
#11-7 広告で稼ぐってこういうこと!Facebook式“売れる会社”の作り方
- 概要 Facebookが創業から4年後の2009年に初めて黒字化を達成した背景には、単なる広告システムの改良ではなく、ビジョン型創業者とプロフェッショナル型経営者の補完的...
- [0:06] フェイスブックの収益化の転換点 前回のエピソードでは、Facebookが急成長を支えたハッカーズ文化や「1ロールアウトルール」といったプロダクト開発の裏側を...
- 2008年時点でFacebookの利用者は約1億人に達していたが、マーク・ザッカーバーグCEOは成長を最優先し、広告収益を積極的には追い求めていなかった。実際、広告自体は...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
ハイパー起業ラジオ / 尾原和啓 / けんすう
概要
Facebookが創業から4年後の2009年に初めて黒字化を達成した背景には、単なる広告システムの改良ではなく、ビジョン型創業者とプロフェッショナル型経営者の補完的リーダーシップ、そして「空中戦」のプロダクト開発と「地上戦」の営業組織を両輪とする戦略があった。本エピソードでは、Googleから迎えたシェリル・サンドバーグCOOが、いかにして変革型リーダーシップを発揮し、広告主とユーザーの二面性ネットワーク効果を回しながら、組織をスケールさせていったのかが詳細に語られる。
フェイスブックの収益化の転換点
前回のエピソードでは、Facebookが急成長を支えたハッカーズ文化や「1ロールアウトルール」といったプロダクト開発の裏側を掘り下げた。今回のテーマは、経営と執行が交差する「IPO(新規株式公開)」に向けた持続的な収益化の確立である。
2008年時点でFacebookの利用者は約1億人に達していたが、マーク・ザッカーバーグCEOは成長を最優先し、広告収益を積極的には追い求めていなかった。実際、広告自体は2007年、月間ユーザーが5000万人に達したタイミングで開始されていた。当時でも年間売上は約150億円程度あったものの、会社は赤字だった。2012年のIPOに向けて、収益を順調に伸ばしていることを示す体制への転換が急務となった。
広告ビジネスの本質:二面性ネットワーク効果
広告ビジネスを理解する上で欠かせないのが「二面性ネットワーク効果」である。ユーザーが集まれば自然と広告収入が得られるわけではない。広告主がいるからメディアが広がり、メディアがあるから広告主にとって魅力的な場が増え、さらに広告主が集まる——この循環を回せるかどうかが鍵となる。
具体例として、Yahoo! Japanの広告単価の違いが挙げられた。Yahoo!求人は1ページビューあたり約10円、金融や不動産は6〜7円であるのに対し、Yahoo!掲示板は0.02円にも満たない。これは「お金を使いそうな人が集まる場所」と「本当に伝えたい顧客だけに届けられる精度」の2つの要素で単価が決まるからだ。テレビCMは1人あたりのリーチコストが0.3円程度と安いが、視聴率10%の番組に広告を出せば国民の10%に届く。その中に本当のターゲットが3割しかいなくても、一気にリーチできるメリットがある。
重要なのは、プラットフォームとして「高く売れる場所を高く売り、安くしか売れない場所を安く売る」というセグメント別の二面性ネットワーク効果を適切に回すことである。高く売れるはずの広告枠を安い広告で埋めてしまうと、全体の収益性が損なわれる。
初期Facebook広告の試行錯誤と炎上
初期のFacebook広告は、Yahoo!のバナー広告のような「枠型商品」や大学別のターゲティングが中心だった。しかし、大きな話題を呼んだのが「ビーコン広告」である。これは、ユーザーの友人が商品を購入したという情報を広告として表示する仕組みで、クリック率が他社広告の約3倍と極めて効果が高かった。友人のライフスタイルが似ている確率が高いため、購買意欲の高い顧客にリーチできる優れた手法だった。
問題は、この機能が「オプトアウト型」(明示的にオフにしない限りデフォルトで公開される)で実装されたことだ。プライバシー侵害の批判を浴び、大炎上した。効果は絶大だったものの、ユーザー体験と収益化の間の緊張関係が顕在化した瞬間だった。
シェリル・サンドバーグの招聘と変革型リーダーシップ
この局面でFacebookが打った手が、Googleからシェリル・サンドバーグをCOOとして迎え入れることだった。彼女は元々大統領補佐官を務めたハイキャリアな女性で、Googleでは広告部門を任され、広告主と買い手のネットワーク効果を回す課題に取り組んできたプロフェッショナルである。
2008年3月に就任したサンドバーグは、わずか1年半で売上を7倍に伸ばし、2009年には初の黒字化を達成した。広告売上は7.8億ドル(約780億円)、推定黒字は約200億円。この間、ユーザー数は1億人から3.6倍に増加したが、ユーザーあたりの単価は2倍以上に向上していた。
サンドバーグが実践したのは「変革型リーダーシップ」である。これは一般に4つの要素からなる。第一に「理想化された影響力」——信頼できるビジョンを示し、人々が共に動きたいと思える状態を作る。第二に「鼓舞的動機づけ」——目標自体がワクワクするものでなければ、単なる「2倍成長しろ」では人は動かない。第三に「知的刺激」——既成概念に挑戦する野心と、新しいことが連鎖する興奮を提供する。第四に「個別的配慮」——組織の変革に個人の成長が伴わなければ、個人は組織の奴隷になる。
ストーリーテリングと目標設定の革新
サンドバーグはまず「理想化された影響力」として、ストーリーテリングを巧みに活用した。ザッカーバーグの「世界をつなぐ」という理念に、「世界中のビジネスと人がつながることで経済が民主化される」という要素を加えた。誰もが自分のやりたいことを広告という形で顧客とつながれる——このビジョンは、既存の社員の共感を得ながら、新たな方向性を示すものだった。
「鼓舞的動機づけ」としては、「3ヶ月に1回、広告の指数を倍増しよう」というハイパーな目標を掲げた。結果、広告主の数は2008年の70万社から2010年には150万社へと倍増した。重要なのは、この目標が「小さな会社でもいいからどんどんつながろう」というビジョンと合致していた点である。
セルフサーバー広告とオークションの導入
目標を実行するため、サンドバーグは広告システムを根本から改革した。それまでのFacebook広告は27種類もの枠型商品に細分化され、出稿には平均45分かかっていた。これを「セルフサーバーアド」に変更し、広告主が自分で簡単に出稿できるようにした。性別、年齢層、勤務先、出身大学などの選択項目をドラッグ&ドロップで選ぶだけで広告を作成でき、所要時間は15分に短縮された。
さらに、オークション方式を導入することで、人気の大学や企業などのセグメントは価格が高くなり、全体の収益性が向上した。これはGoogleの検索ワード広告とは異なる「属性ターゲティング」の強みを活かしたものだ。Googleが「興味(インタレスト)」で広告を出せるのに対し、Facebookは「属性(20代女性など)」で届けられる。この2つ以外の選択肢は、当時のネット広告市場ではほとんど検討されなかった。
サンドバーグは、広告出稿をダッシュボード化することで、社員自身が「こういうインタレストにグループ化すればいい」「業種を入力した時点でプリセットのおすすめを出せばいい」といった改善を自発的に生み出せる環境を整えた。これは変革型リーダーシップの「知的刺激」の実践であり、無理やり営業で広告主を取ってくるのではなく、イノベーティブなシステムで広告主が自然と集まる状態を作り出した。
グローバル営業組織の構築とプロセスイノベーション
サンドバーグ就任時、広告営業部員は数百人だったが、3年後には2,000〜3,000人に拡大した。営業拠点はロンドン、東京、シドニーなど20都市に設立され、各拠点に数値目標の権限が委譲された。しかし、単に権限を委譲するだけではない。各ローカルでやりやすいようにするため、「ウィークリーメトリックスレビュー」という週単位の振り返りプロセスを共通基盤として導入した。
ここでのポイントは「What(何を開発するか)」ではなく「How(どういうプロセスで進めるか)」に焦点を当てたことだ。プロダクトイノベーションよりもプロセスイノベーションを重視したのである。各都市には、世界のビジネスと人をつなぐという大枠のストーリーテリングのもと、自分たちの地域での最適な方法を考えさせる一方、組織を動かす「How」の部分は共通化した。
このアプローチの究極形として、リクルートのホットペッパー事業が例示された。新卒3年目の社員がエリア長を務め、3ヶ月に1回、ストーリーテリングのために各エリア長が集まった。単なる数字目標ではなく、「大宮の商店街がどう元気になるか」「通勤者が最後にほっとする時間をどう作るか」といった具体的なストーリーに落とし込むことで、社員一人ひとりが自分ごと化できるようにした。
プロセスを共通化することで、東京のある営業マンが作った改善メソッドが、翌週にはシドニーの100人の営業マンが使えるようになる。横展開が速くなり、自分が作ったプロセスイノベーションが周囲に貢献している実感も得られる。この「ノウハウの集約と分散」のサイクルが、大規模組織の成長を加速させた。
まとめ
本エピソードの核心は、Facebookが広告ビジネスで成功した要因を、単なる技術的なシステム改良ではなく、組織とリーダーシップの観点から描き出した点にある。ザッカーバーグがビジョン型リーダーとしてユーザー体験の革新を追求したのに対し、サンドバーグはプロフェッショナル型リーダーとして広告営業という「地上戦」を変革型リーダーシップで推進した。この補完関係が、ユーザー数1億人から4億人への成長と、売上7倍・初の黒字化を同時に実現した。
ネットビジネスにおいて、プロダクトの魅力でユーザーが集まる「空中戦」は重要だが、広告というマネタイズ手段は中小企業を含むローカルな「地上戦」が不可欠である。多数の営業パーソンが関わる以上、いかに人と組織を作り、プロセスを共通化しながらも、各拠点の自律性を引き出すかが鍵となる。このエピソードは、スケールと収益化を両立させるための組織論として、示唆に富む内容だった。
要点
- Facebookが初の黒字化を達成したのは2009年、創業から4年後であり、シェリル・サンドバーグCOO就任からわずか1年半で売上は7倍になった
- 広告ビジネスの本質は「ユーザーと広告主」の二面性ネットワーク効果を回すことであり、単にユーザーを集めても広告主が集まらなければ収益化できない
- サンドバーグは変革型リーダーシップ(理想化された影響力、鼓舞的動機づけ、知的刺激、個別的配慮)の4要素を実践し、組織を活性化させた
- 広告出稿をセルフサーバー化し、所要時間を45分から15分に短縮。さらにオークション方式で収益性を向上させた
- グローバル営業組織を20都市に拡大する際、「What(目標)」は各拠点に委譲する一方、「How(プロセス)」は共通化して横展開を加速した
- リクルートのホットペッパー事業を例に、数字目標を地域の具体的なストーリーに落とし込むことで社員の内発的動機を引き出す手法が紹介された
- ザッカーバーグのビジョン型リーダーシップとサンドバーグのプロフェッショナル型リーダーシップの補完関係が、Facebookの成長を支えた
- 次回は、モバイル革命により株価が3分の1に急落した後の、Facebookの大ピボットがテーマとなる