
#11-14 次の一等地はどこに?巨額投資がものがたるMetaのメタバース構想
- メタがメタバースに10兆円を投じる理由——次世代プラットフォームをめぐる戦略の全貌 IT批評家の尾原和啓と連続起業家のけんすうが、Meta(旧Facebook)のメタバー...
- [0:06] メタバースへの累計投資額——10兆円の赤字の意味 尾原はまず、Metaがメタバース事業でこれまでに累計10兆円もの赤字を計上している事実を提示する。この数字...
- ただし、投資家の視点から見れば話は別だ。特に初期の段階では、広告事業の黒字額とほぼ同額の赤字をメタバースに注ぎ込んでいた時期があり、「何やってくれるんだ」という声が上がる...
英語Podcastの要点を、聴く前に日本語で把握したい人。
ハイパー起業ラジオ / 尾原和啓 / けんすう
メタがメタバースに10兆円を投じる理由——次世代プラットフォームをめぐる戦略の全貌
IT批評家の尾原和啓と連続起業家のけんすうが、Meta(旧Facebook)のメタバース戦略を深掘りした回。同社は累計10兆円もの赤字をメタバース事業に注ぎ込みながら、なぜ撤退しないのか。その背景には、コミュニケーションの場を掌握することでネットワーク外部性を獲得してきたMetaの一貫した戦略と、「次の一等地」をめぐる熾烈なプラットフォーム争いがある。本エピソードでは、2014年のOculus買収から現在に至るまでの投資の軌跡、VRとARという二つの技術路線の違い、そして独占禁止法がもたらす新たな競争環境まで、多角的に議論が展開された。
メタバースへの累計投資額——10兆円の赤字の意味
尾原はまず、Metaがメタバース事業でこれまでに累計10兆円もの赤字を計上している事実を提示する。この数字だけ見れば「普通の事業会社からしたら『え?』という話」だが、同社の財務規模と照らし合わせると見え方が変わってくる。2023年のMetaの売上高は25.5兆円、利益は約10兆円に達しており、前年比で約20%の成長を続けている。つまり、メタバースへの累積赤字は「年間の利益をほぼ10年かけて投じた程度」であり、許容範囲内とも言える。
ただし、投資家の視点から見れば話は別だ。特に初期の段階では、広告事業の黒字額とほぼ同額の赤字をメタバースに注ぎ込んでいた時期があり、「何やってくれるんだ」という声が上がるのも当然だと尾原は指摘する。それでもMetaが撤退しないのは、同社の戦略の根幹が「人の繋がり」を掌握することにあるからだ。FacebookやInstagram、WhatsAppがそうであったように、仲間外れになりたくないという心理を利用してコミュニケーションの場を独占する——このモデルが次なるプラットフォームでも通用すると見ている。
Oculus買収から社名変更まで——10年にわたる布石
Metaのメタバース参入の起点は2014年、VRヘッドセットメーカーOculusの買収だ。買収額は20億ドル(当時のレートで約2000億円)。当時、Oculusの販売台数はまだ6万台程度、社員数も50人規模だった。尾原は「ザッカーバーグは当時から『モバイルが今のプラットフォームなら、VRは明日のプラットフォームだ』と位置づけていた」と解説する。
それから7年後の2021年10月28日、Facebookは社名をMetaに変更。このタイミングで、10年以内(2032年まで)にメタバース内に10億人のユーザーと数百億ドルのコマース市場を創出するという目標を掲げ、100億ドル(約1兆円)の投資を発表した。けんすうは自身のメタバース体験として、MicrosoftのHoloLensやOculusを購入したものの「そこまで使っていない」と正直に認めつつ、最近はXreal(旧Nreal)というメガネ型外部モニターを仕事で使い始めたと語る。
VRとARの違い——二つの技術路線とそれぞれの現在地
ここで尾原は、しばしば混同されるVR(仮想現実)とAR(拡張現実)の違いを明確にする。VRは「バーチャルの世界に没入的に入っていく」もの。一方ARは「現実を拡張する」もので、現実空間の中にサブディスプレイを表示させる。けんすうが使っているXrealは後者に近い。
この区別はMetaにとって重要な意味を持つ。同社は両方の路線を同時に追求している。一つは、Meta Questに代表される「パススルー方式」——ヘッドマウントディスプレイの外側にカメラを付け、その映像を内部のディスプレイに映し出すことで、現実と仮想を融合させる。もう一つは、Meta Ray-Banのような「メガネ型」——カメラと音声機能だけを搭載した軽量デバイスで、AIと連携して眼前の物体を解説したり、相手の顔から名前を読み上げたりする。後者はすでに100万台を売り上げている。
Apple Vision Proは前者の路線の最先端を行く。高額なコンピューティングパワーを搭載し、テーブルの上に置いたチェスの駒が現実の物理法則に従って跳ねるような、高度な現実連携を実現する。一方Googleは2025年、Xrealとの提携によるメガネ型と、ファーウェイと組んだヘッドマウントディスプレイ型の両方を発表している。
ハードウェア市場の現状——Meta Questの圧倒的シェア
「累積10兆円の赤字」という印象とは裏腹に、ヘッドマウントディスプレイ市場におけるMetaのシェアは2023年時点で約8割とダントツだ。その理由は価格にある。Meta Questは約400ドル(日本円で約6万円)と、アメリカ人の感覚では「ちょっと高いNintendo Switch」程度の価格帯。iPhoneの4分の1の感覚だ。
2023年までの全世界累計出荷台数は2000万台に達した。尾原はこれを「セガサターンぐらいの普及度」と例える。家庭用ゲーム機の歴史で言えば、ファミコンの世界累計が5000〜7000万台、Nintendo Switchが2億台に迫ろうとしている。このペースで行けば、ヘッドマウントディスプレイは「家庭内ゲーム機」として十分にメジャーなポジションを獲得しつつある。
さらに、2024年時点でMeta Questのアプリ市場は3000億円規模に成長。アメリカの成人の74%がメタバースに興味を持ち、特にZ世代では家庭用ゲーム機と同等の時間をヘッドマウントディスプレイに費やしているという調査結果もある。けんすうは「家が広いからじゃないか」と冗談めかして指摘するが、実際にBeat SaberなどのVRフィットネスアプリが人気を集めており、室内で体を動かす需要が市場を支えている側面は否定できない。
コミュニケーションプラットフォームとしての課題——Horizon Worldsの苦戦
ハードウェアの普及は順調だが、肝心のコミュニケーションプラットフォームとしてのメタバースは「まだメタメタ(未熟)」だと尾原は率直に認める。Metaが提供するメタバース空間「Horizon Worlds」の1日あたりのアクティブユーザーは、2023年の発表時点で1〜2万人程度と推測されており、「全然人がいない」状態だ。
ここで重要なのは、メタバースのコミュニケーションの場が、必ずしもヘッドマウントディスプレイ経由で形成されるとは限らないという点だ。Robloxのデイリーアクティブユーザーは6000万人を超え、Fortniteは8000万人を超えている。これらのプラットフォームはiPadやゲーム機を通じてアクセスでき、すでに巨大なコミュニティを形成している。つまり、ハードウェアでシェアを握っても、ソフトウェアのコミュニケーションプラットフォームを奪われる可能性がある。
レイヤーバンドルと独占禁止法——メタを縛る新たな制約
尾原はここで「レイヤーバンドル」という概念を導入する。これは、複数の事業レイヤーを組み合わせて競争優位を築く戦略だ。例えばMicrosoftは、PowerPointやExcelといったビジネス用ソフトウェア(アプリケーションレイヤー)とWindows(OSレイヤー)をバンドルすることで、社会人のビジネスコミュニケーションの共通プロトコルを掌握した。Googleも、Android(OSレイヤー)と検索(サービスレイヤー)とアプリストア(流通レイヤー)をバンドルすることで圧倒的な地位を築いた。
Metaも本来なら、メタバースのハードウェア(デバイスレイヤー)とコミュニケーションサービス(アプリケーションレイヤー)をバンドルしたい。しかし、現在は各国の独占禁止法(ドッキング法)によって、レイヤーを分離せざるを得ない状況にある。これが、過去のプラットフォーム戦争とは異なる新たな制約条件だ。
かつてなら、MetaはFortniteやRobloxを買収するか、機能をパクって潰すという手を打てた。しかし今は、ハードウェアで独占的な立場にあるがゆえに、そうした強引な手法が取りにくくなっている。この「レイヤーアンバンドル」の時代こそが、新たな競争のルールを形作っている。
未来のシナリオ——誰が次の一等地を握るのか
議論は最終的に、メタバースの未来に関する複数のシナリオへと収束する。一つは、Meta Questがアプリストアとしての収益を確保し、ハードウェアプラットフォームとして安定するシナリオ。もう一つは、RobloxやFortniteがメタバースにおけるSNS的な存在に成長し、Metaのコミュニケーションプラットフォームとしての地位を脅かすシナリオ。あるいは、子供たちがRobloxで育った後、大人になってからMetaのサービスに移行するという「卒業モデル」も考えられる。
尾原は「みんなが『メタはダメだ』と言っているからこそ、冷静に数字を見る必要がある」と強調する。確かにメタバース事業は累積赤字を抱えているが、ハードウェアの普及台数、アプリ市場の規模、そして何よりMeta本体の収益力(売上25兆円、利益10兆円)を考えれば、まだまだ余裕はある。むしろ、独占禁止法によって強引な手法が取れなくなった分、新規参入者にもチャンスが生まれている。
まとめ
このエピソードの核心は、「10兆円の赤字」というセンセーショナルな数字の裏にある戦略的合理性を、Metaの歴史と現在の市場データから冷静に読み解いた点にある。ハードウェアのシェア、アプリ市場の成長、そして独占禁止法という新たな制約——これらの要素を総合的に見ることで、メタバースをめぐる競争が単なる「VR vs AR」ではなく、コミュニケーションの場をめぐる次世代のプラットフォーム戦争であることが浮き彫りになった。リスナーに残るのは、表面的な「成功か失敗か」ではなく、複数のシナリオが同時進行する不確実性の中で、いかにして次の一等地を見極めるかという視点だろう。
要点
- Metaのメタバース事業の累積赤字は約10兆円だが、同社の年間利益(約10兆円)と比較すれば許容範囲であり、戦略的な長期投資と位置づけられる
- 2014年のOculus買収(20億ドル)から社名変更(2021年)を経て、Metaは一貫して「次のプラットフォーム」としてメタバースに賭けてきた
- VR(没入型)とAR(拡張現実)は異なる技術路線であり、Metaは両方を同時に追求している——Meta Quest(パススルー方式)とMeta Ray-Ban(メガネ型)
- ヘッドマウントディスプレイ市場でMetaのシェアは約8割、累計出荷台数は2000万台、アプリ市場は3000億円規模に成長している
- しかし肝心のコミュニケーションプラットフォーム「Horizon Worlds」はユーザー数が伸び悩み、Roblox(DAU6000万人)やFortnite(同8000万人)に後れを取っている
- 独占禁止法による「レイヤーアンバンドル」の制約により、Metaは過去のように競合を買収したり潰したりする強引な手法が取れなくなっている
- メタバースの未来は複数のシナリオが並行して進行しており、ハードウェアの覇者とコミュニケーションプラットフォームの覇者が異なる可能性もある