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ハイパー起業ラジオ · 2026年5月14日

[番外編 #19] 美学としての戦略論 –高宮慎一さん(Globis Capital Partners)を迎えて–

AI generated article / ja / study
この記事でわかること
  • 戦略とは「正解に近づいていく力」であり、投資家と起業家の間で交わされる美学と合理性の融合である 本エピソードは、グロービス・キャピタル・パートナーズの代表パートナーであり...
  • [3:22] 投資判断における「チーム」と「タイミング」の戦略性 高宮氏は、ベンチャー投資における戦略論について、一見すると事業計画や経営戦略といった「机上の合理性」が重...
  • けんすうが自身の前職であるnanapi(ナナピ)への投資について、高宮氏がどのような点を見ていたのかを尋ねると、高宮氏は「ものづくりとコミュニティづくりに長けていた」点を...
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出典Podcast

ハイパー起業ラジオ / 尾原和啓 / けんすう

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戦略とは「正解に近づいていく力」であり、投資家と起業家の間で交わされる美学と合理性の融合である

本エピソードは、グロービス・キャピタル・パートナーズの代表パートナーであり、フォーブス・ベンチャー投資家ランキング2018年1位の高宮慎一氏をゲストに迎え、ホストの尾原和啓(IT批評家)とけんすう(アル株式会社代表取締役)が「戦略」の本質について深く掘り下げた対談である。投資の現場で実際に何が見られているのか、起業家と投資家の間でどのような「戦略の擦り合わせ」が行われているのか、そしてAI時代において人間に残される「Why」の領域とは何か——。3人の長年にわたる信頼関係を背景に、戦略を「静的な計画」ではなく「動的なプロセス」として捉える視点が提示され、投資判断におけるタイミングの戦略性、プロダクトドリブンな起業家の強み、そして戦略の根底にある「美学」や「インテグリティ」の重要性が語られる。単なるビジネスハックを超えた、人生観にも及ぶ戦略論が展開された回である。

3:22投資判断における「チーム」と「タイミング」の戦略性

高宮氏は、ベンチャー投資における戦略論について、一見すると事業計画や経営戦略といった「机上の合理性」が重視されるように見えるが、実際にはスタートアップの初期段階では外部要因が多く、不確実性が極めて高いと指摘する。そうした状況では、結局「このチーム、この企業から一番確かなもの」として、経営者自身の資質やチームの力が投資判断の最大の要素になると述べる。

けんすうが自身の前職であるnanapi(ナナピ)への投資について、高宮氏がどのような点を見ていたのかを尋ねると、高宮氏は「ものづくりとコミュニティづくりに長けていた」点を挙げる。当時のインターネットの時代感覚として、ユーザーに使われるサービスを作ればトラフィックがスケールし、マネタイズは後からついてくるという「プロダクトドリブンな戦略」が重視されていた中で、けんすうのプロダクトを作る力は際立っていたという。

さらに高宮氏は、投資のタイミングについて「外部環境のマクロなタイミング」と「個社のミクロなタイミング」の両方が重要だと説明する。nanapiの場合、クラウドソーシングで記事を内製するモデルがトレンドを捉えていたというマクロなタイミングと、けんすうのSNSでの発信などから「この会社、今が盛り上がっている」と感じられたミクロなタイミングが一致したと振り返る。高宮氏は「タイミングは戦略的に測れる」と述べ、外部からでもトラフィックツールやAWSの状況などから成長度合いを推測できると指摘した。

7:59タイミングの戦略性と「持たざる者の戦略」

高宮氏は、タイミングを「五縁(ごえん)要素」と表現しつつも、それは単なるスピリチュアルなものではなく、戦略として計測可能なものだと強調する。マクロな環境変化とミクロな企業の成長曲線を読み解くことで、「今だ」というタイミングを捉えることができるという。

けんすうは、自身の資金調達戦略として、小澤氏(現在はBoost Capital)に話をさせ、資料は高宮氏に作ってもらうという「持たざる者の戦略」をとったことを明かす。自分にない経営資源を外部から調達し、自分はプロダクト作りに集中する——このアプローチについて高宮氏は「スタートアップの持たざる者の戦略としては大正解」と評価する。外部に強いリソースがあってアクセスできるのであれば、それをレバレッジするのが合理的だと述べた。

高宮氏はさらに、投資家と起業家の関係性について「どちらかが一方的に戦略の正解を持っているわけではない」と指摘する。重要なのは、仮説として見ている方向感が一致しているかどうかを擦り合わせる「戦略方向性合わせ」であり、それができたことがnanapiの時には良かったと振り返る。具体的には、特定のバーティカルにフォーカスしながらカテゴリーでドミナントを取り、隣のカテゴリーにトラフィックを流し込むという戦略を一緒に考えたというエピソードが語られた。

13:15プロダクト作りの「アート性」と「実験力」の重要性

高宮氏は、サービス作りやものづくりは企業のコアにあり、ある意味「アートに近い世界」だと述べる。特にコンシューマーインターネットの場合、ユーザーに当ててみて初めて受けるかどうかの結論が出るという「天才性の世界」であり、そこを作れる人が一番偉いという考えを示す。一方で、ファイナンスや戦略といった領域は「秀才の合理性の世界」であり、補完可能なものだと位置づける。

けんすうは、nanapiのビジネスモデルについて、クラウドソーシングで記事のテーマや文字数をデータ分析から決めて発注し、オンラインで書いてもらった記事をさらにクラウドソーシングで品質を担保するという仕組みを説明する。このモデルにより、ユニークユーザー数は2500万を超えるまでに成長したという。

高宮氏は、この「実験力」や「PDCA力」こそが戦略の根幹だと強調する。戦略は一度決めて終わりの静的なものではなく、マーケットやユーザーに当ててみて検証し、チューニングを繰り返しながら精度を高めていく動的なプロセスだという。特にマーケット環境がすぐ変わり、ノンファクト(確かな事実)が少ないスタートアップ界隈では、この力が極めて重要だと述べる。高宮氏は「正解を出す力が戦略力ではなく、正解に近づいていく力が戦略力」だと定義した。

18:03投資家選びの戦略論——「口を出すタイプ」と「見守るタイプ」

けんすうは、自身の経験から投資家のタイプについて語る。高宮氏や小澤氏は「めちゃくちゃ口を出すタイプ」であり、細かいところまで入ってくる一方で、自社に出資しているアンリ(ANRI)は「とにかく応援するし味方でいるけど口は出さない」タイプだと説明する。起業家としては、自分に何が足りないかを明確にした上で、求めるバリューに応じて投資家を選ぶことが重要だと述べる。

高宮氏は、投資家としての自身のスタンスについて「ディスカッションはするが、押し付けない」というギリギリのラインを意識していると語る。細かいところまで口を出し、他社の成功事例を紹介し、自分だったらこうするという意見を述べた上で、最後は経営者に決めてもらうという姿勢を取っているという。「もし自分が細かく口出ししてうまくいくくらいなら、お前が起業しろよという話で、それができないから投資家をやっている」と述べ、最終的には経営者が腹落ちして進む方向が重要だと強調した。

22:22「半歩先」と「二歩先」のバランス——プロダクトビジョナリーのジレンマ

高宮氏は、けんすうとの最近のディスカッションでよく話題になるテーマとして、「半歩先」と「二歩先」のバランスを挙げる。けんすうはプロダクトビジョナリーであり、ユーザーの課題を先取りして「二歩先」のサービスを作りがちだが、世の中のマスやマネタイズを考えると「半歩先」で十分な場合が多いという。見えているマーケットに対してよりうまく課題を解決することで価値を出し、その分お金をもらう方が、答えの発明が不要で「Howの改善だけで売り上げが立つ」ため楽だと指摘する。

けんすうは、このジレンマをAI分野での具体的な事例で説明する。AIで新しいサービスを作れるという発想と、企業が実際に困っているのは「生成AIで何ができるかが社内で分かっていない」ことだという現実のギャップがある。そのため、勉強会から入って3〜6ヶ月かけて理解を得てからプロダクト作りに入る方が早いという。けんすうは「ついついAI×Web3的な掛け算を考えてしまうが、長期的にはそちらに行くとしても、今そこに付いてこれるユーザーや利益顧客がいるのかというジレンマがある」と述べる。

高宮氏は、このバランス感覚は「タイミングの戦略論」にも絡むと指摘する。スマホアプリでも2011年から2013年くらいに立ち上がったスタートアップ以外は大きく跳ねていないという事実を挙げ、その「2年の窓」を感知することの難しさを語った。

26:52物量戦略と対数の法則——クリエイティブビジネスのサイエンス化

けんすうは、自身の強みが「物量」にあるのではないかと最近考えていると述べる。nanapiでも記事をたくさん書くことで良い記事が生まれる確率が上がり、現在もYouTubeを3ヶ月で500本作り、社内ではAIを使って1日1個プロダクトを作っているという。高宮氏はこれを「クリエイティビティが関わるCM系ビジネスの戦略論の根幹」だと評価する。

高宮氏は、ウェブメディアやコミュニティ、ゲームなどの分野では、一定のヒットを出せる確率が「対数の法則」的に決まっていると指摘する。100件出せば20件当たるという確率があるなら、その100件を作るための時間とコストをどう効率化するかが経営のサイエンスになる。けんすうは、この「確率論で当てるクリエイティビティの世界を経営のサイエンスでハックしている」と評し、それがクリエイティブが絡むビジネスの共通のキーサクセスファクターだと述べる。

さらに高宮氏は、AIの登場により、この対数の法則がさらに加速する可能性に言及する。nanapiの時代は人力プラスITの効率化で生産コストが下がったが、AIによって限界費用がゼロに近づけば、「無限大数の法則を超えて無限大にヒットを生み出せる」可能性があるという。ただし、その場合「クリエイティブビジネスがクリエイティブではなくなる」というトートロジー的な問題も生じると指摘する。

33:24AI時代における「Why」の重要性と人間に残る領域

高宮氏は、Why-How-Whatのフレームワークを用いて、AI時代に人間に残る領域を説明する。IT革命でHowのコストは何分の一になり、AI革命でさらに何百分の一になった。AIはWhatの機能要件定義までは完璧にでき、WhyとWhatのつなぎであるビジネス要件定義の領域にも進出しつつある。しかし、「なぜこの事業をやりたいのか」「どういう世の中にしたいのか」というWhyの部分、特に「Will」や「美学」に関わる領域は、AIからは絶対に出てこないと断言する。

けんすうは、自身のWhyの特殊性について語る。多くの起業家は「この人の課題を解決したい」というパターンでWhyを持つが、自分の場合は「この部分に歪みがあるなと発見して、そこに投げ込むと人間がなぜかこういう動きをする」という発見自体を楽しむタイプだと述べる。そのためアイデアが無数に生まれるという。高宮氏は、けんすうがよく使う「素敵」という言葉に注目し、それが「極めて主観的な選定方法」であり、問題解決型ではなく「変化した先が素敵だから」という美学に基づいていると分析する。

尾原は、高宮氏が起業家と向き合う際に、戦略のストラクチャーだけでなく、価値観や美学といったWhyにフォーカスを当てていることに「鳥肌が立った」と述べる。高宮氏は、戦略とは「大前提のHow」であり、それ自体が目的にはなり得ず、Whyにはなり得ないと説明する。強烈なモチベーションや「こんな世の中になったら素敵だよね」という美学が上流にあり、それを具体的なプロダクトに落とし込むのが戦略の役割だと語った。

39:47戦略の裏表と「インテグリティ」としての美学

高宮氏は、戦略の本質について「決められたルールのゲームの中で、そのルール上でハックして上手くやること」だと定義する。ルールそのものを脱法するのは戦略ではなく、ただのグレーゾーン突入だと断じる。尾原は、戦略に長けた人は悪いこともよく思いつくが、それを遊びのように話して見つけた良い方法を良いことに使うパターンの人が多いと指摘する。シリコンバレーの創業者たちが「海賊」と呼ばれていた歴史にも触れ、ジョブズが電話を無料でかけられる機器を売っていたエピソードを引き合いに出す。

けんすうは、3人の共通点として「Howに関しては悪いことが無限に思いつくタイプだが、人間としての善性が比較的高いのでやらない」と述べる。そして「これを良い方向に使うとしたら」という次のステップで考えるため、犯罪には向かわないと説明する。高宮氏は、オレオレ詐欺のシステムがnanapiで作ったシステムと構造的に似ているという指摘に対し、「やっている人のモチベーションを『高齢者から若者への富の移転』と言い換えるなど、手法としては似ているが、我々はそういうことをしない」と述べ、インテグリティ(誠実さ)の重要性を強調した。

尾原は、この議論を「Whyが美意識を作り、美意識がガードレールになる」と総括する。美しくないものはしたくないという感覚が、ハックはするが脱法はしないという行動規範を生むという構造を指摘した。

まとめ

本エピソードは、戦略を「静的な計画」から「動的なプロセス」へと捉え直す視点を提供した。投資家と起業家の間で交わされる戦略の擦り合わせ、タイミングの戦略性、プロダクト作りのアート性とサイエンスの融合、そしてAI時代における人間の役割——これらのテーマが、3人の長年の信頼関係と具体的なエピソードを交えて語られたことで、非常に説得力のある内容となった。特に印象的だったのは、戦略の根底に「美学」や「インテグリティ」を据える視点であり、単なるビジネス手法を超えた、人生観にも通じる深みがあった。高宮氏の「正解を出す力ではなく、正解に近づいていく力が戦略力」という定義は、不確実性の高い現代において、多くの示唆を与えるものだろう。

要点

  • ベンチャー投資では、事業計画よりも「チーム」と「タイミング」が最も重要な判断基準となる。マクロな環境変化とミクロな企業の成長曲線を読み解くことで、タイミングは戦略的に計測可能である。
  • 戦略とは「正解を出す力」ではなく「正解に近づいていく力」であり、マーケットやユーザーに当ててみて検証し、チューニングを繰り返す動的なプロセスである。
  • 起業家は自分にない経営資源を外部から調達する「持たざる者の戦略」が有効であり、投資家選びも自分に足りないバリューに応じて行うべきである。
  • プロダクトビジョナリーは「二歩先」のサービスを作りがちだが、マネタイズを考えると「半歩先」の方が現実的であり、両方のバランスを取ることが重要である。
  • クリエイティブビジネスでは「対数の法則」が働き、一定のヒット確率を前提に物量で勝負する戦略が有効であり、AIはその効率を飛躍的に高める可能性がある。
  • AI時代において、人間に残る領域は「Why(なぜこの事業をやるのか)」という美学やWillの部分であり、AIはHowとWhatの領域を代替していく。
  • 戦略とは「決められたルールの中でハックする」ことであり、ルールそのものを脱法するのは戦略ではない。インテグリティ(誠実さ)がガードレールとして機能する。