
[New:尾原AI解説]いけとも尾原DeepなAIニュース-AIワークフロー
- 概要 今週のAIニュースを深読みするこのエピソードでは、ホストの尾原和啓と池智が、AIエージェントの新たな潮流である「ワークフロー型AIエージェント」に焦点を当てている。...
- [2:28] ワークフロー型AIエージェントとは何か AIエージェントには大きく分けて2つのタイプがあると尾原は説明する。一つは「汎用型(事実型)AIエージェント」で、C...
- 一見すると汎用型の方が優れているように思えるが、尾原は「今の汎用型エージェントの料理は正直美味しくない」と指摘する。一方、ワークフロー型は流れが決まっているため品質が一定...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
ハイパー起業ラジオ / 尾原和啓 / けんすう
概要
今週のAIニュースを深読みするこのエピソードでは、ホストの尾原和啓と池智が、AIエージェントの新たな潮流である「ワークフロー型AIエージェント」に焦点を当てている。OpenAIが開発者イベント「DevDay」で発表した「エージェントキット」、Googleの「Gemini Enterprise」と「gOperl」など、メガプラットフォーマーが相次いでワークフロー型エージェントのツールをリリースしたことで、これまでマニアックな領域だったAIワークフローが、一般企業でも当たり前に使われる「ティッピングポイント」に差し掛かったというのが核心的な主張だ。単なる技術スペックの解説ではなく、これらのツールが企業の競争戦略や組織構造、さらには個人のキャリアにどのような変革をもたらすのかを、実践的な知見を交えながら深掘りしている。
ワークフロー型AIエージェントとは何か
AIエージェントには大きく分けて2つのタイプがあると尾原は説明する。一つは「汎用型(事実型)AIエージェント」で、ChatGPTエージェントやGoogleのGeminiが代表例だ。これは「お任せシェフ」のようなもので、「秋の気分で作って」と指示すれば、材料を探し、レシピを作り、料理まで全てやってくれる。もう一つが「ワークフロー型AIエージェント」で、従来の代表例は「Dify」というツールだった。こちらは「コースメニュー」のように流れはあらかじめ決まっており、その一部でAIを使うイメージだ。例えば「あなただったらキノコは松茸ね」「デザートはなしで」といった具合に、決まった流れの中でカスタマイズやアレンジをしてくれる。
一見すると汎用型の方が優れているように思えるが、尾原は「今の汎用型エージェントの料理は正直美味しくない」と指摘する。一方、ワークフロー型は流れが決まっているため品質が一定に保たれ、企業にとっては再現性が高く、仕事のプロセスが可視化されているため他部署への転用も容易だという。池智も「確かに、『俺はここは松茸にするよ』とか『俺はデザート入れないよ』みたいなカスタマイズができる」と同意する。
メガプラットフォーマーの相次ぐ参入
今週、このワークフロー型エージェントを巡って大きな変化が起きた。まずOpenAIが「エージェントキット」という名称で、画面上でブロック(レゴのような部品)を組み合わせてワークフロー型エージェントを作成できる機能をリリースした。これはOpenAIの開発者イベント「DevDay」で発表された3つの目玉のうちの1つで、非常に注目された。具体的には、ユーザーがデータや文章をインプットすると、まず調査するエージェントが内容を調査し、次にレポートを作るエージェントがレポートを作成し、最後にウェブページを作るエージェントがウェブページ化する、といった一連の流れをブロックの組み合わせで実現できる。
さらにGoogleも、法人向けの新しいプラン「Gemini Enterprise」でワークフロー機能を提供し、実験機能として「gOperl」というワークフロー作成ツールが日本語対応した。池智は「あまりにもバチバチと急激にメガプレイヤーがワークフロー型のサービスを出してきた」と驚きを隠さない。これまではDifyなどを使っている企業もいたが、マニアックな領域だった。尾原は「いよいよ普通の会社も当たり前にワークフローを作っていくんじゃないか。いわゆるティッピングポイントが来たんじゃないか」と期待を込めて語る。
ツールの進化:ノーコード化とAIによる自動生成
尾原は実際にこれらのツールを触った感触を語る。従来のDifyやGoogleのノーコードツール「gOperl」では、ブロックを組み合わせる作業自体が結構大変だった。ブロックごとに命令(プロンプト)を作らなければならず、例えば「最初に入力した内容に基づいて調査してね」「調査の仕方」「レポートの作り方」といった細かい指示が必要だった。
しかし、新しいツールではそのハードルが大きく下がった。尾原によれば「適当にまずはバージョン1を作ってくれる。1行2行でパッと依頼すると、『じゃあこういうブロックを置いて、こんな風な流れで、中身こういう感じにしたらいいんじゃない』とファーストバージョンをすぐ作ってくれる」という。これは、ChatGPTやClaudeに「プログラムを作って」と依頼するとプログラムを書いてくれるのと同じように、ワークフローのブロック構成の初期バージョンをAIが自動生成してくれるようになったことを意味する。
池智はこれを「ノーコードプログラミングと同じようになった」と表現する。さらに、1つのブロック内の機能も充実しており、ファイルのアップロードや外部ツールとの連携(MCPという通信プロトコルを使う)も可能になった。これまではこうした連携が別軸になっており一手間必要だったが、そのハードルが下がったことで、より多くの人が使いやすくなっている。
マルチAIエージェント時代と「任せる」という発想の転換
ワークフロー型エージェントの進化は、複数の特化型AIエージェントを組み合わせる「マルチAIエージェント」の世界観に直結する。尾原は「調査に特化したエージェント」や「レポート作成に特化したエージェント」といった専門エージェントを、部署間連携のように組み合わせられるようになったと説明する。1つのブロックを完成させれば、それが別のワークフローでも使い回せるようになる。
ここで尾原は重要なパラダイムシフトを指摘する。「ChatGPT初期の頃のAIのルールで考えているとむしろ遅れる。一言で言うと、ChatGPTは『使う』けど、AIエージェントは『任せる』なんです」。初期の生成AIでは、自分の業務のやり方をAIに合わせて曲げる必要があった。しかしAIエージェントになると、「今あなたの仕事のうち、誰かに任せていることを、そのままAIエージェントに任せる」という発想に切り替えられる。つまり、人間がAIに合わせるのではなく、AIが人間の仕事の流れに合わせてくれるのだ。
ただし課題もある。それは「AIエージェントを誰が作れるのか」という問題だ。尾原は「OpenAIやGoogleのツールによって、プログラム知識がなくてもブロック構成ができるレベルまでハードルが下がった」と評価する。完全にバグがないわけではないが、池智は「プログラミングをやってる人たちに聞くと、最初はバグが出るけど、根気強く修正しているうちにコツが分かってきて、いいものを作れるようになる。プログラムを一から覚えるより圧倒的に習得速度が早い」と補足する。
日本企業の実態:Dify「赤ペン先生」の経験から
池智は自身がコンサルタントとして関わった事例を紹介する。ある企業でDifyというワークフローツールを50人にアカウントを作成し、毎月ワークフローを作成してもらい、全件をチェックする「赤ペン先生」のような取り組みを行った。その結果、明らかになったのは「ブロックをつなぐことの難しさ」だ。
具体的には、インプットとアウトプットの関係を理解すること、変数で定義すること、書き換えた場合にプロンプトがどうなるかを把握することなど、いくつかのプログラミング的な発想が必要になる。池智は「普通の人は、繋がってないところを持ってこようとしたり、繋いでる前の過程の出し方がわからなかったり、概念レベルから細かい操作レベルまで結構みんな苦戦していた」と振り返る。
50人全員が作れるようになるのは難しく、現状では10人程度が作れるようになるのが限界だという。しかし尾原は「10人が作れれば、その10人が作った仕事を他の人が利用するだけの形になれば、会社としてのインパクトは出る」と指摘する。そして新しいツール(OpenAIのエージェントキットやGoogleのgOperl)では、AIが「あなたの言いたいことをワークフローにするとこうですよ」と例示を出してくれるため、そのハードルがさらに下がる可能性があると期待する。
経営の「Dify化」:戦術から戦略へ
尾原は、最近のコンサルティングのテーマとして「経営のDify化」あるいは「AIワークフロー化」が増えていると語る。これには2段階あるという。
第1段階は戦術レベルで、「他社より安く早く作れる」という競争優位の獲得だ。コストが下がれば値下げで勝負できるし、受注から回答までのスピードが速くなれば競争力が上がる。
第2段階は戦略レベルで、AIワークフローが「エンドトゥエンド」(最初から最後まで)で繋がることで、他社より3倍、下手すると10倍の回転が可能になるというゲームチェンジだ。尾原は営業を例に具体的に説明する。従来の営業組織では、営業活動のベストプラクティスをまとめるのに1週間、それを横展開するのに1ヶ月かかっていた。しかしAIワークフローを使えば、営業の音声を記録し、自動的に議事録を作成し、顧客のフィードバックポイントを抽出し、改善案を生成し、それを別のAIエージェントが担当者とクライアントにマッチングし、さらに改善の効果をダッシュボードで可視化する——という一連の流れが、わずか3日で回せるようになる。
尾原は「これが10倍回るということ。圧倒的に営業が強い会社になれる」と強調する。OpenAIが定義するAIの5段階(チャットボット→推論→エージェント→イノベーター→AIカンパニー)で言えば、このレベルは第4段階「イノベーター」に近い。試行錯誤を高回転で行い、それを経営レベルでインストールすることが重要だと尾原は説く。
組織変革と人材育成の実践
AIワークフローを導入する際の現実的な課題として、尾原は「人を省けないところは人とAIのコラボレーションで、PDCAを週1回から毎日回せるようにする」というアプローチを提案する。さらに、採用が楽になるという副次的な効果も指摘する。専門知識をAIに任せれば、人間に求められる要件が下がり、これまでと同じペースで人員を増やせなかったところを5倍のペースで増やせるようになる。
池智は、実際に企業でAIワークフローを普及させるための取り組みとして、サイバーエージェントが2週間のDify研修を継続的に実施している事例を紹介する。毎週開催し、何千人の中から何百人が使えるようになり、その人たちが現場でワークフローを作り、さらに後輩を育てていくという連鎖が生まれているという。またヤフー(現Zホールディングス)も毎週社内セミナーを開催し、3ヶ月単位で120時間の「虎の穴」プログラムを実施している。
尾原は「全員が一気にやるのは無理。できる人からどんどんやり、それが持続的になるようにするのが企業としての営みとして求められる」と総括する。特に星野リゾートの星野佳路氏が2年前から、顧客接点を持つスタッフに「目の前のお客様がもっと星野リゾートを好きになるようなアプリを15時間使って作れ」と指示していた事例を挙げ、「さすが慧眼やなぁ」と感嘆する。AIができないホスピタリティの部分を人間が強化し、結果として「高くても泊まろう」と思われるブランド価値を高めているという。
まとめ
このエピソードの核心は、AIワークフローが単なる効率化ツールではなく、企業の競争戦略そのものを変革する「ゲームチェンジ」の起点になるという認識だ。OpenAIとGoogleが相次いでリリースしたツールによって、ワークフロー型エージェントの作成が「誰でもできる」レベルに近づきつつある。しかし同時に、ブロックをつなぐプログラミング的思考の壁や、組織全体への普及の難しさも浮き彫りになった。尾原と池智の議論は、技術の進化と人間の組織能力の両面から、AI時代の経営戦略を考える上で示唆に富んでいる。特に「ChatGPTは使うもの、AIエージェントは任せるもの」というフレーズは、AIとの向き合い方の本質的な転換を鋭く突いている。
要点
- AIエージェントには「汎用型(お任せシェフ)」と「ワークフロー型(コースメニュー)」の2種類があり、企業の業務には再現性と可視化が容易なワークフロー型が適している
- OpenAIの「エージェントキット」とGoogleの「gOperl」「Gemini Enterprise」が相次いでリリースされ、ワークフロー型エージェント作成の「ティッピングポイント」に達した
- 新しいツールではAIがワークフローの初期バージョンを自動生成するため、プログラミング知識がなくても作成が可能になりつつある
- 「ChatGPTは使うもの、AIエージェントは任せるもの」という発想の転換が必要で、人間がAIに合わせるのではなくAIが人間の仕事に合わせる
- AIワークフローを「エンドトゥエンド」で繋ぐと、営業のベストプラクティスの展開が1ヶ月から3日に短縮されるなど、10倍の回転が可能になる
- 日本企業の実態として、ワークフロー作成には「ブロックをつなぐ」プログラミング的思考の壁があり、現状では10人程度が作れるようになるのが限界
- 組織変革の成功パターンは「できる人から育て、その人が後輩を育てる連鎖」を作ることで、サイバーエージェントやヤフーのような継続的な研修プログラムが有効
- AIワークフローの普及は、採用要件の低下や多言語展開の容易さをもたらし、グローバル競争において「鎖国」戦略の是非も問われる時代になる