では人間を代替し、「正解がない分野」(シェイクスピアのエッセイの良し悪しなど)では人間を増強するという区別を提示する。この結果、短期的には「ブルーカラーの台頭とホワイトカラーの衰退」が起こり、政治や都市にとって難しい課題になると予測する。
道義的リーダーシップとアポロの文化:変化を受け入れ、「Playing to Win」し続ける組織
ローワンは、ペンシルベニア大学での反ユダヤ主義問題への対応について、自身の行動原理を詳しく説明する。彼は、自分は「表現の自由絶対主義者」であり、パレスチナ問題に関する会議自体は開催されるべきだと考えていた。しかし、大学がその会議を資金提供し、推進し、ユダヤ人の学生にユダヤ教の主要な祝日に参加を事実上強制し、その運営をハマス同調者に委託しているという状況は、「300年の歴史を持つ道徳的機関」としての大学の役割を逸脱していると断じた。彼は、大学の役割は「学術の卓越性と研究」にあるのか、「社会変革」にあるのかという本質的な問いを投げかけ、当時の学長がそれに答えられなかったことを批判する。この行動は、多くの同調者を生み、最終的には学長と理事会議長の辞任につながった。
ローワンは、この経験をアポロの企業文化にも適用する。彼は、CEOに就任した2021年から、「テキサスで言うこととカリフォルニアで言うことを同じにしたい」と宣言し、一貫した原則に基づいて経営を行ってきた。気候変動に関しては「悪化させない、改善する(make it better, not worse)」という単一のルールを掲げ、雇用においては「不変の特性(人種、宗教など)」ではなく、「個人の功績(merit)」と「その人が乗り越えてきた距離(distance traveled)」を重視する。これは、DEI(多様性・公平性・包括性)の絶対主義に陥らず、本質的な価値観に基づいた判断を下すという姿勢の表れである。彼は、アポロの文化を「Playing to Win(勝つためにプレーする)」と表現し、失敗を恐れず、失敗したらすぐに認めて修正する「失敗の壁(Wall of Shame)」の存在を明かす。組織が拡大する中で、この文化を意図的に維持・継承するための「文化プロジェクト」に最も力を注いでいると語る。
結びに
本エピソードは、単なる資産運用会社のトップインタビューを超えて、金融、テクノロジー、そして社会の未来図を描き出す、極めて示唆に富んだ内容だった。マーク・ローワンの語る「変化を受け入れるか、さもなくば変化が汝を訪れる」というミルケンからの教訓は、AIの波に直面するすべての産業、すべてのリーダーにとっての警句である。彼が示した、公開市場の集中リスク、プライベート市場の必然性、AIによる産業構造の根本的な再編、そして道義的リーダーシップの重要性は、投資家のみならず、経営者や起業家にとっても深く考えさせられるものだ。特に、アポロが単なる「お金を貸す・投資する」存在から、退職所得の安定供給と産業ルネサンスの資金調達という「社会にとっての fundamental good(基本的な善)」を追求する金融機関へと進化している点は、資本主義の新たな役割を示唆している。このエピソードが重要なのは、ウォール街とシリコンバレーという二つの世界の架け橋となり、これからの10年を形作る資本の流れと、それを動かすリーダーの哲学を、生々しく、かつ戦略的に描き出した点にある。
要点
- マーク・ローワンは、S&P500の上位10銘柄への集中や大手銀行への債券市場の寡占化を指摘し、真の分散投資を実現するにはプライベート市場へのアクセスが不可欠であると主張する。
- アポロの運用資産1兆ドルのうち約80%はクレジットであり、その大半が投資適格級である。同社は「プライベート・エクイティ・ファーム」ではなく、「投資適格級クレジット・ファーム」としての性格が圧倒的に強い。
- アポロは2025年6月末までに投資適格級プライベート・クレジット商品の日次時価評価を開始し、標準化された情報開示やマーケットメイキングを通じて、プライベート市場の「民主化」を推進する。
- AI時代の資本需要(データセンター、チップ、エネルギー、ロボティクス)は、エクイティだけでは賄えず、アポロのようなプレイヤーがリスクを分解し、適切な資本構造(シニアレンダー、リースなど)を提供する「金融の起業家」としての役割を担う。
- ローワンは、AIの影響でエンタープライズ・ソフトウェア分野へのPE投資のリターンは「悲惨」になると予測。過去の高値での投資は、AIという競合の出現により回収が困難になると警告する。
- ローワンは、AIは「正解がある分野」で人間を代替し、「正解がない分野」で人間を増強するという区別を提示。短期的にはブルーカラーの地位向上とホワイトカラーの相対的衰退が起こると予測する。
- アポロの企業文化の核心は「Playing to Win」であり、失敗を恐れず、失敗したらすぐに認めて修正する「失敗の壁」の存在や、個人の功績と乗り越えた距離を重視する採用方針に表れている。