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The a16z Show · 2026年6月9日

AIが世界を食い尽くす?ベネディクト・エバンスと考える現実

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • テクノロジーアナリストのBenedict Evans(ベネディクト・エヴァンス)が、a16z Podcastに再登場し、前回の議論から約1年半が経過した時点でのAI業界の...
  • Evansは、現在のAIを巡る状況を「極度の不均衡(extreme disequilibrium)」の状態にあると表現する。需要が供給を大幅に上回り、価格設定や設備投資の...
  • [0:00] コーディングエージェント:最初の確立されたユースケース Evansは、過去1年間で最も明確に変化した点として、エージェンティック・コーディング(自律的なコー...
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出典Podcast

The a16z Show / Andreessen Horowitz

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テクノロジーアナリストのBenedict Evans(ベネディクト・エヴァンス)が、a16z Podcastに再登場し、前回の議論から約1年半が経過した時点でのAI業界の現状を総括した。Evansは、毎年恒例のプレゼンテーション「AI Eats the World」の最新版を基に、コーディングエージェントの爆発的な普及、ファウンデーションモデルを巡る競争構造、AIインフラへの巨額投資の持続可能性、そしてソフトウェア業界全体の経済構造の変容について、深く掘り下げた議論を展開している。彼の基本的なスタンスは、現在のAIブームを過去のプラットフォームシフト(PC、インターネット、モバイル)と比較しながら、何が確実に分かっているのか、そして何が依然として不確かなのかを明確に区別することにある。特に、コーディングが最初のキラー・ユースケースとして確立された一方で、コンシューマー向けの日常的な活用や、エンタープライズにおける真のROIの測定など、多くの根本的な問いが未解決のままであると指摘する。

Evansは、現在のAIを巡る状況を「極度の不均衡(extreme disequilibrium)」の状態にあると表現する。需要が供給を大幅に上回り、価格設定や設備投資の規模が不安定な状況は、かつてモバイルデータ通信が普及し始めた2009年から2010年頃の状況と酷似しているという。彼の核心的な主張の一つは、ファウンデーションモデル自体はコモディティ化する運命にあり、真の価値はその上に構築されるアプリケーションレイヤーで生まれるというものだ。この議論は、モデルプロバイダーが過去のプラットフォームシフトにおけるOS(WindowsやiOS)のように価値を独占できるのか、それとも単なるインフラ(通信キャリアやクラウドプロバイダー)のように、価値が上位のレイヤーに移動するのかという、業界全体の命運を分ける問いへとつながる。本エピソードは、AIの未来に対する過度な楽観論と悲観論の両方を退け、歴史的な視点と経済学的な原理に基づいた冷静な分析を提供している。

0:00コーディングエージェント:最初の確立されたユースケース

Evansは、過去1年間で最も明確に変化した点として、エージェンティック・コーディング(自律的なコード生成)の実用性が飛躍的に向上したことを挙げる。半年前までは「ある程度便利」だったものが、今や「すべてを変えつつある」と表現し、特にAnthropicがこの分野に注力した戦略が功を奏したと評価する。Anthropicの年間経常収益(run rate)は、昨年末の90億ドルから現在は470億ドルにまで急成長しており、そのほとんどがソフトウェア開発関連であるという事実は、この分野の需要の大きさを如実に示している。この現象は、新しいテクノロジーの初期には、それを最初に使いこなす人々(この場合はソフトウェア開発者自身)が、そのテクノロジーを使って自分たちの仕事を効率化するという、歴史的に繰り返されてきたパターンに合致する。

しかし、この成功が直ちに他の分野に横展開できるわけではないとEvansは警告する。コーディングは「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)」を達成した稀有な例であり、他の分野では依然として「端っこで使ってみている」状態に過ぎない。多くの企業は、特定のバックオフィス業務の自動化(例えば、商品先物会社がLLMを使ってキャッシュフロー予測を改善するなど)に点で活用しているが、それはチャットボットに「今週のミーティングを要約して」と頼むような水平利用とは全く異なる。Evansは、このギャップを埋めることが次の大きな課題であり、ソフトウェア開発以外の分野で「日常的な利用(daily activity)」を生み出すユースケースが現れるかが、AI普及の鍵を握ると指摘する。

このコーディングエージェントの台頭は、ソフトウェアエンジニアの雇用やチーム構成にも根本的な問いを投げかけている。ジュニアエンジニアを今後も採用すべきなのか、もし採用するとして彼らに何をさせるのか。従来、ジュニアエンジニアは単純作業を通じて経験を積んできたが、その作業自体がAIに代替されつつある。Evansは、この問いに対する答えはまだ誰にも分からず、市場構造やエンジニアのキャリアパスがどう変化するかを3年後に確実に予測できると主張するのは「狂気の沙汰」だと断じる。現在は誰もが手探り状態であり、この混乱が収束するには数年を要するというのが彼の見立てである。

12:39ファウンデーションモデルのコモディティ化と価値の移動

Evansのプレゼンテーションの核心は、「ファウンデーションモデルはプロダクトではない」という主張にある。彼は、モデル自体に持続可能な差別化要因(ネットワーク効果など)が存在せず、チャットボットというUIも限定的なV1に過ぎないと指摘する。真の価値は、モデルを活用したアプリケーションや、特定の業務フローに組み込まれたソリューションのレイヤーで生まれるというのが彼の見解だ。この議論は、過去のプラットフォームシフトにおける「価値の捕捉」の歴史を参照することでより明確になる。

Evansは、モバイルデータ通信の歴史を引き合いに出す。モバイルネットワーク事業者は、1.5兆ドルもの収益を上げ、年間2,000億ドルもの設備投資を行い、トラフィックは1,500倍から2,000倍に増加した。しかし、その株価は20年間横ばいであり、真に革新的なサービス(Uber、Instagramなど)はすべて別のプレイヤーによって構築された。通信事業者は自らがモバイルバンキングを支配しようと考えたが、それは実現しなかった。このアナロジーは、LLMプロバイダーにも同様のリスクがあることを示唆する。モデルが高性能化し、利用が爆発的に増えても、そのインフラを提供する側が利益を独占できるとは限らない。

では、モデルプロバイダーは過去のOS(WindowsやiOS)のように価値を捕捉できるのか、それとも単なるコモディティ・インフラ(通信キャリアやクラウドのハイパースケーラー)に過ぎないのか。Evansは後者の可能性が高いと見る。OSには強力なネットワーク効果と開発者へのロックイン効果があったが、LLMにはそれが欠けている。エンタープライズソフトウェアを購入する際、顧客は「このSaaSはAWS上で動いているか」を気にしないのと同様に、将来的には「このアプリはどのLLMを使っているか」を気にしなくなるだろう。モデルは抽象化され、単なるバックエンドの一部となる。このシナリオが正しければ、モデルプロバイダーは熾烈な価格競争に巻き込まれ、利益率は低下する運命にある。

24:00未解決の問い:モデルの限界と産業構造の変容

Evansは、AIの未来について確定的な予測をすることの危険性を強調しつつも、注目すべき重要な問いをいくつか提示する。第一に、モデルの性能向上とコスト低減の速度である。現在の最先端モデルは非常に高価だが、将来的には古いモデルやオープンソースモデル、あるいはデバイス上で動作する軽量モデルで十分なユースケースが増えるだろう。Appleが推進するオンデバイスAIはその典型例であり、計算資源の限界費用がゼロになる領域が拡大することで、アプリケーションの設計思想そのものが変わる可能性がある。

第二に、AIが専門サービス業界(法律、コンサルティング、投資銀行)のピラミッド構造に与える影響である。これらの業界では、伝統的にアソシエイト(下層の専門職)が多くの分析作業やドキュメント作成を担ってきた。AIがこれらのタスクを自動化した場合、組織構造や人材戦略、そしてクライアントに提供する価値そのものが再定義される。しかしEvansは、この変化を理解するには、単なるテクノロジーの知識だけでは不十分だと警告する。Netflixがテクノロジー企業であると同時にメディア企業であるように、法律事務所やコンサルティングファームにおけるAIの影響を真に理解するには、その業界の内部事情やクライアントが実際に何にお金を払っているのかを深く知る必要がある。この問いは「サンフランシスコの問い」ではなく「ロサンゼルス(あるいは業界固有)の問い」なのである。

第三に、これまでのプラットフォームシフトとは異なる根本的な不確実性がある。1995年には、誰もがすぐにブロードバンドを手に入れられないことや、PCが3,000ドルもすることを誰もが理解していた。しかし生成AIには、そのような物理的な制約が存在しない。明日、OpenAIが新モデルを発表し、価格が2分の1になるかもしれない。モデルの性能、速度、コストがどのように変化するかは全くの未知数であり、この点が過去のシフトと決定的に異なる。この不確実性こそが、現在のAIを巡る議論を難しくしている最大の要因である。

29:24新たな可能性:広告、Eコマース、そして「不可能」を可能にする

Evansは、AIがもたらす真のインパクトは、既存の業務を効率化することではなく、これまで「不可能だったこと」を可能にすることにあると論じる。その格好の例として、広告とEコマースの分野を挙げる。現在のGoogleやAmazonのレコメンデーションシステムは、「これを買った人はあれも買った」という統計的相関に基づいている。しかしLLMを活用すれば、製品の「意味」を理解できるようになる。例えば、あるコートの画像を見せて「これは何か、どこで買えるか」と尋ね、さらに「似たようなコートを価格別に10着提案し、それぞれのメリット・デメリットを教えてくれ」と指示することが可能になる。さらに一歩進んで、「私のInstagramを見て、私のイメージを変えすぎない冬用のコートを提案して」という要求にも応えられるようになるだろう。

これは、コンピュータが「知っている」ことの抽象度が一段階上がることを意味する。従来のデータベースは構造化されたデータしか扱えなかったが、LLMは非構造化データや暗黙知に近い情報も処理できる。この能力は、エンタープライズ領域でも応用可能だ。例えば、すべてのZoom通話の記録、Salesforce上のメールのやり取り、プロダクトの利用テレメトリーをLLMに分析させ、「チャーン(解約)を改善するために価格をどう変更すべきか」という高度な問いに答えることができる。これは単なる「感情分析」をはるかに超えた、新たな分析レイヤーの創出である。

Evansは、このような「不可能を可能にする」ユースケースこそが、スタートアップが生まれる源泉だと指摘する。VCにピッチに来る起業家の中には、業界の誰も気づいていなかった問題を発見し、その解決策を提案する者がいる。AIはそのような「穴を埋める」新しいプロダクトを生み出すための強力なツールとなる。しかし同時に、このプロセスはモデルプロバイダーが単独で行えるものではない。モデルが「すべてをやってくれる」という考え方は幻想であり、真のイノベーションは、特定の業界の深い理解と組み合わさったアプリケーションレイヤーで起こるというのがEvansの確信である。

38:03ソフトウェア業界の未来:SaaS終焉論と新たなマージン構造

AIの進化は、ソフトウェア業界そのものの構造を根本から変える可能性がある。Evansは、ソフトウェアの構築がより安価かつ迅速になることで、競争が激化し、SaaS企業のマージン構造が変化すると予測する。しかし、その変化の方向性は一様ではない。彼は、エンタープライズソフトウェアの世界を「大規模な水平システム(SAP、Workdayなど)」「垂直特化型SaaS」「Excelやメールによるアドホックな領域」の3層に分けて考える。AIはこのどの層にも影響を与えるが、その影響の仕方は異なる。

一つのシナリオは、LLMが既存のSaaSの「機能(feature)」として組み込まれることだ。例えばSalesforceの中で、顧客との過去のやり取りを分析し、最適なメールのドラフトを提案する。これは「ボトム・オブ・ザ・スタック」のアプローチであり、既存のワークフローを強化する。もう一つのシナリオは、LLMが複数のシステムを横断してデータを統合し、これまで不可能だった分析を可能にする「トップ・オブ・ザ・スタック」のアプローチだ。この場合、LLMは新しい種類のアプリケーションの基盤となる。

Evansは、AIによってソフトウェアの総量は「さらに増える」と予測する。SaaSがソフトウェアの量を1~2桁増やしたように、AIはさらにその上のレイヤーを生み出す。しかし、投資家の視点からは、どの既存SaaS企業がAIによって淘汰され、どの企業が生き残るかが不明確であるため、セクター全体に対して慎重な姿勢を取らざるを得ない。また、AIの導入効果をROIで測定することの難しさも指摘する。DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)モデルの作成が1週間から10秒に短縮されたとしても、その生産性向上分を価格に転嫁できるとは限らない。競争が激化すれば、そのメリットは価格競争によって相殺され、結局は「競争上の必要性(competitive necessity)」として、全員が導入せざるを得なくなる。これが、コンサルティングファームがより多くの分析を同じ料金で提供するようになった構図と類似している。

48:21設備投資の限界と「神を箱に詰める」という物語

AIインフラへの巨額の設備投資(CapEx)は、業界最大の議論の的の一つである。Microsoft、Meta、Googleは今年、収益の50%以上をCapExに費やす見込みであり、その総額は7,000億ドルに達する。これは通信業界全体の設備投資額(約3,000億ドル)を大きく上回り、石油・ガス業界(7,000億~1兆ドル)に匹敵する規模である。Evansは、この投資水準が持続可能かどうかについて、財務的な「重力の法則」が働くと指摘する。仮に来年、この額が1.5兆ドルに増加した場合、企業は借入に頼らざるを得ず、その水準を長期間維持することは不可能だ。「年間10兆ドルをAIインフラに使うことはできない。なぜなら、その金額自体が存在しないからだ」と彼は断言する。

しかし、この投資を抑制することもまたリスクが高い。GoogleやMeta、Microsoftにとって、AIは「存在証明(existential)」の問題である。もしこの波に乗り遅れれば、2000年代のMicrosoftや1990年代のIBM、あるいは2010年代にAppleに翻弄され続けたMetaのような末路を辿る可能性がある。CFOはROIを気にするが、CEOは「未来のコンピューティング」を逃すわけにはいかない。このジレンマが、一見非合理に見える巨額投資を正当化している。Evansは、この状況を「FOMO(取り残される恐怖)」と「財務的現実」の間の緊張関係として描く。

さらに、この投資の背後には「AGI(汎用人工知能)を構築している」という信念、すなわち「神を箱に詰める(build God in a box)」という物語が存在することをEvansは指摘する。この信念は、短期的なROIの計算を超越した投資を促進する。しかし、現実的な課題は、ソフトウェア開発以外の分野で、人々が本当に使いたいと思うプロダクトを生み出せるかどうかにある。ソフトウェア業界の生産性を向上させることは確かに価値があるが、それは「次の10億ドル」の話であり、その先の経済全体へのインパクトはまだ見えていない。Evansは、モデルプロバイダーがプライベートエクイティやコンサルティングファームと提携する動きは、この「現実の企業」におけるAI活用の難しさを如実に示していると分析する。

結びに

本エピソードの最大の収穫は、Benedict Evansが提示する「歴史的な視点」と「経済学的な原理」に基づいた冷静な分析にある。彼は、AIを巡る過熱した議論の中で、何が確実に起こっているのか(コーディングエージェントのPMF)、何が依然として不確かなのか(モデルの差別化、価値の捕捉、キラーコンシューマーアプリの不在)を明確に区別する。特に、ファウンデーションモデルのコモディティ化という主張は、現在の投資熱に警鐘を鳴らすものであり、業界関係者は真剣に検討する必要がある。彼の「モバイルデータ通信の歴史」のアナロジーは、インフラレイヤーに巨額の投資が集まっても、最終的に価値を捕捉するのはアプリケーションレイヤーである可能性を強く示唆している。

また、Evansの議論は、テクノロジーの進歩が常に「魔法」のように感じられるが、20年後にはそれが「当たり前」になるという、ある種の諦念にも似た洞察で締めくくられる。1950年代のIBMの広告(「IBMの電子計算機は150人分のエンジニアの仕事を代行する」)を引き合いに出し、過去のすべてのプラットフォームシフトがそうであったように、AIもまた人々の生活を一変させ、同時に多くの人々の仕事を奪い、そして最終的には「コンピュータは昔からそうだった」と記憶されるようになるだろうと予言する。このエピソードは、短期的な株価や話題に振り回されることなく、長期的な構造変化を理解するための知的枠組みを提供してくれる点で、極めて価値が高い。

要点

  • Benedict Evansは、コーディングエージェントがAI初の明確なプロダクト・マーケット・フィットを達成したと評価し、Anthropicの経常収益が90億ドルから470億ドルに急成長した事実をその証左として挙げた。
  • ファウンデーションモデルはネットワーク効果を持たず、持続可能な差別化が困難であるため、コモディティ化する運命にある。真の価値はアプリケーションレイヤーで生まれるというのがEvansの核心的な主張である。
  • 現在のAIインフラへの巨額投資(7,000億ドル規模)は、モバイルデータ通信の初期(2009~2010年)の状況と酷似しており、需要と供給の「極度の不均衡」が解消されるにつれて、価格競争が激化する可能性が高い。
  • AIの影響を真に理解するには、テクノロジーの知識だけでなく、法律やコンサルティングなど、各業界の内部構造やクライアントが実際に購入している価値に対する深い理解が必要である。
  • AIの真のインパクトは、既存業務の効率化ではなく、これまで「不可能だったこと」(例:画像から類似商品を探し、スタイルに合ったコートを提案する)を可能にすることにある。
  • ソフトウェア業界では、AIによって競争が激化し、SaaS企業のマージン構造が変化する。しかし、生産性向上のメリットは価格競争によって相殺され、「競争上の必要性」として普及する可能性がある。
  • 設備投資の持続可能性には限界があり、「年間10兆ドル」のような非現実的な水準は物理的に不可能である。企業はFOMOと財務的現実の間で難しい舵取りを迫られている。